伊藤理々杏
台本少女@
薄暗い部屋にベッドの軋む音と高らかな矯声が響く。
座位の体勢で激しく上下に跳ねる理々杏は学校の教室の隅で大人しく本を読んでいる地味な女の子とはまるで別人のようだ。
自ら激しく跳ねて快感を貪る様子は淫乱そのものであり、少女のような見た目からは容易に想像できない。



学校では一言も話さない。
周りは僕と理々杏がこんな関係に至っているとは思いもしないだろう。
当然、理々杏の性に積極的な面を持ち合わせていることなど冗談でも一片も想像しない。勿論、僕もその一人であった。
つい、この間まで……

理々杏とこのような関係になったのはつい一週間ほど前。放課後、教室に忘れ物をして取りに戻ったときのことである。
教室には誰もいない……筈だった。だが、教室の鍵は空いており、よく見ると一人の女子が机の前に立ち尽くしているのだ。



すると、机の角に自分の下腹部を擦り出したのだ。そう
自慰だ。その女子は教室で自慰に耽っていたのだ。そうとは知らず現場に居合わせた僕は驚きのあまり後退りして、不覚にも傘立てに模した青いポリバケツに足をぶつけてしまった。



物音に気付いた女子は目を見開いて僕の方を振り返った。その場を逃げる暇などなく、僕は女子とばったり目線を合わしてしまった。



その女子というのが、何を隠そう理々杏である。
その場で交わされた約束は自慰のことを誰にも喋ってはならないという箝口令であった。極めつけにはこの事を口外すれば、無理矢理襲われたと学校中に言いふらすとまで脅されたのだ。



どんなに僕が身の潔白を証明しようと、男子の僕とか弱い女子の理々杏では勝ち目がないのは一目瞭然だ。僕にはその要求を飲むしか選択肢はなかった。



それからというもの理々杏からはその事をだしにして無茶な要求をしてくるようになった。抱きしめだとか、キスをしてだとか。それならば可愛い方だが、ついこの前は「処女を奪ってくれ」というものだった。勿論僕には断るという選択はできず、全ての命令じみた要求を飲んできた。



「ねぇ、僕のこと好き?」


「うん、好きだよ」


「嬉しい。僕も好きだよ」



理々杏は耳元でそう訊いてくる。行為の最中には必ず自分のことは好きか? という質問を投げ掛けてくる。冗談でも「好き」以外の言葉は言えない。



自分に忠実で自分だけを愛してくれる従順なキャラクター。
それが彼女が描く台本の中の僕なのだから

阿吽 ( 2017/12/29(金) 02:48 )