第二章【流星のような人々】
01
冬休みに入った。長期休みと休日しか、僕は生きた心地がしない。それも、家に居る時だけだ。
たとえ休日でも、外を歩くのは危険だ。
だから長期休みになっても、バイトはしない。興味はあるけど、したことがない……。
クリスマスは家族で、パーティーをした。
母が作ってくれたケーキ。美味しいねと笑えば、家族みんなが、微笑んでくれた。

お正月は家族みんなで、父方の祖父母の家がある、浜松市へと行った。お年玉を貰った。おせち料理も食べた。お餅も食べた。
親戚中が集まった。従兄弟の姿は無かった……。
頼まれた事をしないと、あの人達にも殴られる恐怖に怯えながら、正月は過ごした。
お正月が過ぎれば、待っているのは始業式。また、地獄の日々が始まる……。
せっかく貰ったお年玉は、取られないように置いてきた。
ほとんど無一文状態だ。呼び出された時は、殴られよう……。

始業式は、いつもに比べて長かった。東京から来た、流星学園の生徒達との事も聞いたからだ。
僕のクラスに、流星学園の生徒が20人程、入った。
日本一の私立校と聞いている為、真面目で容姿端麗な人だけだと思っていたが、そうでもなかった。
女の子は容姿端麗だったが、男子は違った。
前髪を垂らし、血に植えた狼のような目付きをしている人や、常にサングラスをしている長身の人も居た。
うちの不良と揉め事を起こすのは、目に見えていた。
その中には、従兄弟の姿もあった。特に声を掛ける事なく、席に着いて本を読んでいた。
早い人はもう、仲良くなっている。自分の席の周りにも、流星学園の生徒達は居る。
けど、話しかけられない。


「なぁ、ここえぇか?」


女の子の声が聞こえた。自分に話しかけている訳がないと思い、反応をしないでいたが、どうやら僕に話しかけているようだった。


「な、何ですか……?」


毛先が肩まで伸びている清楚な女の子だ。関西弁が可愛らしく、笑顔が魅力的だった。


「ここ座ってもえぇ?」


僕の席に、椅子を持ってきた。


「ど、どうぞ……」


思わず、答えてしまった。
礼を言いながら、真横に座った女子は、両肘を机に付いた。
少し離れるつもりで、椅子を遠ざけながら、横目で見ていた。


「なぁなぁ、名前は?」


「えっ……新崎來斗……」


「新崎? 新崎君の従兄弟?」


「う、うん……」


すると彼女は、急に笑みを浮かべた。


「そうなんや! 可愛い顔してんねんな?」


可愛いなど、自分が赤ん坊以来に聞いたと思う。


「私、山本彩。よろしくな」


可憐な人だ。それだけでなく、明るい。正直、僕の好きなタイプだ。
そこへ、サングラスを掛けた長身の男子が、彼女の後ろに現れた。
サングラス越しに、僕を見ている。
直ぐに視線を逸らし、本に向けた。


「彩、この後新崎と寄り道してく。お前はどうする?」


「行く行く!」


恋人同士だったようだ。
それもそのはず。このような女性を、世の男性が放っておく訳がない。


「なぁなぁ、この可愛い子な、新崎君の従兄弟なんやって」


自分の事を人に話すの。話されるのは好きじゃない。


「……そうなのか?」


「は、はい……」


怖い。思わず敬語で答えてしまった。
それ以外は何も言わず、サングラスの男子は去って行った。


「ごめんな。あいつ、ホンマに会話が下手なんよ」


「そ、そうなんですか……」


会話が下手だとしても、話す人が居るだけマシだと思う。ましてや、自分を理解してくれる恋人がいるなら、尚更だ。
帰りのSHRが始まるまでの、今の時間。初めて学校で。しかも女子を相手に、雑談した。

黄金騎士 ( 2014/04/20(日) 05:00 )