後編
一方、その頃。
キャタピラーのアジトでは、目を覚ますと同時に自分が今、十字架に磔にされていると気付いた好花が唇を噛んでいた。
そんな好花の前に立ち、
「フフフ…残念だったな、ヒナタグリーン。もはやお前は変身すら出来ず、処刑を待つのみだ」
「くっ…!」
悔しいが、この怪人の言う通り…とにもかくにも変身できなければ脱出の望みはない。
悪あがきで身体を揺するも、せいぜい首の向きが変わるだけで、顎を乱暴に掴まれることにも抵抗すら出来ない。
「さーて…どうやって殺してやろうか?サンドバッグにしてじわじわ殴り殺すもよし、俺様の毛針ミサイルで跡形もなく溶かしてやるもよし、火炎放射で炭クズにするもよし…迷って決められんなぁ?フハハ!」
「す、好きにしなさいッ…!」
と強がる好花だが、この絶体絶命のピンチ…当然、恐怖がないワケではない。
しかし、それよりも、
「そ、その前に一つ…アンタたちの目的…それだけでも教えなさい…」
時間稼ぎの意味もあるが、実際に気になることでもある。
それを問われ、
「フフフ…いいだろう。冥土の土産に教えてやる」
と息巻くキャタピラーは、
「あれを見ろ」
と何やら部屋の隅にあるモニターを示すキャタピラー。
そこに映し出されたのは市街地の地図。
丁寧に各区ごとに区境の線が引かれた地図で、その各区にそれぞれチカチカと点滅するポイントが点在する。
「フフフ…あの点滅が何か分かるか?」
と聞くキャタピラーに対し、
「あれは…小学校…?」
と返すと、
「ご名答。あれは各区の小学校があるところだ。そのうち、既に西区、そして今日は南区の小学校を我々が制圧した。これを続けていくと、やがて、各区に一つずつ、生徒と教員が蒸発して廃墟となった小学校が出来てくる。それを我々ヒラガーナの前線基地、砦にするという計画なのだ」
「な、何ですって…!」
驚く好花に対し、キャタピラーはさらに続けて、
「そのためには今いる生徒や教員たちを別のところへ移動させる必要がある。それが俺様の任務というワケだ」
なるほど…それで生徒や教員たちを毛虫の姿に変え、飼育箱に詰めて運び出したというワケか。
全校生徒+教員…そんな大勢をどうやって移動させたのかが気になっていたが、それなら人目にもつかず、西区の小学校の集団蒸発の謎も解ける。
「そ、それで…その毛虫の大群はどうするつもり…?」
「さぁな。活きの良いのは取り出して元の姿に戻し、ジュニア版ガーナ兵にでも転生させるとして、動きの悪いのは…そうだな。毛虫の姿のまま餓死していくのを看取ってやるとするか」
「くっ…そ、そんなことさせるものかッ…!」
込み上げる怒り…だが、いくら憤っても十字架から降りることは出来ない。
そんな好花に、
「フフフ…子供たちの心配などしている場合か?まずはお前から始末してやるんだ。せいぜい、あの世で後からやってくるガキどもの行列を“みどりのおばさん”に扮して三途の川で迎えてやるがいい。ヒナタグリーンだけにな!」
と高笑いで吐き捨てるキャタピラー。…と、その時!
ビーっ!ビーっ!
突然、アジト内にけたたましいブザーが鳴り響いた。
「むっ…!な、なにごとだ!?」
と反射的にブザーを鳴らす天井のスピーカーに目をやるキャタピラー。
そこへガーナ兵の一人が駆け込んできて、
「イーッ!キャタピラー様!ヒナタレンジャーが現れました!」
「な、なんだとッ!なぜここが分かったのだ…!」
そのやり取りを聞いて、
(み、みんな…!来てくれたんだ…!)
と十字架の上で少しホッとする好花。
そんな安堵している間にも通路の方から近づいてくる騒がしい交戦の様子。
そして…。
「イーッ…!」
吹っ飛ばされてきたガーナ兵が壁に床を転がると同時に、ヒナタブルー(美穂)とヒナタパープル(鈴花)が雪崩れ込んできた。
「美穂!鈴花!」
思わず名を呼ぶ好花に、
「好花ッ!」
「助けに来たよ!」
と頷いて見せる二人。
「とぉっ!とぉっ!」
と、なおも群がるガーナ兵たちを鋭く重いパンチで次々にノックアウトしていくブルー。
その間にパープルは、
「好花!今そこから下ろす!」
と十字架に磔にされた好花に気付いて駆け寄ろうとするも、
「そうはさせんッ!」
と、そこに立ちはだかるキャタピラー。
「いいところへ来たな、貴様ら!俺様が返り討ちにしてくれるわ!」
と挨拶代わりに逆立つ毛を見て、
「鈴花っ!そいつの針に気をつけて!」
と十字架から声をかける好花。
その声とともに発射される毛針ミサイルだが、好花の助言のおかげであっさりと回避。
そこにガーナ兵を一掃したブルーも立ちはだかり、
「ヒラガーナの怪人!子供たちのためにある学校をお前たちの要塞なんかに変えさせてたまるか!」
「やかましいッ!片付けてやるッ!」
ブルーとキャタピラーの交戦開始。
その隙にパープルが十字架に駆け寄り、腕、脚をくくりつけるロープをほどいてくれた。
「サンキュー、鈴花!」
と十字架から開放されて降り立った好花に、
「このお礼はアイスでいいよ。高いやつね!」
と、こんな時でも和ませることを言う粋なパープルだが、そこにさらに増援として駆けつけるガーナ兵。
「くそー…!次から次へと…!」
と対峙しようとするパープルの肩を掴み、
「コイツらは私に任せてッ!ハッピー…オーラっ!」
ようやく自由になった両手を今一度クロスし、ヒナタグリーンに変身する好花。
早速、襲いかかる先頭の二人から蹴散らすと、棚に並べられた飼育箱を指差し、
「鈴花!そこの飼育箱にいる毛虫が子供たちなの!あの怪人を倒せば元の姿に戻る筈!」
と言うと、皆まで言わずとも、
「分かった!じゃあ、私はこの飼育箱を外に運び出す!」
「任せたよ、鈴花!」
「オッケー!」
飼育箱を取り上げ、退散しようとするパープルの行く手を阻むガーナ兵だが、そこに割り込むグリーン。
専用武器・グリーンウィップで見せる自慢の鞭さばきでガーナ兵たちを散らし、作った退路をパープルに走らせる。
すかさず追いかけようとするガーナ兵たちの前に立ちはだかり、
「ここから先は行かせないわよ!」
と手を広げて通せんぼ。
飛びかかってくるガーナ兵を順に蹴散らし、一掃したところでキャタピラーと戦うブルーに加勢。
「とぉっ!」
「やぁっ!」
「ぐぉぉッ…!」
二人同時のキックで壁に叩きつけられたキャタピラーは、
「おのれ!くらえッ!」
と奥の手の火炎放射攻撃。
「くっ…!」
「きゃっ…!」
優勢が一変、迫る炎から逃げ惑うブルーとグリーン。
「さぁ、どっちが先に焼け死ぬかな?」
と言いながら、だるまさんが転んだのごとく、ブルーとグリーン、交互に振り返るキャタピラー。
距離を詰めようとするたびに向けられる火炎で、迂闊に近寄れない。
そうしてるうちに、とうとうブルーが壁側に追い詰められた。
「うぅ…!」
「死ねぇぇッ!」
逃げ場を失ったブルーに向けられる火炎放射!…と、その時。
「やぁッ!」
ビシィィっ!
「ぐわッ…!
そのタイミングで加勢に駆けつけたヒナタレッド(菜緒)が隙だらけの背中に痛烈なチョップを見舞い、そしてグリーンと対になってキャタピラーの肩を引き、火炎放射の照準をズラす。
よろけて尻もち、壁に後頭部をぶつけるキャタピラー。
「ぐっ…お、おのれッ!また一人、増えおって!」
と打った頭をさすりながら起き上がると、
「かくなる上は、SOSでイグチ魔女様に助けを…!」
「無駄よ!このアジトの通信室は既に破壊した!助けを呼ぶことは出来ないッ!」
ビシッと決めるレッド。
「お、おのれ…!こうなったら三人まとめて炭クズに…!」
と次は固まった三人に向かって火炎放射。
すぐさま左右に散るブルーとグリーンだが、レッドはその場で仁王立ち。
そして、
「レッドスピア!」
と専用武器の槍を手にし、それを身体の前に構えると風車のようにクルクルと回し始めた。
赤い柄が大車輪のように高速回転し、やがてそれは扇風機のように放たれた炎をグングン押し返し、火炎放射がキャタピラーめがけてUターン。
「ぐあぁぁッ!」
自らの吐いた高温の火炎放射を自らに浴び、チリチリと焦げていくキャタピラーの顔。
「お、おのれぇ…!」
と弱ったキャタピラー。
それを見て、
「今だッ!」
と腰のホルスターからヒナシューターを抜くブルー。
そしてレッドは、
「はい、好花!」
と南小の昇降口で回収してきたヒナシューターをグリーンに返し、
「行くよ!」
「うん!」
受け取り、ヒナシューターを構えるグリーン。
そこにレッド、ブルーも息を合わせ、
「くらえっ!」
「レインボー!」
「ショットぉっ!」
赤、青、緑の三色のレーザー光線が合わさり、よたつくキャタピラーの胸部に直撃。
「ぐわぁぁぁっ…イ、イグチ魔女様ぁ…お許しをぉぉッ!」
断末魔とともに爆発し、天に召すキャタピラー。
「…よーし!一丁上がりッ!」
とガッツポーズのブルー。
レッドとグリーンも、ブルーほどのガッツポーズではないにしろ、お互いに拳を突き合わせて控え目に勝利を讃え、そして三人は、この部屋の中にあった電子機器にも片っ端からヒナシューターを撃ち込んで破壊し、アジトとしての機能を全て叩き潰して脱出。
そして最後は、キャタピラーが死に、毛虫の姿に変えられた子供たちや教員が無事に元の姿に戻ったのを確認した菜緒たち。
その中に、あのマサヤスもいて、
「あれー?俺、こんなところで何してたんだろ…?」
と、どうやら毛虫にされていた間の記憶がないらしいが、それでいい。
「さぁ、みんな。学校に戻りなさい」
と促し、ゾロゾロと帰っていく子供たちを見送った後、菜緒たちもヒナタベースへの帰路へ。
そして翌日。
またマサヤスが飼育箱を片手にヒナタベースに顔を出した。
「ほら、見て見て!今日はこれを捕まえたんだ!」
と無邪気に飼育箱をかざして成果を自慢するマサヤスに、
「へぇ…♪今日はカマキリ…?すごいじゃん♪ホント、虫捕りが上手だね。マサヤスくんは」
と、優しく接してあげる菜緒と、遠巻きに怪訝そうな顔をしている虫嫌いの丹生。
そして、そんな丹生の背後の抜き足、差し足、忍び足で近づいた美穂と鈴花が、
「…せーのっ♪」
と、どこから仕入れたのか毛虫のソフビ人形を丹生の肩に置くと、
「んぎゃぁぁぁッ!」
ヒナタベースに響き渡る絶叫で飛び上がった丹生のリアクションを見て子供たちと一緒に大笑いの面々。
笑顔の輪が出来るのは良いことだが、丹生が虫嫌いを克服できる日はまだまだ先になりそうだ…。
(つづく)
〜次回予告〜
大変だ!発電所が襲われた!
ヒラガーナが次に送り込んできた電気を自在に操るエイ怪人!
発電所を占拠した怪人は各家庭に過剰な電流を送り込み、町中を火の海にしようと企んでいる!
久美の指示で発電所奪回を目指すヒナタレンジャーだが、エイ怪人の電撃攻勢に大苦戦!
そしてとうとう、ヒナタピンク・宮田愛萌が高圧電流にやられて捕まってしまった!
ヒナタベースの場所を聞き出すため、電気椅子拷問にかけられた愛萌の運命は…!?
次回、『強敵エイ怪人!死を呼ぶ電流100万ボルト!』に、ご期待ください!