§第12章§
03
隆治が病院に運ばれてから数時間後、彼が眠っている中でとある人物が彼の病室を訪れる。

「……本当に入院多いよね。昔からそうなんだから。」

側にあった椅子に腰を下ろすと、小さな声で呟くと彼を起こさないように注意しながら相手の頬をそっと指先で撫でた。

「私が入院した時も、たくさんお見舞いに来てくれたっけ。……ごめんね、今は無理みたい。」

隆治の寝顔を眺めながらどこか寂しそうに告げるが、病室の入口から連れの人物が顔を覗かせると小さく息を吐く。

「……またね。」

眠る相手にそう告げてから静かに病室を後にすると、彼女は先程の穏やかな表情とは打って変わり不満を露にしながら連れの人物の横を歩いた。

「……ちゃんと話せたっすか。」

「何でそんな事聞くんだよ。」

「私の分も、っすよ。」

突然の連れからの問いに彼女は苛立った様子で尋ね返すが、その連れの言葉を聞いて口を閉ざす。

「……元気になってから、勝手に話せばいいだろ。」

「へえ、許可してくれるんすか?」

「……やっぱり駄目。」

横を見ないまま彼女が告げた言葉に連れは笑って再度問い掛けると、彼女は隣の相手を睨みながら拒否した。

「……あ。……ちょっとだけ。」

何かが目に入ったのか、彼女は言葉を漏らすと足を止める。
その後、隣に居る人物に声を掛けてからパタパタと走っていった。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「橘先輩、大丈夫かなぁ……あ!?お前は!」

「先輩に、お前は無いんじゃないかな。」

お見舞いの花を持って真子は隆治の病室を訪れようとしていたが、突如目の前に現れた人物を指さしながら告げる。
そんな相手の態度に苛立ちを募らせながらも、真子の前に現れた松井玲奈は落ち着いて言葉を返した。

「前は……悪かった。……今はお前しか頼れないから。」

「は?何の事だよ!」

「……少しだけ、りゅーくんのこと貸してあげる。……近いうちに、すぐに返して貰うから。」

突然相手が謝罪をした為に真子は驚くが、続けて告げられた言葉の処理が彼女に出来ていないうちに玲奈はその場を立ち去っていく。

「なんなんだよ、あいつ。この前はいきなり殴りやがって、今度はいきなり謝ってきて……」

玲奈の後ろ姿に不満を言いながらも首を傾げていたが、病室の入口に隆治の名前を見つけて表情を綻ばせる。

「橘せんぱーい!」

「ん……真子……ちゃん?」

目を覚ました隆治が病室の扉の方へと目を向けると、真子はにこにことわらいながら側にあった椅子に座る。

「想像以上に、橘先輩が元気で良かった!」

「真子ちゃん、学園で何か変わったこと……無いかな?」

明るく言う彼女に隆治が問い掛けると一瞬真子の表情が曇るが、再び笑顔を彼に向けた。

「ここの病院、ゆっくりしてますよね。橘先輩も元気になるかぁ。」

「真子ちゃん。……何があったの?」

「……咲良さん達やラッパッパが、激尾古に殴り込みに行きました。」

話をそらそうとするが再度隆治が尋ねると、真子は再び椅子に座って俯きながら答える。

「それなら……っ!」

「駄目ですよ!寝てなきゃ!……私は、その為に来たんですから。」

起き上がろうとした隆治だったが身体が痛み表情を歪ませると、真子は椅子から立ち上がり咄嗟に相手の動きを止めた。

「行かなくて良かったの?宮脇さんの舎弟なんでしょ。」

必死の相手を見て隆治が再び横になると真子は安堵の息を吐くが、投げ掛けられた問いに彼女は困ったような表情を見せる。

「咲良さんは言いました。……迷うくらいなら橘さんの所に行ってくれ、私は絶対に負けないから……って。」

「……らしくないなぁ、気になるんでしょ。宮脇さんの事も。」

「えっ……」

静かに告げられた言葉に隆治が笑いながら告げると、図星を突かれたことに驚きながら真子は顔を上げた。

「行ってきなよ、僕はもう大丈夫だから。えーと……真子ちゃんの顔見て、元気出たし?」

相手の背中を押そうと隆治は話ながら言葉を探るが、最後に付け加えた言葉に真子は目を輝かせる。

「分かりました!行ってきます!」

真子は満面な笑みを浮かべて告げると、隆治が動けないのを良いことに頬に口付けてからいそいそと病室を後にする。

「……やば、ちょっと言い過ぎたかもな……」

その行為を受けた隆治は困ったように告げながら、真子からキスを受けた場所を手でおさえた。

■筆者メッセージ
いつもの2人に戻れる条件は揃っているのに戻れない。
うーん、もどかしいですね。
こらるめんて ( 2015/12/17(木) 20:21 )