太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―

















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episode-14 『死闘!女王蜂クイーンビー!』
後編
 昨日の鈴花、明里に続き、今日はひよりと陽菜が負傷した。
 陽菜は駆けつけた美穂の助けで間一髪、アスファルトに叩きつけられてミンチになることだけは免れたが、それでも着地後の受け身の際に足を痛めており、診断の結果、捻挫で全治一週間。
 ひよりにいたっては、右太腿に刺さったニードルミサイルの抜去作業、傷口の縫合などもあり、全治二週間以上。
 二人とも当分は松葉杖の使用を余儀なくされ、鈴花、明里とともに、しばらく出動不可能となった。
 よって、残るメンバーは菜緒、美穂、美玖、好花、愛萌も五人となり、夜を待たずして、その五人に久美を交え、作戦会議が開かれた。
 議題はもちろん、打倒クイーンビーについて。
 中でも戦士たちに緊張感をもたらしたのは、あのモンスターがイグチ魔女の生まれ変わった姿だと言ったアモンの発言だった。
 確かにクイーンビーが彼女らの前で繰り出した火球攻撃…あれはイグチ魔女の十八番だった技だし、実際、前日に相対した鈴花と明里も同じことを言っていた。
「そういえば、先日の戦いで、イグチ魔女は突然の雷に打たれてダメージを受けた後、金色のガーナ兵に脇を抱えられて消えた…」
 菜緒が回想を口にするのを、
「金色のガーナ兵はネルネル直属の親衛隊だわ。戦闘力も、そこらのガーナ兵とは雲泥の差よ」
 と久美が補足し、話を引き継ぐ形で、
「これまでイグチ魔女の企んだ作戦は、みんなの活躍によってことごとく叩き潰してきた。失敗続きのイグチ魔女に、ネルネルの怒りが頂点に達したということは充分に考えられる」
「それで、イグチ魔女を、あの凶暴なモンスターに転生させた…?」
「おそらくね。そして、その手術を請け負ったのは、おそらくアモンに違いない」
「───」
 黙り込む菜緒。
 もちろん、イグチ魔女は憎き宿敵…彼女に対する同情などは微塵もないが、それでも、あっさり見限られ、ヒトの姿から、あんな人外のモンスターへと転生させられたことへの憐れみは少なからず感じてしまう。
 そんな菜緒の複雑そうな表情は理解しつつ、
「とはいえ、そのクイーンビーというモンスターを倒すことが先決なのは変わりない。たとえ、それが、あのイグチ魔女の成れの果ての姿だったとしても、ね」
 久美は話を戻し、
「ひよりと陽菜によると、アモンいわく、クイーンビーの体内には圧縮された原子炉が内蔵されていて、その体温は300度以上だそうよ」
「300度以上!?」
「ってことは接近戦は無理ね。触れることもままならない。抱きつかれでもしたら、その時点でゲームオーバー…」
「かといって、ヤツにヒナシューターは通じない。これは、鈴花と丹生ちゃんも言ってた。つまり、距離をとって戦う手段がないということ…」
 と口々に話す美穂、美玖、好花。
 どんよりとした空気になる中、菜緒は、比較的、冷静で、
「久美さん。何か、耐火グローブのようなものは作れませんか?そういうのがあれば、高体温の相手でも戦えると思うんですけど」
「うーん。作れないことはないけど…100度ぐらいならともかく、300度以上の超高温となると、それに耐えうるかの入念なテストも必要だし、開発して即座に実戦で使用するのは危険だわ」
 と難色を示す久美。
 そして、そんな中、ただ一人、じっと考え込むような表情をしていたのが愛萌。
 それに気付いた好花が、
「…どうしたん?愛萌。何か気になることでもあるん?」
 と聞くと、愛萌は、
「これは、私自身も、どう解釈していいか分からないんだけど…」
「いいよ。この際だから、気になることは何でも話して」
 と菜緒が促され、ゆっくり話し始める愛萌。
「さっきのことだけど…まず、私たちが駆けつけ、クイーンビーと対峙した。ひよたんと陽菜が窮地に立たされていて、そこにはアモンもいた」
「うん。その通り」
「その後、クイーンビーは火球を乱れ打ちするように降らせる攻撃を展開した。私たちは防戦一方になり、直撃を避けるために一斉に身を伏せた」
「そう。それによって広場の形が変わってしまった。そのせいで、あの広場は、今日からしばらく立入禁止になるそうよ」
 と相槌を入れつつ、聞き役に徹する菜緒。
 さらに愛萌は続け、
「あの時、私は、陽菜を庇うようにして伏せていた。そして、ちょうど私たちの近くに消火栓があって、火球がそれに直撃し、破壊されたことで水柱が上がった」
「そうそう。そうだった」
「すごい勢いだったもんね、あの水柱」
 美穂と美玖も相槌を打つ中、ここからが核心。

「その時、爆音に紛れた中だったけど、かすかにアモンの声が聞こえたの。一言、『まずいッ!』って…」

「まずい…?」
「何がまずいの?自分のところにも火球が降ってきたとか?」
「分からない…でも、確かにアモンはそう言ってた。それも、少し慌てたような言い方で」
 前置きした通り、どう解釈していいか分からないという顔をする愛萌だが、それを聞いた久美は、
「…面白いわね。今の話」
 と眼を光らせて食いついた。
「でも、久美さん。アモンにとって、いったい何がまずかったんですか?」
「正直に言って、あの時、私たちには為す術がなかったんです」
「あのモンスターが立ち去らなかったら、全員やられていたかも…」
 と首を傾げる面々に対し、
「いや…おそらく戦況とは別のところで、アモンにとって予期せぬこと…誤算になることが起きたんだと思う。だから思わず『まずいッ!』と口走った上で、退散を余儀なくされた…」
 言いながら自分でも状況を整理するような口ぶりで話す久美に対し、
「予期せぬこと…?」
「何か、それっぽい事あったかなぁ…?」
 美玖と美穂が首を傾げる一方、菜緒と好花は、ふと顔を見合わせ、

「もしかして…」
「消火栓…?」

 二人に同調するように久美も頷き、
「私もそれだと思う。…いや、もっといえば、消火栓というより“水”じゃないかしら?消火栓に誤爆して水柱が上がったこと…辺り一面が水浸しになったこと…」
「水…?」
「何で水浸しになることがアモンにとって『まずいッ!』になるんですか?」
 まだ分からないという顔をしている美玖と美穂。
 そんな二人を諭すように、
「アモンにとって、というより、クイーンビーにとって、なんじゃないかしら?」
 と口にする愛萌。
 それにもまた、久美は同調するように頷き、
「実は、昨日からずっと疑問に思っていたことがあったの。鈴花と明里がやられた時のことよ」
「二人がやられた時のこと…?」
「そう。クイーンビーは、終始、二人を圧倒していた。実際、やられた二人はそろって全治二週間の重傷…命が助かっただけでも不幸中の幸いよ。そう思わない?」
「確かに…」
「でも…そのことの何が疑問なんですか?」
 と聞き返した美穂に対し、久美は、

「何でクイーンビーは、ほぼ完勝の状況の中、二人にとどめをささずに立ち去ったのかしら?」

「───」
 考え込む面々。
 確かに、久美が呈した疑問はもっともだ。
 現場に引き返し、その時の戦況を陰から見ていた一般隊員の石塚瑶季と大野愛実いわく、パープルとオレンジは全く歯が立たない状態で、最終的にはダメージの蓄積によって変身が解除され、人間体に戻っていたという。
 それにもかかわらず、クイーンビーは二人にとどめをささなかった。
 それでいうと、今日だってそうだ。
 あのまま戦っていれば、間違いなく戦士たちは手も足も出ずに全滅していただろう。
 だが、クイーンビーは戦いを途中で切り上げ、勝負は預けたというように立ち去った。
 武士の情けか…?いや、違う。
 ほぼ瀕死の状態まで追い詰めておきながら温情をかける理由もないし、そもそもベースがあの狡猾で残忍なイグチ魔女というなら尚更だ。
 となれば、とどめをさすよりも立ち去ることを優先する理由があった、もしくは生まれたと考えるべきだろう。
 それを考えた時に、ふと閃いた顔をしたのは美玖。

「雨…?」

「そう。私もそうだと思う。今日の消火栓の件も総合して考えると、おそらく水に濡れることをクイーンビーは嫌ったに間違いない」
 そういえば昨日は、徐々に天気が崩れ、昼過ぎからポツポツと雨が降りだした。
 現に、石塚から救助要請を受けて平尾帆夏と山下葉留花が飛び出していったあたりから雨足も強まり、搬送されてきた鈴花と明里がずぶ濡れの状態だったのを覚えている。
「なるほど。本来なら、あの場でとどめをさすつもりだった…」
「ところが、いざ、とどめをさすという時に、ポツポツ雨が降ってきて、それでクイーンビーは手を止めて立ち去った…」
「何か、濡れたくない理由があったということね…!」
「濡れたくない、というか、濡れてはいけない理由がね…!」
 答え合わせをするように次々に声を上げていく戦士たち。
 あれほどの戦闘力をもちながら、身体が濡れてはいけない理由とは…?

「これは私の予想だけど、おそらく、異常な高体温であることと関係しているに違いないわ。アモンも、製造主としてその弱点が分かっていたからこそ、消火栓が破壊されて水柱が上がった瞬間、反射的に『まずいッ!』と口走ってしまったのよ」

 と結論づけた久美。
 だとすれば勝機は充分ある。
 クイーンビーの弱点は水…早速、その見解を踏まえて対策を練る一同。
 負傷し、戦線離脱を余儀なくされた四人の仇討ちとして、ここからは反転攻勢に出る!

 …… 

 翌日。
 この日も一般隊員たちは各地区へ散らばり、パトロールを行っていた。
 そして、そんな各隊員たちからの無線を待ち受けるように、既にメカニックルームに待機し、出動準備万全の戦士たち。
 先日からメカニックに配属された正源司陽子と竹内希来里によるマシンメンテナンスも終了し、
「先輩!もう、いつでも出れますよ!」
「給油もバッチリ!満タンです!」
「オッケー。ありがとう」
 オイルで汚れた作業着の姿も日に日に様になってきた二人に礼を返す菜緒。
 手筈はバッチリ。
 あとは、クイーンビーと対峙する時を待つだけ…。
 やがて、ヒナタベースの館内放送で、

「出動要請!出動要請!渡辺莉奈からクイーンビー出現との通報が入りました!場所は東街区の山麓キャンプ場です!」

(来たッ!)
 緊急性のある内容が可愛らしい声色で館内に響き渡るというミスマッチにも、もうすっかり慣れた戦士たち。
 宮地すみれによる出動要請のアナウンスを受け、待ってましたとばかりにマシンを駆って飛び出していく戦士たち。
‎ 空は雲ひとつない晴天。
‎ 悪天候ならクイーンビーが現れないと思っていたので、そういう意味では絶好の空模様といえる。
 逸る気持ちもあってか、出動から現場到着まで要した時間は5分足らず。
 先を急ぐ中、ちょうど山道に差し掛かったところの雑木林の木陰を縫うように駆けていた渡辺莉奈、坂井新奈、佐藤優羽の姿が見えた。
 三人は、辛くも救出できたキャンパーたち数人を引き連れていて、マシンを駆る菜緒たちに気付くと、
「あッ!菜緒さんッ!」
「この奥です!この奥にあるキャンプ場が襲われましたッ!」
「何人かは助けることが出来たんですが…!」
 と口々に叫びながら、揃って山道の奥を指差した。
 そんな三人相手にスッと手を挙げて通過していく菜緒たち。
 引き連れていたキャンパーたちのことは三人に任せておいて大丈夫だろう。
 なおも山道を五台のバイクを連ねて一気に駆け登ると、
(…!)
 朽ち果てたテントが数基あり、その傍らには既に事切れていると思われるキャンパーたちの遺体が散乱していた。
 そして、その惨状の中心にポツンと佇む見覚えのある後ろ姿に、
「イグチ魔女…!」
 マシンを停め、降り立つと同時に脱ぎ去るヘルメット。
 後に続く美穂たちも同じようにヘルメットを脱ぎ去り、中から飛び出した髪が次々に風に靡く。
 罪もないキャンパーを手にかけるとは卑劣の極み…キッとした目で睨みつける菜緒だが、いざ、駆けつけた戦士たちの気配に気付いて振り返ったイグチ魔女の顔を見た途端、一同は絶句した。
 これまで何度も相対した、戦士たちが知っているイグチ魔女とは全く別人…完全に生気を失った目の色で、養分を吸い取られたように痩せ細り、頬もこけて、一瞬、老婆に見えたほど…。
 すっかり激変したイグチ魔女は、その変わり果てた姿で、
「コサカナオ…?ヒナタレンジャー…?コロス…コロス…!ヒトリノコラズ…コロス…!」
 うわ言のように繰り返したかと思うと、
「グ…ググ…グゴオォォ…」
 キャンプ場の木々に響き渡る不気味な呻き声。
 白目を剥くような醜い表情を見せたかと思うと、じんわり身体全体が赤黒く変色し、たちまち身体の形がゴツゴツした人外のボディ…クイーンビーの姿へと変わっていく。
 その凄惨な変身の過程を、怒りと憐れみ、戦慄といった様々な感情が入り乱れた目で見つめた戦士たち…そして、完全にクイーンビーの姿に変わったのを見届けたところで、
「イグチ魔女…これまで仕えてきたアンタをそんなバケモノに転生させることも厭わないような女の下についたのが運の尽きよッ!」
 引導を渡すようにキャンプ場に轟いた菜緒の啖呵。
 そして、
「みんなッ!行くわよッ!」
「オッケー!」

「ハッピー…オーラっ!」

 横一列に並んだ五人が一斉に腕をクロス。
 手首のヒナタブレスからそれぞれのモチーフカラーの色をした光が煌めき、ヒナタレンジャーに変身完了した菜緒たち五人。
 一方、クイーンビーも、戦士たちの色鮮やかな強化スーツを見て憎悪を掻き立てられたのか、

 ブゥゥゥン…!

 威嚇するような羽音で一気に臨戦態勢。
 足が少し地面から浮いたかと思えば、そのままロケット噴射のように五人めがけて突進!
 それを、
「とぉッ!」
 両端のピンクとグリーンは左右に散らばり、ブルー、レッド、イエローはジャンプ。
 足並みの揃った宙返りで回避し、振り返ると、
「みんな!手筈通り、やるよ!」
「オッケー!」
 戦士たちが一斉に取り出したのはヒナシューター。…によく似た銃。
 ゆうべ、久美が徹夜で開発した水圧銃「ハイドロガン」だ。
 圧縮された水が弾倉に込められており、引き金を引けば、ヒナシューターのレーザー光線の要領で、ジェット水流が撃ち出せる代物。
 それを手に、
「行くわよ、クイーンビー!」
「大嫌いな水をたっぷりプレゼントしてあげるッ!」
「これでも喰らいなッ!」
 そう言って意気揚々と引き金を引いた戦士たち。
 その瞬間、五つの銃口からジェット水流が勢いよく飛び出し、クイーンビーの胸部を直撃!…だが、しかし。
(…!?)
 いくら浴びせど、平然としているクイーンビー。
 水流を当てた胸部付近から水蒸気が上がっているのは確かだが、特段ダメージにはなっていない様子。
 てっきり、高体温の身体を濡らして冷やすことで機能に支障をきたすものだと思い、それを突破口にしようと考えていた戦士たちの顔に徐々に浮かぶ動揺の色。
 すると、そこに、
「フォフォフォ…」
 どこからともなく聞こえてくる不気味な笑い声。
 キョロキョロと周囲を見渡し、
「…あそこッ!」
 とグリーンが指差した方向に目をやると、大木の枝に白衣の老人が腰掛け、優雅に戦況を眺めているのが見えた。
 その老人に目を向け、
「出たわね、アモン…!」
 真紅のマスクの奥から、うらめしそうな目を向ける菜緒に、
「フフフ…残念だったな、ヒナタレンジャー。そんなこともあろうかと、こちらも昨夜、クイーンビーの身体に更新改造を施しておいた」
「更新改造…?」
「あぁ、そうとも。内蔵する原子炉の出力をさらに高めた。おかげでクイーンビーの体温はさらに上昇し、今では500度以上だ!」
「な、何ですって…?」
 気色ばむイエローをよそに、ひょいと枝から立ち上がり、老人とは思えない身のこなしで地に降り立ったアモン。
 なおも饒舌に話を続け、
「さて、500度以上の体温を誇るものにそんな子供だましの水鉄砲をかけたらどうなるか分かるかね?答えは簡単。表面熱によってクイーンビーの身体を冷やすどころか、逆に蒸発してしまう。すなわち、せっかく用意周到に準備した水鉄砲は当たりすらしないということだ」
「くっ…!」
 久美の力作のハイドロガンも、効果がなければ意味がない。
 困惑し、後ずさりをする戦士たちに、
「フフフ…さーて、まずは誰から血祭りに上げてやろうかのぉ…リーダーのヒナタレッドは最後のお楽しみに取っておくとして…♪まずはヒナタイエロー、ヒナタピンクあたりの脇役から仕留めるとしようか。よし、やれ!クイーンビー!」
 指示を出すようにアモンが声を上げると、既にイグチ魔女としての意思は死んでしまっているのだろう、言われるがまま、イエローとピンクを標的に定めて襲いかかるクイーンビー。
 依然、

 ブゥゥゥン…!

 と攻撃に転じるたびに羽音を響かせながら、凄まじい勢いの突進。
 それをイエローは、間一髪、ジャンプして避けた。…が、ピンクは飛び上がるには反応が遅れ、苦肉の策として両手でガード。
 しかし、いくら強化スーツを纏っているとはいえ、元々の身体つきが華奢なピンク。
 クイーンビーの凄まじい突進をその体格差で受け止められる筈もなく、

 グシャァァっ!

「きゃぁぁッ…!」
 鈍い衝突音とともに、まるでダンプカーに撥ねられたように、あっけなく吹っ飛ぶピンクの身体。
 そのまま、背後の大木に背中から激突し、崩れ落ちるのを見て、
「ま、愛萌ッ!」
 慌てて駆け寄ろうとするブルー。…だが、その隙を待ってたとばかりに、
「今だ、クイーンビー!隙だらけのブルーも殺ってしまえッ!」
 その指示を受け、今度はブルーめがけて突進するクイーンビー。
 それに対し、
「じょ、上等だよ!このッ!」
 ピンクの元に駆け寄るのはキャンセル。
「好花ッ!愛萌を…!」
 と、ピンクのことはグリーンに任せ、同じく真っ向からガードで受け止める体勢のブルー。
 そして、次の瞬間、

 ドガァァッ!

「ぐッ…!」
 あっけなく吹っ飛ばされたピンクとは違い、その鍛え上げた恵体で何とか受け止めたブルー。…といっても、かなり押され気味。
 踏ん張る脚はブルブル震え、既に体勢も崩されてしまっている。
 それに、耐えたら耐えたで、
(くッ…!あ、熱っつッ…!)
 更新改造によってさらに体温が上昇し、500度超になったクイーンビーは、至近距離に来ただけでその熱気が既に灼熱…。
 ガードしようと構えた腕にクイーンビーの身体が触れているだけでも火傷しそうな熱さだ。
 それもあって、さらに体勢を崩されたブルーも、結局、

 グシャァァっ!

「うわぁぁッ!」
 ピンク同様、吹っ飛ばされて大木に背中から激突。
「美穂ッ!」
 と駆け寄ろうとするイエローに対し、
「ダメよ、美玖ッ!行ったらその隙を狙われるッ!」
「…くっ…!」
 レッドの声で思い留まるイエロー。
 チラッと目をやると、ブルーはよろよろと立ち上がるも、
「く、くっそ…!」
 思いのほかダメージがある様子。
 さらにピンクも、グリーンの肩を借りて一度は立ち上がったものの、また、ガクッと片膝をついてしまう始末。
「フフフ…早くも二人、負傷したぞ。さぁ、前に出ろ。ヒナタイエロー。お前も是非、ワシが生み出したクイーンビーと力比べをしてみるがいい」
「くっ…!」
 そう易々とアモンの誘いには乗らずとも、対抗手段が思い浮かばないイエロー。
 用意してきたハイドロガンは役に立たない。
(ど、どうすれば…)
 と懸命に思考を巡らせているところに、再び羽音を立てて突進攻撃を仕掛けてくるクイーンビー。
 ピンクやブルーの二の舞にはなるまいと、それを身を翻して避けるレッドとイエローだが、やり過ごしても、すかさずUターンをして迫ってくるクイーンビー。
 そこでイエローが、
「イエローフリスビー!」
 と専用武器の黄色いフリスビーを手に取り、それを向かってくるクイーンビーめがけて飛ばす。
 切れ味の鋭い刃を纏った円盤…ガーナ兵の群れ程度なら一掃できる武器だが、それも、

 ガキィィン…!

 猛スピードで突進してくるクイーンビーには無力。
 虚しい金属音とともに、あっさり弾き返され、イエローの手元に戻ってきただけ。
 そして、またも間一髪、突進をかわしたところで、
「美玖ッ!こっちッ!」
 手招きするレッドに続くように、雑木林の中に逃げ込むイエロー。
 クイーンビーは巨体で、しかも飛行している。
 こんな木々が乱立する雑木林の中までは入ってこれないというレッドの判断だが、ふと、頭上に、カッと花火のような明るさが灯った。
 もちろん、それは花火ではない。
 クイーンビーの攻撃手段が突進から火球へとシフトしただけだ。
「くッ…!」
 周囲の枯れ葉が木の葉乱舞のように舞う中、燃えながら降ってくる枝を間一髪かわした二人。
 その状況から、
「立ち止まったら、かえって危ないッ…!」
「このまま雑木林の中を突っ走ろうッ…!」
 そう言って、木々の間をすり抜けるように、とにかく駆けるレッドとイエロー。
 頭上から聞こえる、

 プゥゥゥン…!

 という嫌な羽音は、上空からのクイーンビーの追尾を示している。
 なおも駆けながら、懸命に脳をフル回転させるレッド。

(ハイドロガンを無効化できたとしても、昨日、一昨日と、水を嫌ったことは揺るがざる事実…!となると、やはり“冷却”が弱点であることは変わりない筈…!問題は…!)

 問題は、頼みのハイドロガンによるジェット水流をいくら浴びせても全て蒸発させられてダメージにならない…もっといえば、冷却まで至らないということ。
 アモンいわく、クイーンビーの体内には圧縮した原子炉が埋め込まれていて、それが、この凄まじい戦闘力を生み出す動力源となっているらしい。
 となると、体表ではなく体内…つまり、その圧縮原子炉に直に水を浴びせて冷却し、機能の停止を狙う以外に手段はなさそうだ。
(体内…ヤツの体内に水を送り込む方法は…?)
 口だろうか…?
 いや、口から体内に水を注ぐには、かなり接近しなければならない。
 先ほどのブルーの一幕を見たところ、突進を受け止めただけでも体温500度超の熱が襲ってくることを考えると、ヘタに接近することは、むしろ自殺行為ではないだろうか。
(じゃあ、あとは…)
 できることなら考えることに集中したい…が、ひっきりなしに頭上から降ってくる火球が邪魔をする。
 駆ける二人を包囲するように次々に上がる爆炎。
 なおも頭上で、

 ブゥゥゥン…!

 と聞こえる羽音に、
(あの羽音…突進攻撃を仕掛ける時や、こうして火球を作り出すたびに鳴っている…つまり、あの羽音が、体内の原子炉が稼働して戦闘に費やすエネルギーを高めた時の合図…!いわば、あのクイーンビーの身体そのものが原子力発電所のようなもの…!)
 となれば、当然、核分裂で発生するガスを定期的に外に排出している筈。
 そのための排気筒…いわゆる「スタック」がどこかにある筈で、そこから直接、水を注ぐことが出来れば、高温化してる体内の原子炉を急速に冷却し、ショートさせることも可能な筈だが…。
(そ、それはどこ…?)
 チラッと頭上に目をやり、上空を追尾飛行してくるクイーンビーの姿を確認しても、一見しただけでは、そのような箇所は見受けられない。
 やがて、それまで続いていた木々の連なりが途切れ、雑木林を抜けて視界が一気に開けた。
 飛び出た先は、夏になれば避暑地として賑わう水上アクティビティの名所、ひなた湖の湖畔。
(くっ…!隠れ蓑にしていた木がなくなった…!)
 振り返ると、イエローが懸念した通り、とうとう追い詰めたと言わんばかりに地に降り立ったクイーンビー。
 背後は広大な湖…後がなくなったレッドとイエロー。
「くっ…」
 仕方なくファイティングポーズを取る二人だが、まだ攻略法は確立できていない…。
 レッドも、改めて相対したクイーンビーの身体を素早く観察するも、探しものである排気筒らしきものはまだ見当たらない。

 ザシャッ、ザシャッ…

 と独特の足音でジリジリと二人に迫るクイーンビー。
「くっ…こ、こうなったら、やぶれかぶれ…!イチかバチか…!」
 と特効を提案するイエローだが、かたやレッドは、
「待って、美玖ッ!あれッ…!」
 迫るクイーンビーの背後の空を指差したレッド。
 それにつられてイエローも視線を上げると、何やら、どんよりとした雲の塊が、この湖畔めがけて迫ってくるのが見えた。
「な、何?あの雲…」
 周囲全体を覆うような雲なら、急な天候の変化としてまだ分かる。
 しかし、今、二人が目を向ける雲は、フットサルのコート程度の範囲だけしかない大きさで、この雲ひとつない晴天の中で、その雲だけ明らかに場違いで不自然だ。
 なおもジリジリと迫るクイーンビーとともに、その怪しい雲もどんどんこちらへ迫ってくる。
 そして、その怪しい雲がちょうど、クイーンビーの真上を来たところで、ふいに、

 ポツ…ポツポツ…

 一滴…二滴…と降ってきた雨粒が、次第に強まり、たちまち本降りとなった。
 その突然のゲリラ豪雨にクイーンビーとともに巻き込まれるレッドとイエローだが、一方で、今しがた二人が駆け抜けてきた林の上はカラッとした晴天。
(な、何ッ?この雨…!)
(いくらなんでも局地的すぎる…!)
 と困惑する二人だが、そんな中、レッドは林の中からゾロゾロと飛び出してきた女性数人を確認。
「く、久美さんッ…!」
 先頭は久美、そして、それに続く高橋美来虹、森本茉莉、山口陽世の三人。
 全員、背中にプロトンパックを背負い、そこから伸びる太いノズルのようなモノを手に持っている。



 そのノズルを彼女らが天に掲げると、まるで煙突から出る煙のように先端からモクモクと雨雲が生成されて宙に漂っていく…どうやら簡易雨雲製造機、察するにこれも久美の発明品のようだ。
 そして、その即席の雨雲による局地的ゲリラ豪雨を浴びたクイーンビーが、突然、
「グ…グググ…」
 言語が退化しているにもかかわらず、不気味な呻き声を上げ、明らかに動きが鈍りだした。
(しめたッ…!)
 と思い、追い詰められていた状況から一転、ジャンプし、クイーンビーの背後に回り込む二人。
 そこで再度、よく目を凝らしたレッドは、
「…あれだッ!」
 クイーンビーのちょうど肩甲骨のあたりに車のエアコンのような吹き出し口が二対あり、そこから、

 ブ、ブゥゥン…ブブブブ…

 羽音はしているが、その音がこれまでと明らかに違い、異変が起きているのは明白。
 そして、そこに、
「くッ…!き、貴様ら…!どこから沸いて出たッ!邪魔をしおってッ!」
 遅れて林から出てきたアモンは、なおも雨雲を発生させて援護する久美たちを見て怒り心頭。
 湖畔で、完全に動きが鈍ったクイーンビーに目をやり、
「ク、クイーンビー!飛べ!飛ぶのだ!とにかく、その雨雲の下から今すぐ離れるんじゃッ!」
 と絶叫するアモン。
 その指示を受け、鈍りながらも、ゆっくりと足を浮かせ、宙に飛び立とうとするクイーンビー。…だが、そこに、

「グリーンウィップっ!」

 別のところから響いた声とともに飛んできた緑色のムチが飛び立ったクイーンビーの足に巻きつき、さらにそれを、
「逃がすかよッ!このッ!」
 アモンに続いて雑木林から飛び出してきたグリーンとブルーが、地引網のように二人がかりでムチを引っ張り、飛び立とうとするクイーンビーを足止め。
「くッ…す、すごい力…!」
 ズズズズ…と身体ごと引きずられそうになるグリーンだが、それを力自慢のブルーがしっかりフォロー。
 それによって、なかなか飛び立てず、なおも真上に停滞する即席の雨雲からの超局地的ゲリラ豪雨に見舞われ続けるクイーンビー。
「お、おのれッ…貴様らッ!」
 クイーンビーの飛行を妨害するグリーンとブルー、さらに雨雲を生成して横槍を入れた久美たちに怒りの矛先を向けるアモン。
 白衣のポケットから小銭を掴み出すようにして取り出したのは小型爆弾。
 それを周囲に撒き散らし、邪魔する連中を一掃しようと考えたアモン。…だが、そこに、

「ピンクハートボムっ!」

 その声とともに、わずかに早く、林の中からアモンの周囲に撒かれた五百円玉サイズのピンク色のハート。
 続けて駆けつけたヒナタピンクが桃色のマスクの中でした悩殺ウインクとともに、

 ボカァァンっ!

 ヒナタピンク、愛萌のウインクを合図にアモンを包囲したハートが一斉起爆。
「ぐぉぉッ…!」
 爆炎の中で悲鳴を上げたアモン。
 その爆発によって、自分が撒こうとしていた小型爆弾にも引火し、一人で二次災害を受ける羽目に。
 そして、そのどさくさを尻目に、改めてハイドロガンを手に取るレッドとイエロー。
「美玖ッ!狙いは肩甲骨よ!」
「オッケー!」
 とナイスコンビネーションで、いざ、ハイドロガンを発射。
 なおもグリーンとブルーに足を引っ張られて飛び立つに飛び立てず、ずっと低空ホバリング状態のクイーンビーは格好の的。
 撃ち出されたジェット水流が左右の肩甲骨の膨らみに直撃すれば、排気口を通り、ゲリラ豪雨の雨粒以上に勢いよくクイーンビーの体内へと入っていく水。
 やがて、
「グ、グゴォォォッ!?」
 苦しむように呻き声を上げたクイーンビー。
 足に巻きつくムチを振りほどくように、さらに力強い出力を発揮すると、
「きゃッ!」
「わッ…!」
 突然の加速によってグリーンウィップを振りほどかれ、揃って後ろへ倒れるグリーンとブルー。
 すぐさま起き上がり、
「くっ…しまったッ!」
「逃げられたッ!」
 そして再び、ムチを投げようとするグリーンを、
「好花!待ちなさいッ!」
 と制した久美。
 それでグリーンが踏みとどまったのと、ほぼ同時だった。
 飛び立ち、ようやく雨雲の下から抜け出したかに見えたクイーンビーの飛行が急に不安定になり、みるみる高度が下がっていく。
‎ もっと高く飛びたいのに身体が言うことを聞かない…そんな感じの飛び方で、さらに、

 ブ…ブブブ…ブブ… 

 これまでと違って、いびつな羽音…どうやらレッドの狙い通り、加熱していた体内の圧縮原子炉が急速に冷却され、完全にショートしたらしい。
 そして、とうとう、
「グ、グゴォォ…!」
 浮上できなくなり、水上墜落する飛行機のように、眼下のひなた湖めがけて真っ逆さま。
 そのまま水没し、少し間を置いた次の瞬間、

 …ズバァァァァンっ!



 湖水を噴き上げるようにして起きた大爆発は、久美たちが作り出した即席の雨雲すら一瞬にして散らしてしまうほど。
 その結末に、
「おぉッ…ク、クイーンビー!ま、まさか、そんなことが…!」
 よろよろと爆炎の中から這い出てきて茫然とするアモンだが、間髪いれず、そのアモンを取り囲んだブルー、グリーン、ピンク。
「アモン!お前もこの場で始末してやるッ!」
「年貢の納め時よッ!」
「覚悟しなさいッ!」
 とヒナシューターを構える戦士たちに、
「だ、黙れ!小娘ども!こざかしいッ!」
 言い返しはしたものの、ポケットに詰め込んでいた爆弾は使い果たし、武器も何もないアモン。
「シューター!」
 の掛け声で一斉に撃ち出された青、緑、ピンクの三色光線だが、わずかに早く、
「勝負はお預けじゃ!」
 そう言って、テレポートで消え去ったアモン。
「くそッ!あのジジイ…!」
 と舌打ちをするブルーを、
「落ち着きなさい、美穂。ひとまずクイーンビーは倒せた。それだけで充分よ」
 とたしなめる久美。
 そして、その背後で、
「ふぅ…何とか間に合ったね」
「それにしても、すごいね。この機械」
「さすが久美さん!」
 と口々に言い合ってる未来虹、茉莉、陽世。
 なおも背中に背負っているプロトンパックが、四人という人数も相まって、まるでゴーストバスターズのよう。
 作り出した雨雲はほとんど、クイーンビーの死を告げる水面爆発に散らされてしまったし、点々と空に残る雲も、せいぜい5分ほどで自然と消滅する。
 久美に言われるがまま、ワケも分からずに同行してきたが、最高のアシストとなった。
 そして、ひなた湖の湖岸、変身を解除し、先ほどの爆発によって波が荒れた湖面を眺めて佇む菜緒と美玖。
 内心、勝利の余韻に浸る美玖とは対照的に、菜緒は物思いにふけるように、ただじっと湖を見つめたまま。
 これまで悪の限りを尽くしてきたイグチ魔女に対する同情などは依然として一切ない。…いや、多分ない筈。
 ただ、因縁の相手ゆえ、できれば1対1でケリをつけたいと、常々、心の何処かで思っていた菜緒。
 結果として、それが叶わず、当のイグチ魔女も既に人格を失ってモンスター化していたという行き場のない虚しさだけが、湖面の波とともに押し寄せる。
 そして、
「菜緒ー!いつまでそこにいるのー?」
「帰るでー!」
 と声を上げる美穂と好花を、スッと手で制した久美。
 激闘の中にいると、ふと不思議な感情を抱いてしまうことがある…愛弟子であり、自身の後継者でもある菜緒の心境が、久美には少し分かる様子。
(菜緒…)
 親心のこもった目で佇む菜緒を見守る久美。…だが、そこに、

 ポツ…ポツポツ…

(…ん?)
 頭上から雨粒。
 そして、傍らで、
「ちょっと、茉莉!スイッチ入ってるってッ!」
「雲、出ちゃってるよッ!」
「えー!?ウソ、ウソ!いつの間に…!わッ、わッ…!」
 騒がしくなる三人衆をよそに、うっかりミスで生成された雨雲からのゲリラ豪雨をモロに浴びる久美。
 みるみる「水も滴るイイ女」になっていく中、

「茉莉…何やってんのッ!早く機械を止めなさいよ、このバカっ!み、美穂ッ!好花ッ!自分たちだけ逃げるなぁッ!」

 感傷に浸っていた菜緒をハッと現実に引き戻す久美の怒声が湖畔にこだまし、誰ともなく笑い声を上げたことでようやく大団円の雰囲気になり、それで菜緒の顔にも少し笑みが戻ったのだった。


(おわり)


次回予告(※当該メンバーの声で脳内再生推奨)

かほりん降臨♪藤嶌果歩でーす♪
学童の子供たちを引率して、山の中にあるアスレチック施設へ遠足に出かけた私と芽依さん!
でも、その山には、ヒラガーナが毒キノコを栽培する秘密の工場を造っていたの!
工場の存在を嗅ぎつけられたと思い、口封じに追ってくるヒラガーナと逃げる私たちの攻防!
次回、『猛毒胞子の脅威!死のアスレチック!』…お楽しみに!



鰹のたたき(塩) ( 2026/03/12(木) 21:25 )