1.地獄への旅立ち
ある日の夜だった。
この欅共和国の統治メンバーの一人、渡邉理佐の携帯電話に、テレビ電話がかかった。
ディスプレイには同志の一人である「石森虹花」と名前と出ていたので、何の気なしに応対したが、次の瞬間、理佐の目が険しくなった。
画面に映った虹花は、いつもの笑顔ではなく、目隠しに猿轡をされていたからだ。

「に、虹花っ!?」
思わず声を上げる理佐に対し、画角外から聞き慣れない男の声で、
「渡邉理佐だな?」
「ア、アンタは誰っ!?」
「名乗るほどの者じゃないが、話がある。この女の命が惜しいなら聞く耳を貸すことを勧める」
と男は前置きをして、
「河口湖の湖畔にあるペンション『セゾン』に来てもらおう。もちろん一人でだ。そして、このことは誰にも口外するな」
「━━━」
「今晩0時までに来なかった場合…そして、仲間を呼んだり、妙な小細工が発覚した場合は、この女は重石をつけて湖に沈める」
「…わ、分かったわ」
仲間を人質にされては応じるしかない理佐。
そして電話が切られてから、
(い、いったい何者…?)
時計を見ると、時刻は22時。
約束の0時まで、あと二時間。
一人で来いと相手は言っているし、対策を立てるには時間が無さすぎる。
(とにかく向かわなきゃ…!)
と部屋を飛び出した理佐。
これが地獄への旅立ちだとは、この時はまだ予想もしていなかった。

(つづく)