2人の思い出の公園で
「かなり久しぶりに来たけれど、ここは変わらないな。」
「でもシーソーは無くなったね。」
「シーソーなんてあったっけ?」
「えぇ、覚えてないの?」
公園の中を一通り見て回り終えた大輝と明音はベンチに腰掛けて、幼い頃2人でこの公園で遊んだ時の事を思い出しながら昔話に花を咲かせていた。
「木登りしてた時、確か明音はあの木から落ちたよな。」
「うん、あれは凄く痛かったなぁ、今見ても結構高いね……」
「あのジャングルジム、明音が1人で1番上まで登った時、降りれないとか言って泣いてた事もあったな。」
「小学校1年の時ね……怖かったんだよ、でも大輝がわざわざ登って助けに来てくれたよね。」
それほど広くは無い敷地に、すべり台とブランコとジャングルジムと小さな砂場があるだけの公園であるが、2人の間の思い出話は尽きない。
「それにしても本当に昔の明音はバカだったな、鳩を追いかけるのに夢中で段差につまづいて転んだり……」
「うるさい!大輝の方がバカだったもん、ていうか今もバカ!」
2人が話をしていると、いつの間にか空には夕焼けが広がってきていた。
「明音、せっかくだからジャングルジムに登らないか?」
「えー、高校生にもなってジャングルジム?」
大輝がベンチから立ち上がってジャングルジムを指さすと、乗り気では無い表情を浮かべながらも明音も腰を上げる。
「良いだろ?ここに来て昔の話をしていたら、久々に登ってみたくなったんだ。」
「まぁ...今日はスカートじゃないからいいよ。」
明音は仕方なさそうに、ジャングルジムに向かう大輝の隣を歩き出した。
「昔は夕焼けになる前に帰って来いとか親に言われてたよな、俺達。」
「ふふ、でも大輝はいつも帰りたがらないから、毎回のようにあたしが大輝を連れて帰ってたよね。」
歩きながら夕焼けの空を見て会話をする大輝と明音。
しかし話に夢中で全く足元を見ていなかった2人の内、明音はベンチから少し進んだところで、思わぬ事態に遭ってしまうのだった。
「うわっ!」
大輝と話をしている途中で、突然大きな声を出した明音は何かに足を取られたように、バランスを崩して転びそうになる。
「明音っ!」
「………………」
だが、次の瞬間に咄嗟の判断をした大輝が明音の手を掴んだ事で、何とか明音は転ばずに済んだのだった。
「危なかったな、水道の周りの地面が凄いぐちゃぐちゃになってる。」
大輝が明音が転びそうになったところの地面を見ると水浸しになっており、周りには割れた水風船の破片や空のペットボトルが散乱していて、まさに子供たちが水遊びをした後であった。
「…………(手握られてる…)」
「服、汚れてないか?」
服に泥が付いてしまっていないかと大輝に心配の声をかけられた明音だが、手を掴まれているという状況に胸の奥が暴れ出し、思わず言葉を失っている。
「……うん、ありがとう。」
「良かった。でもそっちにいたらまた転ぶぞ、こっち来いよ。」
明音の手を掴んだままの大輝は、手を引っ張って自分の方に引き寄せるような形で泥濘に囲まれている彼女を救出した。
「これでもう大丈夫だな、行くぞ。」
大輝は掴んでいた明音の手を離して、再び歩きだそうとする。
「あ……待って!」
けれど明音はそう言って手を離そうとした大輝の手を、今度は逆に自分の方から強く掴む。
「え、どうかしたか?」
「……手、このまま掴んだままじゃダメかな?」
「何言ってんだよ、この辺りは特に知り合いに見られる可能性が高いじゃないか。」
大輝が離せと言わんばかりに手を動かすが、それでも明音は離そうとせず、むしろ握る強さを強めた。
「こんなところ誰かに見られたら、俺と明音が付き合ってるって噂になるだろ。」
明音の握る強さに痛みを感じて少し顔を歪める大輝は、掴まれていない方の手も使って何とか明音の手を引き剥がす。
「ねぇ、みんなにあたしと付き合ってるって思われる事…、大輝は嫌なの?」
「別にそういう訳じゃ無いけど……。」
無理矢理手を引き離されてしまい残念そうな顔をしていた明音だったが、大輝の答えを聞くと薄らな笑みを浮かべた。
「なら良かった、あのさ!実はあたし……、大輝に言いたいことがあるの。」
「言いたいこと?」
言いたい事があると聞いた大輝が明音と目を合わせると、すぐに明音は目線を外すように俯いてしまう。
(緊張しすぎて、大輝の目を見れない……、でもここまで来たなら言うしか無いよね。)
「おい明音、言いたい事ってなんだよ。」
大輝に声を掛けられた明音はゆっくりと再び顔を上げて、今度はしっかりと大輝と目を合わせた。
「大輝……あたしね。。」
そしてその時大輝は幼馴染みとして長い付き合いをし、様々な表情を見てきた明音が初めて見せる表情を見る事になるのであった。