翼を駆る少女〜3〜
オノゴロ皇国…極東と呼ばれる地域にある大小4つの島国で構成された国家だ
国土は大して大きくないが人口は1億を超える
私が今いる筑紫島はこの国の最南端に位置している小さな島だ
暖かい気候に恵まれ島の全体を見れば観光地のようにも見えるが、島には一切の観光施設はなく、あるのは軍用施設のみだ
国家を守る防人達の南の最果ての場所であり、国の繁栄による喧騒もこの地には無縁な空気が流れている
フリーカメラマンになって2年ほど…
「お前はいつも変わった物を追いかけるな」…そう先輩に言われた事がある
そうかも知れない…今の時代に軍隊の密着なんて取材…
だがそれでも興味があった
同い年の女性の戦闘機乗り
南の果ての基地を選んだのは、ここに任官している女性パイロットが業界ではちょっとした有名人だからだ
高橋みなみ…年齢が私と一緒の彼女は、これから飛ぼうとする訓練生を鍛え、そして部下を従え国の守りを司っていった
確かに…島に来て取材を始めてからすぐに彼女の人柄と偉大さを感じていた
「玲奈…カメラ没収されたんだって?」
格納庫の壁に寄りかかるように座り込み滑走路を見渡していた私に、思考の中心にいた人物が話し掛けていた
「あっ、たかみなさん」
体育座りをしていた私のとなりに座り同じ方向に視線を向けた
「はい…まぁしょうがないですよね。飛んでる時もカメラ撮ってたし、着陸してからも色々とシャッターをきってたから…」
あの戦闘の一部始終や痕跡が写されたカメラは本体ごとネガを没収された
「カメラは軍事機密であり、今回の件を目撃したあなたはこの基地にしばらく留まってもらう」
そう基地の司令官に言われたのだ
50代の男性で恰幅のいい司令官は、よくいる尊大粗野な人物で玲奈は好きには慣れなかった
「撮影は出来ないが基地は自由に行き来していいし、兵士達に取材も構わないよ」
あとに副官はすまなそうに話してくれた
司令官と違い副官の亜久里は40代の男性で、細身で引き締まった身体…パイロットでもあるらしい
彼は話が分かる好人物で、どことなく玲奈自身の父に似ていて印象が良かった
「あのおっさんに睨まれたんでしょ?セクハラで訴えれば?」
たかみなは悪戯な笑みを浮かべてこちらを見ていた
「セクハラって…」
苦笑する私に心地よい風が流れた