第五章 サッカー部合宿
ホテルの屋上に


夕飯は一つの大部屋に一同集められてのバイキングだった。

食事の座席は自由で大輝は達也、俊太、花音、彩、美優紀の2年D組のメンツでテーブルを囲んで食べることにした。

「まさか合宿でもD組のメンツで飯を食えることになるとはなぁ。」

達也は口にオムライスを多く含みながら喋っているので、花音は睨むような目でその様子を見ている。

「達也ー、私がおって嬉しいんやろ〜」

「え....ちょっと....」

美優紀は隣にいる達也の腕を掴んでいる。

「あら、みるきーと達也くんってもうそんな関係なん?」

美優紀の行動を見た彩からの問に達也は口からオムライスを吹き出しそうになった。

「は!?俺と美優紀はまだそんなんじゃないって!」

「ん、まだ?」

慌てて弁解をする達也に追い討ちを掛けるように大輝が食いついた。

「いや....なんでもねぇよ!」

突然声を張った達也に美優紀は少し嬉しそうに笑っていた。

「食べながら喋んないの!!」

「う....分かったよ....」

花音に叱られて達也は黙った。


それから食事の時間は過ぎていき、食べ終わった者から順に食事の会場を後にしていった。

食事後の合宿の日程は就寝という事になっているのだが、案の定、例え疲れていても眠る部員は全くと言っていいほどおらず、各自部屋に設置されたテレビを見たり、トランプなどのゲームをしたりと遊びをしていた。


それはもちろん大輝たちの部屋でもそうだった。

「有料チャンネルのプレミアリーグ見れるなんて、ホテルはさすがだな。」

「そうか?俺は家でも見られるけど。」

「あー忘れてた!!」

大輝、達也、俊太の3人部屋でテレビを見ていると、達也は当然何かを思い出し、大声を出した。

「何だよ、うるさいな。」

大輝は達也を迷惑そうな目で見ると、達也は自分のバックの中からスマホを取り出した。

「合宿中、夜になったら遥香に電話する約束だったんだ!」

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それは達也の今朝の出発の時の事。

「じゃあ、遥香行ってきます。夜に遊ぶ時とか気をつけろよ?」

「大丈夫だよ、あたし全然遊ぶ予定無くて、部活以外はお家にいることばかりだから。」

「そっか....」

「ん?お兄ちゃん、あたしの心配してくれてるの??」

遥香は微笑みながら、達也の腕を掴んだ。

「そりゃ、心配だよ。家に遥香一人だなんて。」

「うふふ。お兄ちゃん優しい!、じゃあ合宿の夜になったらお兄ちゃんからあたしに電話掛けてね?」

「よし、わかった。じゃあ、行ってきまーす。」

「いってらっしゃい。頑張ってね、お兄ちゃん。」

........

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「完全に忘れてた........ここ、電波悪いな....、ちょっと遥香に電話してくる!」

スマホを持ったまま、小走りで達也は部屋を出ていった。

「まったく....まぁ、本当に仲良い兄妹だよな。」

「そうだね、島崎兄妹の仲良さは有名だもんね。」

呆れた様子の大輝とは対照的に、俊太は微笑ましそうに部屋を後にしていった達也を見送った。


一方の達也は、スマホの電波の良さそうな場所としてホテルの外に出ようとしたが、ホテルには屋上のフロアがあることに気付き、そちらに向かった。

(屋上ここか....電気まったくついてなくて....暗いな....)

達也が屋上にやってくると、そこは上空には月と星空が広がり、耳には近くのビーチの波音、体には浜風を感じることがてき、灯りは月明かりのみというとても心地の良い場所だった。

達也はスマホの画面を点け、何も連絡が来てないことを確認してから、遥香に電話をかけようとすると、暗闇の中、突然声が聞こえてきた。

「嫌や!そんなん絶対嫌や!」

達也は驚き、声のする方に向かって暗闇を歩いていくとそこには美優紀の姿があった。

美優紀は珍しく怒声を上げながら、誰かと電話をしているようだったが、達也の存在に気付き通話の途中で電話を切った。

「達也....」

美優紀は泣きそうな表情でゆっくり達也に近付いてきた。

「どうしたんだ?何処に電話して........え....」

「グスン....達也....」

美優紀を心配して達也は声をかけたが、美優紀は涙ぐみながら達也に抱きついたのだった。

突然の美優紀の行動に達也は何が起きているのか分からなくなり、美優紀に抱きつかれたまま、立ち尽くした。


■筆者メッセージ
美優紀のことが明らかになってきます。
バステト ( 2014/07/12(土) 22:39 )