翼を駆る少女達〜1〜
上を向くとどこまでも突き抜けるような青空が広がる
雲一つない空…いや正確には雲の上から空を見上げていた
神様が空を見上げたらこんな風に見えるのかな…
そんな事を考えていると、自分が今飛行機で1万5000メートルの高さの空を飛んでいる意識が薄れてきた。
…と、突然自分の前の方から怒りとも取れる口調が耳に届き、思考の世界から現実に引き戻される
「無茶言わないでよ!こっちは客人を乗せてるし、それに訓練生がいるのよ!」
現実感に引き戻された私は、前の席に座る人間がやや怒鳴るような口調で話しているのを見ていた
私に言っている訳ではなく、勿論独り言でもない
彼女の話し相手…無線の向こうの人物は、対照的に事務的な抑揚のない口調で返事をしていた
『クウガ1…国籍不明機は方位0-8-7から0-9-5へ。高橋一尉…貴隊の部隊しか間に合わない』
複座と呼ばれる種類のコックピット…直列に座席が配置されており、私はその後ろの座席に座っていた
先ほどから無線とケンカしている人物は前の座席に座っているのだ
いいのかな…民間人の私がこの無線のやり取りを聞いていて…
軍隊という物は秘匿性の塊みたいな場所だ
物も人も会話も…
だが私が乗っている飛行機の全てを操る彼女は、私に無線が聞こえなくする事だってスイッチ一つでできる
この会話は明らかに、部外者が聞いてはいけない気がするのだ
「ふぅ…」
しばらくやり取りしていた前の座席の彼女は、諦めたように息を吐きヘルメットが左右に振れた
「仕方ない…バフ・コール!私の後ろに着け!教官機だけで出迎える。パル…あなたはひよっこを連れて下がりなさい」
彼女の言葉が発せられると、私の乗る飛行機の翼ごしに2つの飛行機が近付いてくるのが見えた
空の色とは違う青さ…紺色の飛行機は流れるように私の飛行機の後ろに付く
仕事柄で覚えた知識で自分たちが乗る機体と同じ、「F-2戦闘機」と呼ばれる機体だと分かる
「ごめんね〜今の無線の通りなんだ。大丈夫必ず生きて帰るから」
やや後ろに顔をむけて(とはいえヘルメットに酸素マスク、バイザーで表情は分からない)話しかけてきた。
どうやらさっきの無線は知ってて私に聞かせたみたいだ
彼女が話し終えると機体が加速し始めた
「っ…」
返事なんて出来ない…
胃が裏返りそうだった