§第3章§
06
「玲奈…」

「まーだ言ってる…引き摺るのはわかるけどさぁ…あ。」

ぼんやりとしながら名前を繰り返す隆治に光は困ったように告げていたが、前を歩く咲良に気付くと彼女へと近寄った。

「咲良ちゃん、おはよ。」

「…また何かあるのか?」

姿を現した光に咲良はうんざりしたように冷たい視線を向けながら呼び掛けに答える。

「いやいや、咲良ちゃんの怪我の具合どうかなぁって。」

「これくらい何て事は無い。…てっぺんに行くならもっと痛みが強くなる。…それから逃げるわけにはいかない。」

心配を受けた咲良は真っ直ぐに彼を見つめながら言うと、足早に玄関へと向かった。

「ふーん、テッペンの覚悟は出来てる訳だねぇ。あっ、ほらほら!」

「何、さっきから…」

「もう、いつまでそうしてるのさ!玄関、見て!」

面白いものを見つけたのか隆治を呼び掛けると、相変わらず上の空である彼の頬を思いきりつねってからそちらに目を向けさせる。

「咲良さん、おはようございます!」

「昨日はありがとうございました!」

玄関で誰かを待っていた真子と南那は、咲良の姿を見つけると笑顔を浮かべて彼女に駆け寄った。

「…何のつもりだ。」

「私たちにアドバイスをくれて…」

「だから私たち、もっと強くなろうって決心が出来ました!」

冷めた様子で咲良は用件を聞くと、そんな彼女とは対称的に真子と南那は力強く訴えかける。

「…私はそんな事したつもりは無い。」

尊敬の眼差しを向ける2人に冷たく言い放つと、彼女は校舎内へと姿を消した。

「いやぁ…クールだなぁ…」

「それが咲良さんらしいというか…あ。…おい、ほら…」

感銘を受けたように2人は呟いていたが、隆治の姿に気付いた南那は真子を軽くつつく。

「ああっ!」

咲良を見た時よりも大きな反応を見せてから、真子は颯爽と隆治の元を訪れた。

「橘隆治先輩、おはようございます!」

「えっ…あっ…おはよ。」

満面の笑み向けられた隆治は、困惑しながらもなんとか挨拶を返す。

「…ご迷惑ですか?」

「あはは、今りゅーくんは…」

「あなたに話してるんじゃ無いですから。…まぁ、橘先輩のお友達ですから敵視はしないであげる事もないですけど。」

不安な様子で尋ねる真子に光は説明するが、彼女は隆治に向ける視線とは全く別物である冷たい視線を相手に向けながら答えた。

「ふふふ、ありがと。でも今、彼はちょーっとダメージあるからそっとしてあげてくれるかな?」

「えっ、先輩何か…」

「だから、そっとしてあげてって…」

話をしようとする真子を苦笑いしながら光が止めると、彼女は光を睨むようにしてからその場を離れていった。

「ね?りゅーくんの能力がしっかりかかってる。」

「…みたいだね。」

「このままカミソリちゃんに乗り換えて…」

真子の様子に困る相手に光は冗談めかして告げると、隆治もまた睨みつけてから彼を置いて先に校舎へと入っていく。

「おー…恐い恐い…」

姿を消したら隆治へと懲りる事なくからかうように言ってから、光は彼の背中を追って校舎に足を踏み入れた。

こらるめんて ( 2015/10/08(木) 17:34 )