#01 初めまして
声をかけてきたのは、いかにも育ちが良さそうなお嬢様然とした綺麗な女性だった。
清楚な服装、高級そうな鞄、ほんのり薔薇のような香水の香りがする。
「馬?」
おしとやかな服装と佇まいのなかで、鞄に付けた大きな馬のぬいぐるみだけが異彩を放っていた。
「あっ、すいません。僕は今日からここでお世話になる岩下といいます。」
誤魔化すように挨拶をすると、
「初めまして。私は菅井友香といいます。欅坂46でキャプテンをやっています。馬が大好きなので、鞄にもつけているんですよ。」
僕の失礼を気にも止めなかったかのように、挨拶を返してきた。
「新しくプロデュースチームに加わる方がいらっしゃるとは聞いてたんですけど、こんなに若い方だとは思いませんでした。」
(なるほど、プロデュースね…
うんうん…え?!プロデュースチーム?!)
青天の霹靂、藪から棒、足元から煙が出る、瓢箪から駒とはまさにこのことだ。
「瓢箪から駒は意味が違うかな?」
「え?ひょうたん?」
「いや、なんでもないです!」
あまりの驚きに頭で考えていたことをつい口に出してしまった。
「ふふ、面白いかたなんですね」
彼女は優しく微笑むと、僕を事務所の中に案内してくれた。
(木漏れ日のような優しくて、朗らかな人だな…)
彼女の笑顔で、いつの間にか緊張が解けた自分がいた。