03
翌日も、その次の日も虐められた。
もはや日常茶飯事となっている。
この日も、朝から殴られた。意味もなく、殴られた。制服も濡らされた。
ジャージ姿で廊下を歩いていると、修斗に声を掛けられた。
「來斗、おはよう」
挨拶をされた。何も言わずに、教室に入った。
後を追うようについてきた修斗は、また声を掛けてきた。
「來斗、今日の放課後、名古屋を案内してくれないかい?」
「……」
「僕の友達も、來斗と親しくなりたいって言ってるんだ」
何も答えず、鞄の中身を机の中に入れ、教室を出た。
トイレの個室に隠れた。
ここは、学校にいる時、一人の時間を過ごせる場所だ。
朝のSHRが始まる、5分前の予鈴が鳴った。
トイレから出た時、女子トイレから出てきた女子とぶつかり、尻餅をついた。
叫ばれる。変態扱いされる。またあいつらに、虐められる理由が出来ちゃう。
そんな事に恐れながら、地面を見つめていると、相手の右手が、目の前に差し出された。
顔を上げると、同じクラスの女子生徒だった。
「大丈夫? ごめんね余所見してて」
笑顔だけでなく、性格も暖かい古畑奈和の手を見ながら、自分の足で立った。
何も言わずに、教室へと戻り、席に着いた。
担任が、連絡事項を伝えている。
だけど、耳に入ってこない。人の話など、聞く気になれない。
SHRが終わった。一限目は体育だ。
「おい、お前」
ドスの利いた声で、呼ばれた。
怯えながら顔を向けると、今はサングラスを掛けていない、長身の男が立っていた。
「放課後、俺に付き合え」
「えっ……!?」
「何だよ。嫌だって言うのか?」
「い、いえ……」
新たないじめっ子が現れた。これまでとは違い、外見も怖い人だ。
もしかしたら、殺されるのかもしれない……。
体育はバスケットだった。
僕がボールを持つと、カットをするように見せかけ、腹を殴られたり、爪で引っ掻かれたりした。
体育が終われば、僕だけいつも、傷だらけだ。
誰か僕に、生きる希望を教えて……。
生きる意味を教えてよ……。
地獄の時間が来た。放課後だ。
帰りのSHRが終わり、席で石のように固まっていると、サングラスの彼が近寄って来た。
「立て」
素早く立ち上がり、胸の前でカバンを抱えながら、彼を見上げた。
「来い」
怯えながら、彼の後をついて行った。
会話が苦手な僕でも、彼と会話も無しに歩くのは、憂鬱だった。
前を歩く彼は、すれ違う人みんなが、注目している。オーラというのが、あるんだと思う。
そんな彼の後ろ姿を、軽く見てから俯いた。
「遅いでアホ!」
校門前に、関西弁の彼女が待っていた。
「てめぇが早えんだろアホ」
女子に対しても乱暴な言葉遣いをしている彼は、僕のイメージ通りだった。
僕に対して笑みを浮かべた彼女は、僕の腕を組んだ。
「ほな、行こか!」
外見の怖い彼と、可憐な彼女。僕はこれから、どこかの倉庫に連れ込まれ、海外に臓器を売られるのではないかと思った。