3話
入学式の翌日から授業開始。普段の様子から和哉が授業中もふざけた態度をするのかと心配していた彩だったが、大人しくしているので、授業の邪魔はされないと一安心。
ただ、和哉は黒板に書かれているものをノートに書き写すこともせずに退屈そうにしているだけだった。休み時間になると机に伏せ眠る和哉。大学への進学を考えているのであれば、もっと真面目にしろと思う彩だった。
進学クラスは毎週土曜日に模試が行われる。折角の休みなのに登校しないといけない。
彩「アンタ、サボらんとよー来たな」
和哉「眠っ・・・」
彩を無視して席に着く和哉。休日に登校しているせいかやる気の無さは普段の三割増し。
彩「なぁウチと勝負せーへん?模試の点で」
和哉「やだよ、面倒くせー」
彩の挑発も和哉には効果無く、自身の精神が乱れただけ。
彩「これやったらどうや。アンタが勝ったらウチが生徒会の仕事全部やってもエエで。その代わり、アンタが負けたら生徒会の仕事と授業、真面目にしてもらうからな!」
和哉「俺が勝ったら生徒会の仕事一人でやってくれるんだろ?眠いけど、少しだけガンバるか」
やる気が無さそうなのは変わらないが、和哉が自身の口から『ガンバる』と言ったのは高校に入って初めてのことだった。離れて聞いていた潤は久し振りに和哉が僅かでも本気を出すと知り、内心喜んでいる。
彩「このクラスで最下位のアンタがウチに勝てる思うてんのか?ウチに勝てるんは神谷君と松井さんだけや」
二年間、潤が学年一位、玲奈が二位、彩が三位とこの順位が一度も変動したことがない。和哉と彩の点差は常に85〜90点で簡単に引っくり返せるものではない。それに和哉は一秒たりともテスト勉強をしていな かった。教師が教室に入って模試の説明をする。そしてテストが始まり10分後、
「岡田君、どうかしたの?」
挙手をして教師を呼んだ和哉。
和哉「終わったんで次のテスト、持ってきてもらえないですか?」
開始10分でテストを終わらせ次のテストを要求する和哉。
「変な冗談言ってないで真面目にやりなさい。10分で終わるわけ・・・」
疑う教師が和哉の解答用紙を見ると、全てきれいに埋められていた。
和哉「用があって早く帰らないといけないので、お願いできますか?」
「そういうことなら・・・」
無いはずの用をでっち上げ、次のテストを始めた和哉。どの教科も10分足らずで終わらせる。テスト開始から50分、一教科目のテストの終わりを告げるチャイムが鳴る。
和哉「終わった、終わった。帰って寝よ」
全教科のテストを終わらせた和哉は、一人だけ帰っていく。家に帰ったときには奈々から怒られたが・・・五教科のテストが終わった玲奈達は
玲奈「難しかったよね」
彩「そないなこと言うて、ウチよりええ点取るんやもんな〜」
模試のことを話ながら帰っている。
彩「ウチが勝ったら岡田君も少しは真面目にやるかな?」
玲奈「・・・もしかして会長のこと好きなの?」
ことある毎に和哉を怒る彩。和哉にあまり話し掛けることができてない玲奈からすると、彩は和哉のことが好きなのか、内緒で付き合っているのか、それとも和哉が彩のことを好きなのかと、常々感じ、思わずその疑問が口から出てきた。
彩「何でウチがあないな男、好きやて思うてん?ウチはあんな真面目やない男、嫌いや」
彩が和哉のことを嫌いと言い、ほっとする玲奈。
彩「まぁええけど、あれは何を考えてたんやろ?あないな短い時間で終わらすなんて。負けたときの言い訳にするつもりやったんかな?」
玲奈「・・・違うと思うけど」
彩「松井さんは岡田君のこと好きやからそう思うんやろ。じゃあウチはこっちやから」
玲奈「うん、じゃあまたね」
玲奈と彩、和哉に対し違う見解を持つ二人の考えは同じになることなく、それぞれ家路に着く。
週明けに、掲示板に模試の点と100位までの順位が掲示され、大勢の生徒がざわめいている。
彩「どないしたん?」
「彩、残念だったね」
訳が分からず、彩が順位を見ると、自身は四位。上位陣の順位が下がる中、一位になったのは和哉。
和哉「あー良かった、これで追い出されなくてすむ」
それだけ言って教室に戻る和哉。彩は負けないはずの勝負で負けてしまい、ショックを受けている。
潤「やっぱり負けたか」
予測していた結果だったのか、潤は負けても平然としている。
奈々「お兄ちゃんの名前・・・あった。早く帰ってたからサボったって思ってた」
そう言って、順位表をスマホで撮る奈々。
彩「奈々ちゃん、何で撮ってんの?そんなにお兄ちゃんが一位になったんが嬉しいん?」
和哉に負けた悔しさを、奈々にぶつける彩。スマホで撮っている時の奈々がホッとしたような笑顔を見せていたせいなのかもしれないが。
奈々「実は・・・お兄ちゃんのテストの結果を私がお父さんに見せないといけなくなって・・・」
玲奈「どういうことなの?」
玲奈と彩は奈々を人気の無い所に連れていき、話を聞く。
奈々「実は・・・高校に入って、お兄ちゃん、成績をお父さんに見せなくなって」
彩「成績ワルかったら、そら見せたないわな」
玲奈「それで?」
奈々「学年一位を取れなかったら家から出ていくようにって」
和哉がそんな状況になっていると知り、驚く玲奈と彩。
彩「そんなん自業自得や」
自業自得、そう言って教室に戻った彩。和哉に負けたことが相当悔しかったのか、不機嫌なままだった。
玲奈「会長、凄かったんだよ。たった一時間で全教科のテスト終らせて」
玲奈に和哉は凄かったと言われ、奈々は喜んで教室に戻っていった。