太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―

















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episode-14 『死闘!女王蜂クイーンビー!』
前編
 ヒラガーナの侵略艦隊「アンビバレント」。
 その船内に、

「えぇいッ!この無礼者ッ!何をする!離さぬかッ!」

 と、ややヒステリックな女の声がこだました。
 その声の主はイグチ魔女。
 度重なる失態の連続で、とうとう船長ネルネルから最後通告を受けたが、それにもかかわらず、宿敵であるヒナタレンジャーの討伐に失敗。
 さすがのネルネルも、とうとう堪忍袋の緒が切れ、その怒りによって呼び寄せた漆黒の雷雲から見限りの雷(いかずち)を落とした。
 その威力たるや、幹部格のイグチ魔女を一撃でボロボロにするほどのもの。
 そして、ネルネルの指示の受けて参上した親衛隊に両脇を抱えられ、ヒナタレンジャーの面々との決着もお預けにされて、アンビバレントに強制連行されたイグチ魔女。
 もうネルネルは会ってもくれなかった。
 そのまま連れていかれたのは、悪の天才科学者・Dr.アモンの研究室。
 かつて、イグチ魔女自身も、彼に頼んで打倒ヒナタレンジャーを目的としたモンスターを何体か産み出してもらったが、その時とはアモンの態度も一変していて、
「…来たか」
 どこか憐れむような目を見せたアモンは、イグチ魔女の脇を抱える親衛隊に、
「そこへ寝かせておいてくれ」
 その言葉通り、傷ついたイグチ魔女を施術台に押さえつけるようにして寝かせると、四方から、

 ガチャン!ガチャン!

「ぐっ…!な、何だ!これは…!」
 獲物を捕らえるように伸びてきた電磁ロック式の枷がイグチ魔女の四肢を留め、施術台から降りれなくさせる。
 そして、そのイグチ魔女の傍らへ歩み寄るアモン。
 なおもその目は憐れみに満ちていて、
「何度も失敗を繰り返したお前さんにも原因はあるとはいえ、ネルネル様も非情なお方…記憶も理性も全て抹消しろとおっしゃった…」
 そう言って、何やらコードがたくさんついたヘッドギアを手に取り、イグチ魔女に近づくアモン。
 それを見るや、嫌な予感がして、
「ア、アモン…!貴様…何をするつもりだ!や、やめろッ!死にたいのか!?」
 と喚くイグチ魔女だが、アモンは肩をすくめ、
「死にたいのか、だと…?今のお前さんにいったい何が出来るというのだ?」
 そして、
「もう金輪際、その耳障りな金切り声を聞かなくて済むと思えば、躊躇する気もいくらか薄れてきたわい…」
 そう言って、その手にしたヘッドギアを無理やり…半ば力ずくでイグチ魔女の頭に被せたアモン。
 そして、手元のコンピュータの起動スイッチを押すと、

 ビビビビビ…!

 ヘッドギアに繋がるコードが自然と暴れだすほどの電流が流れ、それと同時に、
「ぐぎゃぁぁぁぁぁッ…!」
 目玉をひん剥いて断末魔のような絶叫を轟かせたイグチ魔女。
 ジタバタ打ちつける四肢が、まるで絶命寸前の昆虫のよう。
「と、止めろッ!機械を止めろぉぉぉッ!」
 と絶叫する声を無視していると、やがて口の横から涎が垂れ、それが泡となる頃には、
「ぐ、ぐひッ…ぐがあぁぁッ…!おぉぉぉぉッ…!」
 みるみる無残な表情になっていくイグチ魔女の姿に、
「やれやれ…」
 ポケットから取り出した耳栓で不快な呻き声を遮断し、スッと目線を逸らしたアモン。
 記憶を完全にデリートするには、このまま、あと10分ほどかかるだろう。
 その間に、別のこと…記憶を抹消して「ただの容器」となったイグチ魔女の身体に注入、同化させる遺伝子の抽出を並行して開始するアモン。
 手元に手繰り寄せるビーカー。
 その中には、先日、採取しておいた“ある獰猛な虫”が不気味な羽音を立てながら蠢いていた…。



 ……

 そんな一幕があったことなど誰も知らないまま、翌日。
 南街区にある巨大な敷地を誇る市民公園。
 その園路を、自転車が三台、仲良く連なって走っていた。
 軽快に先頭を行くのは一般隊員の石塚瑶季。
 そして、その後ろに、新たに一般隊員として配属された新米の大野愛実と下田衣珠季が続く。
「い、石塚さーん!ちょっと待ってくださいよぉー!」
「置いてかないでくださーい!」
 と前を行く瑶季から離されそうで、たまらず声を上げる新米二人。
 その声でようやくペダルを漕ぐのをやめ、スピードを緩める瑶季。
 二人が追いつくのを待ち、端に寄せて止まると、肩をすくめ、
「遅いよ、二人とも。私たち、別にプライベートでサイクリング楽しんでるんじゃないんだからね?あくまでパトロールだから」
「そんなこと言ったってぇ…」
「速く漕ぐなら先に言っといてくださいよぉ…」
 口を尖らせる後輩たちに、
「口答えしないのッ!」
 と一喝する瑶季。
 これを「先輩風を吹かせてる」と言ってしまえばそれまでだが、新たに後輩が加入したこともあり、それまで下っ端だった瑶季の世代も、自然と先輩の自覚というものを持つようになっていた。
 現に、昨日は、同期の平岡海月が、大田美月と高井俐香の後輩二人を連れてパトロールに出かけ、あれこれ極意を伝授したらしい。
 その話を小耳に挟み、さらにその高井本人が、
「平岡さんのアドバイス、すごく分かりやすくて、めちゃくちゃ参考になりました♪大好きな先輩です♪」
 と言ってるのを聞き、これは負けてはいられないと、張り合うように今日は瑶季が大野と下田をパトロールに誘った。
(みっちゃんより私の方が“いい先輩”を演じてやるんだからッ!)
 と、若干、動機が不純ではあるが、後輩を目にかけようとする、その行動自体は良いこと。
 手本になるべきという自覚もあってか、それまでずっと“着せられてる感”があった隊員服の着こなしも、日に日に様になってきた瑶季。
 一方、後輩の二人は、今まさに、その“着せられてる感”が出ていて、どちらかというとコスプレっぽい。
「じゃあ、行くよ。この後、南小学校の方へ抜けて、市民プール、商店街、駅前を通ってヒナタベースに戻るから。ちゃんとついてきなよ?分かった?」
「はーい!」
「あと、私のこと呼ぶ時は『石塚さん』じゃなくて『たまにゃん先輩』ね。分かった?」 
「…はーい…」
 こうして、再スタートを切る一同。
 公園を出ると、宣言通り、次は南小学校の方へ進路を取る瑶季。
 信号待ちで並んだ時には、
「ヒラガーナの連中は卑劣だから、子供たちを狙うことも多いの。だから、子供たちの通学路は特に注意して見回ること。怪しい人とか車を見かけたら要チェックね」
「はい!」
 元気な返事が返ってくれば、瑶季としても教え甲斐があって気持ちがいい。…が、そうかと思えば、
「あとさー。みんな、たまにでいいから理央とも喋ってあげてね。後輩とまだ喋れてないこと、いつも悩んでるから」
 と、そんな余計なお節介まで口にして先輩ムーブ。
 そして、前の信号が変わったのを見て再びペダルを漕ぎ出すも、チラッと空を見て、
「さっきまで晴れてたのに、何か微妙な天気になってきたね。雨、降りそうじゃない?」
「そうですねー」
「確かにー」
 と相槌が上手い二人に、
「雨の時のパトロールは罰ゲームみたいなものだから、こーゆー時は早く帰るに越したこと無し!行くよ!」
 と、気持ちスピードアップする瑶季だが、こんな時に限って何か起きるのがパトロールあるある。
 ふいに、

「きゃぁぁッ…!」

(…!)
 かすかに聞こえてきた女性の悲鳴に、
「石塚さんッ!…じゃなかった、たまにゃん先輩ッ!」
「今、悲鳴が…!」
 慌ててブレーキをかける後輩二人と、かたや、
「あー、もうッ!こんな、雨が降ってきそうな時にッ!」
 肩をすくめつつもブレーキをかけ、悲鳴がした方へ進路を取る瑶季。
 ペダルを漕ぎながら、胸元の無線機内蔵バッジを掴み上げ、
「こちら石塚!南街区で悲鳴あり!現在、現場に急行中!」
 と報告の声を上げれば、すかさず相手から、
「了解!詳細が分かれば、追って報告よろしく!」
 と返事が返ってきた。
 今の声色は同期の宮地すみれ。
 先日、新たに通信係に任命され、それを同期で冷やかしていたのだが、いざ有事になると、ちゃんと難なく交信できていて感心。
 やがて前方に、尻餅をついて腰を抜かしている女性を発見。
 一斉に自転車を停めて駆け寄り、
「どうしたんですか!?」
 と聞くと、その女性は蒼い顔で、
「ハ、ハチ…!ハチの化け物が…!」
「ハチ…?数字のハチ?」
‎ と聞き返す瑶季に、
「違いますよ。飛ぶ方のハチですよ、きっと」
 下田にあっさり訂正され、
「あぁ、そういうことね…」
 勢い込むと、きまって上手くいかない瑶季。
 その恥ずかしさを誤魔化すように
「いずきちはこの人を安全なところへ!」
 と指示し、腰元のホルスターから取り出した護身用の光線銃を構え、周囲を警戒する瑶季。
 瑶季に倣って大野も同じように光線銃を取り出し、
「ハチの化け物ってことは…そ、空…?」
 おそるおそる頭上を見上げた大野。
 それに釣られて瑶季も、
「え?上ッ!?」
 慌てて頭上を見上げるも、
「な、何もいないじゃん!驚かさないでよッ!」
 ポカポカ大野の肩を叩く瑶季に、
「な、何も言ってないですよ…」
 と、わちゃわちゃする二人だが、ふと大野の表情が強張り、
「い、石塚さん!後ろッ!後ろッ!」
 こんな時まで「たまにゃん先輩」などと呼んでられず、お返しするように瑶季の肩をバシバシ叩いて知らせる大野。
 それで振り返った瑶季も、
「で、出たぁぁぁッ!」
 びっくり仰天。
‎ そこにいたのは、怯えた女性が言ってた通り、ハチの化け物だ。



 ザシャッ、ザシャッ…と独特の足音を立てるその不気味な風体…紛れもなくヒラガーナの新手のモンスターと認識し、すかさず胸元のバッジで、
「こ、こちら石塚。ヒラガーナのモンスターと遭遇ッ!」
 捲し立てるように叫び、焦るあまり、すみれからの返事も待たずに、
「う、撃つよッ!」
 大野を促し、一斉に光線銃を発射した瑶季。…だが、そのハチのモンスター、女王蜂クイーンビーは、いくら光線を浴びても全くノーダメージ。
 それどころか、ジロリと二人を標的としてロックオンするや、

 ブゥゥゥン…!

 威嚇するような羽音を奏で、サッと天に掲げた右手の上に火球を作り出すと、それを二人めがけて投げつけてきた!
「わッ!」
「きゃッ!」
 瑶季は身を翻し、大野は伏せることで何とか回避した二人だが、その瞬間、二人の背後で、

 ドカァァン!

 背後の壁に誤爆した火球が爆発し、爆風に晒される二人。
 いくら訓練を積んでいるとはいえ、二人とも生身の人間…もし、あんなのが身体に当たればタダじゃ済まない。
「……」
 なおも二人を見据え、無言で近寄ってくるクイーンビーに対し、
「くっ…!」
 防衛本能で再び光線銃を乱射する瑶季だが、依然、効果なし。
 ザシャッ、ザシャッ…と距離を詰めてくることの牽制にすらなっていない。
 すると、そこに、

「ハッピー…オーラっ!」

 空気を裂くような声とともに、
「とぉッ!」
 二人の前に立ちはだかるように地に降り立つ二人の戦士、ヒナタパープルとヒナタオレンジ。
 その姿に、
「鈴花さん!」
「丹生さん!」
 先輩戦士たちの登場に「助かった!」というような明るい声を上げる瑶季と大野だが、当の戦士たちに笑みはなく、
「ここは私たちに任せて!」
「早く逃げるのよ!」
「は、はいッ…!」
 その気迫に押される形で、スタコラサッサと退散する瑶季と大野。
 そして、迫りくるクイーンビーと対峙するや、
(コ、コイツ…!)
(今までのモンスターとは違う…!)
 威圧感…?オーラ…?何をもってそう感じたかは分からないまま、身構える二人。
 そして、クイーンビーが間合いに入った瞬間、堰を切ったように、
「てやぁッ!」
「とぉッ!」
 二人一斉に仕掛けるパープルとオレンジ。…だが、パープルのキックも、オレンジのチョップも、クイーンビーはノーダメージ。
 それがどうした?と言わんばかりに、あっさり跳ね除けられてしまう。
「くっ…!」
 キックした脚を押し返され、よろけた体勢を立て直したパープル。
 続いてワンツーで二連パンチを繰り出すも、これもクイーンビーのゴツゴツした身体には効果なし。
 それどころか、

 ブゥゥゥン…!

 羽音が大きくなったと同時にお返しのパンチが飛んできて、それを土手っ腹にモロに食らったパープル。
「うぐッ…!」
 と強化マスクの下で顔をしかめた鈴花は、そのまま数メートル吹っ飛ばされて、地面に転がる。
 すかさず起き上がるも、
「げぼッ…げほッ…」
 鈍痛が広がる腹部をさするように手を添え、
(す、すごいパワー…並のモンスターじゃない…!)
 そんなパープルに、
「鈴花ッ!大丈夫!?」
 駆け寄るオレンジに、
「な、なんとか…」
 と返したパープルは、
「接近戦では分が悪い。ヒナシューターで一気にケリをつけよう!」
「オッケー!」
 二人して腰のホルスターから取り出すヒナシューター。
 それを構え、一斉に、

「レインボー…ショットぉッ!」

 息を合わせて撃ち出した紫色と橙色の光線は宙で合わさり、混ざり合うようにしてクイーンビーめがけて一直線!
 それが胸部に直撃し、

 バチバチバチっ!

 とスパークしたまではよかったが、それで本来なら爆発四散する筈のクイーンビーはどこ吹く風という様子…。
 やがて、そのスパークした火花も消え去り、何事も無かったように、再び、ザシャッ、ザシャッ…と足音が近寄ってくる。
「ウ、ウソっ…!」
「レインボーショットが効かないッ…!」
 これまで、幾多のモンスターを葬ってきた決め技だけに、ぎょっとするパープルとオレンジ。
 そして、また、獰猛な羽音が聞こえた瞬間、

 ブワッ!

「きゃッ!」
 まるで目の前でヘリコプターがホバリングを始めたように風が起き、それでよろけた二人めがけ、ゴツゴツした両腕を大きく広げながら突進してきたクイーンビー。

 ドゴォッ…!

 という鈍い衝撃音とともに、
「がぁッ…!」
「うぐッ…!」
 ダブルラリアットをモロに受け、吹っ飛ばされた二人。
 まずパープル、続いてオレンジと地面に打ちつけられ、痛みを堪えて起き上がるも、
(い、いないッ…!)
 ほんの今までいたところに既にクイーンビーの姿はなく、その瞬間、

 ブゥゥゥン…!

「…丹生ちゃん!後ろッ!」
 もはや振り向いて確認するヒマすら無し。
 ふいに背後で聞こえた羽音で危険を察し、慌てて散らばる二人の間を追撃ラリアットの構えで滑空したクイーンビー。
 それを間一髪かわした二人だが、キッと目を向け、
(い、いつの間に背後に…!)
(な、何てスピードなの…!)
 あと一秒でも反応が遅れていたら、あのラリアットを延髄にモロに喰らっていただろう。
 最悪、首の骨が折れていた可能性もある。
「こ、このッ…!」
「くらえッ…!」
 何かの間違いと思いたくて、再度、二人でヒナシューターを発射するも、結果は同じ。
 それどころか、カウンターで、

 ビュッ!ビュッ!

「わッ…!」
 足の爪の先から撃ち出された針を慌てて回避する二人。
 その針…ニードルミサイルは、ドスッ!と音を立てて二人の背後に会った街路樹の幹に、見事、命中!
 貫通寸前のところまで奥深く刺さるほどの殺傷能力。
 そして極めつけは、

 ブゥゥゥン…!

 みたび羽音がしたかと思えば、今度はかざした左右の手の平の上にバレーボール大の特大火球。
「あ、あれは…!」
「イグチ魔女の技…!」
 因縁の相手であるイグチ魔女の十八番ともいえる攻撃手段…それを連想させたクイーンビーの火球が二人めがけて次々に投げつけられた。

 シュルルル…!

(は、速いッ…!)
‎ まるでバレー選手のスパイクのように身体めがけて一直線に向かってくる火球。
 そして、てっきり、そのままの軌道で来ると思っていた二人だが、目の前で突然、キレの良いフォークボールのようにストンと軌道が変化し、二人のちょうど足元に着弾。
「し、しまったッ!」
‎ とパープルが口にした瞬間、身体の下で、

 ドカァァァン…!

「きゃぁぁッ…!」
 火球が地面に触れた瞬間の爆発によって宙に打ち上げられる二人。
 受け身も取れず、そのまま空中で一回転し、地面に打ちつけられる頃には、強化スーツのダメージ蓄積過多で変身が解けてしまい、生身の富田鈴花と丹生明里の姿に戻ってしまっていた。
「ぐ…ぐぅ…」
「うぅ…」
 丹生は額から血を流し、肩から落下した鈴花はもんどりうって起き上がることも出来ず…。
 立ち込める爆煙の中、なおも、ザシャッ、ザシャッ…と戦慄の足音が近寄ってくるのが聞こえ、
(や、殺られる…!)
 額から垂れた鮮血が目に入り、片目しか開けられなくなった状態で死を覚悟した丹生。…だが、気付けば、足音は止まり、やがて、その立ち込める爆煙を一掃するようにビュンっ!と突風が吹いた。
 それとともに掻き上げられたように舞う丹生の髪。
 その中で、かろうじて、空を飛び去っていくクイーンビーの後ろ姿だけ確認できた丹生。
(に、逃げた…?)
 と思ったところに、
「丹生さん!鈴花さん!」
「しっかりッ!」
 地面に突っ伏す先輩二人の元に慌てて駆け寄る瑶季と大野。
 どうやら、逃げろと言われたものの心配が勝り、ひそかに戻ってきて物陰から戦況を見ていたらしい。
 すかさず、胸元のバッジで、
「こちら石塚!鈴花さんと丹生さんがやられましたッ!至急、救助を…!」
 気が動転しているせいで、やたら早口になってしまう瑶季だが、何はともあれ、とどめをさされずに済んだ二人。
 やがて、ポツポツと雨が降り始め、次第にその雨は負傷した二人が起き上がるのを待たずして本降りになっていった…。

 ……

 ヒナタベース。
 メインルームに久美が戻ってくるや、
「久美さん!」
「二人の容態は?」
 すぐさま駆け寄り、問いただすように聞く菜緒と美玖。
 そんな二人に対し、久美は、深い溜め息をつくと、沈痛な表情で、
「二人とも全治二週間というところね。…いや、鈴花はもう少しかかるかな。腕が折れてたから」
「全治二週間…」
「とにかく二人とも、しばらくは絶対安静。当分、戦えないわ」
「───」
 茫然と立ち尽くす菜緒と美玖。
 これまで、戦いの中での負傷は数あれど、ここまでの重傷も珍しい。
 そして久美は、現場に居合わせた瑶季と大野を呼び、
「ハチの姿をしたモンスターに間違いないのね?」
「は、はい…!確かにハチでした…!」
「護身用の光線銃も、全く通用しなくて…」
 ヒナタレンジャーの一員でもある二人を一方的に叩き伏せ、全治二週間の怪我を負わせるほどの相手だ。
 護身用程度の光線銃が通用しなくても無理はない。
「とにかく…今度の新手のモンスターは一筋縄じゃいかない相手よ。何てったって、鈴花と丹生ちゃんが手も足も出ずにやられちゃうぐらいだから。対策とかはこれからじっくり考えないとだけど…とにかく油断禁物、心してかかるように!」
「はいッ…!」
 威勢よく返事をした菜緒と美玖。
 二人の心の中には、
(鈴花…丹生ちゃん…とにかく今は、ゆっくり休んで…)
(二人の仇は私たちが必ず討つから…!)
 そんな思いが強く湧いていた。

 ……

 さらに翌日。
 今朝まで降り続いた雨もようやく上がり、ジメジメしながらも晴れ間が差してきたお昼過ぎ。
 この日も一般隊員たちは日課であるパトロールで各地区を駆け回るが、それにプラスして、今日からはヒナタレンジャーの戦士たちもグループに分かれ、手分けしてパトロールに参加。
 理由は当然、パープルとオレンジを圧倒したハチのモンスターを迅速に発見し、退治するため。
 ただ、退治といっても、久美から、
「もし遭遇しても、その場で無闇に戦わないこと。なるべく時間を稼いで、仲間の到着を待ってから全員で戦うのよ」
 と忠告されている戦士たち。
 鈴花と丹生の二人が手も足も出ずに負傷させられたことを考えると、確かにそれが賢明だ。
 そして、各チームがヒナタベースを発ち、パトロールを開始から一時間。
 一斉無線で、

「こちら小西!例のハチのモンスターが目撃されました!場所は西街区、スポーツ広場です!」

 と、一般隊員、小西夏菜実からの報告が入った。
 それを聞き、
「了解!」
「すぐ行く!」
 と返したのは、ちょうど、そのスポーツ広場のすぐ近くを巡回していた濱岸ひよりと河田陽菜。
 そして、現場に駆けつけると同時に、

 ドカァァン…!ドカァァン…!

 轟音とともに広場内から上がる爆煙。
 その中から逃げ惑うように飛び出してきた小西、蔵盛妃那乃、松尾桜の三人を視界に捉えると同時に、

「ハッピー…オーラっ!」

 駆けながら腕をクロスし、ひよりはヒナタブラックに、陽菜はヒナタホワイトにそれぞれ変身。
 必死の形相で駆けてくる一般隊員三人に、すれ違いざま、
「ここは私たちが食い止めるッ!」
「そのまま逃げなッ!」
 と声をかけ、「ここから先は通さん!」とばかりに立ちはだかるホワイトとブラック。
 そして、三人の足音が背後に遠ざかっていくと同時に目の前の爆煙も徐々に晴れ、その中から、ザシャッ、ザシャッ…と不気味な足音を立てながらクイーンビーが姿を現す…!
「こんのヤロー…」
 と戦闘態勢に入るブラックに対し、
「ひよたん、ダメ!真っ向から戦っても丹生ちゃんたちの二の舞になるだけ…!」
「…そっか。よし、それなら…!」
 腰のホルスターから抜き取るヒナシューター。
 その銃口をクイーンビーに向け、
「くらえッ!」 
 と乱射するも、全くノーダメージで接近を止められず。
「くっ…!効かないッ…!」
 と舌打ちするブラックの隣で、
「私に任せてッ!」
‎ 一歩前に出て、
「ホワイトアロー!」
 専用武器である白銀の弓矢を手にしたホワイト。
 迫るクイーンビーとの距離を計りながら、弦を目一杯まで引き、照準を定めて、いざ、
「ホワイトショットっ!」
 叫びとともに撃ち出された音速の矢は、見事、クイーンビーの胸部に命中!…するも、
「……」
 一笑に付したように、胸元に突き刺さった矢を難なく引っこ抜き、足元へ放り捨てるクイーンビー。
 どうやら表面の筋肉のところで止まってしまって、これも何ひとつダメージにはなっていない様子。

 カランっ…

 と虚しい金属音を立てたかと思えば、そのまま、グシャッ!と踏み潰されて粉々にされた白銀の矢に、
「そ、そんなッ…」
 ヒナシューターはおろか、ホワイトアローから放つ音速の矢の直撃すらも効果なし。
 そして、

 ブゥゥゥン…!

 威嚇するような羽音で交戦を察し、
「来るよッ!」
 と声を上げて身構えたブラック。
 予感した通り、スッと宙に浮いたクイーンビーは、ロケット噴射のように目の前の二人めがけて突進!
「くっ…!」
 進路を空けるように左右に散らばって回避した二人。…だが、クイーンビーは二人の間をすり抜けたと同時に自らの飛行に急ブレーキをかけ、素早くターンを決めると、

 ビシィィッ…!

「きゃッ!」
 振り返ったホワイトにチョップ一閃。
 すかさず、 
「このッ…!」
 地面に転がるホワイトの身体を飛び越えるようにして、前に出るブラック。
 日々の鍛錬の賜物として背負い投げでも決めてやろうと果敢に掴みかかるも、次の瞬間、
「なッ…!?」
 ぎょっとしたような声を上げ、掴みにいった手を慌てて引っ込めるブラック。
 その隙をついて飛んできたクイーンビーの蹴りを横っ腹に受け、
「がぁッ…!」
「きゃっ!」
 起き上がったホワイトごと薙ぎ倒すように吹っ飛んだブラック。
 二人でもつれ合って倒れ、再び起き上がると、
「何やってんのッ!何で手を離したの、ひよたんッ!」
 と文句を言うホワイトに、
「ち、違うんだって…!アイツの身体、めちゃくちゃ熱くて…!」
「熱い…?」
 プラックの反論に首を傾げるホワイト。
 すると、そこに、

「フォフォフォ…」

(…!)
 ふいに聞こえた不気味な老人の笑い声に周囲を見渡すホワイトとブラック。
 二人の視線が留まった先は、傍らの街路樹の枝の上。
「お前は…!」
「Dr.アモン…!」
「フフフ…いかにも」
 不敵な笑みを浮かべたアモンは、白衣を纏った老人の見た目とは裏腹の軽い身のこなしで、ひょいと枝から降り立ち、
「獰猛なスズメバチの女王蜂から採取した遺伝子で産み出したモンスター、その名もクイーンビーだ。出来はどうかね?」
 と自慢げに語るアモンは、ブラックに目をやり、
「こやつの身体が熱いと言っていたが、それもその筈…こやつの身体には圧縮した原子炉が組み込まれていてな。体温は300度を軽く超えるだろう。その高体温によって桁外れなパワーを発揮し、貴様らの攻撃も全て無効化できるのだよ」
「な、何ですって…!」
「300度…!どうりで…!」
 掴みかかったブラックが慌てて手を離すのも無理はない。
 そしてアモンが、
「フォフォフォ…さぁ、クイーンビー。遠慮は無用だ。さっさとコイツらを血祭りに上げてやれ」
「……」
 声を発さないところを見ると、どうやら言語は退化しているらしい。…が、そのかわりに、

 ブゥゥゥン…!

 心得たというように不気味な羽音を響かせ、再び二人に襲いかかるクイーンビー。
「くッ…!」
 再度、突進をかわした二人。…だが、ヒナシューターやホワイトアローといった飛び道具は全て葉が立たず、さらに相手が体温300度超ともなれば接近戦もままならない。
 なおも続く低空飛行の突進攻撃を紙一重で避けながら、
(ど、どうすれば…!) 
 いくら考えても思い浮かばない反撃の手段。
 さらに、

 ビュッ!ビュッ!

 地に降り立ったクイーンビーの足の爪の先から撃ち出されたニードルミサイル。
「きゃッ…!」
 ホワイトは何とか避けた。が、わずかに反応が遅れたブラックは、

 グサッ!

「あうッ!」
 鉄杭のような針が細長いブラックの右足、太ももに命中…!
「くっ…がぁッ…!」
 まるで猟銃で撃たれた動物のように、その場に崩れ落ちるブラック。
 強化スーツ越しでもじんわり滲み出てきた鮮血に、
「ひ、ひよたんッ!」
 慌ててブラックの元に駆け寄るホワイトだが、それもまた命取り。
 その隙を待っていたとばかりに素早い低空飛行で一気に距離を詰めたクイーンビー。
 サッと伸びた右手が喉輪を決めるようにホワイトの首を鷲掴みにして掴み上げ、
「ぐッ…!くっ…くっ…!」
 振りほどこうと懸命に藻掻くホワイトだが、クイーンビーの握力は凄まじく、全く剥がせず。
 それどころか、

 ブゥゥゥン…!

「きゃッ!?」
 羽音を周囲に轟かせ、辺りに突風のような風を起こすとともに、ホワイトの首を掴んだまま、10メートル…20メートル…30メートル…と、グングン高度を上げていく。
「ぐっ…く、苦しい…がぁぁッ…!」
 脚をジタバタさせて抗うホワイトを無視して、やがて高度は地上50メートルに到達。
 そして、地上から、
「よし、落とせッ!地面に叩きつけてミンチにしてやれぃッ!」
 と叫んだアモンの声を合図に、掴んだホワイトの首をサッと離すクイーンビー。
「きゃぁぁぁッ!」
 窒息させられそうな息苦しさから解放されたのも束の間、その身ひとつでアスファルトの地面めがけてダイブ。
 いくら強化スーツを纏った戦士でも飛行能力は有していない。
 為す術なく空から降ってくるホワイトの姿に、
「くっ…ひ、陽菜ッ…!」
 どうにか落下点に受け止めにいきたいブラックだが、自身は右脚の貫かれたような激痛で立ち上がることもままならず。
 傍らでは、
「うひゃひゃッ!ペチャンコになるがいいッ!最期を看取ってやるぞ、ヒナタホワイトっ!」
 勝ち誇ったような声を上げるアモン。…と、その時だった。

「とぉッ!」

 ふいに現れた青い影…ヒナタブルー(美穂)が、降ってきたホワイトを身体を、間一髪、抱きかかえるように空中キャッチ!
 そのまま、もんどり打つように地面に落ち、転がる二人の身体を止めるように、
「美穂!陽菜!」
「大丈夫!?」
 現れたヒナタイエロー(美玖)とヒナタピンク(愛萌)に、
「うぬぬ…!いいところだったのに…!」
 悔しそうに歯噛みをしたアモンは、さらに、
「くっ…き、貴様らまで…!いつの間に…!」
 右脚を負傷して地べたに転がっていたブラックに目を戻せば、同じく、駆けつけたヒナタレッド(菜緒)とヒナタグリーン(好花)が、
「ひよたん!しっかり!」
「もう大丈夫よ!」
 とブラックを介抱していた。
 そして、小さく呻き声を上げているホワイトをピンクに任せ、起き上がったブルーが、
「やいッ!降りてこい、バケモノっ!私たちが相手になってやるッ!」
 威勢よく、宙を漂うクイーンビーを地上に呼びつけ、かたや、
「Dr.アモン!アンタもよッ!」
「アンタこそが、次々にモンスターを生み出す諸悪の根源!この場でケリをつけてやるッ!」
 脚から血を流して地面に転がるブラックを背後に隠すようにしながら啖呵を切るレッドとグリーン。
 それに対し、アモンも負けじと、
「何を小癪な…!クイーンビー!コイツらをまとめて始末してやれぃッ!」
 その指示を受け、ゆっくりと宙を下降しながら、

 ボワッ…!ボワッ…!ボワッ…!

 ジャグリングをするように複数の火球を作りだすクイーンビー。
 それを見て、
「あれは…!」
「イグチ魔女の技…!」
 前日のパープル、オレンジと同じことを口にするレッドとグリーンに、

「フフフ…そうとも。なぜなら、あやつはイグチ魔女の生まれ変わった姿なのだからなぁッ!」

「な、何ですって…!?」
 アモンの高笑いに気色ばむレッド。…だが、それ以上、何かを言うよりも先に、クイーンビーが作り出した大量の火球を一斉に地上めがけて降らせてきた。
「あ、危ないッ!」
「みんな、伏せてッ!」
 イエローとレッドの声で、一斉に身を伏せる戦士たち。
 ピンクはホワイトを、グリーンはブラックを、それぞれ庇うように覆い被さってガードしたと同時に、

 ドカァァン…!ドカァァン…!ドカァァン…!

 次々に周囲に起こる爆発。
 幸い、直撃被弾した戦士はいなかった。が、その破壊力は凄まじく、平地だったスポーツ広場の地形がどんどんデコボコに変わっていく。
 傍らで見ていたアモンも、
「ひ、ひぃッ…!」
 と悲鳴を上げて街路樹の陰に身を隠すほどだ。
 そして、降り注いだ火球の一つが、近くにあった消火栓を直撃し、そのまま爆破。



 それによって、

 ブシャァァァァっ!

 大きな水柱を上がり、周囲を覆う大量の爆煙を散らすように、雨みたく降り注ぐ大量の水。
 たちまち、伏せた戦士たちの背中は濡れていき、ちょうど破壊された消火栓の近くで伏せていたピンクとホワイトは、それこそ滝行のように全身ビショビショ。
「みんな、大丈夫!?」
 と周囲に声をかけるレッドに、
「な、何とか…」
 と返すグリーン。
「くっそー…!好き放題しやがってッ!降りてきたら、ぶっ飛ばしてやるッ!」
 と息巻くブルーだが、いざ消火栓から噴き出て降り注ぐ水が爆煙が晴らしていくと、それまで宙に浮いていたクイーンビーの姿は無くなっていた。
 それに気付いて、
「き、消えた…?」
「いや、まだ分からないよ。何処かに隠れて不意打ちを仕掛けてくるつもりかも…!」
 と背中合わせになって周囲を警戒するレッドとイエロー。…だが、やがて完全に煙が晴れても、周囲にクイーンビーの姿は無し。
 ついでにアモンの姿も消えていた。
 

(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2026/03/12(木) 21:25 )