後編1
その日の深夜…。
昼間の姿から一変、月明かり以外の光がなく鬱蒼とした日向山に現れた漆黒のローブを纏った謎の人物…。
足音も立てずに歩き、
ギィィィ…
と“何か”を開ける音を立て、その中へ。
狭い通路を奥に進むと、急に開けた部屋へと繋がり、そこで、
「お待ちしておりました」
と迎えるスネーク。
そこでようやく、スッとローブのフードを脱いだ謎の人物。
中から顔を見せたのは、もちろんこの方、ヒラガーナの大幹部、イグチ魔女だ。
挨拶もほどほどに、
「どう?人類バーサーカー計画の進捗は?」
「はい。この私の体内で生成される人間を狂人化させる毒『バーサーカーリキッド』。これまで数回の実験の成功を受け、本日から一気に流布を拡大し、まずは今日の昼間、十数名への注入を成功いたしました」
と、捕らえた人間にその毒を注入する牙を備えた左手のスネークヘッドをパクパクさせながらを手にしながら報告するスネーク。
そして、
「明日以降も呑気にハイキングに来た人間どもに続々と注入し、眠れる狂戦士として街に帰します。いつ、誰が、どのタイミングで発狂し、どんな凶行に走るかは全てランダム。今にこの星が、恐怖と猜疑心で埋め尽くされたバイオレンスシティと化すことしょう」
そんなスネークの説明に、
「素晴らしい!素晴らしいわ、スネーク!その調子でどんどん続けなさい!」
と絶賛し、高笑いのイグチ魔女。
そして陣中見舞いを終え、再びローブのフードを被って真っ暗闇の登山道へ戻り、また音も立てずに歩き出す。…が、何歩か歩いて、ふと立ち止まり、
「…何の用?」
感じた気配…木々に遮られる夜空に向かって声を上げるイグチ魔女。
すると返事の代わりに、突然、風が吹き荒れ、周囲の枯れ葉を舞い上げる。
そして、その枯れ葉の渦の中から微笑とともに現れたのは、同じ幹部格でバチバチの関係にある小悪魔メミー。
漆黒のローブで身を包んで夜道と同化するイグチ魔女に対し、こんな夜でも真っ白な衣装に見を包み、自己主張が強めの登場。
そして、そんな彼女の起こした風によって、せっかく被ったフードが脱げると、その下から見せた目はさっきの上機嫌から一転、疎ましそうなキツイ視線を向けるイグチ魔女。
再度、
「何の用?」
と、つんけんして聞くと、メミーはニヤリと笑って、
「貴女が指揮を執る作戦がどんなものか、少しばかり見せてもらおうと思って…♪」
可愛い声色でニコニコしながら語るメミーに対し、イグチ魔女は一笑に付して、
「見世物じゃないのよ。邪魔だから消えなさい」
「何よ、そんな喧々しちゃって…どうしたの?」
とメミーは白々しく首を傾げ、
「あ、分かった…♪さては、私がネルネル様に呼ばれてこの星に来たことで、失敗続きの自分の立場がなくなるかも…って焦ってるんじゃないの?」
すると、すかさず、
「黙れッ!」
と一喝し、
「今の言葉…二度と私の前で言うでない!次もし言ったらタダじゃおかないわよッ!」
闇夜をつんざくヒステリックな怒声。
それでもメミーは怯まず、それどころかクスクス笑って、
「恐い恐い…♪そんな余裕のない人が指揮を執ってて上手く行くのかしら?また、あの、なんとかレンジャーの連中に嗅ぎつけられて邪魔されても知らないわよ?」
「消えろと言ったのが聞こえなかった…?」
ローブからスッと出した手に握る愛用のステッキ。
そして、そのステッキの先端に作りだした火球によって、真っ暗だった周囲が、松明(たいまつ)を掲げたように照らされ、メミーの微笑、そしてイグチ魔女の苛立った顔が同時に浮かび上がる。
するとメミーは、その燃え盛る火球よりもイグチ魔女の怒気に押される形で、肩をすくめ、
「分かった分かった…今日のところはおとなしく退散するわ。せいぜい良い報告を持って帰ってきなさいね。失敗続きのおバカさん…♪」
「貴様ぁぁッ!」
小馬鹿にした笑みから萌え声で煽られ、とうとうキレてしまったイグチ魔女。
鬼気迫る表情でステッキを振り下ろし、その火球を投げつける。
しかし、タッチの差でメミーはワープで消えてしまい、火球は後ろにあった木に当たって小爆発。
「はぁ…はぁ…」
急に声を荒げたこともあり、息を乱して興奮状態のイグチ魔女だが、次第に我に返るとそれを鎮め、ステッキを持つ腕をローブの中にしまい、再びフードを被って歩き出す。
沸点が低いのは、確かにメミーの言った通り、失敗続きで日に日に立場が悪くなっていく現状を自分自身が誰よりも痛感しているからだ。
(お、おのれ…)
ローブの中で、ついつい歯噛み…。
汚名挽回のためにも、スネークには今回の「人類バーサーカー計画」を必ずや成功させてもらわねばならない。
(つづく)