§第11章§
05
先ほどまで隆治と遥香がやり取りを行っていた屋上に、日が暮れてから光は1人で訪れていた。

「さて、時間かな。」

時計で時間を確認してから呟いていると、何者かが自らの元へと近付いてくる音を聴いてそちらに目を向ける。

「前回話をしてからそこまで時間が経った、とは思えないけどな。」

「やぁ、ネズミちゃん。話したい事がどうしてもあってね。」

ピンク色のフードパーカーによって頭をすっぽりと覆っている渡辺麻友が現れると、光はにこりと笑いながら挨拶をする。

「前話したこと、覚えてるかな?」

「さあ、何の事だか。」

「ふふふ、相変わらず冗談が好きなんだなぁ。」

突然呼び出された事により機嫌を損ねているのか麻友は乗り気でない様子で返答をするが、光はにこにことしたまま楽しげに会話を続けた。

「余計な事しないで、ってお願いしたんだけどね。詳しい話を聞かせて貰って良いかな?」

「拒否する、そう言ったらどうするつもりだ?」

「それは勿論……」

楽しげに話していた光へと麻友が挑戦的に尋ねると、彼は相手に向かって握り拳を見せる。

「実力行使でしょ。」

「私は出来ない訳じゃない、嫌いなんだ。それを分かって言ってるのか?」

「それは、お互い様でしょ。」

床を蹴って相手の元に向かおうとすると、麻友と光の間に何者かが現れる。
光はそれを読んでいたのか、急停止すると距離を空けるように後方に下がった。

「ふふ、君がお仲間を呼んでることは想定済……み……?」

得意気に笑いながら顔を上げるが、間に立っていた人物を見ると光はぽかんとした表情を浮かべる。

「紹介しなきゃいけないっすねぇ。彼女があっしのボディーガードっす。」

「そんなもの、引き受けたつもりはない。」

今度は逆にしてやったりとした表情を浮かべた麻友は間に入った人物の紹介をしながらその横に並ぶが、紹介を受けていた松井玲奈はその言葉をすぐに否定する。

「ふふふ、あははっ!玲奈ちゃん、ネズミちゃんに懐柔されてたの?」

「煩い!りゅーくんを助けるには……こうするのが1番なんだ。」

「ふーん……記憶を弄られた訳ではない、か。」

声を上げて笑う相手を睨み付けながら玲奈は怒鳴り声を上げるが、その内容を聞いた光はニヤリと笑みを浮かべた。

「まぁ丁度良かった。事実も確かめれたし、言いたいこともあったからね。」

「今、お前の方が不利な事を忘れるなよ。」

「はーい、気を付けまーす。」

相手より有利な状態であることを強調しながら麻友は話を切り出した相手に告げるが、光はどこか余裕を持ちながら返事をする。

「ね、玲奈ちゃん。聞いてるとは思うけどさ、実はりゅーくんの記憶は戻ってるのさ。」

さらりと告げられた内容に玲奈は口元をおさえ硬直し、麻友は驚いた表情を浮かべながら光へと目を向けていた。

「お前……それは……」

「あれ?ネズミちゃんは伝えてなかったのかな?ふふ、まぁ良いや。それで、お願いなんだけど……」

早々に自らの計画が崩れた麻友は相手に何かを言おうとするが、光は悪戯な笑みを見せたまま話を続ける。

「りゅーくんの事、知らないふりを続けてね。」

「りゅーくんの記憶が戻ってるならネズミの所にいる理由も、お前の要求を聞く必要もない。」

光の提案を耳にした玲奈は光の後に麻友を睨み付けてから告げると、そのまま屋上を立ち去ろうと足を進めた。

「聞いてくれないなら……りゅーくんの首、切っちゃうかも。」

ぼそりと告げられた彼からの言葉に玲奈は足を止めて振り返り、今度は麻友は思わず口元を覆う。

「そんな事!」

「出来ないかな?こういう駆け引きの話は得意分野なんでしょ?ネズミちゃん?」

反論の為に麻友は必死な様子で声を上げるが、光は小首を傾げるようにしながらからかうように告げた。

「りゅーくんに1番近いのは僕だよ。さっきの要求、のむかどうかはネズミちゃん達にまかせるけどね。」

くすりと不敵な笑みを向けながら言うと、光は先に屋上から姿を消す。
最後に告げられた言葉を受けて麻友は呆然と立ち尽くし、玲奈は作った握り拳に思いきり力を込めた。

■筆者メッセージ
最近穏やかな光くんでしたが、やっぱり彼は過激な人ですよ。。
こらるめんて ( 2015/12/14(月) 03:44 )