05
彼らが古畑奈和を拉致したのは、桐嶋烈央に手出しをさせない為だった。桐嶋烈央をこの場に呼び出しているようだ。
なぜ、桐嶋烈央と一緒にいる山本彩ではなく、この古畑奈和だったのか。
それは2人が、幼馴染だからだった。
それだけじゃない。僕を助けたから、彼女は危ない目にあっている。
(あいつら、卑怯だ……!)
流石の僕も、汚いやり方に怒りが込み上げてきたが、直ぐに治まってしまう。怖いから……。
後退りすると、足に何かが引っかかった。鉄パイプだ。
無意識に、それに手を伸ばしていた。
僕は、変わるんだ……。
「あぁ?」
彼らが、出入り口前に立つ僕を見てきた。
「何だキモ男、何してる?」
怖い。怖いけど、この気持ちに勝てなきゃ、僕はずっとこのままだ。
「ふ、古畑さんを離せ……」
「あぁ? 聞こえねぇよ!」
怒鳴られ、体がビクッと身震いした。気持ちの準備は出来ていても、体は怯えていた。
怯える体にムチを打ち、言い返した。
「古畑さんを離せ! ぶっ飛ばすぞ!」
その言葉と共に、僕の中から恐怖という感情が消え去った。
なんか、楽になった気がする。
一瞬だけ静まり返ったが、彼らは高笑いをあげた。
「ぶっ飛ばす? やってもらおうじゃねぇか!!」
怖くない。もう怖くなんかない。
鉄パイプを振り上げ、叫びながら向かった。
彼らもリーダー以外が、走ってきた。
鉄パイプを振り回し、彼女を助けようとした。
だが、生まれてから喧嘩など一度もした事がない僕は、すぐにボコボコにされてしまった。
「ザコのくせに、粋がってんじゃねぇぞ!!」
やっぱり、人は簡単に変われない。僕みたいな弱者は、弱者らしく強者の影を歩くようにしなければ、いけないのかもしれない。
すると、彼女が笑った。
「なに言ってんの。弱いのは、あんたらの方でしょ!」
「なんだと!?」
「多勢じゃなきゃ強がれないあんたらみたいのを、ザコって言うのよ!」
「黙れ!」
パチンという破裂音が響いた。頬を抑えて倒れた彼女は、鋭い目付きで、自分を叩いた相手を睨んでいた。
「何だその目は? ぶっ殺すぞ!」
興奮状態の彼は、彼女に近づいて行った。
このままでは、彼女の身が危ない……。
「や、ヤメろぉ!!」
僕は立ち上がった。彼女に危害を加えようとした彼に向かって、走り出した。
決死の覚悟で、彼にタックルを仕掛けた。
僕は初めて、人を倒した。
人に勝った……。
自分に勝った……。
「てめぇ、このゴミが!!」
彼の仲間が、一斉に襲いかかってきた。倉庫内に響く無数の怒声。
殴られる覚悟、殺される覚悟なら出来ている。
これでいいんだ……。
ところが、いつまで経っても、僕の体に痛みがこない。
恐る恐る目を開くと、彼らは立ち止まっており、僕が捉えている彼も動きが止まっていた。