太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―









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episode-6 『苦悩する久美!悪の戦隊ダークレンジャー出現!』
中編
 一方その頃。
 それ以外のメンバーも、別に無線を無視して引き続き能天気に休日気分を味わっているワケではない。 
 噂の絶品ドーナツとやらを楽しんでいた渡邉美穂、松田好花、宮田愛萌、富田鈴花の四人も、その最中(さなか)、ガーナ兵が街に現れたとの一報を聞き、泣く泣く食べかけのドーナツを置いてそのポイントに駆けつけようとしたものの、その矢先、突如として現れた謎の女たちによって妨害を受けていた。

「くっ…!くっ…!」
 小柄ですばしっこい女からの攻撃を必死に受け止め、どうにか反撃に転じようとする好花に対し、ボソボソと独り言で、
「人間の視野角度は鼻側に60度、耳側に100度…その死角に入られると人間は咄嗟には対応できない…」
 と理知的な分析を小声で呟き、好花に反撃の隙を与えないその女…。

「ちょ、ちょっと…!きゃッ…!」
 長髪を靡かせ、無愛想に連打を打ってくる女に防戦一方の愛萌。
 女の目は徐々に闘気を前面に出し、彼女がいったい何者かを窺おうと目が合う愛萌に対し、
「見てんじゃねぇよッ!」
 と、その整った顔立ちからは少しギャップのある低い声で阿修羅対応。
 その重い攻撃は、次第に愛萌の得意の合気道でも受け流せなくなってきた…。

(い、急がなきゃ…!いくら雑魚相手とはいえ、ひよたんと陽菜の二人だけじゃ大変だ…!)
 と、知らされたポイントへ早く駆けつけたい鈴花だが、いくら押しのけても執拗に前に立ち塞がり、
「ここは通さへんでぇ…♪」
 と笑みを浮かべる謎の女。
 そして、他の女たちに比べて体術があまり得意ではないのか、早々に小型の爆弾を投げつける戦法に変わり、それを鈴花めがけてひたすらに投げつける。
「わぁッ…!くっ…!うわッ…!」
 次々に起きる小爆発を、地面を転げ回って回避する鈴花。
 そんな逃げ惑う鈴花に対し、
「まだまだ持ってんでぇ…♪」 
 と女の手から小型爆弾が尽きる様子はまだない。



 そして、その連続する爆音と、苦戦する好花、愛萌の声を耳にしつつも、なかなか彼女らの援護に回れない美穂。
 なぜなら、彼女の前に立ちはだかる女の攻撃がひときわ激しい。
 軽々と持ち上げ、掲げた金棒を血走った目で髪を振り乱しながら振り下ろしてくるその色白の女。



「くっ…!」
 一撃でも喰らえば致命傷という鋭いスイング…必死に避けるも、その空振りが誤爆した街路樹は一瞬にして樹皮が裂け、みるみる傾いていく。
 そして美穂は、紙一重の回避を続けながら、内心、
(この人…見たことある…確か…)
 思い当たるのはヒナタベースの司令室、久美の机の上…そこに、かつて久美が率いた先代レンジャーの結成時の集合写真が写真立てに入れて置かれているのを美穂は知っていた。
 そして、その写真の中で、ひときわ久美と仲良さげに肩を抱き合って写っていた女と、目の前で襲いかかってくる女が、どうも瓜二つの気がしてならない…。
 その先代レンジャーがヒラガーナに敗れ、久美一人を残して壊滅したことは美穂も知っている。
(も、もし仮に、今この目の前にいる女の人があの写真の人と同一人物だとしたら…?)
 その説を少し真剣に考えたいところだが、あいにく、そんな余裕はなく、再びフルスイングされた金棒が迫ってきた。
「くッ…!」
 間一髪、屈んで避けた美穂。
 その後ろで鈍い金属音とともに誤爆した道路標識の柱が一瞬にしてひん曲がり、外れた標識看板がボトッと美穂の横に落ちてきた…万が一、喰らえばそれほどの威力だということだ。
「ふぅぅ…!ふぅぅ…!」
 明確に敵意を見せた目で、肩で大きく息をしながらなおも美穂を睨み、金棒を構えるその女、加藤史帆…。
 このままじゃ埒があかないと察した美穂は、背後に向かって、
「みんなッ!変身よッ!」
 その呼びかけに対し、
「オーケー!」
 と力強く返ってきた他の三人からの返事。
 そして、それぞれが攻撃の隙を見て間合いを取り、腕をクロスして、

「ハッピー…オーラっ!」

 青、緑、ピンクに紫…色とりどり4色の発光とともに、それぞれの色の強化スーツ姿に早変わりした四人。
 そして変身を機に反撃に転じようとしたブルー(美穂)だが、その足が急に止まった。
 なんと、美穂の変身を見た史帆も、同じように身体の前で腕をクロス…そして、まるで暗号を唱えるように、

「…ワカバヤシっ!」

「きゃっ…!」
 その謎の言葉とともに史帆の身体の周囲からまるで雷雲のような黒い煙がモクモクと立ち込め、思わず顔を背けたブルー。
 そして、次第にその煙が薄れ、改めて前を向いた途端、
「なっ!?」
 青いマスクの中で唖然とした表情を見せた美穂。
 消え去った黒煙…その中から現れたのは、なんと、自分と瓜二つの強化スーツを身にまとった謎の戦士だった。
 モチーフカラーもおそらく同じ青…だが、相手の青は自分のようなキレイな青ではなく、少し黒ずんで群青色に近い色をしている。
‎ そして、もしやと思って振り返ると、同じく、ヒナタグリーンの前にはやや黒ずんだ緑色の戦士…ヒナタピンクの前にはやや黒ずんだ桃色の戦士…ヒナタパープルの前にはやや黒ずんだ紫色の戦士…。
(わ、私たちと瓜二つ…!どういうこと…?)
 と戸惑い、立ちすくんだブルーに対し、
「んがぁぁッ!」
 奇声を上げ、鈍重な金棒を持ったまま軽々と飛び上がり、空中で宙返りした相手のブルー。
 そのまま重力に従った急降下とともに手に持つ金棒を振り下ろすのを、
「ま、まずいッ…!」
 慌てて地面を転がり、逃げるブルー。

 ドガァァァン…!

 着地、そして寸前までヒナタブルーがいたアスファルトめがけて強烈に打ちつけられた金棒の一撃。
 それと同時に爆発が起き、地震かというような大地の揺れが起きる。
(ウ、ウソでしょ…?すごいパワー…!)
 べっこりと陥没したアスファルトを見て、パワーに自信があるブルーも思わず騒然。
 あと一秒、避けるのが遅かったら一撃でノックアウトされていただろう。
 変身したことによってパワー、スピード、跳躍力と、変身前から全てが格段に上がっている。
 それもまた美穂たちヒナタレンジャーと同じだ。

 ……

 その頃。
 同じく、濱岸と河田のところへ駆けつけたい金村と丹生も、他の仲間たちと同様、突然、目の前に現れた謎の女たちと有無を言わせぬ交戦が始まっていた。
 ここでも人間体のままでは分が悪いと察し、既に二人とも、金村はヒナタイエローに、丹生はヒナタオレンジにそれぞれ変身済み…にもかかわらず、やや押され気味の二人。
「きゃぁぁッ…!」
 宙を舞い、建物の壁に叩きつけられるイエロー。
 そして何とか立ち上がったところに、今度はオレンジが悲鳴とともに飛んでくる。
 そのオレンジの肩を抱き起こし、
「に、丹生ちゃん!しっかりッ…!」
 と言うものの、そのイエロー自身も劣勢に変わりない。
 そして、そんな二人になおもスタスタと近寄ってくる二人の戦士…奇しくもイエローとオレンジ、同じモチーフカラーの強化スーツだが、自分たちの明るい色合いに比べ、相手のはイエロー、オレンジともに全体的に黒ずんでいて、まるで“元々は明るいイエローとオレンジだった戦士たちが闇堕ちした”ような色に見える。
「くっ…」
 後ずさりしようにも背後は壁…となると立ち向かわざるをえない。
「行くよ、丹生ちゃん!」
「うん!…てやぁぁッ!」
 と二人で駆け出し、ともに繰り出したパンチを皮切りに再び交戦。
 劣勢を打開するため、
「オレンジソードっ!」
 と声を上げ、専用武器である剣を装備したヒナタオレンジ。
 そして、剣道で磨いたその自慢の太刀さばきで反撃開始。…のつもりだったが、相手のオレンジは、思いのほか、すばしっこく、全く当たらない。
 たまらずオレンジも、
(な、何て素早い身のこなしなの…!まるで…まるで猫みたい…!)
 空振りの連続で自分の体力が徐々に削られるだけ…。
 そして、
「めぇぇぇんッ!」
 と叫んで繰り出した渾身の一太刀も、あっさりかわされ、それどころか、
「なっ…!」
「…へへ…♪」
 黒ずんだオレンジのマスクの下からかすかに聞こえたしてやったりの笑み…なんと、オレンジの振り下ろした剣の上に立っているではないか。
 その驚愕の身軽さとバランス感覚、まさに猫…。
 一方、振り下ろした剣の上に乗られ、にっちもさっちもいかなくなったオレンジ。
 唖然としているうちに、そのまま顔面を蹴られる痛恨の一撃を浴び、声にもならない悲鳴とともにソードを手放してもんどりうって倒れるオレンジ。
 一方、残念ながらそんなオレンジを援護する余裕がないイエロー。
 こちらも専用武器の投擲円盤、イエローフリスビーを飛ばして応戦するも抜群の身のこなしでかわされ、なかなか有効打にならない。
「くっ…!」
 苛立つヒナタイエローを尻目に、その並外れの跳躍力で街路樹の上に飛び乗った相手のイエロー。
「ふふっ…♪そっちがそうやって武器を出すなら、私もここらで自分の武器、使っちゃおっかなぁ…♪」
 思いのほか可愛らしい声色で妖しく囁き、取り出したのは何やらピンポン玉サイズの銀色の球。
 それを見て、
(…?)
 それが何か分からず、黄色いマスクの中で怪訝そうな目をして見上げる美玖だが、ひとたび、振りかざされたその球から奏でられた音色が周囲に響き渡ると、
「うッ…うぁぁッ…!な、何これ…み、耳が…!あぁぁッ…!」
 途端にマスクの両脇を手で押さえ、その場にうずくまるヒナタイエロー。
 そして、その音色はイエローだけでなく、背後にいるオレンジにも影響し、同じように両耳を塞ぐようにしてうずくまってしまった。
 それは一種の超音波のようなもの…そして、地面に突っ伏したイエローの元に、スッと樹上から降りてきた相手のイエロー…。
「さぁ…この音をBGMにして続きやろっか…♪次は私が攻撃する番ね…♪」
 と相変わらず可愛い声色でゾクッとするようなことを言い、なおも手にしたその球を振りかざして音を出しながらうずくまるイエローの腹部めがけて蹴りを見舞い、それに合わせて、
「いーち…♪にぃ…♪さーん…♪しぃ…♪ごぉ…♪ろーく…♪しーち…♪」
 蹴った数を声高らかに数えていた“闇堕ちイエロー”だが、次の瞬間、
「はちぃぃぃッ!!」

 ドゴォッ!

「あうぅッ…!」
 なぜか8回目だけ数える声が跳ね上がり、これまでより数段重い蹴りがイエローの下腹部にクリーンヒット。
 お腹に浴びた激痛を堪え、どうにか立ち上がろうにも、耳をつんざき、戦意を喪失させるこの音色が止まないかぎり、思うように動けない。
(ダ、ダメだ…このままじゃ…やられる…)
 危機感を抱いたイエローは、なおもボコボコと蹴られ続ける中、たまらず、

「くっ…た、隊長ッ…!こちらイエロー…謎の敵の出現により危機に陥っています…お、応援…至急、応援願いますッ…!」

 とマスク内に内蔵された無線で久美に助けを求めた…。

 ……

 その頃、喫茶店を飛び出した久美と菜緒は、言わずもがな仲間たちの元を目指して街を駆けていた。
 ヒナタイエロー(美玖)を皮切りに、ヒナタグリーン(好花)、さらにはヒナタブラック(濱岸)からも応援要請が相次ぐ非常事態。
 そして、厄介なのは、それらのポイントがそれぞれ近接しているとはいえ、微妙に違うことだ。
 よって今この駆けている最中にも様々に判断を迫られる久美。
 走りながら隣の菜緒に、
「菜緒は、イエローと合流してッ!私はグリーンのところへ行くッ!」
 現役戦士の菜緒と違い、援護に駆けつけたところで役に立つかは分からない。…が、だからといって愛弟子たちを見殺しには出来ない。
 たとえ役不足だろうと、応援要請が来た以上、そこに向かうのが隊長の使命だ。
 そして、駆けながらヒナタベースにも無線を繋ぐ久美。
「未来虹ッ!聞こえる!?」
 とヒナタベースに残る通信係の橋未来虹を呼び出し、
「茉莉と陽世と一緒に、倉庫にある武器を手当たり次第に持ち出して今すぐ来てッ!で、ブラックとホワイトを援護してッ!」
「りょ、了解しましたッ…!」
 声からも伝わる緊張感をもって返ってきた未来虹からの返事。
 未来虹は通信係、さらに森本茉莉と山口陽世はメカニック担当と、前線に出る役回りではないにしろ、彼女らも一定の訓練は積んでおり、全く戦えないワケではない。
 そんな彼女たちも総動員で、とにかく苦戦する愛弟子たちの全力援護を目論む久美。…だが、そんな彼女の思惑を打ち砕くように、
(…!)
 ふと、走っている菜緒と久美、二人の間を追い抜くように見たことのない漆黒の蝶がすり抜け、駆ける二人の目の前を邪魔するように舞う。
 普段ならそんなことはしないが、今は緊急事態…たまらず、その目障りな蝶を手で叩き落とそうとする久美だが、すんでのところで避けられて空振り。
 そしてその蝶が急に発光し始めたかと思うと、次の瞬間、その光の中から一人の女が蝶に代わって飛び出した。
「くっ…!」
 駆けていた足に慌てて急ブレーキをかける二人。
 そして現れた女は、ニタニタと笑い、
「ふふっ…♪お久しぶり…♪」
「イ、イグチ魔女…!」
 自然と身構える菜緒に対し、
「お急ぎのところ申し訳ないけど、ここから先は行かせないわよ?小坂菜緒…いや、ヒナタレッド。今日こそアンタを完膚なきまでに叩きのめして地獄へ送ってあげるわ」
「くっ…!」
 今、イグチ魔女と交戦しているヒマなどない菜緒。
「悪いけど、今はアンタに構ってるヒマはないわ!」
 と言って再び駆け出そうとするのに対し、不敵な笑みとともに手にした杖をかざし、鬼気迫る表情で、
「ふぁぁぁッ!」



 ドゴォォン!

「うわッ…!」
 奇声とともに飛ばされた火球の爆発に再び足が止まる菜緒。
 晴れていく煙の先で、
「フフフ…この先には行かせないって言ったでしょぉ?この私を無視しようなんて、ますます地獄行き確定よぉッ♪」
 と笑みを浮かべるイグチ魔女。
 なおも杖をかざし、
「さぁ、くたばりなさいッ!」
「きゃッ…!」
 一つといわず二つ、三つ…今度は複数の火球が一斉に菜緒めがけて飛んでいき、そして大爆発…!
 その激しい爆炎に、隣で見ていた久美も思わず、
「な、菜緒ッ…!」
 爆風で髪を乱しながら焦る久美。…すると、その中から、
「とぉッ!」
 と宙を飛んで飛び出してきたヒナタレッド。
 火球の爆発に巻き込まれるよりわずかに早く、腕をクロスするのが間に合ったようだ。
 そして華麗に着地し、イグチ魔女に目を向けるレッドに対し、
「フフフ…さぁ、どうだい?潔く私と戦う気になったかい?」
 と挑発して笑うイグチ魔女。
 別に戦う気になったワケではない。…が、無視して駆け出そうとすれば、また火球を撃って邪魔をしてくるに違いないと、戦わざるをえないことを察したレッド。
 じりじりと間合いを取り、イグチ魔女から目を逸らさぬまま、
「久美さん…先に行ってください。私もコイツを片付けたらすぐに行きます」
 それを聞き、
「まぁ、こざかしいッ!私をコイツ呼ばわりにして、挙げ句の果てには『片付けたら』ですって!?身の程知らずもたいがいにしなさいッ!」
 軽視されて憤るイグチ魔女が再び杖をかざし、レッドめがけて火球を放つ。
 それをかわしながら、
「行ってください、久美さんッ!」
 と言うレッドに従い、再び駆け出そうとした久美だが、ふと、
(な、何ッ…!?か、身体が…!)
 ふいに足が、そして腕も一緒に動かなくなった。
 突然、何か見えない力によって四肢を繋ぎ止められ、その場で身動きが取れなくなった久美。
 そして、
「くっ…!」
 と動かない手足を揺すってもがく久美の前にゆっくりとした足取りで現れたのは白衣を羽織った学者風の老人…。
 その姿を見て、
「ア、アンタは…!」
「ホッホッホ…久しぶりですねぇ、佐々木久美さん…」
 薄ら笑いで対峙するその老人は宇宙海賊団ヒラガーナの女船長ネルネルに仕える側近、Dr.アモンだ。
 そしてそのアモンの左手は、久美に向けてかざされ、まるであやとりでもするように指がクネクネ動いている。
 その指先から張り巡らされた目に見えない妖糸にょって久美の四肢はいつの間にか雁字搦めに絡め取られ、拘束されてしまっていた。
 それを察し、
「は、離しなさいッ!こ、この…!」
 と身を揺するも、久美の長身を持ってしてもアモンの妖糸は切れもしないし、緩みもしない。
「ホッホッホ…辛くも逃げ延び、流れ着いた辺境の星で凝りもせずに再び戦隊ごっことは、貴女もなかなか負けず嫌いですねぇ…我々に敗れ、壊滅させられたのそんなに悔しかったのですか?」
「だ、黙れッ…!くっ…!」
 …そう。
 先代レンジャーが敗北を喫し、久美を残して壊滅したのは、この老いぼれ策士の奸計(かんけい)、戦士たちの戦力を分散させて一人ひとりを弱体化させて討ち取るという卑怯な作戦が発端。
 よって久美からすれば、イグチ魔女同様、この男も散っていった仲間たちの憎き敵(かたき)である。
 それにもかかわらず、アモンは饒舌に、
「あの時、貴女を取り逃がしたのは不覚でした。おかげで私とイグチ魔女は、あの夜、ネルネル様にこっぴどく叱られましてね…何とかお許しをいただきましたが、危うく殺されるところでしたよ」
「━━━」
 そしてアモンは、
「あの時、貴女も仲間たちと一緒に素直に我々の支配下に堕ちていれば、今も仲間たちと仲良くできていたのにねぇ…」
「い、今も…?どういう意味!?」
 意味深な発言に思わず食いついた久美に対し、アモンはクスクスと笑って、
「私の口説明より、自分のその目で確認した方が早いでしょう…ご覧に入れますよ。それッ!」

(…!)

 ふいに振り上げられたアモンの右手。
 すると、次の瞬間、まるでテレポートさせられてきたようにレッド以外のヒナタレンジャーたち…そして、彼女たちを追い詰める黒い戦士たち、合計八組の交戦が次々に目の前に現れた。
 何とか互角をしている者…防戦一方の者…はたまたサンドバッグ状態にされている者…幸い、倒れてピクリとも動かない者はまだいないが、それも時間の問題かもしれない…。
 そして、そんな総じて苦戦している愛弟子たちの姿はもちろん、久美が驚愕したのは、その愛弟子たちを追い詰めている黒い戦士たちの姿…。
「あ、あれは…!」
 唯一、表情のみが動く久美が愕然としているところに、
「フフフ…どうです?懐かしいでしょう?思い出すんじゃないですか?当時を…♪」
 と嘲笑うアモンに言い返すことも忘れ、茫然と目の前の乱戦を見つめる久美。
 苦戦する愛弟子たちも気になるが、それよりも凝視するのは優位に立つ八人の黒い戦士たち。
 その戦いぶりを見て、
(あ、あの強化スーツはかつての…それに、あの動き…ま、間違いない…京子だ…!あ、あっちは芽依…カ、カゲもいる…!あ、彩花ッ…!)
 そして、その中でも、金棒を振り回してヒナタブルーを追い詰める戦士を見て、思わず久美は、
「し、史帆ッ…!」
 と、とうとう声に出した。が、史帆と呼ばれたその戦士も、そして相対するヒナタブルーも、久美に気付く様子はなく戦いに夢中。
 何なら、いつの間にか自分たちが強制テレポートさせられてきたことにすら気付いていないようだ。
 それでもなお、
「史帆ッ!ねぇ、史帆ッ!戦いをやめてッ!私よ!こっち向いて!私に気付いて、史帆ッ!」
 と連呼する久美だが、いくら呼び続けても振り返ってもらえない。
 むしろ金棒攻撃から逃げ惑うヒナタブルーの方が先に気付いて、
「え…?く、久美さん…?あれ?こ、ここは…?きゃッ…!」
 ようやく強制テレポートさせられてきたことに気付き、戸惑うヒナタブルーをなおも襲うフルスイング金棒。
 久美は、再びアモンに目を戻し、キッと睨んで、
「ア、アンタ…!みんなに何を…!」
「まぁまぁ…そんな怖い目をしないでくださいな。ああやって、全員、生かしておいただけでも感謝してもらいたいぐらいです。もっとも、少しだけ“我々仕様に変えさせていただきました”がね…♪」
「か、変えた…?」
「ええ。さしずめ、ダークレンジャーとでもいいましょうか。かつての貴女の仲間たちは、今もこうして、貴女の開発した強化スーツを身に纏い、戦いに身を投じているワケです。正義から悪へと寝返ってね…♪」
「━━━」
 アモンの説明に茫然とする久美。
 なるほど…それで、全員、当時に比べてカラーが少し黒ずんでいるというワケか。
 悪の天才科学者といわれているアモン。
 そんな彼にかかれば、久美が開発したブレスレットをさらに改造し、悪の戦士に変身するための魔具へと作り変えることも造作なかっただろう。
「くっ…き、貴様ッ…よくもみんなを…!」
 怒りの込み上げる目でアモンを睨む久美だが、ふと、その背後で、轟音とともに悲鳴が聞こえた。
 ハッとして首だけで振り返る久美。
「な、菜緒ッ…!」
 その目に映ったのは、執拗な火球攻撃でダメージを負い、壁に叩きつけられて膝をつくヒナタレッド…。
 それに対し、かすり傷ひとつも負っていないイグチ魔女は笑って、
「フフフ…どう?ヒナタレッド。今までずっと私は手加減をしてあげていたの。私がちょっと本気が出せば、これぐらいの実力差があること、理解した?」
「くっ…うぅっ…」
 さすがは幹部格…レッド一人では相手にならないということか。
 そしてイグチ魔女はよろめくレッドに向かってカツカツとヒールを鳴らして歩き、
「さーて…それじゃ、そろそろとどめさしちゃおうかしら…サクッとね…♪」
 腰に差したサーベルを抜き、深手のレッドに歩み寄るイグチ魔女。
 それに対し、思わず反射的に割って入ろうとする久美だが、残念ながらアモンの妖糸によって身体が動かない。
 ならば誰か別の者を向かわせたいが、そんな余裕のある者はおらず、むしろ、そっちもそっちで応援を欲している有り様。
 それに、よく見ると、ヒナタレッドと同様、ヒナタブルーも、ダークブルーこと史帆の金棒攻撃によって背中を壁まで追い詰められて万事休すの状態に陥っているではないか。
 さらには、とうとう地面に突っ伏し、ダークイエローにガシガシと背中を踏んづけられているヒナタイエロー…。
 ひざまずいた背後からダークグリーンに首を絞められて苦しむヒナタグリーン…。
 マウントを取られてダークピンクにタコ殴りにされているヒナタピンク…。
 そんな徐々に形勢が傾いてきた目の前の乱戦と、万事休すのヒナタレッドを見比べ、
「フフフ…楽しくなってきましたよ。さぁ、ヒナタレンジャーの中で誰が一番最初に御臨終になるか楽しみですねぇ♪貴女は誰だと思いますか?佐々木久美さん…聞かせてくださいよ、貴女の予想を!」
 と煽るアモン。
 まさに絶体絶命のヒナタレンジャー…。
 久美も動けない…!
 果たして、この星を護る最後の希望である彼女たちの運命は…!?


(つづく)

■筆者メッセージ
※ちょっと作者の都合上、当初の設定から一期生の配色を変えました。

設定資料修正済みです。
鰹のたたき(塩) ( 2023/08/10(木) 01:12 )