欅共和国の激動‎ ―咲く櫻、散る櫻―































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【櫻散る編🌸】谷口愛季の陥落物語
プロローグ
「んーッ…んーッ…」
 薄暗い室内に響く吐息混じりの声と、それに合わせてジャラジャラと音を立てる鎖。
 壁に埋め込まれた「×」の字の磔板。
 そこに四肢を留められた女が、猿轡を噛まされたまま、必死にもがいている。
 そして、その獲物の活きの良さを眺めるように、目の前に並ぶ三人の男たち。…といっても、両脇の二人はただの子分で、本丸は真ん中の男。
「まったく、手こずらせやがって…」
 と吐き捨てた彼、鮫島。
 思いのほか抵抗が激しく、磔どころか猿轡をつけるだけでも一苦労。
 屈強な子分たち二人に加え、最終的に自分も手を貸して、三人がかりでようやく拘束が完了したワケだが、その代償として頬に引っ掻き傷をつけられた上、やっと拘束できたらできたで、
「チッ…思ったほど映えねぇな…」
 と舌打ち。
 基本的に磔にした女性というのは、その万策尽きたような惨めな姿を眺めるだけでSっ気が増幅されるものだと思っている鮫島だが、たまに例外もある。
 まず容姿。
 肝心の獲物が及第点以下のビジュアルだと、当然、あまり欲を掻き立てられない。…が、これに関しては合格。
 現状、キッとした目で睨みつけてきてはいるが、じっと見れば顔立ち自体はなかなか愛らしく、なおかつ、いい具合に生意気そうで、それもまた良い。
 続いて態度。
 苦労して磔にしても、そこで全てを悟ったようにしおらしくされると、それはそれで面白みも半減する。
 せっかくなら繋がれた手足をがむしゃらに揺すって悪あがきぐらいしてほしいものだが、今宵の獲物は、この点も合格。
 今もなお、手足を揺すって無駄な抵抗に必死だ。
 では、その二点をクリアしていながら、イマイチ映えない理由は何か。
 そればズバリ、身長が低いこと。
 磔板はいたって標準サイズだが、今宵の獲物がミニマムすぎて不釣り合い。
 磔というよりバンザイを強制しているような感じで、はたまた、子供を無理やり繋いで立たせたようにも見える。
 仕方なく、両脇の子分に、
「おい。何か台になりそうなモノを探して持ってこい」
 と命じ、部屋から出す。
 なおも、
「んーッ…んーッ…」
 と猿轡に声を消されながら、懸命に手足を揺すってもがくその女。
 そして数分、子分たちがそれぞれ、表にあったコンクリートブロックを持って戻ってきた。



 それを女の足元に積む子分たちに、
「気をつけろよ。繋いでるとはいえ、迂闊に顔を近づけると蹴りが来るぞ」
 ニヤニヤしながら声をかけた鮫島の言葉通り、わずかな可動域を駆使して蹴りを繰りだす女。
 それを、片方の男は、
「おっと、危ねぇ…」
 と紙一重でかわし、かたや、もう片方の男は、
「痛てッ!この野郎…足グセが悪りぃぞ」
 と、まんまとおでこに喰らってムッとする。
 そして、ブロックを積み終えると、女の両脚を、それぞれ、そのブロックの上に乗せる。
「んッ…!んーッ!んーッ!」
 荒ぶる猿轡越しの声…さしずめ、「離せ!」「触るな!」とでも言ってるのだろう。
 こうして、シークレットシューズの原理で、積まれたブロックぶん、目線が高くなった女。
 おかげで、それまで突っ張った状態だった両腕も少しゆとりが生まれ、そこでようやく、
「…うむ。少しはマシになった」
 と鮫島も納得し、改めて、その顔を品定め。
 彼女の名は谷口愛季。



 快楽調教によって支配下に置いた森田ひかるを手駒に誘い出し、ノコノコと現れたところを捕らえた。
 聞くところによると、最近、新たに統治メンバーとして加わった組で、いわば、まだ下っ端の層の一人。
 よって本人も、まさかひかるがこちらの言いなりになっているとは思いもせず、先輩から夕食に誘われて嬉しそうに現れたのが運の尽き。
 一役買ったひかるには、あとでそれ相応の褒美をやるとして、
「ククク…残念ながら、新米だからターゲットにされないなんて事はないんだよ。いや、むしろ、あのくだらん女王連中に加担した時点で、俺にとっては格好の獲物さ」
「んーッ…んーッ…」
 相変わらず、キッとした目は好戦的。
 そして、
「さぁ、ここでベラベラ喋っててもしょうがねぇ。さっさと始めようか。男をイジメるより、男にイジメられる方が楽しいってことを、今からたっぷり教えてやっからよ…♪」
 そう言って目の色を変えた鮫島。
 一見、愛季が次の獲物にされたのは単なる不運に思えるが、実際はそうではなく、きちんとプランがある。
 欅共和国、創立メンバーの一人である小池美波、そして二次メンバーの一人である森田ひかるに続き、こうして新たに加入した三次メンバーのこの女を調教して支配下に置くことで出来れば、各次代それぞれとの裏口が完成する。
 あとは、その裏口…いわば輸入ルートを巧みに利用し、一人、また一人と順に獲物を仕入れて手をつけていけば、じわじわと連中の戦力を削いでいけるという算段だ。
「んーッ…!んーッ…!」
 ギラついた目で迫る鮫島に対し、なおも猿轡越しの牽制を止めず、睨み返す愛季。
 そんな気丈な彼女を新たな輸入窓口に変える突貫工事が、今、始まる…!


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2024/12/24(火) 19:51 )