太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―












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episode-7 『狙われた山ガール!赤い眼差しの恐怖!』
前編1
 日向山。
 それは市街地からそう遠くもないところにある小高い山で、地元では別名「日向富士」などと呼ばれている。
 すぐ麓には、この星の大動脈・日向鉄道の終点である「日向山」駅があり、都心部からのアクセスも便利。
 山頂には見晴らしの良い展望台がある他、そこへ登る山道もそこまで険しくはなく、自然が溢れているため、日々、近所の子供たちが虫捕りに来たり、ハイカーが運動がてらに挑んだりと、この星の人々に愛されるスポットとなっている。
 そして、某月某日、休日の朝。
 電車の到着とともに駅の改札口から、サファリハットにリュックサックという明らかにハイキングの出で立ちをした人たちがぽつぽつと降りてきた。
 計10人。
 年齢はバラバラだし、二人連れもいれば一人で来た者もいて、各自、駅併設のコンビニで前もって飲料などを買っては駅前の広場に集まる。
 そして、キリのいい時刻になったところで、
「はーい、皆さん!おはようございまーす!」
「おはようございまーす!
 輪になって挨拶をするハイカーたちに、
「本日は、皆様、当社主催の日向山ハイキングツアーにお申し込み、そしてご参加をいただき、ありがとうございまーす!わたくし、引率の佐藤でございまーす!下の名前が満春といいますので、皆さん、略して『サトミツ』で覚えてくださーい!その下は『さん』でも『様』でも、呼び捨て以外なら自由でーす!」
「ハハハ!」
 おそらく鉄板なのだろう、言い慣れて流暢なツカミの自己紹介に漏れる笑みと拍手。
 その軽妙な喋り口で、続いて登頂ルートとスケジュール、登山中の休憩ポイントや下山後の解散時に参加賞の粗品の配布があることなどを丁寧に伝え、そして、
「それでは、まもなく出発いたしますが、その前に人数確認のため、順にお名前をお呼びします。呼ばれた方は返事と挙手をお願いいたします」
 と手にしたバインダーに挟んだ名簿に目をやり、
「えっと…では、あいうえお順で行きますね。アカシナツコさーん」
「はーい♪」
「いますね。では、次、イイノミヤビさーん」
「はーい♪」
「いますね。では、次、ウシオサリナさーん」
「はーいッ♪」
 と前の二人よりさらに元気に返事をした彼女、潮紗理菜。



 さらにその次、
「カトウシホさーん」
「はぁ〜い♪」
 と、前者とは対照的に少しへにょへにょした返事をした女、加藤史帆。



 本日のハイキングツアーには、この二人が、友人同士というテイで、ハイキングルックに身を包んで参加していた。

 ……

 かつて、けやき星を守るために佐々木久美が結成した先代レンジャーでは、史帆がブルー、紗理菜がイエローを務めていた。
 しかし、星を侵略してきた宇宙海賊団ヒラガーナの猛攻の前に敗北し、先代レンジャーは壊滅…。
 隊員たちはリーダーの久美を除いて全員が捕虜となり、ヒラガーナの侵略艦隊の中で奴隷のような屈辱の日々を過ごした挙げ句、悪の科学者・Dr.アモンによって変身ブレスレットを再改造され、悪の戦隊、ダークレンジャーへと洗脳されてしまった。
 そして先日、幹部のイグチ魔女が彼女たちを従え、久美の後を継いだ二代目戦隊、ヒナタレンジャーたちに総攻撃をかけて死闘を展開。
 一時は優勢で勝利目前だったダークレンジャーの面々だが、あと一歩のところで戦場に居合わせた久美にブレスレットが弱点と見抜かれ、次々にブレスレットを破壊されたことで形勢逆転。
 そこで史帆も紗理菜も、ブレスレットを破壊されるとともに洗脳が解け、ヘナヘナと脱力して崩れ落ち、そのまま気を失った。
 そして、次に目覚めた時、二人をはじめ、洗脳の解けた戦士たちは、みんな、ヒナタベースの救護ベッドの上にいた。
 その彼女たちをつきっきりで看病をしてくれていたのは、かつてのリーダー、久美。
 そこで彼女たちは久々の再会を喜び合うと同時に、久美の口からこれまでの経緯を聞かされた。
 故国であるけやき星を守りきれず、ここ日向星に逃げ込んだこと…逃げ込んだこの星で、ヒラガーナの次なる侵略に備えて自分たちに代わる戦士たちを養成したこと…そして、自分が隊長として率いるその次世代戦士たちが、まさに今、かつての自分たちに代わってヒラガーナ相手に奮闘してくれていること…。
 そして最後に久美は言った。

「みんなのことを守れず、私一人だけがおめおめと逃げ延びたことは今でも申し訳なく思ってる…そして、そんな私がこんなことを頼む資格なんてないことも分かってるけど…みんな、もう一度、私に力を貸してほしい。…いや、私にじゃなく、私達の生まれ変わりであるヒナタレンジャーの娘たちを助けてあげてほしい。お願い…!」

 その久美の言葉に、反対する者はいなかったし、彼女を責める者もいなかった。
 それは、久美同様、それぞれが、ヒラガーナの脅威と、その脅威に対抗する力が必要である現実を痛いほど分かっているからだ。
 よって、全員が二つ返事で、後輩たちのサポートに回ることを引き受けた。
 ブレスレットが失くなった今、もう自分たちに変身能力はないし、生身の身体ではヤツらの差し向けてくるモンスターには、到底、太刀打ちできないだろう。…だが、腐っても元・戦士、ある程度の体術は今もこなせるし、回復すれば身体は動く。

「パトロールならいくらでもするよ」
「武器の開発とか、そっちの面で協力するね」
「隊長ってのも久美一人じゃ荷が重いでしょ?隊長補佐…じゃないけど、私たちにも手伝わせてよ」

 と、次々に自分の役割を求めた面々。
 こうして、どこかで誰かの言った「彼らはヒマワリ、自分は月見草」という言葉ではないが、その日から、新たに仲間に加わった加藤史帆、潮紗理菜、影山優佳、齊藤京子、高瀬愛奈、東村芽依、高本彩花、佐々木美玲の旧・戦士たち8人は、ヒラガーナに立ち向かうヒナタレンジャーをサポートに回ることとなった。
 そして…。

……

「では、出発しますねー!ペースはゆっくりめで行きますので、焦らずついてきてくださーい!」
 と引率のサトミツさんの先導で駅前を出発し、ハイキングを開始したツアーの小隊。
 駅前広場から登山道に入るまでの通りには、まだ、食堂や喫茶店が並んでいる。
 そこを歩きながら、
「晴れてよかったですねぇ」
「そうですねぇ」
 と他愛もない話で、今日、初めて会った者たちでも和気あいあいと盛り上がっている。
 紗理菜も、同じペースで歩いていた隣の老夫婦から声をかけられ、
「登山とか、よくされるんですか?」
「いえ、私は今回が初めてで…何か、たまには運動しなきゃ、と思って」
 と笑みを見せ、仲睦まじく会話。
 そんな紗理菜を尻目に、
「いいねぇ、なっちょは…話しかけやすいオーラがあるから、みんなが話しかけてくれる。それに比べて私は…はぁ…こんな感じだから、みんな、話しかけにくいのかなぁ…」
 と羨ましそうにブツブツぼやく史帆と、そのぼやきを意外に地獄耳でしっかり全部聞こえている紗理菜。
「ちょっと、なにスネてんの!ソンナコトナイヨっ!それに、私だって史帆みたいに面白いこと言えないし」
 とフォローをしつつ、
「ってか、そうじゃないんだって。私たちの目的は」
「そうだね、違うよね。うっかりしてた。ごめんごめん」
 と言い、二人とも、その緩んだ表情を引き締め、

「まだ今のところは異常なしだね…」
「って言っても、まだ山に入ってないから当たり前か…」
「油断しちゃダメだからね?」
「分かってるって…!」

 ハイキングルックで互いに確認し合う意気込み…そして、それぞれのポケットには、いつでも拠点のヒナタベースに連絡が取れる無線機が忍ばせてあった。
 理由は明白…ここ最近、この日向山に関連して不審な事件が相次いでいるからだ…。

……

 最初の事の発端は先月。
 街で、突然、車を暴走させ、怪我人を出した男が捕まった。
 しかし男は、警察の取り調べに対し、現行犯逮捕にもかかわらず容疑を否認。
「覚えていない…そんな暴走するほどアクセルを強く踏んだ記憶は一切ない…」
 と供述した。
 その時点ではまだ、男が自分の保身のためのヘタな言い訳をしているだけと世間は思っていた。…が、その3日後。
 今度は大きな駅の構内で、女性客が、突然、ホームで前に並んでいた人を線路に突き落とすという事件が起きた。
 この暴挙により、突き落とされた大学生が受け身を取れないまま線路に叩きつけられて腕を骨折…幸いホームに進入してきていた電車は非常ブレーキがはたらいて寸前のところで停止し、大惨事こそ免れたものの、女はさらに駆けつけた駅員にも平手打ちを見舞って軽傷を負わせたのだが、これも前述の暴走事件と同様、目撃者多数にもかかわらず、犯行を否認。
「覚えていませんッ!そんなことしていませんッ!私は、ただ普通に電車を利用しようとホームで待っていただけですッ!」
 とヒステリックに絶叫しながら警察車両に乗せられていく映像が何度もテレビで流されるぐらい、不審な怪事件となった。
 さらにその後も、同じような事件が他にも数件、続いている。
 どれも被害の大小や周囲の状況に差異はありつつ、この「何故か被疑者本人には凶行に走った記憶が全くない」という点で一致するという奇妙な連鎖だった。
 そして、この一連の事件に強く疑問を持ったのが、サポート役に就いてまだ間もない影山優佳。



 元々、先代レンジャーの当時から頭脳明晰で、事件性を嗅ぎつける嗅覚に優れていた彼女。
「これは何かウラがありそうだね…!」
 と、いの一番に目を光らすや、あの手この手でそれらの事件を深掘りし、そして、ついに一昨日、ヒナタベースに駆け込んで戻ってくるなり、
「みんな、聞いてッ!事件が繋がったよッ!」
 と声を張り上げた。
 その声で集まったのは隊長の久美と、ちょうどそこにいた史帆、紗理菜、そしてヒナタレッドの小坂菜緒、ヒナタイエローの金村美玖、ヒナタオレンジの丹生明里。
 既に旧・戦士たちと現・戦士たちは、引き合わせた久美自身も驚くほどあっさり打ち解け合っていて、早くも一枚岩になれていた。
 そんな新旧が入り混じった輪の中で、

「調べたところ、各事件の被疑者たちは、みんな、事件の前に日向山を訪れていたことが分かったの。たとえば、最初の暴走事件のAさんは、事件の前日、写実に。駅で事件を起こしたBさんも、同じく前日、ハイキングに。そして先週のCさんは子供と虫捕りにに。…みんな共通して、犯行前に日向山に訪れている。これ、単なる偶然だと思える?」

 影山の知性的な口調が、より一層、信憑性を高めることもあり、異議を唱える者はいなかった。
 そして、その輪の中で始まる議論。

「ということは…?」
「日向山に、何か秘密が…?」
「まだ自然が残り、市街地から少し離れたところにある日向山…」
「ヒラガーナの連中がまた何かを企み、ひそかに行動を起こすのには絶好の場所…」

 そして、ちょうどそこに、
「久美さん。こんなのありますよ」
 と富田鈴花がネットサーフィンで見つけた『日向山ハイキングツアー』なるものの募集フォーム。
 試しにそのツアーを主催する事務局に問い合わせてみると、あと2人で定員の10名に達するので、まもなく応募は締め切られるという。
 それを聞き、善は急げということで、その場で申し込み、どうにかその残り2枠を確保することに成功した一行。
 こうして、ハイキングツアーの参加者を装いながら日向山での異変調査…それが今回、史帆と紗理菜に与えられた使命だ。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2024/01/04(木) 02:27 )