プロローグ
共和国内、人目につかないところにひそかに設置された国家反逆者たちの某アジト。
その地下室からは、
「は、離せやッ…!触んなッ!」
と、甲高い女の声が轟く。
声の出元は、この欅共和国の統治メンバーの一人、山下瞳月。

小柄で、まだ若手ながら、一部では次期中核メンバーとも噂される女。
その一番の理由は、今のこの状況からも窺える負けん気の強さで、なおも、
「は、離せって言うてるやろッ!うっといしいねんッ!しばかれたいんか、お前らッ!」
けたたましい関西弁に、
「あー、うるせぇ、うるせぇ!」
「少しは静かにしてくれよ」
と、瞳月の両腕を掴み上げ、力ずくで連行する男たちも若干うんざり顔。
そして、
「くっ…な、何する気やッ…やぁッ!」
喚く声に構わず、その小柄な身体を二人がかりで壁に叩きつけるようにして押しつけると、まず右手首、続いて左手首を、その壁から出ている拘束バンドで固定。
すかさず、
「くっ…くっ…」
脱しようと繋がれた両腕を揺する瞳月だが、キツキツに締められたバンドは外せず、その間に、
「おら、脚もだよッ!」
「開け!おらっ!」
と、こじ開けるようにして開かれた両脚も、それぞれ左右の拘束バンドで留められ、✕の字での磔が完成。
なおも、
「は、離せッ!離せ言うてるやろッ!キレるで、ホンマ!」
「あぁ?もうキレてんだろうが」
「こうすりゃ、少しはおとなしくなるか?おい」
と、瞳月を磔にした壁の一部分をパカッと開き、中にあるどうやらスイッチのようなものを操作する男。
すると、次の瞬間、
ゴゴゴゴ…
「やッ…!な、なにッ…!?」
瞳月の身体がゆっくりと傾き…いや、違う。
両手、両節を留めた拘束具を結んだ円周の部分が壁ごと、まるでルーレットのようにゆっくりと回り始めたではないか。
「くっ…な、何や。これッ…!くっ…くっ…」
もがいても一向に外れない拘束バンド。
やがて瞳月の身体は天地が逆転し、逆さ吊りのような状態にされたところで壁の回転は止まった。
重力に従い、自然と捲れるスカート。
その中からスラリとした真っ白な太ももが見え、
「へへへ…どうだ?気分は」
「おーおー、なかなかいい太ももしてんじゃねぇか。ライオンでもいたら真っ先にそこに食いつくぜ」
「う、うっさいねん…!も、戻せっ…早よ戻せやぁッ…!」
と逆さ吊りにされても変わらずに凄む瞳月だが、いかんせん、その声のスピーカーは男たちの足元に移動し、睨みつける鋭い視線も見えなくなってしまったので迫力は半減。
今、男たちの目線にあるのは、ガバッと大きく開いた状態で留められた左右の脚だけ。
見るからにスベスベしていて光を反射する脛(すね)…可愛らしい膝小僧…そして、たった今、片方の男が「いい太もも」と形容した、根元に行くにつれて太くなっていく太もも…。
「くっ…くっ…」
と、なおも身体を揺する瞳月だが、その動きが余計だった。
それをしたせいで、はらり…と、バナナを剥いたようにスカートが完全に捲れ、可愛らしい白のパンティが丸見えに。
そして。そんな瞳月のあられもない姿を見て、
「アハハ♪傑作♪写真撮ってあげようか?すぃ…♪」
おそらく普通に「しー」と言ったのだろうが、滑舌が悪くて「すぃ」と聞こえてしまう女の声。
その瞬間、低いところからキッとした目で声がした方に視線を向ける瞳月。
その視線の先にいる女、谷口愛季…。

仲良しの同期なのも然ることながら、先日、突如、行方不明となってしまった彼女。
そんな愛季と再会できたにもかかわらず、
「あ、愛季…!どういうつもりや…!」
瞳月が憤るのも無理はない。
同期がこんな逆さ吊りにされてる状況にもかかわらず、助ける様子もなく、ニタニタ笑って見ているだけ。
そして、そんな愛季の隣で、同じようにクスクスと瞳月の今の状況を笑っている女…瞳月を罠に嵌めた張本人、先輩の長濱ねる。
「あ、瞳月ちゃん。ちょっと大事な話があるんだけど、いい?ここじゃアレだから、別棟の方で…」
と神妙な顔で手招きされ、疑わずに別棟についていったのが運の尽き。
まさか先輩が襲いかかってくるなど夢にも思わず、無警戒に背を向けたところで不意に押し当てられた高圧スタンガン。
それで気絶していた間に、どこかへ運ばれたのだろう、
「起きろ」
と男の声で頬を叩いて起こされるとともに両手を掴み上げた状態で車から降ろされ、こうして地下室に連れ込まれるや、磔にされた。
なおも、
「あ、愛季ッ…!説明せぇ、って言うてるやろッ…!愛季ッ!」
先輩のねるには強く言えない手前、言いやすい愛季を詰問する瞳月だが、その愛季はクスッと笑って、
「ねぇ、すぃ…♪すぃも早くこっちにおいでよ…♪あいでぃ、るんさん、みーさん…みんなと一緒にご主人様のペットに…♪」
「ペ、ペット…?」
「そう。ペット…♪言うこと聞いてたら、気持ちいいこと、いっぱいしてもらえるから…♪」
「な、なに言うてんねんッ!頭おかしなったんか!愛季ッ!」
と腑抜けた同期を叱り飛ばす瞳月だが、すると、
「おいおい。その言い草はねぇだろうが」
「少し黙ろうか。なぁ」
「くっ…な、何すんねん!何や、これッ…やぁッ!ふ、ふごッ…おぉッ…!」
しゃがみこんだ両脇の男たちに猿轡を噛まされ、威勢の良かった声を封じられてしまう瞳月。
そして、その様子を見ながら、
「…はぁ…」
と、なぜか大きな溜め息をついたねる。
「せっかくうまくいったのに、タイミングが悪いというか何というか…」
と、ぼやくように漏らした独り言。
…そう。
本来なら次の獲物、後輩の山下瞳月をこうしてまんまと罠にかけ、生け捕りにしてきたことの褒美を今この場で貰える筈だったし、実際、ねるもそれを期待していた。…が、あいにく、その褒美を与えてくれる主人、鮫島はこの場に不在…。
なぜかというと…。
……
共和国内、某所。
この時、鮫島は、拉致された瞳月が連れ込まれたアジトとはまた別の秘密アジトに足を向けていた。
瞳月を拉致したのはワゴン車だったが、こちらはベンツ。
そして車が、出迎えの男たちが並んで立っている建物の入口にベタ付けで停まるや、
「よし、運び込め。地下室だ」
と、まず同乗してきた配下の男たち、そして我先にと車から降り、出迎えで立っている男たちにも同じように命じ、足早に建物の中に消えていく鮫島。
その命を受け、後部座席から降りてきた屈強な男たち二人、出迎えに立っていた男たち数人がゾロゾロと車の後方へ移動。
そして運転席の男がトランクを開ければ、その中に詰め込まれていたのは、なんと…欅共和国のナンバー2、守屋茜…!

トランクが完全に開き、月光に顔を照らされても、
「ぐっ…こ、ここは…」
別名・鬼軍曹として恐れられている女も、先刻、武芸に特化したボディガード二人がかりの猛攻で痛めつけられた末、弛緩剤を打たれて四肢の自由も利かなくされて、すっかり衰弱気味。
それでも、気を失って眠ることはなく、車のトランクに押し込まれてもずっと起きていたのはさすがの精神力。
快楽調教で言いなりにした長濱ねるを共和国内に帰し、次の獲物を内部から斡旋させるという鮫島発案の作戦…。
森田ひかる、谷口愛季と難なく成功したところで、ぼちぼち怪しまれる頃だと思っていたが、案の定。
次なる獲物、山下瞳月を気絶させ、敷地外へ運び出してアジトへと輸送するワゴン車を尾けてきた一台のバイク。
そろそろ尻尾を掴みに来るだろうと読み、逆に網を張っていた鮫島の号令でそのバイクを取り囲み、引きずり下ろして組み伏せればそれが守屋茜だったというワケだ。
そして、鮫島の言いつけ通り、
「足を持て、足を」
「行くぞ?せーのッ!」
数人がかりで、まるで配送物のようにトランクから担ぎ出されるライダースーツ姿の茜。
「くっ…は、離せ…ゲスども…」
と力の入らない手足を諦め、残る力を振り絞って胴体と首だけでも懸命に揺する茜だが、
「お、おい!暴れるな、こら!」
「チッ…めんどくせぇ!」
そして、
「今にボスがお前のための最高の舞台を用意してくれる!それが出来るまで、おとなしくおねんねしてろ!おらッ!」
ドゴッ!
「うッ…!」
がら空きの土手っ腹に鈍重な腹パンを喰らい、苦悶の表情とともに静かに崩れ落ちた茜。
そして、ぐったりと動かなくなった茜を、再度、担ぎ上げ、せっせと建物の中へ運び込む男たち。
お届け先は地下室。
そこでは一足先に入っていた鮫島が既にいろいろと何かを準備しており、運び込まれてきた茜を見て、
「ククク…さぁ。とうとう出番が来たぜ、鬼軍曹さんよ。その気合いと根性を、とくと見せてもらおうか」
ある意味、これは重要局面…。
別のところでは若手の有望株、山下瞳月が…そしてここでは、あの守屋茜が、いよいよ悪魔の毒牙にかかる時が来た…!
(つづく)