第3章
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昇降口に着くと、優希が待っていた。

「向井地、待たせた。帰るか。」
「おう。」

岡田と帰るのは勿論初めてだ。それに加え、お互い嫌っているだけに帰り道は黙ったままだった。やがて、岡田が口を開いた。

「向井地、今回は助かった。」
「気にすんな。」
「でも、何故私を助けた?」
「だから、さっき言ったろ。白間が人一倍助けたい気持ちが強かったもんで、一緒に助けに行かざるをえなかっただけだ。」
「そうか。私はお前がそんな奴だとは思わなかった。噂でお前の事で流れてたんだ、最低な人間だって。」
「ま…流れても仕方ない。事実なとこもあるからなぁ…」
「じゃあ、嘘ではないってことか?」
「まぁ…お前がどこまでの噂を聞いたか知らんがな。敢えて聞くつもりもない。」
「そうか…」

噂を鵜呑みにしてはいけないとはこの事だった。岡田は会ってすぐ優希を卑劣な最低の人間だと思っていた。しかし、優希は見た目と違い誰かの身に危険があると、助けに行くタイプだったのだ。

「向井地…お前にお願いがあるんだが。」
「何だ?」
「私…今まで付き合ったことがないんだ。それで、お前に男子を紹介して欲しいんだ。」
「いきなりなんだよ、お前に紹介する?自分で探せよ、何で俺がしなきゃいけないんだよ?」
「今こうやって話せるのはお前しかいないんだ。だから、お前にお願いしてる。」
(別に俺、岡田と仲良くなったつもりないんだけどなぁ…いきなり親しくしやがって…まぁ、俺が今思うのは真央か隆史だけど…しょうがない、どっちか近づけさせるか。)
「わかった、近いうち誰か紹介するから待っといてくれ。」
「すまない、では私はここで。」

岡田は帰って行った。

「あいつは俺に心開いたってわけか?俺はまだそんなつもりないけど。」

優希はそう呟いて家へと向かって行った。

夜明け前 ( 2018/06/28(木) 11:30 )