官邸「欅ハウス」の中で開かれた緊急会議。
　会を取り仕切るのは、統治メンバーの中でリーダーの菅井友香に次ぐサブリーダーという位置付けの守屋茜。



　整った顔立ちの凛とした佇まいながら、自然と醸し出す“覇気”にも似た風格…。
　かつて新選組では局長の近藤勇よりも副長の土方歳三の方が恐れられたというが、彼女からもそれに似た雰囲気が出ていた。
　そんな茜は、冒頭、
「昨夜、虹花がやられた」
　と険しい表情で切り出し、続けて、
「それに関連してかは分からないけど、理佐も、今、行方不明…何か良からぬことが起き始めていると考えて、まず間違いない」
　と付け足した。


　それは今朝の話。
　ハウスの敷地内にて、ここ数日ずっと行方不明だった石森虹花が、全裸で、十字架に架けられて気絶しているのが発見された。
　昨夜の見廻りの時には、そんな十字架の杭など立てられていなかったことから、何者かが夜中のうちに忍び込んで杭を立て、そこに虹花を縛って放置したのだ。
　そして磔にされた虹花の首には、

＜調教済み＞

　と、朱墨汁で血文字のようにして書かれたプラカードが掛けられ、それを示すように、下の毛が綺麗に剃られ、無毛になった土手に“まるで何かの烙印のような”サソリの刺青が見せしめとして刻まれていた。
　発見後、すぐにハウス内の医務室に運ばれた虹花。
　幸い、命に別状はなかったものの、何やら妙なクスリを飲まされたらしく、道端の捨て犬を拾い上げてからの記憶が、すっぽりと抜けていた。
　そして何より、目が覚めた時、虹花は、これまでの歩みを否定するかのように、隙があれば指を股間に這わせて自慰行為を始め、同性の仲間にも施しを請うほどの淫乱なドＭ女へと成り下がっていたのだ。
　この女尊男卑の国を統治するには男の上に立つＳ性が絶対条件。
　ドＭ化した虹花は、もう、国の統治に携わることは実質不可能だった。
　そして、別人と化した盟友の姿に、
(いったい誰が虹花をこんな目に…！)
　と憤ったメンバーたち。
　これは明らかに何者かの仕業…この事態を受け、茜はすぐに国を統治する全メンバーに召集をかけたが、そんな中、一人、連絡のつかないメンバーがいた。
　中核の一人、渡邉理佐である。
(まさか虹花に続いて、理佐も…！？)
　と、今、メンバーたちに、さらなる緊張が走っている。


　重苦しい会議の途中、理佐の捜索に出ていた井上梨名と藤吉夏鈴が戻ってきた。が、二人は揃って首を振り、
「ダメです。何度、電話をかけても、でんでん（全然）繋がらないし、部屋にもいません」
「昨日の夜、一人でどこかに出かけていったようなのですが、行き先も、何の用だったかも分かりません」
　と報告した。
　これで行方不明は確定。
　虹花に続いて何者かに拉致された可能性が極めて高いという見方となった。
「おそらく敵は、まず虹花を拉致し、それをエサに理佐を脅迫したんじゃないかな？」
「それで理佐を誘い出し、まんまと捕らえることに成功したかわりに用済みになった虹花を解放したってこと？」
「だって、それ以外に考えられる？」
「…確かに」
　という話し合う小林由依と齋藤冬優花。
　何者かが徒党を組み、この女尊男卑の国のパワーバランスを壊そうとしている…。
「とにかく私たちは、そんな反抗勢力に絶対に屈してはならない！」
　と、茜は、最年長の渡辺梨加から最年少の山崎天まで統治メンバーを見渡し、改めて決意を述べる。
　そして、その時、ドアを開けて現れたのはリーダーの菅井友香。
　こちらも緊迫した顔で、
「二人を襲った不貞の輩どもは、見つけ次第、即刻、捕らえ、粛清しろ。…ヒラテ様からの伝言よ」
　と伝えた。
　その伝言だけでひしひしと伝わる統治神ヒラテの怒り…彼女らにとって、統治神ヒラテの存在は絶対であり、また、そのヒラテが出す命令も絶対。



　それを受け、まずは敵の輪郭…クーデターを企てた首謀者の洗い出し、目的に特徴まで、とにかく全てを調べる必要がある。
　早速、この国の持てる力を駆使して、調査が行われ、その結果、共和国の南端、Ｒ街区から、最近、ならず者の男が数人、相次いで姿を消していることが分かった。
　このＲ街区は、彼女たちの奴隷として仕えることも出来なかった落ちこぼれが行き着くスラム街で、それゆえ、統治メンバーに私的な怨みを持つ者も多い。
　そんな連中がメンバーへの復讐を企てて手を結び、虹花や理佐を襲ったというのか？
　その推測を話すと、案の定、
「待ってください、茜さん。それはちょっと無理がありませんか？」
　と、異議を唱えたのは自分たちより一つ下の世代でリーダー的存在の松田里奈。
「あそこの男たちは、たとえ野心があったとしても、それを行動に移す力なんて無いクズばかりですよ」
　と一蹴する松田に対し、尾関梨香が、
「それを扇動する別の人間が現れたとは考えられないかな？」
「扇動する人間…？」
「そうじゃないと、今、言った通り、あそこにいるゴロツキだけで、こんな大それた事は出来ないよ」
　と尾関が結論づけるように言い、そうなると当然、その扇動した人物は誰かということになる。
「ずっと、この国にいた人間じゃないと思う。この国の中で、以前からそういう思想の人間がいたとしたら、もう私たちの耳に入ってる筈…」
「じゃあ、密入国者…？」
「Ｒ街区の人間なんてハッキリ言って頭の弱いバカばかりなんだから、口の上手い人間なら焚き付けて意のままに操ることも簡単だと思う」
　と話を進めていく上村莉奈と原田葵。
　早速、ここ最近、危険思想の密入国者がＲ街区のスラムに出入りした形跡がないか、それを確かめることとなった。…が、そううまくはいかなかった。
　スラムの人間たちは皆、保守的で口が堅かった。
　ましてや彼女らは統治メンバーとして面が割れており、警戒心を持たれているから尚更だ。
　そこで菅井は、その任務を、変装のプロ、長濱ねるに託すことにした。
　変装してスラムに潜入し、その身体とテクニックで男を骨抜きにして口を割らせる作戦だ。
「頼んだよ、ねる」
「任せて」
　と意気込んで出ていくねる。
　強き女たちの反撃が始まる…！



　……

　任務を受け、早速、この国の南端、Ｒ街区へ向かったねる。
　顔バレしないよう、事前に施した特殊メイクの姿でスラムを歩く。
　路上をほっつき歩いてるような雑魚に用はない。
　それより、ねるが目をつけたのはスラムにある大衆酒場。
　ここを頻繁に出入りするような人間は、きっと、スラム界隈の近況にも詳しい筈だと踏んだ。
　早速、一人でふらっと飲みに来た女を装って入店し、目をつけた男のテーブルへ行き、酔ったフリをして色仕掛けで誘う。
　もたれかかるように密着に、無防備な服での胸チラ…そして極めつけは九州訛りの、

「あー…ホテル行きたかぁ…♪」

　の一言。　
　そのとろんとした上目遣いと甘い囁きでコロッと引っかかる男は、酒も入って上機嫌のまま、ねるの肩を抱いてホテルへ。
　そして部屋に入り、くつろぐ二人。
　肩に手を回し、今にでも始めたそうな男に対し、
「始める前に、もう少し飲もぉ…♪酔った時の、私、すごいから…♪」
　そう言ってまんまと期待させられ、ねるが注いだワインを疑うことなく飲み干した男は、やがて１０分もしないうちに正体をなくし、ベッドに沈んだ。
　ここまでは予定通り。
「さて…と」
　特殊メイクを落とし、欲求不満の独り者から統治メンバーの一人へと戻ったねるは、
「ふふっ…♪情報を聞き出すついでに、私も久々に、少し楽しませてもらおっかな…♪」
　と独り言を言ってニヤリと笑う。
　お膳立ては充分…これより本題に移る…。


（つづく）