太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―












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episode-4 『負けるな好花!輝く毛虫にご用心!』
前編

 ある日のこと。
 日向公園の裏に広がる雑木林に虫取り網と虫カゴを装備して踏み入る少年マサヤス。
 彼の趣味は昆虫採集。
 幼い頃からアウトドア派の父に影響でハマり、今ではクラスメイトから「昆虫博士」と呼ばれるほど精通している。
 そんなマサヤスが、昨日、仕掛けておいた蜜の罠。
 カブトムシやクワガタがかかっていれば上出来だと予想しながら、いざ、その仕掛けたポイントへ罠の回収に向かう。
 数分して見覚えのある大木に到着。
 枝にくくりつけた罠の箱を開けると、思った通り、蜜に誘われた昆虫たちがいた。
 その顔ぶれをざっと見渡し、
「んー…カブトはいないか。まぁ、クワガタが一匹いるからひとまず…」
 と戦果の独り言を呟いていたマサヤスだが、ふと、箱の隅を這う一匹の毛虫に目が留まった。
 一瞬、目をパチパチさせた後、
「な、何じゃ、こりゃあ!?金色だぁッ!」
 なんと、キラキラ輝く黄金色の毛虫ではないか。
 取り逃がさないように蓋を閉じて足元に置き、慌ててズボンの尻ポケットから愛用のポケット昆虫図鑑を取り出してパラパラとページをめくる。
 毛虫のページになるとスピードダウンし、1ページずつ入念に目をやるが、
「ない…ないぞ…!こんな毛虫、図鑑に載ってないッ!新種だぁッ!」
 と、雑木林の中で一人、テンションが急上昇するマサヤス。
 足元に置いた罠箱を掴み上げ、大事に抱えて林の入口に停めてきた自転車に駆け戻る。
 新種の生物は発見者が名前をつけられるという話も聞いたことがある。
(僕の名前のついた虫が誕生するかもしれない…!)
 と早くも浮かれ気分のマサヤス。
 子供は純真だ。
 純真だからこそ、これを誰かに自慢せずにはいれないワケで…。
 

「きゃぁッ!やだ、やだっ!近づけないでッ!無理ッ!私、虫マジで無理だからぁッ!」
 ヒナタベースに響き渡る、つんざくような悲鳴。
 その声の主、丹生明里は、鬼気迫る表情で一目散にテーブルを離れ、部屋の隅に行ってしまったが、そんな虫嫌いの丹生とは対照的に、虫が平気な小坂菜緒は興味津々で、
「ホントだ。キレイな金色…♪よく捕まえたね」
「でしょ?すごいでしょ?でへへ…♪」
 可愛いお姉さんに褒められて満更でもないマサヤス。
 このように、最近、ヒナタベースのメインルームは、ヒラガーナのモンスター襲来などの有事でない時にかぎり、近所の子供たちに開放されている。
 それを発案したのは佐々木久美。
 そうすることで子供たちにとっては社交場になるし、逆に菜緒たちにとっても子供たちとの戯れは一時の休息になるとの考えだ。
 ここに来ればカードゲームなども揃い、外の天気が悪い時でも集まれるという利点もあって子供たちに気に入られ、最近は菜緒たちも、日に日に、遊びに来る子供たちとも顔なじみになってきた。
 その中の一人がこのマサヤス。
 彼もご多分に漏れず、いまや戦士たちともすっかり仲良しで、その証拠に富田鈴花が横から面白がって、
「マスヤスくん…丹生ちゃんがもっと近くで見たいってさ…♪持ってって見せてあげな…♪」
 とニタニタしながら小声で囁いてけしかけると、飼育箱を持って丹生に近寄るマサヤス。
「ぎゃあぁぁぁッ!こっち来ないでぇぇッ!」
 断末魔のよう悲鳴を上げて部屋から飛び出していく丹生を見て、みんなで大笑い。
 そして、オレンジジュースを運んできた松田好花も、飼育箱を覗き込み、
「ホンマすごいなぁ、この毛虫。キラキラしてるやん」
 と感心し、マサヤスに、
「これ、ホンマに新種なん?」
「そうだよ。図鑑にも載ってないからね。間違いなく世界で僕が最初に見つけた金色の毛虫さ!」
 と出されたジュースを美味しそうに飲みながら力説するマサヤスは、さらに、
「明日、学校に持っていってみんなに自慢するんだ♪」
「へぇ、そうなんやぁ♪じゃあ、学校のみんながどんな反応してたか、また教えてな?」
「うん。教えるよ」
 と言ったマサヤスは、どうやら興奮で喉がカラカラだったのか、グビグビとジュースを飲み干し、そしてその飼育箱を大事そうに小脇に抱え、帰っていった。
 自転車に乗って帰っていく背中を、
「気をつけてねー!」
 と見送った菜緒は、その背中が見えなくなったところで、ふとキョロキョロしてから隣の好花に、
「ところで、丹生ちゃんは…?」
「さぁ…?まだどっかで隠れてるんちゃう?」
 と苦笑する二人だが、ふいに背後から、
「菜緒、好花。ちょっと…」
 と呼ばれて二人で振り返ると、そこにいたのは子供たちには見せない真剣な顔をした久美で、一言、
「また気になる事件が起きた。調査してほしい」
 と言った。

 ……

 翌朝。
 忘れないよう、昨夜から玄関に置いていた飼育箱を確かに持ち、
「いってきまーす!」
 と声高らかに家を飛び出すマサヤス。
 ワクワクしているぶん、いつもより身体も軽い。
 浮かれ気分で学校に到着し、教室に入ると、早速、これ見よがしに飼育箱を机の上に置く。
 案の定、
「お!何だよ、それ」
「わぁ、すげぇ!金ピカだ!」
 と、早速、仲良しの連中に持て囃され、悪い気分はしないマサヤス。
 さらに、その歓声が周りの視線を引き、次々に寄ってくるクラスメイトたち。
 虫嫌いも多そうな女子たちですら遠巻きに集まり出すのは好奇心旺盛な小学生ならでは。
 やがて、机の周りに輪が出来たところで、ふと、取り囲む同級生の一人が、
「見ろ!何か光ってるぞ!」
 と言ったので、マサヤス自身も、
「え、どれどれ?」
 と飼育箱の蓋を開けたその瞬間、

 ボフッ…!

 突然、小さな飼育箱の中からキノコ雲のような白い噴煙が上がり、あっという間に生徒たちの輪を包み込み、たちまちその白煙が教室全体に立ち込めた。
 その白煙の中で、
「げほっ、げほっ…」
「な、何だ、これ…」
 と、むせる子供たちの声。
 一番近くで煙に巻かれたマサヤスも、
「ごほっ…ごほっ…」
 とむせていたが、ふと、
「痛っ…!」
 半ズボンから剥き出しの足に、急にチクッと針に刺されたような痛みを感じ、それと同時に急に目がかすみ、そのまま自立する力を失って机と机の間に突っ伏してしまった。
 そのまま気を失うマサヤス。
 なかなか晴れない白煙の中、。同じように、
「痛てっ…」
「きゃっ…」
 と、ふいの痛みに驚く子供たちの声がして、その直後、バタン、バタンと床に伏せる音が次々と。
 そしてようやく煙が晴れた頃には立っている子供は一人もおらず、唯一、立っているのはバケモノのみ…。
 注目を浴びていた飼育箱はカラッポ…そこから飛び出したこのバケモノの飛ばした毛に刺され、気絶した子供たち。
 やがて、真っ先に刺されたマサヤスから順に、みるみる身体が縮み始め…。

 ……

 ちょうどその頃。
 菜緒、好花、鈴花の三人は、朝から手分けして街をパトロールしていた。
 昨日、久美から告げられた新たな事件のあらまし…。


「小学校から…?」
「生徒が…?」
「消えた…?」
 揃って怪訝そうな顔をする三人に、
「事件が起きたのは西区の小学校。そこから生徒、教員が一斉に学校から消え、校舎がもぬけの殻になって大騒ぎになってる」
 そして、そのカラッポとなった小学校は、現在、閉鎖されて立入禁止となっているとも久美は言った。
「で、でも…そんな、人が消えるなんてありえますか?神隠しじゃあるまいし…」
 と菜緒が怪訝そうな顔をすると、久美は、力強い口調で、
「私は神隠しなんて信じない…けど、実際に神隠し同然のことが起きたことは事実。こんなことが出来るのはヤツらしかいない…!」
 久美の言う“ヤツら”とは、もちろん、ヒラガーナの連中のことだ。
「でも、全校生徒、プラス教員となると、それだけでかなりの人数ですよ?それだけの人を一斉に消すなんて、いったいどうやったのか…?」
 と次は好花が怪訝な顔。
 確かに、その手口が不可解だ。
 仮に学校から連れ出し、ゾロゾロと行進していては嫌でも人目につくし、そういった光景を見たという目撃証言はない。
「まるでイリュージョン…」
 と、思わず鈴花が呟くほどの奇っ怪な手口。
 そして久美は、
「とにかく…今回うまくいったことでヤツらも味を占めた筈。同じように、また別の小学校が狙われる可能性があるわ」
「分かりました。明日からパトロールを強化して調査します!」


 その任務を預かり、区域を分担した菜緒たち三人。
 好花に充てられたのは南区。
 ここにも、最初の事件が起きた西区の小学校と同程度の規模の日向南小学校、通称・南小がある。
 颯爽とオートバイを駆り、そこの生徒たちが通る通学路を巡回してきた好花。
 ひとまず今の時点ではヒラガーナの一味の気配はなく、子供たちも元気に登校している。…が、問題はむしろここから。
 前例では、通学路ではなく学校から人が消えた…つまり生徒たちの登校後に学校内で何かが起きたということになる。
(何か、ヤツらなりの特殊な手口がある筈…でないと全校生徒全員と教員を一度に連れ去ることなんてできっこない…)
 そんなことを正門の前でバイクに跨ったまま校舎を眺め、考える好花。
 そして、ふと、
(そういえば…南小ってマサヤスくんの通ってるとこちゃうかったっけ?)
 と、昨日、ヒナタベースに捕まえた金色の毛虫を自慢しに来たマサヤスのことを思い出した好花。
(マサヤスくん、人気者になれてるんかなぁ?丹生ちゃんみたいな虫嫌いの女子に嫌われてなかったらええけど…)
 と、つい横に逸れて呑気なことを考えているところで、仲間からの無線。
 まずリーダーから、
「こちら小坂。北小学校は今のところ異常なし」
 と来て、続いて鈴花からも、
「こちら富田。東小も大丈夫」
 それに対して、好花も、
「こちら松田。南小も今のところ大丈夫やわ。通学路も特に異常なしやったから、引き続き…」

 プッ、プーッ!

(…!)
 ふと、話している途中に背後からクラクションを鳴らされ、言葉を止めて振り返る好花。
 正門に入ろうとしている給食配送のトラック…運転席から顔を出した配達員が、
「おい、そこにいたら邪魔だよ。どけよ」
「あっ…す、すいませんッ…」
 バイクに跨る自分が今、正門の前を塞いでいることを思い出した。
 慌てて端に寄ると、トラックが再発進。
 好花を叱った運転手は追い抜きざまにも再度、好花を睨みつけるようにしながら学校の敷地内へ入っていく。



 通り過ぎるのを待ってから、
(…何なん、今の目。言い方も…そんな怒らんでもええやん…)
 と思いつつ、まぁ、今のは自分の不注意なので反省。
 再び無線から、
「好花…?どうかした…?」
 と菜緒の声がしたので、
「いや、何もない。気にせんといて」
 と取り繕ったものの、顔を上げ、昇降口の方へと消えていくトラックを見た時に、ふと、
(給食の配送…来るん早くない?まだ朝やで…?)
 給食といえば、当然、昼食…こんな朝のうちから届くものだったかと自身の学生時代を思い返すも、
(いや…私の時は、三時間目の最中ぐらいにトラックが来てた筈…やっぱりちょっと早いわ…)
 そう確信した瞬間、急に怪しいニオイを嗅いだ好花。
 正門脇にバイクを停め、そして…。

 ……

 そのトラックは、昇降口の前で切り返し、荷台を昇降口に向けると、ぶつかるぐらいのベタ付けで停まった。
 給食の配送トラックでありながら配膳室ではなく、なぜか生徒たちの下駄箱が並ぶ昇降口の方に停まる点が不可解だ
 そしてエンジンを停止し、降りてきた配達員が荷台の鉄扉を開けると、そこには給食など見当たらず、代わりに中に潜んでいた黒ずくめの工作員が一人、また一人と昇降口へ降り立つ。
 そんな彼らを、
「遅いぞ、お前たち」
 と言って昇降口の奥で迎えたのは、マサヤスが捕まえた金色の毛虫の本当の姿、毛虫の怪人・キャタピラーだ。



 手には飼育箱…中には無数の毛虫が蠢いていて、その数は、なんと、この学校の1クラスと同じ数…。
 その飼育箱を顔の前に持ち上げて中を眺め、
「フフフ…ここの小学校の生徒もなかなか活きが良い。毛虫に変えられてもまだ元気に動いておる。…よし、積み込め」
「イーッ!」
 キャタピラーから飼育箱を手渡された黒ずくめの工作員から、どこかで聞いたことのある奇声。
 まず1年1組のぶん、1年2組のぶん…続いて2年1組のぶん…とキャタピラーの術によって毛虫に変えられた子供たちの詰め込まれた飼育箱が次々に工作員に渡され、積み込み作業開始。
 そして工作員が、再度、荷台の鉄扉を開いた瞬間、
「やぁぁッ!」

 ドゴォッ!

「イーッ…」
 荷台の奥から飛び出してきた不意打ちの正拳突きが工作員の顔面にクリーンヒット。
「な、なにごとだッ!」
 と目をやるキャタピラーの前に、荷台から飛び降りて姿を見せた好花。
「聞いたわよ、バケモノ!その毛虫に変えた子供たちを今すぐ元に戻しなさい!」
「チッ…小娘!コソコソ聞き耳を立てていたのか!勝手に荷台の中に潜り込みおって…者ども!かかれッ!」
 キャタピラーの号令とともに、黒ずくめの工作員たちがその場でクルッと一回転するとガーナ兵の姿に早変わり。
「イーッ!」
 と、おなじみの奇声で短剣を手に好花に襲いかかるも、こんな雑兵の群れを蹴散らすのは戦士として朝飯前。
「えいッ!やぁッ!」
 蹴り上げ、ぶん投げ、そして下駄箱に叩きつけ、昇降口で大立ち回りを演じる好花。



 ただの小娘と思った好花の意外な戦闘力と、そんな好花一人相手に劣勢のガーナ兵たちの戦況に、たまらず、
「お、おのれ…役立たずども!女一人に何を手間取っておるのだ!」
 と地団駄を踏むキャタピラーに対し、
「行くわよ、バケモノっ!」
 と、雑魚の相手も程々に、陣頭指揮の怪人を標的に定める好花。
 まずは挨拶代わりのキレの良いハイキックだが、ガーナ兵と違い、あっさり見切って半歩下がるキャタピラー。
 続いて繰り出した拳のワンツーも一打目はヒットするもムニムニしたボディでノーダメージ、二打目を受け止められ、
「チッ…小娘の分際で調子に乗るなッ!とりゃあッ!」
「くっ…!」
 カウンターのワンツーパンチを一打目から受け損ない、二打目は肩口にヒット。
 よろけたところに蹴りが飛んできてこれもヒットし、でんぐり返しをするように受け身を取る好花。
 起き上がってファイティングポーズを取った拍子に、
「くらえッ!」
 キャタピラーの身体から放たれた毛針のミサイル。
「くっ…!」
 とっさに危険を察し、間一髪、側転でかわした好花。
 外れた毛針は背後にあった下駄箱に刺さり、そして、その刺さったところからうっすら煙が上がったかと思うと、たちまち、硫酸でもかけたようにボロボロと下駄箱の木が溶け始める。
 それを見て、ハッとした顔をする好花に、
「フハハ!どうだ!俺様の毒針ミサイルの威力を見たか!生身の人間なら刺さった瞬間に溶けてしまうだろう!まだまだ行くぞ!」
「くっ…!」
 飛んでくる第二弾を必死にかわす好花。
 その間にもガーナ兵たちが襲ってくる。
 短剣を振り下ろす手首を掴み、ひねり上げて盾にするも、情け容赦なく第三弾を撃ってくるキャタピラー。
 好花の代わりに毒針を被弾したガーナ兵は、
「イーッ…!」
 と断末魔の奇声とともに崩れ落ち、そのまま煙を上げて消滅。
 誤射で自分の配下が死んでいくことに何の意も介していない残忍な怪人だ。
 さらにキャタピラーが、
「おのれ、ちょこまかと…!これならどうだ!」
 毒針攻撃が止んだかと思うと、ふいに口から噴き出される火炎放射。
「きゃっ…!」
 間一髪かわした好花だが、火炎放射はさらに追ってくる。
「くっ…くっ…」
 右へ左へ避け、再度、それに乗じて襲い来るガーナ兵を盾にして凌ぐ好花。
「イーッ…!」
 火炎が直撃したガーナ兵は、煙となって消えていく。
 そんな威力の火炎…これも、いくらトレーニングを積んだ好花とて、生身で直撃したら無事では済まない。
 なおも火炎放射を続けながら迫るキャタピラー。
「フハハ!さぁ、おとなしく灰になれ!横槍を入れたことをあの世で後悔するがいい!」
 と高笑いのキャタピラーに対し、
(くっ…誰のか分からんけど、子供たち、ごめんッ!)
 と思いつつ傍らの下駄箱から靴を取り、手当たり次第に投げつける好花。
 乱れ投げをした運動靴の一足がちょうどキャタピラーの顔面に当たり、
「おぅッ…!」
 と顔を伏せたところで火炎放射が止まった。
 その隙に昇降口から飛び出し、
「とぉッ!」
 と、戦士の跳躍で偽トラックの荷台に飛び移る好花。
「チッ…待てッ!」
 と追って昇降口から出てきたキャタピラーを見下ろし、

「行くわよ、ヒラガーナ!ハッピー…オーラっ!」

 掛け声とともに腕をクロス。
 ブレスレットから緑の光が発光し、一瞬にして強化スーツに衣替え。
「なに!き、貴様は…!」
 と驚くキャタピラーに対し、
「ヒナタグリーンっ!」
 と決めポーズをとって名乗り、
「行くわよ!とぉッ!」
 宙返りをして再び地面に降り立ち、再交戦。
「くっ…き、貴様…ヒナタレンジャーの一人だったのか!」
 と舌打ちをするキャタピラーに構わず、
「えいッ!やぁッ!とぉッ!」
 と華麗な連続攻撃を決めるグリーン。
 注意するのは毒針と火炎放射…それらを撃たせまいと距離を詰め、攻撃の手を止めない。
 人間体では分が悪かった打撃戦も変身すれば互角。
 一段とキレの増したハイキックが今度はヒットし、そこからコンボに繋げると、
「ぐっ…お、おのれッ!」
 火炎放射の構え…!
 それをいち早く察したグリーンは、
「グリーンウィップ!」
 と専用武器の鞭を手に一打を見舞う。

 ピシィィっ!

「ぐわっ…!」
 ヒットとともに火花。
 厄介な火炎放射を見事にキャンセルさせると同時に、
「どんどん行くわよ!」
 巧みに振り下ろす鞭が連続ヒット。
「ぐっ…がぁっ…!」
 止まない火花とともに、確実に与えるダメージ。
 やがて、
「ぐっ…お、おのれ…」
 ふらついたキャタピラーに、
「よしッ!このままカタをつけてやる!」
 案外、口ほどにもなかった怪人…援軍を待つまでもなく、一人での勝利を確信するグリーン。
 腰の横のホルスターから取り出すヒナシューター。
 照準をキャタピラーの心の臓に当て、とどめのレーザービームを発射しようとしたが、その瞬間。

「そこまでよ!ヒナタグリーンっ!その銃を下ろしなさぁいッ!」

(…!)
 ふいに轟いた声に、思わず引き金を引く指が止まるグリーン。
 声のした方を見上げると、今しがた、自分が飛び降りた偽トラックの荷台に、いつの間にか見覚えのある女が立っていた。
 おどろおどろしい髪飾りにマント…そして、妙にセクシーな衣装を纏ったその姿を捉えるや、
「イ、イグチ魔女…!」
 あと一歩のところで、ヒラガーナの幹部・イグチ魔女の登場。
 そして彼女の手には飼育箱…中にはキャタピラーによって毛虫に姿を変えられた小学生たち…。
 それをかざし、
「ほぉら、いいのぉ?その引き金を引いたら、この飼育箱、中の子供たちもろとも私の火球で木っ端微塵にしちゃうわよぉ?」
「なっ…!」
 優勢が一転、脅されて銃口を下げることを迫られるグリーン。
 それで九死に一生を得たキャタピラーも、思わず、
「イ、イグチ魔女様…!」
「まったく…リーダーのレッドならまだしも、こんなグリーンごときに苦戦するなんて…もう少し戦闘力を高めにして生み出すべきだったかしら?」
 と肩をすくめるイグチ魔女だが、すぐに表情を戻し、
「ほら、今のうちにさっさとグリーンを始末しちゃいなさい。この飼育箱の中にいるのは子供たち…正義の戦士が見殺しに出来るワケないんだから」
「か、かしこりました…!」
 と荷台の上のイグチ魔女に一礼し、
「フフフ…よくもやってくれたな、ヒナタグリーン。倍にして返してやるぞ!」
「くっ…!」
 水を得た魚のような足取りで迫るキャタピラー。
 その後ろから、
「動くんじゃないよ、グリーン!動いたら子供たちを…これ以上は言わなくても分かるわよねぇ?」
 とイグチ魔女に牽制され、棒立ちを余儀なくされたグリーンに、
「とりゃぁぁッ!」

 ドゴォッ…!

「きゃぁぁッ…!」
 反撃の手始めは痛烈な体当たり。
 直撃の拍子にグリーンの手から離れて地面を転がったヒナシューター。
 吹っ飛ばされ、もんどり打って倒れたグリーンにすかさず馬乗りになり、マウントの状態からパンチの連打を浴びせるキャタピラー。 
「おらっ!おらぁッ!」
「がぁッ…うぁぁッ…」
「ガハハ!ほら、どうした!さっきみたいにまた戦おうではないか!何だ?打ってこんのか?このまま嬲り殺しにされてもいいのか、ヒナタグリーンっ!」
 そんな挑発をされても、子供たちの命には代えられない。
 抵抗すれば殺される…それも、怪人の術で毛虫の姿に変えられたまま…。
(こ、子供たちは未来の宝…見殺しにするワケにはいかない…)
 その思いを無視できず、為す術なく痛めつけられるグリーン。
 そして、気が済むまで殴った後、
「よし、立たせろ!」
「イーッ!」
 ガーナ兵たちに抱えられ、立たされるグリーン。
 それを的に、
「さぁ、火炙りの刑だ!苦しめ!苦しめ!」
 と警戒していた火炎放射攻撃。
「うあぁぁッ…!」
 強化スーツを持ってしても防げない高温。
 それを、直撃ではなく、あえて炙る程度…文字通り、火炙りにして苦痛を与えるキャタピラー。
 苦しむ声を上げても、支えるガーナ兵たちが手を離してくれない。
 あまりの熱さに緑色のマスクの中の、好花の素顔も瞬く間に汗だく…。
 そして、その様子を眺めるイグチ魔女が、
「キャタピラー。私は帰るわよ。あとはそのままグリーンを焼くなり煮るなり好きにして、さっさと任務を遂行しなさいね」
「はいっ!かしこまりましたっ!」
 キャタピラーの返事とともに飼育箱を足元に置き、フッと消え去ったイグチ魔女。
 これでようやく、無抵抗になる理由はなくなった。…が、もはやグリーンに反撃に転じる力は残っていない。
 たちまち、
「うぅっ…」
 火炙りにされ、崩れ落ちるように足を折ったヒナダグリーン。
 同時に変身が解け、松田好花の姿に戻ると、着ていた服も焦げてボロボロ…。
 そのまま前のめりに倒れる身体をガーナ兵に支えられると、
「グフフ…気を失いおったか。よーし、連れてこい!アジトで処刑にしてやる!」
 息巻くキャタピラーの声で、改めて小学生たちを毛虫に変えて詰め込んだ飼育箱を、そして、飼育箱に続いて気絶した好花を荷台に積み込むガーナ兵たち。
 そこにキャタピラー、そして数人のガーナ兵も一緒に乗り込んだところで鉄扉が固く閉じられ、再び運転手に化けたガーナ兵が何食わぬ顔でトラックを発進させる。
 向かう先はもちろん、キャタピラーの秘密アジト…到着次第、早速、好花の処刑を始まるつもりだ…!

 ……

 それから一時間後。
 好花との無線が途絶えたことを不審に思った菜緒と鈴花は、それぞれの持ち場を離れ、好花がパトロールした日向南小学校で落ち合った。
 合流して早々、正門の横に停められた好花のバイクをまず確認。
「ここに停まってるということは、学校の中に入ったってことだよね…」
 と首を傾げる鈴花に、
「…行ってみよう」
 と決断し、一足先に歩き出す菜緒。
「ちょ、ちょっと!菜緒!そんな、勝手に入って大丈夫なの?怒られるよ」
 と不安げな鈴花に対して、
「こっちには事情がある。怒られたら謝ればいい」
 と、こういう時にかぎり、猪突猛進になる菜緒。
 そのまま昇降口まで進み、中を覗いたところで、菜緒は不自然に散乱している無数の靴と、側面にぽっかり妙な穴が空いた下駄箱を発見した。
 散らばる靴は何足か焼け焦げている。
 まるで火の中に飛び込んだような焦げ方に首を傾げる菜緒。
 すると、背後で、
「菜緒!ちょっと来てッ!」
 と鈴花の声がして振り返ると、なんと、傍らの花壇のところに自分たちも愛用するヒナシューターが転がっていた。
 試しに空に向けて試射。
 ヒナタグリーン・好花のカラーにちなんだ緑色の光線が出たのを見て、
「好花のだ…!」
 と確信する二人。
 ヒナシューターは、二人も手首に巻いている変身ブレスレット・オーラブレスの中に圧縮内蔵されており、変身と同時に強化スーツとセットで身体に装着される。
 それが落ちているということは、つまり…。

(ここでヒナタグリーンに変身した…?)

 変身…すなわち変身を要する事態、ヒラガーナとの交戦が起きたことを意味する。
 ただちにそれをヒナタベースに無線報告する菜緒。
「つまり、好花がヤツらの手に落ちた可能性が高いってことね…!」
 と久美の緊迫した声が返ってきたので、
「隊長。そっちで好花のヒナタブレスの位置情報を探索して、居場所を割り出せませんか?」
 ヒナタブレスとは、戦士たちが手首に巻く変身ブレスレットのこと。
「オッケー!任せて!…陽子っ!」
 と、向こうで解析班の新米・正源司陽子を呼ぶ声がして、
「ただちに好花のヒナタブレスの位置を検索!」
「はいッ!」
 威勢の良い陽子の返事が無線越しにも聞こえる。
 そして、菜緒と鈴花が自分たちのマシンに戻り、跨ったところで再び久美からの無線が入って、
「菜緒!鈴花!好花のヒナタブレスの位置情報が特定できた。場所は…」
 教えられる特定位置を聞き、
「…了解!」
 返事と同時にアクセル全開。
「美穂もすぐ応援に向かわせる!現地で合流して!」
 と言われ、こうして菜緒と鈴花は、囚われの身になったと思われる好花の救出に急行した。


(つづく)


鰹のたたき(塩) ( 2023/03/05(日) 01:11 )