§第1章§
08
「遅いなぁ…りゅーくん。」

彼が激尾古高校に入ってから幾分か経過した為か、光は時計に目をやり呟いてから小さく息を吐く。

「中で何が起きている事やら。…これなら彼も反転しちゃった可能性がある、か。」

その後、独り言を述べていた人物が校門から姿を現すと、校門前に居た光の姿を見てぴたりと足を止めた。

「これはこれは…誰かと思ったら。」

「奇遇っすね、こんな所で鉢合わせるとは。」

わざとらしく驚いてみせる光に対し、姿を見せた渡辺麻友は不適な笑みを浮かべながら彼に答える。

「…なるほど、また麻友ちゃんはネズミって役割か。」

「どういう意味っすか?」

「いや、気にしないで。何でもない、何でもない。」

相手の口調から彼は小さく笑うようにして告げると、麻友はどこか悪戯っぽく相手へと尋ね返した。

「そうじゃないっすよ。また、ってどういう意味か聞いてるんっすよ。」

答える気が無いのか光は即答するが、彼女は彼を追い詰めるかのように質問を重ねる。

「…なるほど、そういう事ね。」

「そうだ。私は他の誰でも無い、オリジナルの私。…そして藤宮光、お前もオリジナルだ。」

何も言い返せなくなった光は諦めたように笑うが、麻友は会話の主導権を握る為か確信している事実を改めて口にした。

「あれ?さっきの可愛げのある口調はどうしたの?」

「本来の私を知っているお前に使う必要は無い。…使いたくもない。」

それでも光はいつもの調子を崩さずに問い掛けるが、優位な状況である為か麻友も気楽に彼へと返答する。

「それで、麻友ちゃんは今どこのサイドに居るのさ?」

「音無誠…昔お前が管理してた施設、って言えば分かるか?」

「へぇ…りゅーくんの時とは違って随分と尻軽なんだね。」

自らの置かれている現状についてさらりと答えると、光はくすくすと笑いながら意地悪に告げる。
それを受けて、初めて麻友の表情から笑みが消えた。

「利用出来るものは利用する。…それだけだ。」

「利用ねぇ…振り回されてるだけだったりして。」

先程までの余裕が無くなっていると判断したのか、彼は麻友を煽り立てるように言葉を続けていく。

「お前の事を報告して記憶を書き直させる事も出来る。…態度を改めるべきじゃないのか?」

「あははっ、どーもこの性格だけは変えられないからね。…あ。」

麻友から睨み付けられながらも光は笑みを崩す事なく彼女に答えるが、視界の端に何かを捉えた彼は言葉をこぼす。
それを耳にした彼女もそちらに目を向けるが、視界に入ったものに麻友は驚きの余り目を見開いた。

「りゅーじく…」

「だーめ。」

長時間殴られ続けた為か、傷付きボロボロになりながらもなんとか校門から出てくる隆治へと麻友は駆け寄ろうとするが、彼女の腕を掴んで光がそれを止める。

「お前には関係…」

「駄目なの。ネズミちゃんとりゅーくんは無関係なんだから。」

彼女は自らの腕を掴んでいる手を振りほどこうとするが、光から正論を告げられると麻友は悔しげに奥歯を噛み締めた。

「りゅーじくんを…そしたら…今の事は忘れてやる。」

「分かってるってば。麻友ちゃんも大変だなぁ。」

「…煩い。」

次の瞬間隆治が倒れ込み麻友が必死に訴えると、その取り乱しように光は可笑しそうに笑う。

「いいな、りゅーじくんの…」

「はいはい、分かりましたよー。」

「…こんな奴に…」

圧力を掛けるように彼女は告げるが、光はいつもと変わらない様子で返事をした。
その軽い相手の態度に、麻友は恨めしげに言葉を残してその場から立ち去る。

「さて、ネズミちゃんとの協力は必要になりそうだし…恩を売っときますかね。」
光は明るく告げると、ようやく校門の前で倒れている相手へと歩み寄った。

こらるめんて ( 2015/10/08(木) 17:27 )