§第17章§
02
「咲良。」

「ソルトさん。貴女を越える為に、強くなる為に……力を貸して貰います。」

対峙する相手から名前を呼ばれ、咲良は真っ直ぐに遥香を見つめながら言葉を続けた。

「私は何も教えられない。だが、いくらでも相手をしてやる。得るべきものを自分で見つけ出せ。」

彼女の言葉に返答した内容を受けて、咲良は深く頷く。

「話はここまでだ……来い、咲良。」

「ソルトさん……行きます!」

ニヤリと笑って告げる相手に咲良は声に勢いをつけて返事をすると、地面を強く蹴り遥香へと向かっていった。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「橘。準備はええか?」

「僕の方はいつでも良いけど……」

由依は自らの前に立つ隆治へと尋ねるが、彼は比較的に落ち着いた様子で答えを返した。

「なんやねん、やる気あるん?アンタのやる気無くても、私は手を抜く気ないで。」

「その方が良いよ……怪我しちゃうから。」

呆れたように由依は言葉を続けるが、彼から返ってきた予想外の発言に言葉を失った。

「アンタ、今ウチを下に見た?」

「そんな事ない、そんな事無いよ!ただ、怪我をするのが良くないから言っただけ。」

「そこまで無意識に見下されると腹立つん通り越してもはや呆れるわ。」

必死に弁解をしようとしている隆治を見て、由依は溜め息を吐いてから再び鋭い視線を向ける。

「アンタの方も、怪我してもしらんからな!」

由依は声を上げると、隆治目掛けて加速していく。
しかしながら彼は手に着けたグローブの様子をしっかりと確認してから、ようやく由依に目を向けた。

「余裕やなぁ!橘ぁ!」

彼女が隆治目掛けて拳を突き出した次の瞬間、由依の背中に痛みが走る。
彼女の視界には隆治の姿は無く、空を見上げる由依は一瞬のうちに何が起きたのかを察してから立ち上がった。

「侮ってたわ。アンタ……想像以上やな。」

「ありがと。けど……侮ろうが、侮るまいが結果は変わんないよ。」

賞賛の言葉を受けた隆治であったが、心配するような表情を浮かべながらも由依へと返事をする。

「あんま、天狗にならん方がええで。その鼻、へし折ったるわ。」

「天狗になってるわけじゃないよ。ただ、何だろ……警告?」

「舐めんなっ!」

言葉を探しながらも告げられた彼の一言にとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、由依は怒鳴るように良いながら再び隆治へと向かった。

「ラッパッパがあんたみたいな……!」

叫びながら放った由依の拳は易々と彼の腕に弾かれる。
そして気が付いた時には自らの鳩尾辺りに触れる直前で、隆治の掌が寸止めされていた。

「おたべさん……貴女が気付く前に転倒させて速さも見せた。貴女の腕を力付くで弾いた力も見せた。その中で的確に急所を狙える技術も見せた……これで許してくれないかな。」

力の差に唖然としている由依へと、隆治は掌を下げるようにしてから語りかけていく。

「橘……アンタ、何者なん?なんでそんな実力あるのにずっと黙って、一方的に殴られてたん?」

「それは……今は言えない。けど……きっともう少ししたら言える、かな?」

先ほどとは打って代わり落ち着いた声で尋ねる由依へと、隆治ははぐらかすようにしながら答えた。

「ごめんな、今驚きとか呆れとかでごちゃごちゃなってて……決着は今度着けさせて貰うな?」

「やっぱり着けるんだ……でも混乱は無理ないよ、隠してたんだから。」

なんとか頭を整理をしようとしている由依へと、隆治は苦笑いを浮かべながら言う。

「隠してたん?」

「えーっと、そうだね。諸事情あって。」

「じゃあアカンやん。」

確認する彼女に隆治は再度答えるが、即座に否定の言葉が由依から返ってきた。

「えっ?」

「ソルトは何かに気付いてたみたいやし……下手くそやん。」

話の意図が全く読めず、隆治はただきょとんとする。
現在の複雑な心境からか、由依は困ったように微笑みながら相手に告げた。

■筆者メッセージ
おたべの動きは隆治くんは見てきました。
負ける訳が無いですね。
無意識に煽る辺りが流石です。
こらるめんて ( 2016/01/24(日) 12:17 )