§第6章§
01
「なんか、機嫌良さげじゃない?」

「えっ?そうかなぁ?」

美優紀とのやり取りの翌日、校舎内を歩いている際にいつもと雰囲気が違う事に気付いた隆治は尋ねるが、光は笑いながらはぐらかす。

「まぁ、答えないのはいつも通りか。」

「あっ、橘先輩!」

光の言葉に隆治は溜め息吐くが、正面から飛んできた声に2人は視線をそちらに向けた。

「ああ、真子ちゃん。」

「真子ちゃん!?」

真子が咲良の後ろから飛び出した事に不愉快そうな表情を浮かべていた南那であったが、隆治の呼び方を聞くと更に不機嫌そうに声を上げる。

「えっと、まぁ色々あって。宮脇さんは怪我は……」

「前も言った通りだ。」

真子からの眼差しを受けながらも隆治は簡単に南那に答えると、咲良を気遣って声をかけようとした。
しかしながら咲良は言葉を遮って、目を合わせる事無く淡々と答える。

「あっ、待ってくださいよ咲良さん!」

「おい!置いていくなって!……また後で。」

先に進んでいく咲良を南那はすぐに着いていくが、真子は隆治に耳打ちをしてから慌てて追い掛けていった。

「へえ、真子ちゃんと何かあったの?」

「別に……ちょっと成り行き上ね。」

「あー、玲奈ちゃんに言っちゃお。」

光がにやにやとしながらからうように言うと、隆治は相手の胸ぐらを掴みながら壁へと押し付ける。

「……誰のせいでこんな事になったと思ってるの?」

「駄目だよ、りゅーくん。僕たちはヘタレを演じなきゃ。玲奈ちゃんにも迷惑が掛かっちゃうよ?」

怒りに任せて声を上げたくなるのを必死に抑えながら隆治が告げるが、光は相変わらずの様子で彼を説得するように答えた。

「こんな事なら記憶を……」

「お前達、邪魔なんだけど。」

掴んだ胸ぐらを離さないまま隆治は言葉を続けようとするが、2人の元へと苛立った声が届く。

「これはこれは。ヨガさんでしたか。」

「聞こえなかったの?邪魔。」

睨み付けている杏奈へと光は胸ぐらを掴まれたまま頭を下げると、彼女は言葉に棘を含ませながら再度告げる。

「邪魔って言われてもこの状況じゃ……」

「……ごめんなさい。」

光がお手上げといった様子でジェスチャーを取ると、隆治は謝罪をしながら胸ぐらを掴んでいた手を離して道を開けた。

「私は汚いものは嫌いだ。下等な奴らも、そいつらの争いも。」

鋭い視線を2人に向けてから告げると、杏奈は2人の前を通り過ぎていく。

「あらあら、咲良ちゃんに酷く負けて八つ当たりですか。……部長に見放されでもされちゃったのかな?」

光の呟きが耳に入ったのか、杏奈は突然その場で足を止めた。

「今……何て言った……?」

「あっ、やば。」

先程よりも怒りを込めた彼女の1言で危険を感じたのか、口元を押さえてから光は逃げるようにその場から立ち去る。

「私は……私は見捨てられた訳じゃない!」

逃げ遅れてその場に残っている隆治を睨み付けると、声を荒らげるようにしながら彼を壁へと突き飛ばした。

「痛っ……僕は何も……」

「黙れ。」

言い返そうとするが、それよりも早く杏奈の拳が壁にもたれかかっている隆治の腹部を捉える。

「ごほっ……ごほっ……」

「今のお前らの立場、もう1度思い出せ。」

杏奈が上げる拳を見て受け身を取る事を考えるが先程の光の言葉を自然と思い出し、隆治は荒れる呼吸の中深く息を吐くと固く目を瞑った。

こらるめんて ( 2015/10/28(水) 08:17 )