エースは俺 - 第2章【クラブワールドカップU-18編】
28話
次の日寮から練習場に行く約束をしていたノアンが時間よりも随分早く部屋をノックしてきた。
寝起きの修二は目を擦りながら玄関へ向かうといつものノアンにしては慌てているようなノックに違和感を感じカギだけ開けるとノアンが勢い良く扉を開け部屋に入ってきた

「修二!ニュース見たか!」

「いや、今起きたんだけど。」

「今すぐテレビつけろ!」

焦るノアンに寝起きの修二はテンションのギャップを感じながらテレビを付けるとCMが終わりスペインサッカーの特集が始まってた

トップチームの試合結果とその解説が終わると話題はクラブワールドカップU-18の話題になりアナウンサーが口を開くと修二は戦犯扱いだった。レアルのファンのインタビューも聞くに耐えない物だった。

「って事で、面倒事が起こらないように今日明日の休暇は家から出ないで大人しくしておく事!」

「お、おう。」

家でおとなしくしておくのも暇なので溜まってるラインを消化していると日本でも同じようなニュースがあったと飛鳥からラインが来ていたがこちらの物とは内容が違く修二は同点に追いついた英雄扱いされていた。

七瀬からは一緒に住むために英語とスペイン語の勉強してるなど油断するとニヤニヤする様な話題ばかりだった。

奈々未からは相変わらずのサッカー談を繰り返していた。この場面ならどう言うパスが欲しい、どこにいればパスが出しやすいなど。2019女子ワールドカップに向けて準備していた。

2日が過ぎトップチーム合流の日になりリーグ戦も後半でベンチ入りに選ばれていた。今日の相手は格下のバレンシア相手だったためジダン監督は修二とノアンを後半から出す事を宣言していた。

「修二!頑張ろうな!」

「ノアンより結果出してやんよ!」

意気込み充分で後半ノアンがフィールドに出るとレアルサポーターから拍手が送られたが、修二が出た瞬間ブーイングに変わった。

(ここまで扱い酷いのか。やりづらいな。)

そう思いながら結果を出せば良いと深く考えなかったが修二が思う以上に厄介な状況だった。チームメイトは何も気にせずパスをくれるが修二がボールに触るとすぐさま歓声がブーイングに変わる。ホームなのにアウェイよりやり辛かった。次第に修二のイライラも募っていく。
試合は3対0で勝つもゴールに絡めず終わった。

「クッソ。やり辛くて仕方ない。」

「これからだよ!今日は半年ぶりのトップチームで力が出せなかっただけだよ!」

ノアンが全力でフォローしていると、監督に呼ばれた

「修二。今は耐える時だ。こんな事で潰れる選手じゃ無いだろ?」

「ジダン監督。俺悔しいです。次は必ず」

修二がそう言うと監督はニヤッとだけ笑い記者会見に向かった。

キャプテンのセルヒオ・ラモスも声を掛けてきた。

「修二!今日は散々だな!流石の俺も自チームのサポーターにブーイングくらった事はないぞ!」

冗談で励まそうとしてくれている事は分かっていたが今の修二にはその冗談ですら胸に刺さってきた。ラモスの励ましを無理やり明るく返しその場を後にした。

記者会見では監督に修二への今後の采配はどうするかと言う質問に「彼がレアルの選手である限り使い続けるそれだけです。」と答えてくれていた。
日本では修二では無くレアルサポーターを悪者にするような報道がされていた。

悩む修二に飛鳥と奈々未からラインが来た。
 
[お兄ちゃんなら大丈夫!頑張り過ぎずに頑張ってね!]

[修二は強い子だからきっと乗り切れる。]

チームメイトや家族の優しさに支えられながらまた次の試合その次の試合と出場機会を貰っていたがブーイングや修二への誹謗中傷は治らなかった。
それとは対照的にライバルである悠人達はしっかりと結果を出しチームに貢献していた。
そんなニュースを見るたびに負い目を感じ出すと七瀬から電話がかかって来た。いつもと同じ様にたわいもない話をしてくれたが、修二の反応に我慢ができず心配になった七瀬は

「最近元気ないけど悩みでもあるん?なんでも聞くで?」

そう聞かれるがその優しさが修二の心に深く刺さってしまう。

「七瀬に何がわかるんだ。しばらくそっとしといてくれ。」

と修二は怒鳴ってしまいその日から修二と連絡を取れるものは居なくなった。

レアルは橋本修二を放出したと言うニュースを残して修二はサッカー界から姿を消した。



東魁 ( 2020/07/26(日) 21:24 )