太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―









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episode-2 『恐怖の吸血コウモリ!奪われた血が躍る!』
前編
 ある日の午後。
 この星を守る戦士、ヒナタレンジャーの一員である渡邉美穂と富田鈴花の仲良しコンビは、今日も二人でペアを組み、ヒラガーナ海賊団の一味が悪事を働いていないかと街をパトロールしていた。



 シンメトリーのように道路の両脇に分かれ、すれ違う人の顔色や様子を見ながら繁華街を歩く。
 そして終端まで辿り着くと再び合わさり、二人で、
「…よし。大丈夫そうだね」
「異常なし!」
 と言い合ってパトロール終了。
 早速、今日も街は平和だということを隊長の佐々木久美に無線で報告し、
「オッケー。ご苦労様。気をつけて帰ってきてね」
 と労いの言葉をかけてもらって、ヒナタベースへの帰路につく二人。…と、そこで鈴花が、
「…美穂、ちょっと待って!」
「なに?」
「あれ見て!」
 と鈴花が指差した方に、つられて目をやる美穂。
 てっきり、異常なしと無線報告した矢先にヒラガーナの一味が現れたのかと身構えたが、その視線の先にあるのは何の変哲もない献血車。



 白衣を着た若者が街頭に出て協力の呼びかけをしている。
 そして鈴花が気に留めたのは、献血車そのものではなく、おそらく、その車に立て掛けられた看板…。

<協力していただいた女性の方にもれなく試供品の保湿美容液を無料プレゼント♪>

「…ねぇ。いい機会だから二人で献血して帰ろうよ。私たちももっと社会に貢献しなきゃ!ほらっ!」
 と口にする鈴花だが、失礼ながら普段そういうタイプではない。
 美容液のプレゼント目当てなのがバレバレだ。
 星を守る戦士といえど普段は女性…美容に興味がないワケはない。
 美容液に釣られたか、それとも無料に釣られたかは不明だが、
「行こうよぉ。ほら、すぐ終わるって書いてあるじゃん♪」
 と目を輝かせながら美穂の腕を引っ張る鈴花。
「えー…私はいいよぉ。一人で行ってきなよ」
 と言っても、
「何でよぉ。私も一人だと恥ずかしいからさ。ほらっ、今なら混んでなさそうだからすぐ済むって」
 と言って腕を離さない。
「もぉ…」
 仕方なく折れて付き合う美穂。
 なおもグイグイと美穂の腕を引っ張って献血車に寄っていき、近くにいた白衣のスタッフに、
「協力します!」
 と元気に声をかける鈴花。
 するとスタッフは穏やかな笑顔で問診票を挟んだバインダーを二人に配り、それを書き終えると、
「では、お一人ずつ、ご案内していきますね」
 と、まずは鈴花が献血車の車内へ。
 鈴花が乗り込むと同時に、バタンっ!と献血車のドアが閉められたことに、あとから思えば不審に思うべきだった。
 雑音をシャットアウトするために、その都度、閉めているものと勝手に考えてしまった美穂。
 そして5分ほど待って再びドアが開き、鈴花がお目当ての美容液を貰って出てきた。
 笑みを浮かべて嬉しそう。
 そして、
「次の方、車内へどうぞ」
 と言われ、鈴花と入れ替わりに乗車する美穂。
 鈴花の時と同じく、バタンっ!とドアが閉められ、密室となった車内には温和な雰囲気の医師と、二人の看護師がいた。
 簡易ベッドへ案内され、
「ご協力ありがとうございます。では、早速、採血していきますね…」
 と微笑む医師だが、ふと美穂は、その医師がそれらしい器具を何も持っていないのが気になった。
 普通に考えれば注射なのだが、この医師は何故か手ぶら。
「え…ど、どうやって採るんですか…?」
 と聞く美穂に対し、その医師はニヤリと笑って平然と一言、

「ご安心ください。私が“噛みついて”吸血します…♪」

(…え?)
 一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
 そして次の瞬間、ふいに車内の照明が消えた。
「えっ?な、何っ?」
 車内が急に薄暗くなって戸惑う美穂だが、医師の方に視線を戻すと思わずその目を見開いた。
 薄暗い中で捉えた医師の人影…消灯するまで人間だった筈が、今、見直すと翼を持ったバケモノに変身していたからだ。
 ギラリと光る二つの目…そして不気味に光る白い牙…。



「くっ…!」
 その人間離れしたシルエットに、一瞬で、
(ヒラガーナのモンスターだ!)
 と気付き、反射的にベッドから起き上がろうとする美穂だが、その逞しい腕を掴んで無理やり押さえつける看護師たち。
 キッとした目を向けると、その看護師たちもいつの間にか、ヒラガーナ海賊団の雑兵・ガーナ兵に姿を変えていた。
「は、離せっ…!」
 もがく美穂に、
「ケケケ…俺様はコウモリの遺伝子から造られたモンスター、バット!さぁ、女ッ!お前の血“も”頂くぞ!」

(お前の血“も”?“も”ってことは、鈴花も…!)

 そんなことが頭をよぎった隙に、狭い車内いっぱいいっぱいに翼を広げ、覆い被さってくるモンスター。
 日頃、体術には自信がある美穂も、無防備な仰向けで、しかも両腕を掴み上げられた状態の時にかかってこられては、さすがに話にならない。
「くっ…す、鈴花ぁッ!」
 と声を上げるも、ドアは閉じられて密室。
 その口にガーナ兵の手の平で蓋をされたところで、むしゃぶりつくように顔を近づけたバットの牙が、美穂の首筋に食い込み、そして…。

 ……

 一時間後。
「ただいま戻りましたぁ」
 と美容液を片手にヒナタベースに帰還した鈴花と美穂。
 メインルームで迎えた久美が、
「おかえりなさい。…あれぇ?何それ?二人して、よさそうなの持ってるじゃん」
 と声をかけつつ、すぐに表情を引き締めて、
「二人とも、帰ってきたばかりで申し訳ないんだけど、ヒラガーナの一味が街に現れた。すぐ出動してくれる?」
「はいっ!」
 力強く頷き、貰ってきた美容液をテーブルの上に放り出して駆け出す二人。
 マシンルームに行くと、まさに今から出動せんとする小坂菜緒、松田好花、宮田愛萌が準備をしていて、
「美穂、乗って!」
 と、出動用マシン・ヒナタジープの車内から手招きをする愛萌。
 美穂が後部座席に飛び乗ったのを確認すると同時に、
「出すよっ!」
 と言ってアクセルを踏み込み、発進させる運転席の好花。
 一方、鈴花も、壁に掛かったヘルメットを取り、それを装着してリーダーの菜緒とともに出動用バイク・ヒナターボを駆り、アクセル全開で飛び出す。
 五人が向かった先は南街区の市民公園。
 到着すると、普段は家族連れで賑わう緑豊かな公園で、ガーナ兵へ転生させる人材を集めるための人間狩りが行われている真っ最中だった。
 指揮を執るのはもちろん、あの女幹部、イグチ魔女!
 お楽しみのところ、ジープとバイク二台の到着に気付くと、
「チッ…また邪魔しに現れたわね、ヒナタレンジャー…!」
 と、舌打ち。
 乗りつけたマシンから飛び降り、一斉に散らばる戦士たち。
「えいッ!やぁッ!」
「たぁッ!」
「とぉッ!」
 威勢のいい掛け声とともに、鮮やかなキック、鋭いパンチ、キレのあるチョップ、そして投げ技で次々にガーナ兵を一掃していくメンバーたち。
 さらに、
「グリーンウィップ!」
 と、モチーフのカラーリングが施された専用武器を取り出す好花。
 巧みな鞭さばきで一人のガーナ兵を絡め取ると、そのままハンマー投げのように振り回して勢いをつけ、そのガーナ兵の身体をぶつけることで数人まとめて薙ぎ倒す。
 そのたびに、
「イーッ…ヤラレター…!」
 と言ってバタリと倒れ、そのまま空気の抜けた風船のようにしぼんで消えていくガーナ兵だち。
 そんな雑魚相手に獅子奮迅の戦いを見せる好花を尻目に、イグチ魔女めがけて突進する菜緒、美穂、鈴花。
「おのれ、貴様ら…いつも邪魔ばかりしおって!」
 と憤るイグチ魔女を睨みつけ、
「イグチ魔女!今日こそカタをつけてやるわ!」
 と啖呵を切る菜緒。
 両脇の二人にアイコンタクトを送り、いざ変身!…というところだったが、

「ハッピー…オー…ぐっ!」

 手をクロスさせ、ヒナタレッドに変身というところで、不意に両脇からの蹴りをモロに食らって前屈みになる菜緒。
(えっ!?)
 傍らで戦う愛萌と好花も思わず驚く、鈴花と美穂の不意打ち。
 さらに二人は、蹴られたお腹を押さえて前屈みになった菜緒の腕を掴み、息を合わせて空へ放り投げる。
「きゃっ…!」
 空中でどうにか体勢を立て直し、受け身をとって着地した菜緒。
 そこにすかさず好花と愛萌が駆けつけ、
「菜緒、大丈夫!?」
「しっかりして!」
 と菜緒の身体を抱えて起こす。
 三人に浮かぶ戸惑いの色。
「す、鈴花!美穂!どうしたっていうの!?」
 と叫ぶ菜緒に対し、虚ろな目で対峙する二人。
 すると、そこに頭上からバサバサと羽音がして、バケモノが飛来した。
 そのバケモノに対し、
「いいところへ来てくれたわね、バット!」
 と笑みを浮かべるイグチ魔女
「くっ…ヒラガーナの…」
「新手のモンスター…!」
 緊迫する好花と愛萌に対し、
「ケケケ…いかにも!ヒラガーナの吸血コウモリ、バット様だ!」
 と名乗ったバットは、続いて、美穂と鈴花にチラッと目をやり、

「これはこれは…お前たち、まさかヒナタレンジャーの一員だったとは願ってもない収穫だ…♪」

 その一言を聞きつけ、
「貴様っ…!その二人に何をしたの?」
「さぁな!教える理由などない!お前たち、やれっ!」
 と菜緒の詰問を一蹴し、二人に指示を出すバット。
 すると、どうしたことか、こんなバケモノの指示に従い、菜緒たちに向かって駆け出す美穂と鈴花。
 鈴花が菜緒に、そして美穂が愛萌と好花の二人に、それぞれ襲いかかる!
「くっ…!す、鈴花っ!バカなことはやめて…!」
 と防戦一方の中、呼びかける菜緒の声も届かず、黙々と拳打を繰り出す鈴花。
 一方の美穂も、普段なら頼りになる怪力を二人に向けて発揮し、好花を接近戦でグイグイ攻め立て、愛萌の華奢な身体を軽々と投げ飛ばす。
「み、美穂ッ!冗談はやめて!」
「私たち、仲間でしょ!?」 
 と懸命に呼びかける二人の声も届かず、それどころか対峙して不敵な笑みを浮かべる始末。
 その光景に、
「アハハ♪ヒナタレンジャーで仲間割れとは愉快な話!そのまま味方同士でやり合いなさいっ!」
 と高笑いのイグチ魔女と、その横でご満悦そうなコウモリの怪人。
 防戦一方の中、その二人を…というより、バットの方をチラッと見る菜緒。
(あの怪人だ…!あの怪人に操られているに違いない…!)
 ということは何となく想像がつくが、標的をそっちへ移そうにも、そのたびに前に立ちはだかる鈴花。
「くっ…!」
 なおも無言で繰り出してくるパンチ、キックが徐々にヒットし始め、追い詰められていく菜緒。
 操られていようが大切な仲間…対峙することに躊躇が芽生え、思うように戦えない。
 チラッと背後を見ると、美穂も、その自慢の腕っぷしで好花の首を締め上げ、それをほどこうと掴みかかる愛萌をいとも簡単に振り払っている。
 バットが、声高らかに、
「よーし!遊びは終わりだ!一人ずつ、とどめをさせ!」
 と命じるとともに、手先と化した二人の眼が変わった。
 これまでの比ではなく、明らかに仕留めにきている眼…。
(ど、どうすれば…)
 迷う菜緒…だが、迷っていたらやられる…!
 戦い、撃破する以外に方法はない。…と、その時!

 ビビビビっ…!

「うっ…!」
 突然の電磁音とともに膝をつく鈴花。
 続いて、もう一発、

 ビビビビっ…!

「ぐっ…」
 横から飛んできた電撃を受け、美穂も膝をついた。
 不意に浴びせられた電撃光線で一時的に身体が麻痺する二人。
「な、なにっ!」
「なにやつッ!」
 イグチ魔女とバット、そして劣勢に陥っていた三人が一斉に光線の飛んできた方に目を向けると、そこにいたのは電撃銃を手にした久美…!
「た、隊長ッ!」
 と声を上げる菜緒に目もくれず、相手方を…いや、イグチ魔女をじっと見据える久美。
 その鋭い視線を向けられたイグチ魔女は、
「…ん?貴様…どこかで見たことが…」
 と呟き、急にハッとした顔で、
「貴様は…!あの時の…!」
「……」
 どうやら、一年前のことを思い出したらしい。

(※プロローグ参照)

 その時の無念を込め、なおも目線を切らずに電撃銃を構える久美。
 銃口を向けられたイグチ魔女は、しばらく硬直していたが、ふと、謎が繋がったというようにクスクスと笑いだし、
「なるほど…そうか、そういうことね…そりゃあ、意地でも私たちの邪魔もしたくなるのも無理はない…ご丁寧に後継者まで募って第二ラウンドとは…やれやれ…」
「……」
「フフフ…久しぶりねぇ?佐々木久美。よく生きていた。てっきり絶望して自殺でもしたかと思っていたけど、どうりでいくら樹海や水底を漁っても一向に死体が見つからなかったワケね」
「……」
 イグチ魔女は話を続け、
「この久々の再会、ネルネル様もたいへん喜ばれることだろう。あの時、リーダー格の貴様をみすみす逃したことを、相当悔やんでいたからねぇ?」
 不敵な笑みを浮かべるイグチ魔女は、さらに、
「せっかく一年越しに再会したのだ。あの時、貴様が失った大切な仲間の末路でも教えておこうか?そうねぇ…誰から聞きたい?たとえば、お前の相棒、加藤…」
 そう口にした瞬間、

 ビビビビっ…!

 キッと鬼の形相になって電撃銃の引き金を引いた久美だが、わずかに早く、それを予期してテレポートで消え去ったイグチ魔女。
「くっ…!」
 久美にしては珍しく舌打ち、そして唇を噛む。
「き、貴様っ…よくもイグチ魔女様にそんなものをッ!」
 と横で憤るバットが久美に襲いかかろうとするが、素早くその前に立ちはだかる菜緒、好花、愛萌。
「くっ…おのれ…」
「ヒラガーナの怪人!操った二人を元に戻しなさいっ!」
 と声を上げる菜緒だが、バットは笑って、
「ケケケ。もう遅い…二人は我がしもべとなったのだ!見ろ!」
 声を上げるとともに、その両脇で膝をついていた二人が、痺れが収まるとすぐに立ち上がり、再び、菜緒たちへ向かって戦闘態勢をとる。
「鈴花…美穂…二人とも目を覚ましなさいッ!」
 と、三人に守られる久美が声を上げても、二人の虚ろな目の色は変わらない。
 そこに、
「まとめて死ねぇッ!」
 と叫んだバットが、額に埋め込まれてチカチカ光るランプから怪光線を発射してきた。
「隊長ッ!危ないッ!」
 飛んできた怪光線は足元に照射されると同時に爆発。
 その爆発とタッチの差で、久美を抱え、宙を飛んだ菜緒。
 同時に好花、愛萌も横へ転がり、どうにか避けた。
 そして三人が一斉に目を向けると、その爆発の隙に、バットも、そして美穂も鈴花も消えていた。
「しまった…!」
「逃げられた!」
 と口惜しそうな好花と愛萌。
 そして、その爆炎の煙が晴れてきたところで、どこからともなく、

「フフフ…バカな女…おとなしく逃げ隠れていればよかったものを…佐々木久美!あの時の絶望…それを、もう一度、貴様にとくと味わわせてくれるわ!アーハッハッ♪」

 とイグチ魔女の声だけが聞こえた。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2022/12/10(土) 00:14 )