すれ違う想いと想い
2人で遊ぶ約束を交わした大輝と明音は、隣合うそれぞれの自宅に帰宅して行った。
時刻はPM22時過ぎ、帰宅してから時間が経過して就寝前となった大輝は、すっかり意中の人となっている彩に臨時マネージャーの件でLINEを送っていた。
[突然ごめん、今サッカー部が合宿のマネージャーを募集してるの知ってるよね?]
彩からの返信は遅く、1時間程経った後に大輝のスマホに着信が来た。
(おっ!彩からだ!)
待ち続けて今にも寝てしまいそうだった大輝だったが、彩からの着信に気付くとパッと目が覚め、即座に電話に出た。
「もしもし…」
「ごめんな、せっかくLINEくれたのに遅なって……、今帰ったで。」
「そうか、お疲れ様だな。」
「おおきに…、あ…マネージャーって?」
大輝と通話をする彩の声はかなり疲れ切った感じだ。
「もしかして見てないの?教室とか学校中に貼ってあったやつ。」
「ごめん、見てへんわ。」
サッカー部が臨時マネージャーを募集している事すら知らないという彩に、大輝は丁寧に合宿の事を説明した。
「……それで、彩はやってくれないかなって。」
「なるほどな、連休中はバンドの人たちはみんな用事があるからセッション出来ない言うてたからええけど、バイトを休みにしてもらわんとあかん。」
「そうか、バイトを休みにしてもらうのって大変なのか?」
「いや別に大変って訳や無いねんけど……、マネージャー、別に私じゃなくてもええんちゃう?他にやってくれる子なんていくらでもおると思うで?」
彩を誘っては見たものの、完全に断られる流れになってしまった大輝は返す言葉に悩み、黙り込んでしまう。
(こういう時ってどう言えば良いんだろうか……)
…………………………
大輝が黙り込んだ為に、2人は沈黙に包まれた。
「あのさ、彩。」
「なんや?」
「昨日彩がライブを見に来て欲しいって言ったみたいに、俺だってサッカーをしてるのを彩に見て欲しいんだ、だから…合宿のマネージャーは彩にやって欲しい。」
沈黙を破り、思い切って本音をぶつけた大輝の心臓は破裂しそうな程に高鳴る。
その緊張の感覚は大輝にとって初めての体験であったが、大輝自身は改めて自分が彩の事が好きなんだと実感した瞬間でもあった。
「そこまで言われると私も大輝がサッカーしてるの見たくなって来てまうやん……、でも実は体育の時に大輝の凄いプレーを見たときから、私は大輝がもっと本格的にサッカーしてるのを見たいって思っとったで。」
彩の言葉を聞いた大輝は何やら心が温かくなるのを感じて、緊張の糸が緩む。
「よし、分かった!バイトの店長に休みにしてもらう様に頼んでみるで、とりあえずみるきーじゃない方の一枠のマネージャーは開けといてくれへん?」
「ありがとう彩、先輩に連絡しておく。」
「でももしゴールデンウィークのバイトが他に人がおらんくて休みが貰えへんかったら、その時はごめんな。」
「うん、はっきり分かったら教えてくれ。」
結局大輝は確定とまではならなかった物の、最終的に彩は前向きに考えてくれたので、思い切って頼んで良かったと思った。
それから彩との通話のやり取りを終えた大輝はすぐに、マネージャーの候補が見つかったとの趣旨のLINEを臨時マネージャーの件を仕切っている玲奈に送ったのだった。
[2年D組の山本彩という人が、マネージャーをやってくれそうです。]
[了解。]
(これでよし……。)
玲奈から返信を貰い、ホッと一息ついた大輝は布団に潜って眠りについた。
そして時は進み、大輝は明音が遊ぶ約束を交わした日曜日を迎えたのであった。
「おはよー!大輝入るね!」
(もう来たのか……、早いな。)
大輝はインターホンの音と鍵が掛かっていない玄関から勝手に家に入ってきた朝から元気な明音の声を目覚ましがわりに起床した。
「早く起きて!」
「朝からうるさいな…、分かったよ!」
寝ていた布団を無理矢理に剥ぎ取らてしまった大輝。
大輝と明音の幼馴染み2人で遊びに出掛ける1日は幕を開けたのである。