第二章 出会いは突然
好きな人がいる

この日の放課後の部活が終わった後の帰り道、大輝はいつも通りに明音と2人で帰路を共にしていた。

「それで達也の奴、良いところ見せなきゃいけないってめちゃくちゃ張り切ってるんだ。」

「あはは、やっぱり男子って単純だね。」

一緒に歩いている2人が花を咲かせている話題は、今朝発表され学校中にポスターが貼り出された、サッカー部の合宿での臨時マネージャー募集の事だった。


実はマネージャー募集のポスターが学校中に貼り出されるやいなや、いきなり美優紀が自ら臨時マネージャーに名乗りを上げたのである。

その事を美優紀本人から1番に報告された達也は無論、放課後の練習には人一倍やる気に満ち溢れていた。

「でも良いじゃん、達也のやる気がアップするなら。それにみるきーもそういう事何だろうしね。」

「そういう事って?」

空を見上げて飛んでいる鳥を見ている明音に大輝が聞き返すと、明音は急に大声を出した。

「えぇ!?大輝知らないの?」

「は?何をだよ。」

「嘘…、本当に知らないんだ……。」

明音の反応を見る大輝はキョトンとしている。

「みるきーね、サッカー部に好きな人がいるんだよ!クラスの女の子たちはほとんど全員知ってるよ?」

「そうなのか、ていうか俺は女子じゃないから知らないし。……で、その好きな人って誰だかみんな知っているのか?」

「なんだ男子は知らないのかぁ、それがね…みるきーが好きな人は何と……達也なんだよ!」

明音がさらりと言ってのけた答えは、大輝にとって驚愕の事実であった。

「何だって!?それはなんと言うか……奇跡じゃないか。」

達也の親友であり、恐らく妹の遥香の次ぐらいに彼の事を良く知っている大輝は、これまでに大して女子にモテた事の無かった達也が、逆に可愛らしい容姿と社交的な性格で多くの男子から高い好感を得ているだろう美優紀と両想いになっていると知り、驚きが隠せない様子だ。

「マジかよ、渡辺さんみたいなクラスのアイドル的な存在になりかけているような子が、達也に……」

「あたしも奇跡だと思ったけどみるきーは本気だよ、これはもう合宿が終わった頃には付き合っているパターンだよね。」

他人の恋愛事情を話してニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべている明音を見て、大輝はふと頭に思い浮かんだ事があった。

(達也と渡辺さんが付き合うパターンか……、もう1人の臨時マネージャーを彩がやってくれたりでもしたら、俺もなぁ。)

「あれ、どうかしたの?」

言葉を発さなくなった大輝の目の前に手をちらつかせて明音は、横から声をかける。

「いや、何でもない。」

「ふーん。そうかそうか、なるほどね〜。」

彩の事を考えていたなど答えるわけの無い大輝だったが、明音は大輝の反応を見て何かを理解したかのように口角をつり上げた。

「何だよ?」

まさか明音に自分の心の内が読まれたのかと、気味悪そうに大輝は明音の顔を見る。

「大輝はあたしにもう1人のマネージャーをやっての欲しいんでしょー。」

しかし明音による大輝の心の読みは外れていた。

「いやいや、全然そんな事思ってないよ。」

そんな明音に大輝がからかうように言ってみせると、彼女の表情が一瞬だけ曇った。

「あっそーですか、まぁあたしはゴールデンウィークは予定が入ってるもん!」

「なるほどな、明音もついに例の男とデートか?」

実は明音は半年ぐらい前に、1人の男子生徒と付き合っていると噂になった事があり、大輝がその事を触れてやったが明音は大きく首を横に振って反論するのだった。


「違う!あたしには今別に好きな人がいるのっ!」

からかってくる大輝に明音は若干怒り気味で、言い聞かせるようにそう言った。

「はは、そう怒るなよ。でも好きな人出来たんだな。」

「うん…出来たって言うか、もう長い事片思い中なの。」

頬を赤くしている明音に大輝は微笑みを見せ、明音の肩をそっと叩く。

「なるほどな、まぁ頑張れ!明音がそんな事言うなんて初めてだな、俺は応援してやる。」

「………ありがとう。(やっぱり気付いてくれるわけないよね、この鈍感男。)」

明音の頬はさらに赤くなり、それを隠すために彼女は下を向いてしまった。

だが大輝は明音の言う好きな人が自分だと言う事には全く気付く事は無く、頭の中では既にもう1人の臨時マネージャーは彩にやって貰いたいという事でいっぱいだった。

(帰ったら彩にマネージャーの事、頼んでみるか。)


一方自分の気持ちに気付いて貰えなかった明音は、もう自分から伝えるチャンスを作るしか無いと、意を決していたのであった。

(やっぱり、あたしが正直に言わないと大輝には伝わらないね…、バカ男だから。)

明音は大輝の隣を歩きながら、もっと積極的に大輝に近付ける方法を考える。

するとすぐに明音はその方法を思い付いた。

(そうだ、春休みの宿題のお礼をまだしてもらってない!)

すかさず明音は大輝に思い付いた事を口にするのだった。

「大輝、今度の日曜日ってサッカー部は休みなんだよね?」

「あぁ、そうだけど?」

「その日吹部も休みなんだ。あのさ…、たまには2人で遊びに行かない?そこで春休みのお礼もしてよ!」

春休みの宿題の答えを写させたお礼に付けこもうと考えた明音に、大輝は即答した。

「うん、最近俺と明音だけでは遊びに行ってないからたまには良いかもな。でも今俺、大したお礼が出来るほどのお金が無いぞ?」

「大丈夫、じゃあまた連絡するね。」

こうして遊ぶ約束をした事で、明音は大輝と2人きりで過ごせるチャンスを手にした。


けれども明音の気持ちに大輝が気付いて貰えない理由を知ることは、"その時"が来るまで無かったのである。


■筆者メッセージ

更新です。
バステト ( 2015/11/27(金) 02:19 )