02
校舎裏にある敷地で、人間ダーツだった。いつもは教室や廊下だが、今回は理由があるのは、間違いないだろう。
18人という大人数に呼び出され、コンクリートの上に何度も蹴落とされた。
「おい、仕返しとか考えてんじゃねぇだろうなぁ?」
うつ伏せに倒れて唸る僕を見下ろしながら、彼らのリーダー格である人が言った。
呼び出された理由は、いつもの理由に比べれば、マシな方だった。
彼らは恐れていた。
僕が桐嶋烈央に頼んで、仕返しをされるのでがないかと……。
校舎裏で人間ダーツをしているのは、これが理由だろう。
怯えるくらいなら、最初から僕に関わらなければいい。
虐めなんて、しなければいい。
しないで欲しい……。
そんな願いも虚しく散り、僕は蹴られ続けた。
「ちょっと!」
意識が薄れているが、誰かの叫び声が聞こえた。霞んだ視界に映ったのは、短いスカートを履いた人、女子生徒だった。
僕はてっきり、男子が来たのかと思っていた。
女子が来たところで、この人達は止められるはずがない。それどころか、彼女を巻き込んでしまう。
「古畑奈和!?」
いじめっ子達が、一瞬だけ引けを取った。
彼女を恐れている訳ではない。彼女には、黒澤舞斗というバックが居る。
彼女自身は、そんなつもりはないかもしれない。けど周りからすれば、黒澤舞斗は彼女はボディーガードにしか思えない。
「こんな大人数で1人を虐めて、情けなくないの!?」
両手を腰に当て、両足を肩幅くらいに開きながら、彼らを怒鳴りつけた。
僕は、情けなく思った。
女の子に助けられ、言い返す事もやり返す事もしないで、好き勝手殴られてる自分を……。
「ちっ、行くぞ」
彼らは、古畑奈和が居る逆の方向に歩き始めた。
ゾロゾロと歩き去って行く彼らを見てから、正面に見えるコンクリートの地面を見た。
僕の血が、飛び散っていた。
制服の袖で拭おうとした時、視界の端から、花柄のハンカチが差し出された。
顔を上げると、古畑奈和がしゃがんでいた。
「大丈夫?」
「……うん」
「これ、使って」
差し出しているハンカチの向こうに見える彼女の笑みに、偽りは無さそうだった。
後で気持ちが悪いと言われる。
いつもなら、こう思っていたかもしれない。
「どうしたの?」
「えっ! あっ、いや……」
彼女の前で、余計な事は考えない方がいいのかもしれない。
差し出されたハンカチを受け取ろうとした時、ハンカチが引っ込められた。
やっぱり、僕みたいな嫌われ者にモノを貸すのを、躊躇っていたんだろう。
ところが……。
「!?」
ハンカチが、僕の口元に当てられていた。
「酷い怪我だね。保健室行こっか」
腕を引っ張られ、僕は立った。
彼女に誘導されながら、僕は保健室に向かった……。