お兄ちゃんが好き!
「た……ただいま。どうした?怖い顔して……」
「お兄ちゃん、あの転校生と付き合ってるの?」
「いや、別にそんな関係じゃないよ。」
達也の答えを聞いた遥香だが、さらに詰めた質問を投げかける。
「じゃあ好きなの?」
遥香にそう尋ねられてすぐに否定しようとしたが、達也の頭の中に今日一日自分に向けられた美優紀の笑顔が浮かび答えを代えさせた。
「まぁ、気になってはいるかも…」
「やっぱり……」
遥香の表情は先程まで怒ってはいたが、しょんぼりとした表情に変わった。
目は少し潤んでいる。
すると、急に遥香は達也に抱き付いた。
「ちょ……ちょっと!」
「グスン……お兄ちゃん……、あたし嫌だよ、お兄ちゃんが取られるの。」
突然の遥香の行動に達也は困り切ってしまったが、成り行きで遥香の涙を制服の袖で拭って遥香を抱きしめた。
「遥香……別に付き合ってるんじゃないしさ……」
達也は何とか遥香の涙を止めようと声をかけた。
しかし、遥香の様子は変わることなく、さらに遥香の一言が達也を驚かせた。
「でも……あの転校生もお兄ちゃんのこと気になってるみたいだよ?」
「!?どういうこと?」
「あたしその転校生と部活で同じパートで、その時にそう言ってたの聞いたの。」
そういうと遥香は部活の時間にあったことを話始めた。
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(部活の時。遥香目線。)
男子の先輩にパートの教室に連れて来られて約2時間、サックスの練習は休憩時間になった。
あたしとその転校生も楽器を下ろして机の上に置いた。
転校生は立ち歩いて窓からグランドを見ている。
すると、休憩時間はどこに行っても良いらしく、他のパートの人が来て、転校生と一緒に窓の外を見ながら、会話をはじめた。
「みるきーも吹奏楽部入るの?」
「そうやで、ちゅりも吹部なんやな。」
「うん。さっきから誰見てるの?好きな人とか?」
「まぁちょっと気になる人がおってな。」
「もしかして、大輝?」
大輝って大輝お兄ちゃんのことかな?
「あ、いたいた!達也くん!」
「えーー!達也ー!?」
「ちょっと声でかいって、妹の遥香ちゃんおるから恥ずかしいやん!」
「ごめん。あっ遥香ちゃん、今日から同じ部活だからよろしくね。」
ちゅり先輩の挨拶にあたしは軽く頭を下げたが、あの転校生の発言にはとても驚いた。
そういえば、さっきお兄ちゃんは一緒にお弁当食べるって言ってたけど、お兄ちゃんはどう思ってるのかな……
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「そうだったのか……でもさ俺はもし彼女出来たって、遥香がいなきゃ生活出来ないよ。」
「お兄ちゃん、前に彼女出来た時もそう言ってよね……」
「俺の妹は遥香だけだからさ。」
達也はそう言って遥香を軽く抱きしめた。
「ありがとう。お兄ちゃん大好き!ご飯の用意してくるね!」
遥香は笑顔を取り戻して、キッチンに走っていった。
ちなみに島崎兄妹は訳あって二人で家に暮らしている。
PM20:00
「どう?オムライスおいしい?」
「もちろん!遥香の作る飯は最高に美味しいよ。」
「うふふよかった。」
PM20:45
「洗濯機やるから、遥香先に風呂入ってこいよ!」
「うん。ねぇ、一緒に入ろ?」
「さすがにそれはダメだよ。」
「ちぇー、お兄ちゃんのいじわる!」
PM21:45
「お兄ちゃん!明日から転校生に話しかけてみるね!おやすみなさい!」
「おー、きっと喜ぶぞ!おやすみ。」
島崎兄妹はPM22時くらいには二人とも床についていた。
達也は自分にくっついて眠る遥香の寝顔を眺めている。
(こいついつまでも俺と寝たりして恥ずかしくないのか?)
達也は眠る遥香の頬を指で軽く突いてみた。
「Zzzzz……ん……お兄ちゃん……好……き……」
遥香は寝言を言いながらさらに達也にくっついた。
(俺の妹のくせに可愛いな。……そういえば美優紀が俺の事気になってるって転校初日から凄いな……まぁ、俺もだけど……Zzzzz。)
達也も眠りについた。
一方その夜、あの男は珍しく携帯を長時間使用していたのだった。