03
向かい合って椅子に座り、彼女の手で治療をしてもらった。
「はい、これでバッチリ」
「あ、ありがと……」
笑顔で首を振った彼女は、救急箱を棚に戻した。
保険科の先生が、僕の顔を覗き込んできた。昼間は売店で売り子をしている、上西先生だ。白衣姿が美しい。
「これは……殴られてる切った怪我やろ?」
流石だ。
でも僕は、嘘を言った。
「ち、違います。これは……」
嘘が思い付かなかった。相手は保健の先生。騙し通す自信が、なかった。
「上西先生、來斗君と2人にさせてもらえませんか?」
僕は驚いた。彼女のような人気者が、僕のような嫌われ者の名前を知っていたことに……。
「変な事したらアカンで?」
冗談を言った上西先生は、書類を抱えながら退室して行った。
それよりも、なぜ2人になりたいなど言ったのだろう……。
微かな期待を抱きながら、彼女が口を開くのを待った。
「ねぇ來斗君」
「はい……」
「このままでいいの?」
「えっ?」
ちょっとでも、愛の告白なのではないかと思った自分が、恥ずかしかった。
「このままで、いいって?」
「だから、このままずっと、虐められたままでいいの?」
この学校で僕の存在、僕の価値観、虐めについて気づいてくれたのは、彼女が初めてだ……。
「いいんです。僕は昔から、こうですから……」
小声で呟き、俯いた。
目の前で溜め息を吐いた彼女は、両手で僕の頬を摘まんできた。
「何バカな事を言ってんの!」
「えっ!?」
「來斗君は、何か虐められるような事したの!?」
「!?」
虐められる理由なんて、よく考えれば最初からない。
ただ僕が、弱そうに見える。それだけだ。
「ない、です……」
「じゃあ、ハッキリ辞めてって言いなよ!」
それが出来たら今頃、僕だって他の生徒みたいに普通の学校生活を送っている。
それが出来ないから、僕は虐められるのかもしれない。
「來斗君、強くなろうよ」
「強く……なる?」
強くなるって、どういう事なんだろうか……。
彼女のように、僕みたいな虐められっ子を助ける事なのだろうか……。
それとも、人に優しく出来る事なのか……。