第1章 横山由依篇
山本彩 U


「へぇ〜、島崎さんが来てたんやぁ」
「でも、すぐ帰ったわ。ほんま一瞬しかいーへんかった。その一瞬で、うちを痛めつけて去っていった。もはや嵐のようや」
「…………」
「彩ちゃん、コーラでええ?」

冷蔵庫をあさりながら山本彩に問う横山由依。ようやく股間の痛みがひいた。

「なんでもいいよ」
「ファンタもあるで」
「何味?」
「みかん」
「みかんって!オレンジでしょ!」
「あ。スプライトもあるわ」
「……なぜコカ・コーラ社の炭酸飲料ばかり?」
「じゃあ、彩ちゃんにはタブ・クリアやな」
「なにそれ!?」
「タブ・クリアは冗談や。はい、コーラ」
「ありがと。なにが冗談なのかわからないけど」

タブ・クリア。
1993年に発売されて、ほんの一年でその姿を消したコカ・コーラ社の炭酸飲料水である。炭酸水に砂糖を入れたような味、と評する人が多い。
これは完全に余談である。

「うちはアールグレイ飲むわ」
「なんで!?こっちにコーラ及び炭酸系を勧めといて、自分はアールグレイ飲むん!?」
「え?アールグレイが良かったん?なら、言ってーや」
「さっきのラインナップ聞いて、そんなオシャレなのがあると思わんから」

ボケ倒す由依にツッコミを連発せざるを得ない彩。
アールグレイを2個のコップに注いだ由依はソファに落ち着いて、ツッコミ疲れている彩を見る。

ニット着とるやん。
反則やわ〜。
おっぱいが破裂しそうになってるやんか。

「……でさ、ゆいはん?聞いてる?」
「うん。ちゃんと見とるで」
「見なくいいから話聞いて!って、どこ見とんねん!」
「おっぱいやな」
「そんなとこ見ないでええから、話聞いて。あんな、朱里なんやけど、」
「朱里?」
「メールしたやん。朱里のことで相談したいって」
「あ。それでうちに来たん?」
「まったく、うちが今までなんで来たと思ってたん?」
「そりゃあ……」

ちんこ舐めに来た。
とはさすがに言わない由依である。
そういえば高橋朱里のことがメールに書かれていた気がするけど、すっかり忘れていた。
彩は、ボケボケゆいはんに頭を抱えながら、

「それから……」
「なに?」
「いつまでバスタオル一枚なん?」
「…………」

いまだにバスタオル一枚巻いただけの状態で、もはやくつろぎ始めた由依。
国民的アイドルの総監督としては、だらしなさ過ぎである。もっとも、ちんこがついているのは問題外である。

彩ちゃん、気にしいやな。
服着てもええけど、舐めてもらうときにどうせ脱ぐわけやし……

確約のとれていないフェラをなぜか予定に組み込んでいる由依である。

「……まぁ、気にせんでええやんか。で、朱里がどうしたん?」
「目のやり場に困るわ。……はぁ。ゆいはん、しっかりして」

ため息をついて嘆く彩を見て、由依はイラッとする。

『もっとしっかりしてよ』

さきほど遥香に言われた台詞だ。

なんなん、みんなして?
うち、そんなにしっかりしてへんの?
ちんこが生えたせいってぱるるは言っとったし、たしかにそうかもしれんけど、それこそしゃーないやん。
ちんこが生えたら、性欲処理するんはしゃーないやんか。

自己正当化しつつ、自分を非難する人へのイライラが募る。

「でさ、昨日朱里と映画観て来たんやけど」
「彩ちゃんは、朱里とばっか映画観に行くねんな」
「趣味が合うから……」
「うちとは全然行ってくれへんやん」
「行きたかったん?なら、言えばいいのに」
「彩ちゃんと朱里を仲良くさせたんは、うちやんか。やのに、気づいたらふたりで遊んでばっかやん」
「…………」

人の感情を読み取る能力に長けている彩は戸惑った。
由依が急に機嫌を悪くしてしまい、どうしていいのかわからない状態に陥る。それはバイキングでどう喋っていいかわからない状態に似ている。

「……ご、ごめん、ゆいはん」

なんだか分からないけど、とりあえず彩は謝った。
理不尽な出来事に自分が折れる。大人な対応ができる彩である。
それに対して、子供ならまだしもオスな由依は、

「……なら、うちとも仲良くして」
「うん。もちろん」
「ほな」
「え、なんで脱ぐん!?って、それ!!」

バスタオルの下から現れた横山由依の一物に目を剥く山本彩であった。





いぷしろん ( 2016/02/05(金) 00:37 )