太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―
















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episode-11 『恋せよ乙女!明里とヒラガーナで三角関係!?』
後編
 大会前日となった翌日、菜緒、美穂、丹生の三人は朝からリストアップした四人を順番に訪ねていった。
 まずは警察官の斎藤一成。
 今回の大会を取り上げるネットメディアを名乗り、直前インタビューと称して本人と接触。
 当たり障りのない内容でお茶を濁しながら彼の周囲をチェックし、そして別れた後、駆けつけた別のメンバーに護衛を引き継ぐ。
 ここには、富田鈴花と河田陽菜のペアが登場し、あとを任せた。
 その要領で、土方敏郎、近藤勇太とも会っていく。
 そして最後は、丹生が推した沖田総助。
 現在、南街区にある学生道場で講師を務めているということで、早速そちらへ。
 そして到着し、車を降りるところで、
「…ねぇ。私も行った方がいい…?」
 と口にする丹生に、
「え?何で?」
「丹生ちゃんだけ車で待ってる意味ある?」
 きょとんとする美穂。
 そして菜緒が、
「もしかして、どこか具合悪い…?」
「い、いや…そういうワケじゃないけど…」
「じゃあ、おいでよ」
「だいたい、ゆうべの会議で沖田さんを推してたのは丹生ちゃんだよ?」
「そ、そうだけど…」
「ほら、行くよ」
 仕方なく車を降り、後ろをついてくる丹生。
 まだ出来て間もないようなキレイな道場。
 中を覗くと、ちょうど稽古の真っ最中で、
「まずは打ち込み10回!面打ちから!しっかり声出して行くよー!」
 と子供たちに呼びかけ、
「いーちっ!」
「めーんッ!」
「にーっ!」
「めーんッ!」
「さーんっ!」
「めーんッ!」
 と子供たちの元気な声が道場内に響く。
 そんな様子を入口の陰から眺める三人。
 練習中に割って入るのはさすがに失礼ということでタイミングを窺いつつ、
「確かに昨日、丹生ちゃんが言ってた通り、若さなら沖田さんが一番だね」
「見た感じ、子供たちにも慕われてそう」
 と感心する菜緒と美穂だが、ここでも、
「…丹生ちゃん。何でそんな後ろにいんの?」
「中、見えてる?」
「み、見えてるよっ…!なに?私が背が低いって言いたいの?」
 何故か顔を赤くして怒りだす丹生。
 そして今の間に予備知識を得るため、持参した履歴書を見直し、
「へぇ…小学校の低学年から剣道やってるんだ。出身もこの南街区…」
 と呟いた美穂が、ふと思いだしたように、
「そういえば丹生ちゃんも南街区出身だったよね?確か」
「え…?う、うん…そうだよ…私も南街区出身…」
 と返す丹生だが、なぜか声が妙に上ずっている。
 続いて菜緒も、
「あれ…?丹生ちゃん、もしかして沖田さんと同い年なんじゃない?ほら…生まれた年、一緒でしょ?」
「え…?あぁ…そうみたいだねぇ…」
 と、こちらもどこか上の空のような丹生の返事に、たまらず、
「どうしたの?丹生ちゃん…」
「何か、ここに来てから急に様子おかしくない?」
 と言い出す二人。
「そ、そんなことないよ…普通だよ、普通…」
「そうかなぁ?何か、やけにソワソワしてるように見えるけど…」
「さっきまで全然そんなことなかったのに…ねぇ?」
 と顔を見合わせ、首を傾げる菜緒と美穂。
 そんな中、次は対人での稽古が始まり、次々、門下生たちと相対する沖田。
「僕から一本取るつもりで打ってきな」
 と言いつつ、華麗な身のこなしで、子供たちの竹刀が当たりもしない。
 その様子を眺めて、
「経験者の丹生ちゃんから見て、あの動きはどうなの?やっぱりすごいの?」
「う、動き…?そ、そうだなぁ…さ、さすがって感じ…?」
 と、この返事も何故かぎこちない。
 そこでさすがに、
「ねぇ、丹生ちゃん。何かさっきから様子おかしくない?」
「どうしたの?何か気になることでもあるの?」
 困惑した顔で振り返る二人に、
「そ、そうかなぁ…?そんなことないと思うけど…」
 と言うわりに、あまりにも分かりやすい丹生の態度。
 そこで美穂が冗談半分で、
「あ、分かった…♪さては、丹生ちゃん…実は、昔、付き合ってたとか…?」
 すると丹生はさらに慌てふためいて、

「ち、違うよッ!なに言ってんのッ…!別に、私、総ちゃんとは何も…」

「え…?」
「総ちゃん…?」
「…あッ…!」
 聞き返されてから気付き、慌てて口を塞ぐ丹生だが時すでに遅し…。
「なに?総ちゃんって…もしかしてホントに知り合いなの?」
「━━━」
 図星と認めたも同然の沈黙と赤面。
 それには菜緒も苦笑して、
「ちょっとぉ…だったら先に言っといてよ。急にそんなソワソワして、何事かと思うじゃん」
「う、うん…ごめん…じ、実は…」
 ここでようやく、自身と沖田総助の関係性…同じ南街区出身の同い年、かつて同じ剣道教室に通っていた同門の仲だということを二人に話した丹生。
 そして、
「じゃあ、いわば幼馴染ってこと?」
「何で隠してたの?」
「いや、その…気を遣わせちゃうかと思って…」
「いや、別に気を遣うこともないけど…」
「そりゃ、まぁ…彼が丹生ちゃんの初恋の人とかだったらまだしも…ねぇ?」
 これも美穂からすれば何の気なしに放った言葉だが、そこでまた、
「━━━」
 と赤面して黙り込む丹生。
 その反応に、
「あれ…?もしかして、本当に初恋の人…?」
「ち、違うッ!それはホントに違うからッ!もぉ!やめてよ、美穂ぉ!」
 と、思わず美穂の肩をポカポカ叩いてスネるようにそっぽを向いた丹生。
 その様子に、さすがの菜緒も笑いをこらえるのみ。
 さすがヒナタレンジャーきっての純粋な心の持ち主…何とも分かりやすいこと…。

 ……

 そして夕方。
 稽古を終え、着替えて帰っていく子供たちに、一人ずつ、
「明日、頑張ろうね。先生も頑張るからね」
 と声をかけて見送る沖田。
 そして、おそらく最後の子供が出てきたところで、菜緒たちにとってはようやく本題。…だが、ここで、お節介の美穂が、ぼそっと、
「丹生ちゃん、会うの久々でしょ?挨拶ぐらいしてきなよ」
「え?い、いいって…別に、そんな個人的に話すつもりは…あ!ちょ、ちょっと…何で押すの!押さないでッ…!み、美穂ぉ…!」
 陰から押し出されるように肩を押された丹生。
 それがちょうど、帰っていく子供の背中を見送る沖田の視界にフレームインする形となり、バッチリ目が合ってしまう二人。
「ん…?どこかで見たことあるような…」
 と首を傾げる沖田に対して、間を持てず作り笑いで誤魔化すだけの丹生。
 そして記憶が繋がったように、
「もしかして明里…?明里か?」
「う、うん…ひ、久しぶり…」
 蛇に睨まれた蛙…という表現が正しいのかどうか分からないが、棒立ちになってしまった丹生にスッと歩み寄り、
「久しぶりだなぁ。こんなところで何してんだよ?」
「い、いや…その…たまたま通りがかって、総ちゃんに似た人がいると思ったから、ちょっと覗いてみただけで…」
 とヘタなウソを言いつつ、それまで隠れていた陰をチラッと見ると、いつの間にか菜緒と美穂の姿はない。
 どうやら、さらに奥に隠れてしまったようで、
(ちょ、ちょっとぉ…悪ノリだよ、二人とも…)
 と思っているうちに、
「こうして久しぶりに会えたのも何かの縁だ。来いよ。お茶ぐらい出してやっから」
 手招きする沖田に対し、背を向けて逃げだすワケにもいかず、仕方なく足を進める丹生。
 いざ足を踏み入れた道場の中は、経験者だからこそ分かる剣道という競技特有のニオイ…。



 久々に嗅ぐこの香りに、一瞬、顔をしかめると、
「どうだ?このニオイで思い出すだろ?昔を」
 と、慣れているのか、気にせず冷たい麦茶を出してくれる沖田。
「う、うん…確かに懐かしいかも…」
 そう言って、差し出されたお茶を受け取る丹生。
 そして沖田が胡座をかいて座ったのに合わせて、自分も腰を下ろす。
 黙っているのはかえって気まずいと思い、
「こ、この道場って…総ちゃんの道場…?」
「いや、そういうワケじゃないんだけど…まぁ、雇われ師範みたいな感じかな」
 と沖田は答え、返す刀で、
「明里は今、何やってんの?」
「え…?えっと…」
 ヒナタレンジャーの一員ということはむやみに口外できないため、必至に頭を巡らせた末、
「カ、カフェで働いてる…」
「へぇ…いいじゃん。明里はいつもニコニコしてるからな。向いてそう」
「あ、ありがと…」
 そして、これも間を埋めるため、
「そういえば…明日、剣大だよね?総ちゃん、出るの?」
「あぁ、出るよ。去年まで違う大会の方に出てたんだけど、そっちの大会が諸事情で中止になっちゃったからさ。今年は剣大の方に出ようと思って」
「へぇ…満を持して、って感じ?」
「いや、そんなこともないけど…まぁ、いい線まで行けたらいいかな、って」
「行けるよ。総ちゃんなら」
 これは、決してお世辞でもなく、本心として言った。
 すると沖田も、心なしか嬉しそうに微笑み、
「明里は出ないのか?剣大」
「私は…もう、すっかり鈍っちゃってるから…」
「ふーん…だったら俺が稽古つけてやろうか?今から」
「い、今から…?えっ?ちょ、ちょっと…」
 戸惑う丹生をよそに、スッと立ち上がり、竹刀を2本、持ってくる沖田。
 1本を丹生に差し出し、
「軽くでいいから打ってこいよ」
「い、いいよぉ‥靴下だから滑っちゃう…」
「いいから、いいから」
「━━━」
 促されるまま、腰を上げ、竹刀を構える丹生。
 すると、数秒前の遠慮から一転、剣道漬けで打ち込んでいた当時に戻ったように、みるみる表情が冴え、そして、

 パァァン…!パァァン…!

 道場内に反響する竹刀同士に乾いた衝突音。
 小手調べ程度とはいえ、その一進一退の攻防に、たちまち別の師範も、遠巻きに、
(誰だ?あの娘…)
(なかなかいい動きしてるな…)
 というような目で釘付け。
 そして約3分、お互い、少し神経がすり減ったところで、
「…ふぅ。このへんにしとくか」
 と構えた竹刀を下ろした沖田。
 丹生に渡した竹刀も回収すると、苦笑して、
「何が鈍ってるだよ。普通に手強いじゃねぇか」
「でも…総ちゃんだって、だいぶ手加減してたでしょ?今の」
「いや、そうでもないよ。特に後半は、危うく普通に『面ッ!』って入れちゃいそうだった」
「や、やめてよ…面つけてないんだから…頭、割れちゃうよ…」
 と苦笑いした丹生だが、スッと表情を戻し、本題を思いだしたように、
「ところで、総ちゃんさぁ…最近、身の回りで変わったこととかない…?」
「変わったこと?」
「たとえば…誰かに尾けられてるとか…知らない人が訪ねてきたとか‥」
「いや、特にないけど…何だよ?俺が誰かに狙われてるとでも言いたいのか?」
 そのあっけらかんとした様子から、今のところ、大会を前にして危険が迫っているということはなさそう。
(ということは、やはりヒラガーナの連中が何かしでかすとしたら明日、大会の会場でってことか…)
 と考える丹生。
 そして、
「さーて…そろそろ俺も帰り支度しようかな。特に今晩はしっかり寝ないといけないし」
 と言った沖田の言葉を合図に、
「ありがとう。わざわざお茶まで出してくれて」
「気にすんな。久々に会えて楽しかったよ」
 そして帰りがけ、言うか少し迷ってから、 

「明日の剣大…もしかしたら見に行けるかも…」

 と口にすると、沖田は笑顔になって、
「ぜひ来てくれよ。明里の見てる前じゃ、みっともない試合は出来ないって気合も入るからさ」
 そして、すっかり明日も会えるものとして、
「じゃあ、また明日な」
 と手を振って見送ってくれた沖田。
 そのまま道場を後にし、気付けば薄暗くなっていた中、とぼとぼと停めてきた車に戻ると、ふいに、
「わッ!」
「ぎぇぇッ!」
 車の陰から脅かすように声を上げて飛び出してきた菜緒と美穂に驚く丹生。
 まず、そのリアクションを二人に笑われ、そして美穂に、
「ちょっとぉ…ずいぶん長く一緒にいたじゃん。すぐ出てくると思ってたのに」
「ご、ごめん…つい…」
「で、どうだった?久々の再会。脈アリそう…?」
 と美穂が聞くと、丹生はまた慌てて、
「だ、だからッ…そういうのじゃないってば…!別に何もないからッ!本当にただの幼馴染なのッ…!」
 薄暗くなった中でも赤面してるとハッキリ分かる丹生。
 美穂の悪ノリはまだ続き、車に乗り込んでからも、
「どうなの?沖田さん。今、特定の彼女とかいる感じ?聞いたよね?もちろん」
 とか、
「これもきっと何かの縁だって。このチャンス、逃しちゃダメだよ。丹生ちゃん♪」
 と、丹生よりも楽しそう。
 これには、たまらず、
「ねぇ、菜緒ぉ!何とかしてよぉ…」
「まぁまぁ…ほどほどにね」
 と言う菜緒も少し笑っている。…が、それと本題は別。
 帰り支度を終えて出てきた沖田の姿を確認し、護衛という名目で尾行開始。
 相手の歩きのスピードに合わせての尾行はなかなか難しく、菜緒も、
「これだったら、丹生ちゃんが一緒に歩いて帰る方が自然だったかもね」
「ちょっと、菜緒ぉ…?菜緒まで、そうやってイジってくんの?」
「い、いや…そういうつもりじゃなくて」
「もぉ…」
 と後部座席で膨れてる丹生だが、一方で、内心、

(総ちゃん…全然、変わってなかったなぁ…それに、私のこと、まだ覚えててくれた…♪)

 と、それは素直に嬉しい。 
 そして、沖田の自宅が見えるところで車を停め、このまま朝まで見張ることに。
 その車内、他のコンビと無線連絡を取り合い、経過を共有。
 今のところ、どのターゲットの周囲にも不審な動きはないとのことで、
「となると、やっぱりXデーは明日、大会当日ってことね…!」
「上等じゃん…!迎え撃ってやろうよ、私たちで!」
「歴史ある剣道大会をヤツらに汚されるワケにはいかない…!」
 と、それぞれ意気込む三人。…だが、あいにく、三人とも車内にいるため、その車の上部に不気味な白装束が乗っていることに気付く様子はない…。

 ……

 そして翌朝。
「美穂!美穂!」
「沖田さん、出てきたよ!」
「…んん…」
 交代で取っていた仮眠から叩き起こされて目を開ける美穂。
 寝ぼけ眼に朝の日差しが射し込む中、道着を着こなし、家の門から出ていく沖田を視界に留め、こちらも発進。
 沖田の足は、まずは昨日の道場へ。
 そして、そこで集合した門下生の子供たちとともに貸切マイクロバスに乗り、いざ、大会の会場となるひなたアリーナへ。
 途中、信号待ちで横の車線に別のマイクロバスが停まれば、その後ろにピッタリ張りついた車の中にいる松田好花、金村美玖ペアとサイドミラー越しにアイコンタクト。
 さらに会場に着けば、富田鈴花、河田陽菜ペアも先着していて、
「9時半に学生の部からスタート。小学生、中学生、高校生。その後、お昼休憩を挟んで午後からが大人の部だって」
「大人の部で出場する人は、その間、自由行動らしいから、引き続き、各ペア、警護継続で」
「了解」
 と言葉を交わし、再び散らばる面々。
 菜緒たちがマークする沖田は、会場に降り立つと、まず先立って開幕する小学生の部に出場する子供たちに励ましのエールを送っていた。
 そして、その様子を見ながら、美穂が、
「いっそのこと、丹生ちゃんは沖田さんの真横に張りついててもいいんじゃない?顔見知りなんだから隣にいても大丈夫だと思うんだけど」
 その提案に対し、また顔を赤くして、
「い、いいって。別に…この距離でいい…」
 昨夜みたく、からかっていると思って断る丹生だが、菜緒も賛成し、
「何か起きたら私と美穂でバックアップする。それで行こう」
「え…?マ、マジで言ってんの…?」
「ほら、早く」
「行ってきな」 
 と二人に背中を押される丹生。
 恥ずかしさも任務となれば関係ないということで、沖田が子供たちから離れたところを見計らって、
「そ、総ちゃん…おはよう。来たよ」
 と声をかけに行くと、
「よぉ、明里!本当に来てくれたんだな」
 沖田は笑顔を見せ、
「ちょうど今からウチの道場の子供たちが試合するからさ。一緒に応援してやってくれよ」
「そ、そうなんだ…分かった。応援する」
 と返した丹生。
 昨日同様の妙なドキドキを少し邪魔に感じながら、アリーナの中へ。
 適当に空いている観客席を見つけ、並んで腰を下ろしたところで、いよいよ始まった小学生の部
 総勢、30人近くの小学生がトーナメント方式で戦っていく。
「聞くところによると、北街区の道場の子ですごい子がいるらしいから優勝は難しいかもしれないけど、ウチの子も良い線いくと思うんだ」
 と、ワクワクした様子で口にする沖田。
 おそらく、野球好きが野球場に入ると気持ちが昂ぶるのと同じようなことだろう。
 そして、そんな沖田で見つつ、チラチラと試合にも目をやる丹生は、時折、センスの片鱗を見せる子もいたりして感嘆。
 そして、そんな中、不意に片耳に仕込んでいた無線受信用のイヤモニから、

「こちら鈴花!ゴーストを発見!現在、裏の駐車場で交戦中ッ!」

(…!)
 それを聞いて、つい反射的に立ち上がりかけた丹生だが、そこに、
「丹生ちゃん、待ったッ!」
 と菜緒の声がカットインし、
「陽動作戦かもしれない!美穂が助太刀に行ってくれる。丹生ちゃんは引き続き沖田さんの傍に!」
「━━━」
 すぐ隣に沖田がいる手前、返事をすることは出来ない中、了解したというように小さく頷く丹生。
 そして…。

 ……

「ハッピー…オーラっ!」

 駐車場の片隅に響き渡った掛け声。
 腕のクロスとともに鈴花はヒナタパープルに、陽菜はヒナタホワイトへと変身。
 目障りなガーナ兵を蹴散らすと、そんな二人の戦いっぷりを浮遊して眺めている白装束に相対し、
「降りてきなさい!ゴースト!」
「私たちが相手よ!」
 啖呵を切るパープルとホワイトに対し、
「フォフォフォ…ワシが地上に降り立ったところでお前たちに何が出来る?お前たちの攻撃など、何ひとつ、ワシには通用せんのだ」
「や、やってみこなきゃ分かんないでしょうが…!」
「フン…こざかしい!」
 降りていく代わりに振りかざした杖。
 その先から、

 ボォォォ…!

「くっ…!」
 噴き出した火炎放射で二人を追い詰めていくゴースト。
 回避のために転がり、身体を起こした拍子にヒナシューターを抜いて鮮やかな一連で発射するパープル。…だが、放たれた紫色の光線はゴーストの白装束を虚しく空過。
 そして、
「フォフォフォ…ウォーミングアップはこれぐらいで充分。お前たちはもう用済みだ」
 と、ここで初めて繰り出す技、杖の先から放たれた妖糸がパープルとホワイトの身体をまとめて

 ギュルルル…!

「うわッ…!」
「きゃっ…!」
 背中合わせにして縛り上げられた末、バランスを崩し、二人揃って倒れてしまうパープルとホワイト。
「くっ…!くっ…!」
 打ち揚げられた魚のように身体を揺するも、切れない妖糸。
 そしてゴーストは、二人に、
「外野はそこでおとなしくしているんだな」
 と言い残し、スッと透明化して静かに消え去る。
「ま、待てっ!くそっ!」
「は、外れないッ…!」
 駐車場のアスファルトの上をゴロゴロのたうち回る二人。
 そこに、

「ハッピー…オーラっ!」

 新たに変身の掛け声とともに現れたのはヒナタブルー。
「二人とも、大丈夫!?」
「くっ…み、美穂ぉ…」
「こ、これを何とかして…」
「私に任せな!」
 と威勢のいい返事とともに、二人の身体を縛り上げた妖糸を掴むと、
「ぐっ…てやぁぁッ…!」
 その自慢の怪力によって、

 ブヂブチブチっ…!

 引き裂くように切断された妖糸。
 こうして二人を助け出すも、すぐさまホワイトが、
「ゴーストが消えた!すぐに戻らないと!」
 頷いたプルーがマスク内無線で、

「緊急!緊急!ゴーストがアリーナに向かった模様!行動を開始するおそれあり!警戒強化ッ!」

 と、鬼気迫る口調で呼びかけた。 

 ……

 外でそんなことが起きてるとも知らず、小学生の部を終え、続いて中学生の部が始まった会場。
 そして、沖田を隣にしながら、イヤモニでブルーの声を受信した丹生。
 ちょうど自分のところの門下生の試合とあって、
「いけッ!いけッ!そこだ!」
 と応援が白熱しだす沖田に対し、注意喚起に従ってチラチラと周囲…そして頭上に注意を配る。
 そして、
(…!)
 パッと見、白装束が浮いているように見えて一瞬ぎょっとするも、よく見るとアリーナの屋根を形成する鉄骨の継ぎ目で、
「ふぅ…焦ったぁ…」
 と、沖田の声援に隠れる程度の声量で溜め息。
 その後も、イヤモニから、逐一、

「こちら金村!アリーナの西側通路でゴーストを発見したけど取り逃がした!」

 さらには、

「こちら愛萌!今、アリーナの外をゴーストらしき影が横切ったわ!」

 と、だんだん無線も混線状態に。
(誰…?本当の狙いは誰なの…?)
 現れては消え、現れては消え…を繰り返して戦士たちの混乱を狙ってくるゴースト。
 そこに、もどかしさゆえの苛立ちを覚え、沖田の死角で握り拳を座席に叩きつけた丹生。
 そして、何の気なしに、もう一度、頭上に目を向けたところ、

(…!)

 あるところでその視線が止まった。
 バスケットボールの大会でも使用できるこのアリーナ。
 その時に使うバスケットゴールは普段、天井に向けて跳ね上げる形で格納されているのだが、そのバスケットゴールの隅にチラチラと白い布がひらめくのが見えた。
 よく目を凝らすも、今度はさっきのような見間違いではない。
 そして、その白装束を纏ったゴーストと明らかに目が合い、その瞬間、そこから飛び立つようにゴーストの身体が丹生に…いや、その隣で試合に夢中の沖田を目指して落下してきた。
 それに気付くや、
「総ちゃんッ!来てッ!」
「えっ…?お、おいッ!ちょっ‥!」
 隣に座っていた沖田の手を強引に引っ張って立たせ、観客席から飛び出す丹生。
「あ、明里ッ!どこ行くんだよッ!試合は…!」
 と困惑している沖田だが、説明しているヒマはない。
 早足で階段を駆け下りながらチラッと振り返り、浮いたまま追ってくるゴーストの姿を確認。
 その追い方に一種の執念のようなものを感じ取り、
(間違いない…!狙われてるのは、総ちゃんだ…!)
 と確信。
 すかさず腕のヒナタブレスを口元に持っていき、

「こちら丹生っ!今、アリーナの東側通路!すぐ背後にゴーストが…!」

 と叫ぶように伝達。
 その丹生の叫びすら何のことかも分からない沖田だが、やがて沖田自身も、追ってくるゴーストの姿を振り返って確認し、
「わッ!な、何だ!バ、バケモノだ…!」
 狼狽する沖田をとにかく手を引いて走らせる丹生。
 すると目の前、外へ出るエントランスのところで、
「丹生ちゃん!」
「…美穂ッ!陽菜ッ!鈴花ッ!」
 青、白、紫の三色の戦士たちとのすれ違いざま、
「私たちで食い止める!
「早く先へ!」
「オッケー!」
 仲間を信じて、速度を落とさず、三人をすり抜けるようにして外に飛び出した丹生と沖田。
 背後から、

「こざかしいッ!」

 ボォォォ…!

「きゃぁぁッ…!」
「く、くそっ…!」
「ヒナシューター!」

 と聞こえてくる戦闘音も今は無視。
 そして、そんな仲間たちの足止めもあって、追っ手のゴーストとは少し距離が空いた。
 それをさらにもう少し行ってから振り返って確認し、ようやく、駆ける足を少し緩める丹生。
「はぁ…はぁ…」
 急に走ったので、思いのほか、息も上がる。
 そして沖田が、
「な、何だったんだ?今の…あのバケモノは、いったい…?」
 と困惑しているのに対し、どう説明すればいいか考えようとした丹生だが、前に向き直った瞬間、一気に表情が険しくなった。
 一難去ってまた一難…目の前に、今度はゴーストではなく、憎きコスチュームを纏ったあの女が不敵な笑みで立っていたからだ。
「イ、イグチ魔女…!」
「フフフ…残念。鬼ごっこもここまでよ。アンタたち」
「くっ…!」
 身構えるとともに、流れで腕をクロスしかけるも、慌てて踏みとどまる丹生。
 チラッと背後の沖田を見て、
(い、今…ヒナタオレンジに変身したら…そ、総ちゃんに正体がバレてしまう…でも、変身しなきゃ…!イグチ魔女相手に生身の丹生明里ではどうしようも…)
 と、そんな一瞬の躊躇が命取りだった。
 スッと愛用のステッキを突きつけるイグチ魔女。
 それを見て、この女の得意の火球攻撃が来ると思い、サッと身構える丹生に対し、
「…残念。今日は火球はお休みよ。代わりに…♪」

 パカっ…!

(なッ…!)
 突如、観音開きのように開いた真下のアスファルト…完全に不意打ちの落とし穴トラップに為す術もなく、

「きゃぁぁッ…!」
「うわぁぁッ…!」

 二人して奈落の底へと転落していった丹生と沖田。
 そして、その悲鳴が消えたと同時にステッキを下ろせば、開いた穴もゆっくりと閉じ、元のアスファルトの路面に姿を戻す。 
 そしてイグチ魔女は、
「フッ…楽勝だわ」
 と鼻で笑うと、最後はその場で、

「ゴースト。獲物は捕獲完了よ。ザコの相手はさっさと切り上げてアジトに戻ってらっしゃい」

 そう言って静かに消え去るイグチ魔女。 
 今頃、落とし穴に転落した二人は、ダストシュートみたく、この地下に造られたアジトの牢獄の中に行き着いている筈。
 一緒に捕らえた丹生明里はあとで他の連中を誘い出すエサにするとして、肝心の沖田総助は洗脳して暗殺者へと仕立てる。
 剣道大会優勝候補の腕前なら実力は申し分ないだろう。

 ……

 ひゅぅぅぅ…ドサァァっ!

「痛った…!」 
「痛ってぇ…!」
 二人仲良く、地下の牢獄へと到着した丹生と沖田。
「くっ…ど、どこだ?ここ…!」
 と困惑する沖田をよそに、いち早く立ち上がり、素早く頭上を見上げる丹生。
 今しがた、二人が落ちてきたダクトのような穴は瞬時に閉じられ、前の鉄格子以外、天井、地面も含めて全て鋼鉄製の牢獄。
 さらに、その鉄格子も、

 …バチバチっ…!

「あうッ…!」
 と、触れた瞬間、高圧電流が流れる仕組み。
「あ、明里!大丈夫か!?」
「な、何とか…総ちゃんは近寄っちゃダメ…」
 と駆け寄る沖田を慌てて手で制す丹生。
 そして再び、手首のヒナタブレスを口元に持っていき、仲間に無線を飛ばそうとするも、

 ジジジジ…ジジジジ…

 聞き取り用のイヤモニから聞こえだしたノイズに、
(くっ…妨害電波が飛んでる…!)
 と察する丹生。
 これでは、いくら仲間に呼びかけても、その声は外には届かないだろう。
 となれば、残る打開策は、今この場で変身する以外にない。…が、そこでまた生まれる丹生の躊躇。
 もちろん自分一人なら迷わず変身していただろうが、あいにく背後には一般人の…それも幼馴染で、なおかつ丹生の“初恋の相手”でもある沖田がいる…。
(ま、参ったな…)
 結局、どうすることも出来ず、立ち尽くす丹生。
 沖田は、依然、何が何だか分からない様子で、
「な、なぁ…明里…?どこなんだよ、ここ…ろ、牢屋に入れられたのか?俺たち…」
「う、うん…そうみたい…」
 と答えた丹生だが、
「…た、助かるのか…?俺たち」
 と不安げな顔をした沖田には、
「もちろん…!すぐに私の仲間が助けに来てくれるし、私も必ず総ちゃんを守ってみせる…!絶対、大丈夫!」
 と不安にさせないよう、ポジティブに振る舞い、一方で、
(ヤツらの狙いは総ちゃん…つまり総ちゃんに危害が加えられることはまずないし、何かに利用する気なら、いずれ、この牢屋を開けに来る筈…)
 その時がチャンス…となれば、その瞬間を虎視眈々と待つ以外にないだろう。
 そして、それまでの間、どうにか少しでも沖田の不安を和らげようと、
「総ちゃん…今朝、なに食べた…?」
「け、今朝…?えっと…パン二枚とゆで卵…だったかな。…な、何だよ、急に…」
「いや…昨日もだけど、会うの久しぶりだからさ。何か話したいなと思って」
「こ、こんなところでかよ…」
「だって…話すぐらいしか出来ることないじゃん?」
「…まぁ、確かに」
 そして、どちらからともなく壁にもたれるように腰を下ろし、時間つぶしのツーショットトーク。
 こんな状況でも話し始めれば会話は続くもので、
「そういえば、最近、小学校、行った?今、校舎の建て替えやってて、あと半年で私たちの頃から見違えるぐらいキレイになるんだって」
「へぇ…あのオンボロ校舎がねぇ。確かに俺らの通ってた頃から既にボロかったもんなぁ」
「ホントだよ。トイレとかも古くてさ…」
「そういや、小学校で思い出したけど、田中先生、元気してんのかなぁ?」
「絶対、元気だよ。今でも、悪いことした生徒、追いかけ回してるんじゃない?」
「俺もよく追いかけられたなぁ」
「ね。悪ガキだったもんね。総ちゃん…♪」
「…何だよ。まるで自分だけ優等生みたいな言い方しやがって」
「だって、そうじゃん?私は真面目だったから追いかけられたことないしぃ…♪」
「けっ…ヤなヤツ…ガキの頃は活発なぐらいが丁度いいんだよ」
 と苦笑いで吐き捨てる沖田に対し、
「でも…そのわりに剣道はずっと続けてるんだよね。そういうところは真面目だよね、総ちゃん」
「まぁ、剣道ぐらい取り柄がないからな。俺」
「そんなことないよ。優しいし、おもしろいし…総ちゃんのそういうところが私は…」
 そういうところが私は好き…と、つい自然に言いかけたところで、慌てて、

(危ない、危ない…なに言ってんの、私…)

 我に返ると同時に、みるみる赤くなる顔。
 それに気付かず、 
「…何だよ。そういうところが…?」
「べ、別に…何でもない…」
「はぁ?何だよ。気になるだろ。言えよ」
「言わない…」
「お前が言い出したんだろ。教えろよ」
「言わないってばッ…」
「ちぇっ…よく分かんねぇヤツだな。そういう素直じゃないところが珠にキズなんだよなぁ、明里って。昔から」
「━━━」
 黙り込み、またさらに顔が赤くなる丹生。
 今のも、昔なら悪口だと思ってムッとして口喧嘩になっていただろう。
 もちろん、それはそれで微笑ましいのだが、今、この歳になると少し解釈が変わってくる。

(そういうところが珠のキズ…じゃあ、それ以外は…?)

 そんな裏読みでピタッと途切れてしまった会話。
 やがて、その沈黙に自分でも気付き、次の話題を探ろうとしたところで、

 カツ…カツ…

(…!)
 ふいに聞こえてきたヒールの音で、キッと鉄格子の方に向ける視線。
 思った通り、姿を見せたのはイグチ魔女。
 さらに、その背後には宙に浮いて足音が無いゴースト。
 鉄格子越しに目が合ったイグチ魔女は、クスッと笑って、
「あらあら…仲良く二人で寄り添って、微笑ましいじゃないの」
「な、何の用…?」
 邪魔をするな…というワケでもないが、睨みつけるような目をする丹生。
 それに対し、
「フッ…あいにく、アンタには何の用もないわ。用があるのは、そっちの僕ちゃん…♪」
「くっ…」
 立ち上がり、自然と沖田を隠すように立ちはだかる丹生。 
 そのまま、じっとイグチ魔女を見据えつつ、時折チラチラと目を移すのは鉄格子の扉の部分。
 あそこが開かれた瞬間がチャンス…と読んでいたが、そんな丹生に向かって、ふいにゴーストが鉄格子の隙間に差し込んで突きつけてきた杖。
 その先から放たれた妖糸に、
「なッ…!」
 驚きのあまり、かわすヒマもなく巻きつかれた丹生。
(し、しまった…!これじゃ、変身が…出来ない…!)
 虚を突かれて、運悪く「きをつけ」の状態で雁字搦めにされてしまった。
「あ、明里ッ…!」
 と叫ぶ沖田の声も虚しく、そのままバランスを崩して地面に突っ伏してしまうと、
「フフッ…♪うまく誤魔化していたつもり?あれだけ露骨に早くカギを開けろっていう顔をしてたら警戒するのは当然でしょ?」
 嘲笑うイグチ魔女の声に、
「くっ…!」
 と唇を噛むしかない丹生。
 そして、ここでようやく、鉄格子に流した電流をオフにし、扉を開けて入ってくるゴースト。
「うっ…うぅッ…」
 と足元で転がって丹生を無視し、壁側の沖田に近寄るゴースト。
「な、何だよぉ…や、やんのかよぉ…!」
 と震えた声で精一杯の威嚇をする沖田だが、所詮、生身の人間。
 再びゴーストが突きつけた杖の先から妖糸が放たれ、今度は沖田の身体を縛り上げると、その妖糸の先端を杖に引っかけ、
「来い」
「くっ…ど、どこへ連れてくんだ…や、やめろよぉ…」
 叫ぶ沖田をよそに、まるでリードをつけた愛犬のように妖糸を引っ張って沖田を歩かせ、牢屋から出ていくゴースト。
 そして、
「そ、総ちゃんッ…!」
 と叫ぶ丹生の声も虚しく、再び鉄格子は固く閉ざされ、再び電流を流されると、
「アンタの出番もそのうち来るわ。連中を降伏させるための人質という大役がね。その時までおとなしく待ってなさい」
 と言い残して去っていくイグチ魔女。
 それにゴーストも続き、さらに、
「あ、明里…明里ぃぃ…!」
 と喚く沖田も。
 こうして、周囲から誰もいなくなったところで改めて後悔。
(くっ…こ、こんなことなら…とっとと変身しておくべきだった…!)
 完全な誤算…後悔しても時すでに遅しだ…。

 ……

 その頃。
 アリーナの外に集結していた丹生以外の戦士たち。
「丹生ちゃん…!丹生ちゃん…!」
 と好花が繰り返し手首のヒナタブレスで名前を呼んでは、
「…アカンわ。なんぼ呼んでも応答せぇへん」
「となると…丹生ちゃんの身に何か起きた…?」
 眉をひそめる菜緒。
 ゴーストを足止めしていた美穂、鈴花、陽菜の三人が、
「沖田さんを連れて、あっちの方へ向かって走っていった。それは間違いない」
 と言うので、ひとまず全員でその方向へ足を進め、
「丹生ちゃーんッ!」
「聞こえたら返事してーッ!」
 と名前も呼んでみたが、あいにく返事をしたのは外を横切ったカラスだけ。
 そして、さらに足を進めたところ、ふと、前に人影が…。
 尋ね人の丹生か…?
 いや、違う。
「あれは…」
「沖田さん…?」
 前から現れたのは袴姿の沖田。…だが、すかさず先頭の菜緒が、
「みんな、ストップっ!」
 急にキッとした目になって、背後の仲間たちの足を止める。
 着目したのは腰元。
 まるで侍のごとく、刀を脇に挿して歩いてくる沖田。
 あんな刀は、会場入りした時には持ってなかった筈。
 そして、相対する距離がさらに詰まってくるにつれ、美玖や好花の表情も戦闘態勢に変わっていく。
 生気を失ったような虚ろな目…あれはまさしく、ゴーストに憑依された人間の目だ。
 その証拠に、
「フォフォフォ…これはこれは、一人欠いてヒナタレンジャーが揃い踏みではないか…」
「━━━」
 沖田の声色ながら、その笑い方は紛れもなくゴースト…。
「ゴーストっ!次はその彼に憑依してるのねッ!」
「正体を見せなさいッ!」
 と怒声を上げた菜緒と美穂だが、沖田はニヤリと笑って、
「バカめ…せっかく満を持して手に入れたこの身体を、そう簡単に手放してなるものか」
「くっ…!」
 そして沖田は、スッと腰の刀を抜き、
「ただのなまくら刀だと思うな…ヒラガーナの科学技術を駆使し、ダイヤモンド級の硬度を誇るハニーデュー鉱石を研磨して造った刀だ。貴様らの強化スーツも紙切れの如く切り裂くぞ…」
 その不気味かつ落ち着いた口調から察するに、どうやらハッタリではなさそう…ともすれば、とにもかくにも人間体のままでは不利。
 バラバラと散らばり、
「行くわよ、みんな!」
「OKっ!」

「ハッピー…オーラっ!」

 色とりどり、カラフルな発光とともに、一色を除いてヒナタレンジャーが勢揃い。
 しかし、並のモンスターなら少しは怯みそうなその光景も、沖田はフッと鼻で笑っただけで、
「ひぃ、ふぃ、みぃ…なるほど。この小僧の技量を把握するのに丁度いい数だ」
 と余裕綽々。
 そしてヒナタブラック(濱岸ひより)が、腰元のヒナシューターに手をかけたのを視界の隅で捉えたレッドは、慌てて、
「ひよたん、ダメっ!ゴーストが憑依しているとはいえ、あの身体は沖田総助という人間のもの…!ヒナシューターで撃つと、あとで取り返しのつかないことになる…!」
「くっ…!」
 レッドに諭され、ヒナシューターから手を退けるブラック。
 そんなやりとりに、
「フォフォフォ…そうだ。そういうことだ。おとなしくワシに斬られていればいいんだよ、お前たちは」
 と笑みを浮かべた沖田が、いよいよこちらへ向かって駆け出してくる。
 剣道大会の優勝候補の腕前で、強化スーツをもろともしない切れ味の刀を持ち、さらに、こちらからの攻撃は憚られる状態…。
 どうやら一筋縄ではいかなそうだ…!

 ……

 そんな仲間たちが踏みしめるアスファルトの地下。
「くっ…くっ…!」
 寝返りを打つように、絶えず床を転がり続けている丹生だが、いくらのたうち回っても、ゴーストの妖糸が切れない。
(せ、せめて…せめて腕さえ抜ければ…)
 と思うが、きつく縛り上げられていてそれも叶わない。
 こうしてる間にも、連れ出されていった沖田が危ない。…いや、何なら、もうゴーストが憑依して好きに行動を始めているかもしれない。
(ぜ、絶対ダメ…総ちゃんの身体で人殺しなんてさせるワケには…)
 そんな思いから、なおも懸命に床を転がる丹生。
 決して遊んでいるつもりはない。
 身体に巻きつく妖糸を断ち切り、ほどくためだ。
 そして、苦戦する中で、ふと見上げて目に留めた鉄格子。
(ひょっとすると…これを上手く使えば…)
 おそらく脱走防止策として再び帯電状態にされている筈。
 そうと分かるや、クネクネと床を這い、鉄格子に近寄る丹生。
 そして、おそるおそる身体を近づけ、

 …バチバチっ…!

「痛ッ…!」
 今のは失敗。
 妖糸ではない部分…自身の身体を当ててしまった。
「はぁ…はぁ…」
 その痛みが引くのを待って、より慎重に、

 …バチバチっ…!

「ぐっ…!」
 またしても身体に走った激痛…だが、よく見ると、今の電流によって妖糸が切れかかっている。
 思った通り…鉄格子の電流で妖糸を断ち切る…これしかない。
 そして三度目。

 …バチバチっ…!

 という電撃の音とともに、

 …ブチッ…!
 
「よし、切れたッ!」
 途端に緩んだ緊縛を振り払うように脱ぎ捨てると、立ち上がり、

「ハッピー…オーラっ!」

 牢屋の中で煌めいたオレンジ色の光。
 ヒナタオレンジに変身完了するや、腰のヒナシューターを抜き、鉄格子に向かって発射。

 ドカァァン…!

 橙色のレーザー光線の直撃とともに爆発し、ひん曲がって穴が空いた鉄格子。
 その穴から身体を抜け出すと、今の爆発を聞きつけたガーナ兵が数体、駆け寄ってくるも、それを難なく蹴散らし、そして最後の一体を壁に叩きつけて、
「ゴーストはどこ!?教えなさいッ!」
「ぐっ…お、沖田総助に憑依して…ヒナタレンジャーの連中を始末しに…」
「とぉッ!」
「んぐっ…!」
 最後まで言い終わるのを待つこともなく、みぞおちにパンチを見舞って昏倒させ、駆け出すオレンジ。
 意気揚々とネルネルに報告しに戻ったのか、イグチ魔女とは出くわさなかったことが幸いだ。

 ……

 ヒュンっ…ヒュンっ…ヒュンっ…

 空気を裂く音が連続で聞こえ、そして、
「フォフォフォ…どうした?貴様はリーダーだろう?リーダーが、かわすだけで精一杯か?」
「くっ…!」
 ゴーストの煽りに思わずムッとするレッドだが、そのゴーストが憑依した沖田総助の隙のない動きに翻弄されているのも事実。
 ヒナシューターによる一斉掃射で片付けていいなら話は早い。
 実際、普段のモンスター戦ならそれで戦いを終わらせている筈だが、今回はそれが出来ず、攻撃手段も限定された状態。
 切れ味の鋭い刀を持っている時点で近寄ることがまず難題…となれば、使えるのは遠距離攻撃の出来るメンバーの専用武器だけなのだが、それも、
「ホワイトショットっ!」
 と叫んだヒナタホワイトが専用武器の弓、ホワイトアローから放った矢は、神速の抜刀術によってあっさり跳ね除けられ、同じく、
「イエローフリスビーっ!」
 手に持つ刀を弾き飛ばすのを狙って投げつけたヒナタイエローの専用武器も、あっさり真っ二つに叩き割られてしまった。
 それならばと前に出たのはヒナタグリーンも、
「グリーンウィップっ!」
 と自慢の鞭を沖田めがけて振り下ろすも、それも、鮮やかな太刀捌きでバラバラと切断されてしまった。
 残る遠距離はヒナタピンクが扱う小型爆弾「ピンクハートボム」のみだが、これでは沖田本人の身体を吹っ飛ばしてしまいかねない。
 そして沖田が、
「フォフォフォ…さぁ、遊びは終わりだ。まずは誰からこの刀のサビになりたい…?」
「くっ…」
 相手一人に対して八人もいながら、踏み込まれないように間合いを保つのが精一杯の戦士たち。
 それぞれが頭の中で、
(ど、どうすれば…?)
(刀を…あの刀を手から離れさせないことには…)
 と分かってはいるのだが、それが極めて難しい。…と、そこへ、

「とぉッ!」

 突如、聞こえた馴染みのある声とともに華麗な宙返りで現れた、欠けていた最後の一色。
「に、丹生ちゃん…!」
「無事だったのね…!」
「うん!みんな、心配かけてごめんっ…!」
 そして、相対する沖田に…いや、その沖田に憑依したゴーストに向かって、
「ゴースト…!総ちゃんの身体…返してもらうわよッ!」
「ほぅ…貴様、どうやって脱出した…?まぁ、いい。始末することに変わりはない」
 と余裕の笑みで、再び刀を構える沖田。
 それに対し、一斉に身構える戦士たちだが、それを制したのはオレンジ。
「総ちゃんの相手は私がする…!私に任せて…!」
 そういって専用武器、オレンジソードを、沖田と同じように身体の前に構えたオレンジ。
「に、丹生ちゃんッ…!」
「いくら何でも一対一は…!」
 と心配するパープルとピンクだが、リーダーのレッドは静観の姿勢。
 こうなれば目には目を…剣道には剣道で対抗するしかない。
 その証拠に、これまでと明らかに雰囲気が違う間合いの測り合い…見ている側が呼吸することすら忘れてしまうほどの緊張感が周囲に立ち込め、そして、

 キィィィン…!キィィィン…!

 沖田の方がわずかに早く、先に踏み出して斬りかかった。
 その刃を刃で防ぐ白熱の手合わせ。
 続いて沖田が繰り出した薙ぎ払いも、剣を返して受け止めるオレンジ。
 そこで一旦、離れた両者…そして再び間合いを測り合い、次はオレンジの方から仕掛ける。
「ふんッ…!」
 と気合のこもった吐息が声として発せられ、それが後方の仲間たちの耳にも届くほどの静寂。
 その後も、離れては衝突、離れては衝突…が何度も繰り返しされ、やがて沖田が、
「…チッ!こざかしいッ…!」
 苛立ちからか、おそらく素の沖田本人はしないであろう唾吐き。
 それもまた、オレンジにとっては、
(よくも総ちゃんの身体でそんなマネを…!)
 と、憑依しているゴーストへの憤りに変換され、溜まっていく。
 そして、その結集として、一言、

「昨日の手合わせがなければ、私は総ちゃんに敵わなかったかもしれない…!あれをしたことで、私がかつて剣道に注いでいた熱を思い出させたのよ…!」

「な、何をゴチャゴチャと…くたばれぇッ!」
 なかなか仕留められないことへの苛立ちからか、それまでの剣道家・沖田総助の動きではなく、操縦しているゴースト自身の我が前面に出た雑な踏み出し…!
 その絶好機を見逃さず、
「てやぁぁッ!」

 キィィィンっ…!

 目にも止まらぬ速さの打ち払いで沖田の持つ刀を宙に飛ばしたオレンジ。
「くっ…し、しまっ…!」
 手から離れた刀を見上げた沖田の隙を逃さず、素早い切り返しで、

 ズガァァっ…!

「んぐッ…!」
 沖田のがら空きの脇腹に会心の一撃。
 もちろん峰打ちだが、沖田を昏倒させるには充分。
「お、おのれ…よくも…」
 と言いながらズルズルと崩れ落ちる沖田。
 そして、その身体が突っ伏すと、沖田の身体から白いモヤが上がり、憑依していたゴーストが分離して実体化。
 それに思わず、
「よしッ…!」
「やったッ!」
 と小躍りする仲間たち。
 一斉に駆け寄り、気絶した沖田の身体を回収すると、
「愛萌!鈴花!彼を安全なところへ!」
「OK!」
 沖田の介抱をピンクとパープルに介抱を任せ、
「ゴーストっ!もうこれ以上、他人の身体に憑依するのは今ので最後よ!」
「ケリをつけてやる!」
 と啖呵を切る面々を、
「つけあがるなッ!」
 と一喝し、
「ワシを小僧から引き剥がしたところで、貴様らに勝ち目はないッ!」
 と豪語するゴースト。
 …確かにそうだ。
 これまで既に何度かの交戦機会があったが、ヒナタレンジャー側からはまだ一度もダメージを与えられていない。
「くらえッ!」
 と突きつけた杖から噴き出す火炎放射に、
「とぉッ!」
 と後方宙返りで避難するオレンジ。
 ちょうどレッドの前に降り立つと、
「丹生ちゃん、助かったわ!ありがとう!」
「うん。それはいいの。それより、みんな、よく聞いて…」

「━━━」
「━━━」

 何やらボソボソと話し始めた戦士たち…。
 オレンジの話を聞き終わった後のレッドは
「丹生ちゃん。それ、本当なの…?」
 と半信半疑だが、当のオレンジも、
「分からない…あくまで可能性…でも、そう考えると辻褄は会う…」
「…分かった。信じるわ」
 と何か作戦を決めた様子の面々。
 そして、一斉にヒナシューターを手に取り、ゴーストに向けて構えると、
「フォフォフォ…バカの一つ覚えとはまさにこのことだ。さぁ、撃て!撃ってみろ!そんな豆鉄砲は、これまでと同様、ワシの身体をすり抜けていくぞッ!」
 余裕綽々のゴーストに対し、静かに照準を定める戦士たち。
 そしてレッドの、
「みんな、発射よ!」
 という声を合図に、

「シューター!」

 一斉に放たれた七色のレーザー光線は、ゴーストの身体…ではなく、その手に持つ杖をめがけて一直線。



 それに気付いた瞬間、
「…くっ…し、しまった…!」
 と慌てたゴーストだが、余裕ぶっていたぶん、避けきれず、

 ドゴォォォン…!

 爆発とともにポッキリと折れたゴーストの杖。
 杖を失ったゴーストは、それまでの浮遊状態から一転、地に足がついており、
「うぅ…お、おのれ…貴様ら…な、なぜだ…?なぜバレた…!」
 と、これまでの居丈高な態度がウソのようなうろたえ始めている。
 それに対し、代表する形でオレンジが、

「ゴーストっ!白装束の身体は実はダミーで、本当の実体を杖の中…うまくやったつもりだったみたいだけど、それももう終わりよッ!」

「い、いつから…いつから気付いていた…!?」
「違和感はずっとあった…最初に相対した一昨日。私はその杖でお腹を殴られた。痛かったわ。思いのほか硬かったからよく覚えてる。そして、その時はまだ、身体の一部ではなく、武器だから感触があって当然だと思っていたわ」
 さらにオレンジは推理を続け、
「そんな違和感が疑念に変わり確信になったのはついさっき…この地下の牢屋で会った時よ。アンタは牢に入ってくる時、鉄格子の電流を、わざわざ一度、オフにした…実体がないのなら、そのまますり抜けて入ってこれた筈…実体が無いのならダメージは受けない筈なのに、そうはしなかった。それを見た瞬間、実体が無いように見せて、実はどこか別のところに実体を移していることを疑ったわ」
「くっ…」
「そして、それを踏まえて記憶を遡った時、ヒントはすぐ近くにあった…私に向かって鉄格子越しに妖糸を発した時。あの時、杖は鉄格子の隙間に差し込むようにして突きつけられた。鉄格子に当ててしまうと電流が流れる…アンタはそれを嫌った…つまり、杖に電流が流れると不都合だということをその時に露呈してしまったのよ!」
 そんなオレンジの名推理に、
「く、くそぉ…!しょ、勝負はお預けだ…!」
 と背を向けて逃げ出したゴースト。
 これまで意気揚々と宙を浮いていたのを考えると、何とも滑稽なもの。
 その情けない背中に、
「はい、そうですか。…って、このまま逃がすワケないでしょ?」
 再び、ヒナシューターを構える戦士たち。
 そして声を揃えて、

「レインボー…ショットぉッ!」

 その掛け声とともに発射された七色のミックス光線は、逃げるゴーストを凄まじい速さで猛追し、そのまま背中に直撃。
「ごわぁッ!」
 という断末魔とともに、

 ドカァァァン…!

 これまでずっと無かった手応えがようやく得られた瞬間。
 こうして、また一つ、ヒラガーナの悪事を阻止したヒナタレンジャーたち。
 そして…。

 ……

「それでは、第53回ひなた剣道大会…優勝者の表彰を行います…!優勝は…南街区、活心流剣術道場の講師、沖田総助ッ!」

 名前が呼ばれた瞬間、アリーナを包み込んだ拍手。
 道着姿の沖田が組まれたステージに上がると、まずは連盟会長から賞状が、続いて大会実行委員会の会長からトロフィーが続けて授与され、それを少し照れながら身体の前で持つ沖田。
 伝統のある大会ということで新聞記者もたくさん来ていて、一斉にフラッシュが焚かれる。
 そして、
「では、沖田さん。何か一言」
 とマイクを向けられた沖田は、まずは月並みに、これまで出会った恩師や関係者、そして両親への感謝を伝え、そして優勝の喜びを少し涙ぐんだような声で語る。
 そのスピーチを、観客席の上部で、ひとかたまりになって聞いている菜緒たち。
 ステージ上の沖田が、時折、チラチラとこちらに目を向けるたび、
「あ、見た。今、見たねぇ」
「明らかにこっち見たよね、今」
 とニヤニヤする美穂と鈴花。
 もちろん自分たちへの視線だとは思っていない。
 この一団の中心にいる丹生明里に向けられた視線に違いない。
 そしてインタビュアーの、
「最後の決勝戦、どんな思いで竹刀を握っていましたか?」
 という問いには、
「いやぁ、もう…あそこまで行ったら、あとは相手の方の胸を借りるつもりで…とにかく自分の持ってる技術を出し切る…精一杯やるということだけでしたね」
「決勝戦ということで、大きな歓声がありました。観客席からの応援も力になったんじゃないですか?」
「そうですね。いつも教えている子供たちも応援してくれてましたし、その子たちのご家族も…あと…」
 ここで沖田は、再度、チラッと観客席の上部、丹生のいるあたりに目をやってから、

「どうしてもいいところを見せてやりたいヤツがいたんで…そいつの存在も大きかったですね…はい…」

 言ってから少し照れ臭そうに笑った沖田。
 一方、観客席では、
「ヒューヒュー♪」
「あーあ、マイク通して言っちゃったよぉ…♪」
「どうしてもいいところを見せてやりたいヤツ…誰のことかなぁ?」
 と大盛り上がり。
 そんな仲間たちを、
「や、やめてよッ…酔っ払いじゃあるまいしッ…!し、静かにして…!」
 とたじたじの丹生。
 そして菜緒が、
「さぁ…それじゃ、そろそろ帰ろうか」
 と声をかけたのを潮に、次々に立ち上がる面々。
 そして丹生も続いて立ち上がると、
「あ、ダメダメ。何やってんの?」
「丹生ちゃんはまだダメだよ」
「えー!何でよぉ!」
 と文句を言う丹生に対し、好花と美玖がニヤニヤと目を見合わせ、
「そんなん、言わんでも分かるやろぉ?」
「ほら、早く行ってきなって。おめでとうって言ってきなよ」
 そして普段はあまりそんなことを言わない菜緒も、
「15分までは待っててあげる…♪それを過ぎたら、私たち先に帰るから、その時は“誰かに送ってもらうなり”して自分で帰ってきてね」
「あっ!あっ!ちょ、ちょっと!」
 と慌てる丹生を置き去りに、ぞろぞろと席を立つ菜緒たち。
 その後、丹生が彼と何を話したかは、菜緒たちは知らない…。


(つづく)



〜次回予告〜

※調整中(今のところ何も思いついてないだけです。思いつき次第、加筆します)

鰹のたたき(塩) ( 2025/03/18(火) 05:29 )