1.殺し屋、捕まる
彼の名は三郎。
裏の世界では金を貰えれば親友でも手にかける非情の男、冷酷の殺し屋として名を馳せている。
今回、彼に舞い込んだ依頼は『欅共和国』の中で要塞と化している『欅ハウス』に潜入し、統治神と称される『ヒラテ』を暗殺すること。
成功したあかつきにはハワイにでも移住して一生遊んで暮らせる程度の報酬を約束され、三郎は、早速、その『欅ハウス』とやらに潜入した。
最初は難なく事が進んでいた。
雲行きが怪しくなったのは隠し扉を見つけ、その奥の秘密の部屋に侵入してからだ。
少し進んだところで、背後の扉に施錠がかけられる音がした。
(しまった…罠かッ…!)
と気づいた瞬間、室内に放たれた侵入者撃退用の電磁波をモロに浴び、四肢が麻痺して崩れ落ちた三郎。
その後の記憶は曖昧だが、うっすら覚えているのは、再びドアが開き、クスクスと笑う女が二人、入ってきたこと…。
……
「うぅ…」
目を覚ました三郎。…だが、動けない。
視界に映ったのは見覚えのない部屋で、そこで自分が今、手足に枷をつけられて大の字で寝かされていることに気がついた。

しかも、いつの間にか服を脱がされてパンツ一丁…。
「こ、ここは…!?」
と声を上げると、その声を聞きつけ、
「あ、起きたで。ユミちゃん…♪」
その声にハッとして目をやると、女が一人…そして、その女の声に呼ばれて、もう一人…ともに長身の女が二人、視界に入った。
「お、お前たちは…?」
見覚えのない女たち…彼女らの名前は田村保乃と関有美子。
ともに統治神ヒラテの侍女として仕える女だ。

その二人は、寝かされた三郎を左右から見下ろし、そして右側の女が関西弁で、
「よぅ寝てたなぁ?さっきの電磁波、そんなにビリビリした?」
そのニタニタした笑みは、明らかに馬鹿にされてる気がして、
「チッ…!」
反射的に起き上がろうとするも、手足の拘束が外れない。
揺すって暴れるも、
「無駄です。絶対に外れません」
もう一人の女は、あまり感情の起伏のない声だった。
そして、関西弁を使う方の女が、
「なぁなぁ。アンタのポケット調べたら、こんなん出てきてんけどぉ〜?」
と、三郎が用意してきた斬奸状を取り出した。
斬奸状…いわば、暗殺完了を告げる置き手紙である。
ヒラテを殺して、その遺体に添えるつもりだった。
その斬奸状をペラペラと靡かせ、
「書いてあることの意味はよう分からんけどぉ…要するに、アンタ、ヒラテ様を殺しに来たってことやんなぁ?」
「━━━」
そして、少し抜けてそうな関西弁の女とは対照的に、もう一人の方は、
「暗殺なんて、そんなこと絶対にさせませんわ。ヒラテ様および我が国を脅かす国賊の輩には私たちが戒めとして天罰を下して差し上げます」
「国賊…?戒め…?ん〜…ユミちゃんの言うこと、難しいわぁ…」
と、同じ侍女でも堅い女とユルい女で妙なコンビだった。
そして、そんな二人が、ふと、何やらビンをちらつかせた。
一見、ジーマのビンのように見えたがラベルが違う。
「何だ、それは…?」
三郎が訝しげに問うと、二人はクスッと笑って、
「これは、我が国に伝わる不届き者を拷問するためのオイルです」
「ヤバいで、これ…♪知らんで、ホンマ…♪」
「……」
そして、そのオイルを三郎の半裸の身体にとろとろと垂らし、二人がかりで塗り広げていく。
しなやかな指で撫で回されるのは妙な気分…なかなか警戒心が消えず、耐えかねて、
「気味が悪いからやめてくれないか?見ず知らずの女にベタベタと身体を触られるのも不愉快だ」
と牽制した三郎だが、なおも女たちは、
「みんな、最初はそうやって強がります。最初はね…♪」
「せやけど、もう塗っちゃったしなぁ?どうなっても知らんで…?」
ずっと妖しげに笑みを浮かべている二人に困惑する三郎。
物心ついた時から殺し屋稼業一筋で生きてきた彼は「媚薬」というものをよく知らなかった。
そのせいで、この後、このオイルによって地獄を見ることになる彼…これより、その地獄絵図の一部始終をここに記す…。
(つづく)