太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―









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episode-3 『危うし菜緒!死のスキューバダイビング!』
後編
 一旦、ヒナタベースに帰還した一同。
 その足で菜緒は隊長室に出向き、早速、隊長の久美に進捗を報告。
「…なるほど。やっぱりヤツらの仕業だったのね」
「ええ。水中に特化したガーナ兵が奇妙な色のフグに擬態して海底で待ち伏せし、近寄ってきたダイバーを片っ端から捕獲して攫っているに違いありません」
「それで、その攫われた人たちはいったいどこに?」
「おそらくですが…あの珊瑚地帯の海底のさらに地下にヤツらのアジトがあり、そこへ収容されているのではないかと」
「となると、こちらから乗り込まないと攫われた人たちの救出は難しいってことね?」
「はい…」
 虎穴に入らずんば虎子を得ず…というワケだ。
 久美は肩をすくめ、
「それで、どうなの?菜緒。救出は可能なの?」
「はい、やります。…いや、やらないといけません」
 と力強く断言する菜緒。
「作戦は?」
「あります」
 と食い気味の返事をされ、久美は、菜緒の顔を見据えた後、苦笑して、
「どうも何か危険なことを考えている顔に見えるけど…?」
「ヒラガーナとの戦いに危険は付き物…覚悟の上です」
「…止めても無駄ってことね?」
「他に思いつきませんし、違う方法を考えている時間が惜しいです」
「……」
 菜緒がここまで強気な目をしている時は、たとえ久美が止めても聞かない…それを久美自身もよく分かっている。
 だからこちらが折れて送り出す以外にないが、やはり手塩にかけて育てた愛弟子だけに心配も消えない。
 久美は立ち上がり、壁に掛かる出初めの時の集合写真を見上げたまま、
「ヒナタレンジャーには、誰一人、代わりなんていない…必ず無事に帰還すること。それだけは約束してね?」
「…はい!」
 礼をして部屋を出ていく菜緒。
(まったく…)
 と肩をすくめる久美だが、もちろん彼女も知らん顔をするワケではない。
 自身が味わった無念のリベンジを託した愛弟子には、隊長として、サポートに全力を注ぐ。

 ……

 悠長にしている時間はない。
 その間にも、次々、ダイバーたちが海底で襲われ、攫われている。
 それを看過できない菜緒が作戦の決行したのは翌朝。
 再びボートを借り、昨日と同じポイントへ。
 その途上、ウェットスーツに着替え、じっと海面を見つめている菜緒に近寄り、
「ねぇ、菜緒…?やっぱり、せめて私だけでも一緒に…」
 と心配そうな顔で打診する美玖に、
「いや、私一人の方がヤツらも油断してナメてかかる筈…その隙を利用する」
 と言って早くもゴーグルを着ける菜緒。
 菜緒が考える囮作戦…自らを捕獲させ、アジトに連行されることで潜入するという算段だ。
 もちろん不測の事態への備えも抜かり無し。
 小型の発信機をウェットスーツの中に忍ばせ、万が一の場合は美玖たちがすぐに応援に駆けつける。
 そして例のポイントに到着し、勢いよく飛び込んだ菜緒。
 見せかけのカメラを手に、海中で映える写真を撮りたい単身の女ダイバーを装い、昨日の珊瑚地帯を目指す。
 相変わらず水質はキレイで、底に着いても見通しが良い。
(確か、あのあたりだった筈…)
 と、昨日、濱岸がガーナ水兵に襲われていたあたりを思い出し、そこをうろつく。
 数分して、
(…来たッ!)
 予想通り、頭上に現れたフグの群れ…。
 それを見上げた菜緒は、まだ自分からは近寄らず、カメラを向けたりして無警戒を装って引き寄せる。
 あとは、このフグの群れが擬態を解いてガーナ水兵となり、まんまと捕まるフリをしてアジトまで…と思っていた次の瞬間!

「…ぐっ!」

 不意に背後から音も立てずに襲いかかった野太い触手が、菜緒の首に巻きつき、締め上げた。
(なっ…!)
 昨日と違った展開で、一瞬、対応が遅れた菜緒。
 その触手は、もがく菜緒の身体を軽々と水中で持ち上げ、振り回す。
 苦悶する中、首に巻きつく触手が海底の砂の中から伸びていることを確認した菜緒。
(こ、これが…あの写真に写っていたものの正体…!?)
 と思ったところで、その砂の中から不敵な笑い声とともに姿を現すタコの化け物。



「グフフ…待っとったぞ、ヒナタレンジャー!何食わぬ顔で我がアジトに入り込もうという算段じゃろうが、そうはいかん!」
(くっ…ヒ、ヒラガーナの怪人っ…!)
 という驚きもあるし、
(バ、バレてるッ!)
 と囮作戦があっさり看破されていることにも驚きもある。
 もがく菜緒を締め上げ、
「無駄じゃ、無駄じゃ。タコの遺伝子によって生まれし海の悪魔、オクトパス…人間ごときが水の中でワシに敵うと思うとるのか?ホームとアウェーの差を思い知らせてくれるッ!」
(ぐっ…!く、苦しい…!)
 いくらもがいても固く巻きつき、締まった触手がほどけない。
 さらに、

 プシュゥゥっ…!

(きゃっ…!)
 不意に怪人の口から発射された墨が菜緒のゴーグルの上にべっとりと貼りついた。
 視界を奪われ、ますますピンチ…それと同時に、
(この墨…!あの煙幕と同じ…!)
 と、昨日、海底から煙幕を張って横槍を入れたのもこの怪人だったと今になって気付く。
 やがて、もがく菜緒に絡みつく触手が、もう一本…さらに一本と増え、身体の自由を完全に奪われてしまった。
 目も見えない中、耳元で、

「グフフ…ワイのアジトが見とうて来たんじゃろう?ならば心ゆくまで案内しちゃろうじゃないの…♪たっぷりもてなしちゃるけぇ…♪」

 と不敵に囁いたオクトパスは、そのまま、触手で雁字搦めにした菜緒を、ゆっくりと海底の砂の中に引きずり込んでゆく…。
(くっ…ま、まずい…!)
 膝が…腰が…そして、とうとう首までもが…。
 みるみる砂の中に引きずり込まれていく菜緒のつま先に、ふと、何やら硬い金属の取っ手のようなものに、ガンっ…と当たった。
(…!)
 その取っ手にも器用に触手を絡めるオクトパス。
 ハッチを開け、
「ほれ、早う入らんか」
 と、次は、その中に菜緒をいざなう。
(や、やっぱりアジトは海底に…!)
 …と、その時。

「シューターっ!」

 海中に響いた掛け声とともに、まもなく全身が砂の中に埋まるというオクトパスの最後に残った後頭部に、間一髪、黄色のレーザー光線が直撃。
「だあぁっ!?あっちっちッ!あっちっちッ!」
 水中爆発で焦げついた瞬間、せっかくほぼ全身を埋めた身体を再び海中に飛び出すオクトパス。
 それに引っ張られて雁字搦めにされた菜緒の身体も再び海中に戻る。
「あちあち…だ、誰じゃ!こんな熱っちいの、ワシに向かって撃ってきたヤツは…!」
 ギロッとした目で頭上を見上げると、そこにいたのはヒナシューターを構えたヒナタイエロー。
「見つけたわよ、ヒラガーナっ!覚悟しなさいっ!」
 海中に轟く啖呵の声色…そして、海底の砂利が擦れたことでかすかに剥がれたタコ墨の目潰しの隙間から見えた黄色い人影で、
(み、美玖…?)
 と仲間の救援に気付く菜緒。
「おのれ…ワレも昨日おったヤツじゃのぉ…邪魔しおって!」
 と憤るオクトパスだが、さらに、また別の方向からも、

「シューターっ!」

「だああッ!?」
 黄色の次は黒色の光線…ヒナタブラックだ。
 次は背中が焦げつき、思わず雁字搦めにして捕縛した菜緒の身体を手放したオクトパス。
「おのれ…次から次に代わりばんこに出てきおって…どうせならいっぺんに出てこいっちゅうのっ!」
 と憤り、ブラックを睨むオクトパスの傍ら、解放され、海中を漂う菜緒の身体を受け止めたイエロー。
「菜緒!しっかり!」
 と檄を飛ばすとともに、菜緒の真っ黒けのゴーグルをグローブで擦り、付着した墨を取ってやる。
「大丈夫!?」
 という問いに、仕切り直しとばかりに力強く頷いて返した菜緒。
 支えるイエローの腕から身体を起こすと、

(ハッピー…オーラっ!)

 両手のクロスとともに赤い光を放ち、ヒナタレッドに変身。
 そして三人はオクトパスを取り囲むように三角形の陣形となり、改めて、
「ヒナタレッド!」
「ヒナタイエロー!」
「ヒナタブラック!」
 と決めポーズ。
 それを見て、
「うぬぬ…敵ながらカッコええじゃないの。だが水中いう時点で地の利はワシにある。三人まとめて片付けてくれるわ!」

 シュルルル!

 軟体動物らしく、三方向に一斉に伸ばした触手。
「くっ!」
 腕を絡め取られたレッド。
 同じくイエローは脚を、そしてブラックは腰に絡みつかれた。
「グフフ…かかったな!それっ!」
 そのままギュルルル…!と身体を高速回転させ、三人まとめて振り回すオクトパス。
「きゃぁぁッ!」
「くらえぇッ!ワシの必殺、タコ足サイクロンだぁぁッ!」
 海底に渦を起こす高速スピン…獲物を絡め取って振り回す姿はまるで遊園地の遊具だが、実際に振り回されている方はそんな楽しいものではない、
「さぁ、このまま一人ずつ岩礁に叩きつけて粉々にしてくれる!レッド、イエロー、ブラック…誰が最初にぶち当たるかな?グフフ…♪」
 勝ち誇った笑みととともに、三人を振り回したまま、近くの巨大な岩礁へ向かって移動するオクトパス。
「くっ…!」
 水中とはいえ、この凄まじいスピンの勢いで岩礁めがけて叩きつけられたら、いくら強化スーツを纏っていようと無事では済まないだろう。
(か、回転を…アイツの回転を止めないと…!)
 と分かってはいるものの、もはや体勢を立て直すこともできないぐらい遠心力がついてしまって為す術がない三人…万事休すか…!
 …と思ったその時!

 ギュゥゥゥン…!

(…!?)
 凄まじいモーター音とともに海底を疾走してきた水中バイクが、回転に夢中のオクトパスの勢いよく撥ね飛ばした。
「ぎゃぁぁッ!」
 よりによって背中を向けたところに直撃し、鈍い音とともに吹っ飛んで真っ先に自分が岩礁に叩きつけられたオクトパス。
 その衝突のダメージたるや、三人を絡め取る触手が根元からちぎれてしまったほどだから相当なモノ。
 そして、無力化した触手を剥がして海底に投げ捨て、あっけにとられる三人の前に、もう一台、同じ水中バイクがやってきた。



 跨っているのはヒナタホワイト。
「ひ、陽菜…?」
 と、目が点の三人の前に、オクトパスを撥ね飛ばしたヒナタオレンジ(丹生)のバイクも、巧みなハンドル捌きで合流。
「に、丹生ちゃん…!」
「どうしたの、それ…?
 と、初めて見る水中バイクに戸惑うイエロー、ブラックに、
「えへへ…すごいでしょ、これ♪」
「隊長が造って持ってきてくれたの♪」
 と答えるホワイトとオレンジ。
 さすが久美。
 水中戦を強いられて苦戦することを見越し、急造でこんなものを。…と、そこにフラフラと漂いながら起き上がってきたオクトパス。
「イテテ…やい、よくもやってくれたな!おかげでワシの大事な触手が三本もちぎれて…絶対に許さんぞ、貴様ら!」
 怒り心頭のオクトパスだが、こちらも五人揃い、さらに地の利を無効化する高性能水中バイクもあれば形勢逆転。
 再び水中バイクを駆ってオクトパスを翻弄するオレンジとホワイト。
 ジェットエンジン搭載の馬力は素晴らしく、オクトパスが目くらましに吐き出した煙幕もあっという間に散らしてしまう。
 そしてオクトパスが走り回る水中バイクに気を取られている隙に、専用武器・イエローフリスビーを構えたイエロー。
「イエロースライサー!」
 と叫んで勢いよく投げつけた円盤は黄色い閃光となり、ギザギザの刃を生やしてオクトパスめがけて一直線。
「…おわッ!?」
 背後から飛んできた円盤に気付いた時には、もう手遅れ。
 さらに三本、自慢の触手を切断され、悲鳴を上げるオクトパス。
「ぐっ…くそぉ…」
 当初は八本あった触手が残り二本となり、立ち泳ぎのバランスが悪くなったのは明らか。
 そして、そんなオクトパスを見据え、横一列に並んだ五人の戦士たち。
 とどめはヒナシューターを五人同時に発射する合わせ技。

「レインボーショット…発射っ!」
 
 リーダーのレッドの合図とともに五つも銃口から放たれたレーザー光線が混じり、虹色に輝く太いビームとなってオクトパスの胴体に直撃!
 そのまま体内に吸い込まれたかと思うと、次の瞬間、
「ぎゃぁぁぁッ!」
 一旦は吸い込んだビームが揺り戻しのように膨れ上がり、オクトパスは断末魔の叫びとともに、

 ドゴォォン…!

 豪快な水中爆発とともに木っ端微塵…文字通り、海の藻屑となった。
(よし…!)
 と、それを見届けた五人だが、勝利の余韻に浸るヒマもなく、すぐさま海底を探り、砂に隠されていた地下アジトへの入口を発見して突入。
 主導者を失い、士気の下がったガーナ水兵はもはや五人の敵ではなく、あっさり制圧し、牢屋に収容されていた囚われのダイバーたちの救出に成功した五人。
 その後、無人となった海底アジトは出来れば爆破して解体したいところだが、それをするとその衝撃で海底の地形が変わり、この美しい珊瑚地帯にも影響が及ぶ。
 ここはダイビングスポット…それを壊すワケにはいかないという判断から、アジト内の機器を全て動作不能にした上で、出入口のハッチを二度と開かないように接着するので精一杯。
(さて…どうしたものかな…)
 と考えた結果、そこに『恋人の聖地』と書かれた看板を立てることを提案したロマンチストの美玖。
 そのアイデアが功を奏し、おかげで、それ以来、ダイバーカップルが珊瑚地帯での海中デートを楽しんだ後、その開かずのハッチに南京錠を取りつけて帰るという新たなデートコースが完成。
 それ以来、しばらく美玖は、これを自分の手柄だと周りが聞き飽きて呆れるまで自慢し続けていた。


(つづく)


〜次回予告〜

昆虫採集が趣味のマサヤス少年が捕まえた金色の毛虫…クラスメートに見せびらかそうと学校に持っていったマサヤスだが、その正体はヒラガーナが生み出した新たなモンスター、ケムシ怪人だった!
たちまち毛虫の毒に冒され、バタバタと倒れる子供たち…!
その一報を聞き、調査に向かった松田好花だが、対峙したケムシ怪人は卑怯にも子供たちを人質にする!
投降を迫られ、やむなく捕らわれた好花に迫る処刑の時…!
次回、『負けるな好花!輝く毛虫にご用心!』に、ご期待ください!



鰹のたたき(塩) ( 2023/01/09(月) 02:14 )