1.残党狩り
ドカァァン!バコォォン!
「ひ、ひぃっ…!」
「ぐわぁぁっ…!」
「た、助けてくれぇっ!」
薄暗い地下室に、激しい物音と銃声、少し遅れて男たちの悲鳴と断末魔が入り交じる。
急襲された隠れ家…慌てふためいて逃げ惑い、次々に粛清されていく復讐兵団の協力者たち…。
捕らわれた仲間たちの救出に成功し、息を吹き返した欅共和国の面々による報復が早くも始まった。
その手始めがこの“残党狩り”。
国に背き、反乱に加担した者には罰を与えなければならない。
逃げても追いかける。
隠れても見つけだす。
怒りに燃える強き女たちは、まるで軍隊アリのごとく男たちの逃げ込んだ場所を調べ上げては押しかけ、駆逐していく。
今回も見事な急襲で、あっという間に制圧完了。
やぶれかぶれで抵抗してきた者は全て射殺し、素直に降伏して生け捕りに出来たのは二人だけ。
「そいつらをここに並べてッ!」
と強い語調で命じる部隊の隊長、守屋茜に対し、
「はいっ!」
と威勢よく返事をして、拘束した男たちを茜の前に整列させる大園玲、遠藤光莉。
もし彼らが少しでも暴れたらすぐに撲殺できるよう、彼らの背後には鉄パイプを構えた大沼晶保と幸阪茉里乃もスタンバイ済み。
薄暗い中、まず左の男から、顔に懐中電灯を照らす。
「ぐわっ…!ま、眩しい…!」
と顔を背けると、すかさず、
「こらっ!ちゃんと前を向くの!」
と叱りつけ、より強く髪を捻り上げる大園。
茜は、順に明かりを当てては、
「違う…違う…」
と呟き、さらに、ゴロゴロ転がる死体にも順番に光を照らしていたが、最後の一体の顔を確認したところで、
「…くそっ!いない!」
と声を荒げ、やや乱暴に懐中電灯を胸ポケットに押し込んだ。
やはりここにも、あの憎き男…鮫島はいなかった。
復讐兵団と名乗る反乱軍を形成し、凌辱責めによる国家転覆を狙って、先日、我らのリーダー、菅井友香をも陥落寸前まで追い詰めた最重要警戒人物。
菅井の救出には成功したものの、肝心のこの男はあと一歩のところで取り逃がした。
それでも組織の空中分解という痛手を負わせたことは事実だが、実際に対峙した菅井、そして茜は、彼がこの程度で野望を捨てるようなヤワな男ではないと確信している。
だからこそ一刻も早くこの男を見つけ出し、息の根を止めないと、いつまたタケノコのように新たな危険思想の国賊集団を形成して襲いかかってくるか分からない。
「おい、お前ら…!」
ジャリ…ジャリ…と地面を踏んで捕縛した男たちに近寄る茜。
右手に愛用のライフルを引っ提げ、薄暗い中でも冷たく、そして鋭いものだと分かる視線。
そのまま押さえつけられてひざまずく二人の前にそびえ立つように仁王立ちになり、
「首謀者の鮫島という男…アイツがどこにいるか、正直に言ったら命だけは助けてあげるわ。どう?」
「━━━」
「…耳ついてんの?アンタたち」
無視に苛立つ茜は、だんだん口調も荒くなり、
「ほら、言いなさいよ。…言えよ、早く!言えっつってんのッ!」
「ひ、ひぃっ…!」
「こ、殺さないで…」
間近で見る鬼軍曹・守屋茜の怒号の迫力に震え上がる二人。
「どうやら蜂の巣にされたいみたいね…!」

ライフルを構えると、たまらず片方の男が、
「ま、待ってくれっ!し、知らねぇ…!俺たちは本当に知らねぇんだよ…!」
と口を開き、堰を切ったようにもう一人の男も、
「た、確かに三日前までは一緒だった。アイツもここに潜伏していたのは事実だ。…だが、三日前の夜、『食料を調達してくる』と言って出て行ったきり帰ってこない。どこへ行ったか知らないんだ…!」
「ハァ?知らない…ですって?」
「そんなワケないでしょ〜?」
と、後ろから彼らの髪を捻り上げ、円を描くように振り回す大園と遠藤。
「ぐぁぁ…!ほ、本当だって…」
「イテテ…は、離してくれぇ…」
と、頭皮の痛みに顔をしかめる男たちを二人してクスクス笑うその様は、それぞれが師と慕う土生瑞穂、齋藤冬優花に瓜二つ。
日々、欅ハウスの地下牢にて、大園は土生から、遠藤は齋藤から、それぞれマンツーマンで英才教育を施され、今では統治メンバーを名乗るにふさわしいS性を覚醒させた。
もちろん後ろで鉄パイプを構える大沼、幸阪も例外ではない。
「隠しても身のためにならないよ?」
「正直になりなよ、ほらぁ…♪」
ぶんぶん振り回す背後の二人に、
「か、隠してないっ…!本当に知らないんだッ!見捨てられたんだよ、俺たちは!」
「俺たちをここに残して、何も告げずに自分だけ逃げやがったんだ、アイツは…!だから、そういう意味では俺たちだって被害者…」
パァァァン…!
(…!?)
口々に叫ぶ男たちを黙らせ、後輩たちをも震え上がらせる威嚇射撃一発。
火を噴いた銃口に一瞬だけ照らされた茜の、阿修羅にも似た激怒の表情に凍りつく男たち。
茜はまだ少し熱の残るライフルの銃口で真ん中の男のおでこを小突いて、
「俺たちだって被害者…?都合のいいこと言ってんじゃないわよ。たとえ見捨てられたとしても、アンタたちが私たちの仲間にしたことはチャラにはならないわよ?ずっと、おとなしく見張り番“だけ”してたって胸を張って言えるワケ?」
「━━━」
茜のド正論に言葉を失う三人。
「ほら、正直に言ってごらんなさい。誰に手を出したの?」
と、順に銃口を男の口の中にねじ込みながら問う茜。
男たちはぶるぶる震えながら、
「わ、渡邉理佐…」
「…こ、小林…由依…」
と顔面蒼白で白状した。
かすかに潤む瞳は、引き金に掛けた茜の指先ひとつで決まる死への恐怖か。
シーンと不気味な間が空いた後、茜は急にニヤリと表情を緩め、
「へぇ…♪理佐と由依…なかなか大物喰いじゃないの、アンタたち」
ガシッ…!
「ひぃっ…!」
「んぷっ…!」
ライフルを下げたかわりに、両手でそれぞれ男たちの顎を掴み上げる茜。
そして、その二つの頭の間に顔を近づけ、
「その二人も、アンタたちに“お礼”がしたいんじゃないかしら?接見の場を用意してあげるわ。楽しみねぇ…♪」
とクスクス笑いながら囁いた。
そして目線を上げ、アイコンタクトを送ると、男たちの背後の大園と遠藤がコクリと頷いてスタンガンを押し当てる。
バチバチ…!
と不穏な音とともに、ガクッ…と崩れ落ちる男たち。
気絶したのを確認して、茜は、可愛い後輩たちに、
「…オッケー。運び出して」
と命じた。
……
「くっ…!くっ…!」
ガシャッ…!ガシャッ…!
…ダメだ。
手を吊る鎖は頑丈すぎてびくともしない。
隣では同じく生け捕りにされた相棒も必死にもがいているが、結果は同じ。
目が覚めた時にはこの状態、しかもパンツ一丁。
結局、あの忌まわしき建物…欅ハウスへ連れ戻されてしまった彼ら。
見覚えのある地下室。
かつてはここで、メンバーの性欲処理係として飼われていた身だ。
(ち、ちくしょう…!せっかく運よく脱走できて、女どもに仕返しできると思ったのに…!)
鮫島の言葉巧みな勧誘で恨みの念を燃やし、復讐兵団に加入した。
全てがうまくいくと思っていた。
あの日あの時…あのまま邪魔が入らず、リーダーの菅井友香が快楽堕ちして屈服するところまで行けていれば、今頃、この建物は失脚した女王たちの監禁小屋になっていただろう。
そう思えば思うほど、そうはならなかったことが悔しく、そして、そうはならなかったところに今こうして自分たちが幽閉されていることに絶望しかない。
こうなると次に考えるのは、
(に、逃げないと…!とにかく“ヤツら”が来る前に…!)
ということだ。
思い出される悪夢の日々。
あの頃には戻るまいと必死にもがくが、拘束は一向に外れない。
「く、くそっ…!くそぉっ…!」
「外れろッ!頼むから外れてくれぇっ…!」
募る苛立ち、増す焦り。
隣の相棒とともに体重をかけたり、手首を捻ったり、手枷を外すために試行錯誤を繰り返す二人。
だが、そうやって試行錯誤することを見越した上で、嘲笑うかのように強固にされた拘束はびくともしない。
やがて廊下の方から、コツ…コツ…とヒールブーツの音が聞こえたところで万事休す。
カチャッ…
とドアが開き、ぞろぞろ入ってきた一団の先頭にいる三人の顔ぶれを見て、彼は、
(あぁ、終わった…)
と思って、自然ともがくのをやめてしまった。
それは、当時、性欲処理係として飼われていた男たちの間で特に畏怖されていた三人…『鬼軍曹』こと守屋茜、『リサ様』こと渡邉理佐、そして『狂犬』こと小林由依。
その茜によって捕らわれ、そして今、目の前に理佐と小林が揃い踏みという身の毛もよだつシチュエーションに怯えの色すら浮かぶ男たち。
そんな二人をよそに、
「お待たせ〜…♪」
「とりあえず“おかえりなさい”と言っておこうか?」
と不敵な笑みを浮かべ、早速、吊られた二人に近寄る理佐と小林。
茫然とする男を挟むように立ち、
「聞いたよ?私たちのこと、ずいぶん可愛がってくれたみたいで…♪」
「あまり記憶にないんだけど…もしそれが事実なら、ちゃんとお返しはさせてもらわないとねぇ…?」
と妙に優しく、それでより一層、背筋が凍る戦慄の囁き。
あまり記憶にない…それはすなわち、媚薬漬けの身体を中和治療した際の副作用。
そして、それが出ているということは、中和に成功し、本来の女王としての自我を取り戻したことを意味する。
(お、終わった…またコイツらのオモチャに逆戻りだ…)
改めて感じる絶望。
思い返せば数日前、この絶望を感じる気配などありもしなかった。
鮫島に、
「…よし、あとはお前が好きにしていいぞ。これまでの恨み、晴らしてやれ」
と言われ、その言葉の通り、ムチャクチャにしてやった。
指で、舌で、そして股間のイチモツで失神するまでイカせてやった。
行為中、あの気に障る小馬鹿にした笑みが出ることは一度もなかった。
それよりも、自分のような元・奴隷に犯されることすら悦ぶメスの顔。
普段、男を弄ぶために使っていたテクニックを奉仕として使わせると、これほどまで心地よいものかと感服した。
それに、実際に仕えてみて分かったが、鮫島は活き餌にしか興味がないタイプの男だ。
既に陥落した理佐や小林よりも、これから血祭りに上げる予定の菅井や守屋茜に彼の関心は移っていた。
よって、うまく立ち回れば、理佐や小林を自分だけのものに出来るかもしれない…そんな期待すらあった。
それなのに…。
「さて…♪」
耳元で囁かれた制裁開始を告げる一言に緊張が走る。
走馬灯のように脳裏によぎる脱走以前の記憶。
またあの生き地獄を味わうことになるなら、いっそ舌を噛んで自害した方が楽だろう。
(すまねぇ…おやじ、おふくろ…)
と、彼は、意を決し、自らの舌にそっと歯を立てた。…が。
グッ…!
(…!?)
わずかに早く、しなやかな腕が彼の口に猿轡を噛ませた。
「ふふっ…あの世へ逃げ込む気?そうはさせないわよ♪」
「舌を噛むなんてチンケな死に方しないでくれる?死にたいなら男らしく腹上死しかないでしょ?」
と、依然、妙に優しい囁きの後、顔を見合わせてニヤニヤする理佐と小林。
その後ろで、二人が引き連れてきた妹分と思われる女たちも笑っている。
死ぬことすら出来ず、制裁を甘んじて受けるしかない状況。
そして、まず理佐が、
「天ちゃ〜ん?手伝ってくれるよね?」
「はい、もちろん…♪」

続いて小林も、
「ひかる、私と一緒にやろうよ…♪」
「え?いいんですか?やったぁ♪」

慕う先輩から誘われて嬉しそうな妹分たち。
そして、これより男たちは軽はずみな反逆の代償を思い知ることとなる…!
(つづく)