第5章
09
長かった福岡旅行も今日で最終日を迎えた。

「寂しくなるな。」
「はい。」
「楽しかったわよ。また、福岡遊びに来てね。」
「勿論です。」

美桜もその場にいたが、やはり別れるとなると寂しいものだ。優希はわかっていた。

(やっぱ寂しいよな。寂しくない筈がないもんな。)

優希も少し寂しかった。やはりこの福岡旅行は満喫した。冬のイベントのクリスマス・初詣は2人でデートをした。特にクリスマスは美桜がサンタの格好で、初詣は優希は袴で美桜は着物だった。大晦日は4人で正月の飾り付けなどの準備をしていたので、デートはしなかった。

「さあて、そろそろ帰る準備します。」
「もうちょいゆっくりしてもいいんだよ。」
「いや、親とかに連絡したんで。」

昨日の夜、優希は親に電話をしていた。電話に出たのは母だった。

「母さん?明日帰るから。」
《あら、そうなの?気をつけて帰りなさいよ。後、お土産忘れないでよ?》
「わかってるよ…」
(俺より土産か…)

優希は美桜の部屋に戻ると、帰り支度を始めた。だが、美桜は優希に全く話そうともしなかった。

「ど…どうした美桜?」
「………」
(辛いのはわかるけど…そんなに見られるとなんか…気不味いというか…)
「じゃあ、帰るよ。美桜、駅まで来るか?」
「うん…」

今日初めて話した美桜だったが、優希に見せた笑顔は完全に作りだった。玄関まで下りると美桜の両親に見送られた。

「またな優希君、風邪ひかないでな。」
「はい。」
「この2週間…美桜幸せそうだったし、こんな楽しそうな冬休みなかったと思うわ。優希君ありがとね。」
「いえいえそんなことは…こちらこそありがとうございました。至れり尽くせりで申し訳なかったです。」
「元気でな。」

美桜の家をあとにすると、優希と美桜は駅に向かって歩き出した。

(美桜全く話さないな…参ったな。)

全く話さない美桜に優希は少し困ってしまった。もう少ししたら駅に着き東京へ行ってしまう…美桜も話したい筈だが、こんなに黙ってる美桜は初めてだった。

「もうちょいかな…」
「………」

全く話さない。優希はある意味悲しかった。駅近くに着いた、優希は美桜の方を向いた。美桜は下を向いたままだった。

「寂しくなるな。」
「………」
「楽しかったよ美桜。また今度は春休みかな…春休み?卒業式後に会えたら会おか?」
「優希…あの…」

美桜は突然優希を抱きしめた。優希は焦った。

「み…美桜?」
「あの…卒業したら…福岡に…」
「行くよ。また福岡に遊びに…」
「違うの!福岡に住んで欲しいの!」
「え…」

優希はびっくりした。今まで黙ってたのはこのためだった。

「いくらなんでも…」
「お父さんも…お母さんも許して…くれたし…」

実は昨日の夜、優希がぐっすり寝てたが、美桜は目が覚めてしまった。明日には優希が帰ってしまう…辛くて目が覚めてしまった。美桜は起こさないように下に下りた。リビングには両親がまだいた。

「どうした美桜?寝れないのか?」
「うん…明日、優ちゃん帰っちゃうし…」
「そうなのか?」
「昨日言ってたんだ、『明日東京に帰るわ。』って。」
「それは辛いな。」
「あのさ、優ちゃん卒業したらの話だけど…家に住んで欲しいの。」
「ちょっと美桜、何言ってるのよ。」
「だって…この2週間楽しかったんだもん。」
「だけど、優希君にも家族の時間があるじゃない。」
「でも…」
「いいんじゃないか美桜。」
「ちょっとお父さん…」
「確かにこの2週間美桜のあんな笑顔な日を見れるとは思わなかった。母さんの言い分もわかる。だけど、美桜の気持ちもわかるんだ。」
「お父さん…わかりました。」
「お父さんお母さんありがとう。」

美桜は嬉しかった。そして今に至る。

「だから優ちゃん…卒業したら…」
「美桜わかった。けど、親に言わないとわかんないし…」
「そうだよね、優ちゃんごめん…」
「悪いな、決めたら連絡するよ。」
「うん。優ちゃん…またね。私…待ってるから。」
「ああ。美桜…」
「何?」

優希は美桜にキスをした。そして軽く抱きしめた。

「優ちゃん…」
「じゃあな。」

優希は駅のホームに入った。美桜は手を振って見送った。

(優ちゃん…待ってるよ。)

優希を見送ると美桜は家に向かって行った。一方優希は新幹線に乗り込むと席に着いて早々寝てしまった。

夜明け前 ( 2017/12/21(木) 20:03 )