§第4章§
06
「さて、と。宮脇さんのお望み通り2人きりになったよ。」

人気の無い場所に訪れるようにしてから、隆治は自らと対峙している咲良へと声を掛ける。

「本当なのか?てっぺんに必要な技術があるというのは。」

「光から色々聞いたけど……間違いじゃない気はするよ。」

咲良が真っ直ぐに彼を見つめながら尋ねると、隆治は小さく頷いてから言葉を返した。

「じゃあ……それを教えて貰う。」

地面を踏み込んだ咲良が隆治に向かって蹴りを放つが、彼は瞬時に後ろに飛び退いてそれを避ける。

「ちょっと待って、ちょっと待って!約束して欲しい事があって。」

「約束?」

相手の言葉に耳を貸す気になったのか、咲良は構えを解くと隆治が告げた言葉を繰り返した。

「その……今日見る事も、僕の事も……」

「分かった、誰にも話さない。」

察したように告げる咲良に隆治はもう1度頷くと、深く深呼吸をしてからグローブを着ける。

「ありがとう。じゃあ、始めよっか。」

やる気になった隆治の発言があってから、暫く静かな時間が流れる。
その後咲良は一気に間合いを詰めるとストレートで彼の顔を狙うが、隆治はその腕を払うようにして直撃を避けた。

「手抜きなら多分、宮脇さんでも一生攻撃当てれないよ。」

「……そうだな。少し、侮っていた。」

隆治からの指摘に咲良は同意を示すと、自らの着用していたスカーフを外す。

「こっからはマジだ。」

「そう来なくっちゃ。」

咲良の様子を見た隆治はどこか嬉しそうに告げると、拳を握り直すようにしてから構えを改めた。
先程より早い踏み込みによって放たれた拳を、隆治は防御姿勢を取ることで何とか防ぐ。

「やっぱり早くはなるか……」

拳の重さに苦笑いを浮かべていた隆治であったが、続けて繰り出される蹴りを咄嗟に腕で防いだ。

「あっ。」

「……何だ?」

頭部目掛けて放たれた蹴りを防いだ後に隆治が声を溢すと、咲良は攻撃の手を休めて不満そうに問い掛ける。

「いや……なんでもないよ、なんでもない。」

「さっきから防いでばかり……ふざけているのか?」

彼女の言葉にすぐに隆治は返答するが、攻める気を感じられない相手に咲良は問い詰める。

「宮脇さんの攻撃は分かりやすいんだ。予備動作とか踏み込みとか……それで大体分かっちゃう。」

苛立ちを露にし始めた相手に隠すことが出来なくなったのか、隆治は観念したように答える。

「今から、脇腹目掛けた蹴りをするでしょ?」

踏み込んだ相手の次の手を隆治が宣言すると、咲良は表情を変えないながらも思わず放とうとした蹴りを中断した。

「宮脇さんのどこを見て、どこで判断してるのか……それを今回教えるのが僕の仕事。」

相手の反応で納得して貰えたと判断したのか、隆治は穏やかな声で今回の目的を改めて告げた。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「うん、そんなに分かんなくなったかも。」

「何で分かったんだ……私の隙が。」

動きの指摘をして暫く経った後、改善された彼女の動きに隆治はにこりと笑って声を掛ける。
息を整えるようにしながら、咲良は落ち着いた声で彼へと問い掛けた。

「光の言ってた事なんだけどね、宮脇さんは全ての攻撃が重いんだよ。けど、全部の攻撃が重いから、予備動作が全部分かっちゃうみたい。」

「……そうか。」

光から教わった事をそのまま隆治が告げると、咲良はどこか落胆した様子で返事を返す。

「ほら、蹴りとかとっても重いから隙がおっきくなっちゃうんだよ。」

「……そうかもしれない。」

蹴りを受け止めて痣になった腕を見ながら隆治が言うと、咲良もその箇所をぼんやりと眺めながら彼の言葉に続けた。

「誰でも良い!誰でも良いから来てくれー!」

その直後聞き覚えのある声から悲鳴が上がり、2人は顔を見合わせる。

「今の……」

「ちょっと、様子見に行こっか。」

隆治の告げた提案に咲良は軽く頷くと、2人は悲鳴がした方向へと駆けていった。

こらるめんて ( 2015/10/08(木) 17:37 )