02
学校は午前中で終わった。
従兄弟の修斗に声を掛けてもらったが、直ぐに別れてしまった。
その直後だった。呼び出されたのは……。
校舎裏に連れ込まれ、多勢に殴られた。理由は、僕が女の子と話していたから。
新年最初の傷が出来た。
痛いよ……。
体じゃないよ……。
胸が痛いよ……。
入学祝いに貰った腕時計が、目の前に落ちていた。割れている。針も動いていない。
もう、使い物にならない……。
ポケットに仕舞い、カバンを持って立ち上がった。
いつものように、家の近所にある公園の水道で、汚れを落とした。
腕時計の事を、どう誤魔化そうか考えながら……。
家には誰も居なかった。
それもそのはず。まだ午前中だ。
机の上には、今朝母が用意してくれた昼食が置いてあった。
泣きながら食べた。味が分からない……。
部屋に入り、着替えをしてから布団に入った。
何も考えずに、黙って一点を見つめていた。何分か時が過ぎた。
インターフォンが鳴った。居留守を使おうと無視したが、何度も鳴る。
窓から、玄関を見下ろした。修斗が立っていた。
あのサングラスの男子と、関西弁の女子の3人で、遊びに行くと言っていたはずなのに。
「何の用……」
「顔を出しにね。お邪魔してもいいかい?」
人を家に入れるのは、気が引ける。
修斗をリビングに招いた。お土産に持ってきてくれたケーキを受け取り、皿に移した。
「來斗、その傷どうしたの?」
ついさっきつけられた傷を、見られてしまった。
片手で隠しながら、誤魔化しの言葉を考えた。
「下を向いて歩いてたら、電柱にぶつかって転んだんだ……」
修斗は、極真空手を習っていた。有段者であり、数々の大会を制した実力を持っている。修斗に頼めば、あいつら何か、目じゃない。
けど、そんな情けない事、頼める訳がない……。
そんな考えが一瞬、脳裏を過った。
「來斗……虐められてるんじゃないの?」
「!?」
初めてだ。人から、虐めについて問われた。
「……そんなことないよ」
「嘘は言わないでよ?」
「言ってないよ! 虐められてなんかいないよ!」
ムキになってしまった。
修斗の真顔は、常に微笑んでいる。だけど今の修斗は、無表情に近かった。
「……來斗、僕は身内だよ。本当のこと言ってよ?」
嘘を信じなかった人は、修斗が初めてだ。家族も教師も皆、嘘を信じた。
「……帰って」
「えっ?」
「いいから帰ってよ!」
大声で叫び、リビングを飛び出した。階段を駆け上がり、部屋の中に入った。