第三章【強いって何だろう】
03
向かい合って椅子に座り、彼女の手で治療をしてもらった。


「はい、これでバッチリ」


「あ、ありがと……」


笑顔で首を振った彼女は、救急箱を棚に戻した。
保険科の先生が、僕の顔を覗き込んできた。昼間は売店で売り子をしている、上西先生だ。白衣姿が美しい。


「これは……殴られてる切った怪我やろ?」


流石だ。
でも僕は、嘘を言った。


「ち、違います。これは……」


嘘が思い付かなかった。相手は保健の先生。騙し通す自信が、なかった。


「上西先生、來斗君と2人にさせてもらえませんか?」


僕は驚いた。彼女のような人気者が、僕のような嫌われ者の名前を知っていたことに……。


「変な事したらアカンで?」


冗談を言った上西先生は、書類を抱えながら退室して行った。

それよりも、なぜ2人になりたいなど言ったのだろう……。

微かな期待を抱きながら、彼女が口を開くのを待った。


「ねぇ來斗君」


「はい……」


「このままでいいの?」


「えっ?」


ちょっとでも、愛の告白なのではないかと思った自分が、恥ずかしかった。


「このままで、いいって?」


「だから、このままずっと、虐められたままでいいの?」


この学校で僕の存在、僕の価値観、虐めについて気づいてくれたのは、彼女が初めてだ……。


「いいんです。僕は昔から、こうですから……」


小声で呟き、俯いた。

目の前で溜め息を吐いた彼女は、両手で僕の頬を摘まんできた。


「何バカな事を言ってんの!」


「えっ!?」


「來斗君は、何か虐められるような事したの!?」


「!?」


虐められる理由なんて、よく考えれば最初からない。
ただ僕が、弱そうに見える。それだけだ。


「ない、です……」


「じゃあ、ハッキリ辞めてって言いなよ!」


それが出来たら今頃、僕だって他の生徒みたいに普通の学校生活を送っている。
それが出来ないから、僕は虐められるのかもしれない。


「來斗君、強くなろうよ」


「強く……なる?」


強くなるって、どういう事なんだろうか……。

彼女のように、僕みたいな虐められっ子を助ける事なのだろうか……。

それとも、人に優しく出来る事なのか……。

黄金騎士 ( 2014/06/17(火) 22:05 )