太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―
















小説トップ
episode-11 『恋せよ乙女!明里とヒラガーナで三角関係!?』
前編
 戦いを終え、続々とヒナタベースに帰還した戦士たちと久美。
 普段なら戦いの後、束の間の休息として表情が緩むものだが、今日は違う。
 菜緒をはじめ、どの顔もまだ、表情が張り詰めたままだが、それもその筈。
 イグチ魔女に次いで現れた謎の女幹部・小悪魔メミー…彼女と久美の間に何やら根深い因縁があるらしいからだ。
 その真相を聞くため、メインルームではなく会議ルームへと進む戦士たち。
 久美は、ちょうど室内の掃除をしていた平岡海月の竹内希来里に人数ぶんのコーヒーを注文し、議長席に陣取ると、それが届くまでの間に気持ちの整理をつけるように深呼吸。
 その様子を見て、改めて、
(あまり明るい内容ではないみたい…)
 ということだけは感じ取った菜緒。
 そして数分後、平岡と竹内が人数ぶんのコーヒーカップをトレイに乗せて戻ってきて、まるでウエイトレスのように一人ずつ配っていくのを待ち、それが全員に行き届いたのを見て、
「…まずはじめに、みんな、ご苦労様。大きな怪我とかしてない?」
「はい」
「全然」
「へっちゃらです」
 と相次いで答えた菜緒、美穂、ひより。
 そんな彼女らからの「そんなことよりも…」という眼差しを受け、一口、淹れたてのコーヒーを口に含んで落ち着かせる久美。
 そして、話し始めの言葉を選ぶような間を空けてから、

「さっきの女、あの場ではメミーと名乗っていたけど…彼女の本名は柿崎芽実。血は繋がってないけど…ある意味、私の妹のような関係だった娘…」

「久美さんの…」
「妹…?」
 室内に困惑が広がったのを感じつつ、構わず淡々と話を続けた久美。

 ……

 それは、もう何年の前。
 久美が前線に立って戦っていた先代レンジャーが結成されるさらに前、まだ彼女が、かつての故国・けやき星で、普通の学生として過ごしていた頃にまで遡る。
 柿崎芽実…二人が仲良くなった最初のキッカケについては、もはや覚えていない。 
 それぐらい、気付けば隣にいて、買い物に食事、おでかけと、ほぼ毎日、姉妹のように接していたからだ。



 人前でも構わず抱きついてきたりする少し甘えたなところのある芽実と、そのたびにそれを振り払う久美という構図が常。
 もちろん、本気の抵抗ではない。
 そういうツンツンした感じで振る舞う関係性が何となく心地よかったし、当の芽実も久美の反応を楽しんでいた。
 そんな仲睦まじさもあって、姉妹に間違えられたことも多かったし、そのたびに満更でもない顔をしていた二人。
 ことあるごとに芽実は、
「お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しい♪」
 とよく言ってたし、一方の久美も、
(妹って、多分、こんな感じなんだろうな…♪)
 と、常に思っていた。
 この関係が漫然と続いていくとも思っていた。…が、そんな二人の密接な関係に距離を生んだのは、やはりヒラガーナ…。
 当時も今も、気に入った惑星を見つけるたびに侵攻、侵略を繰り返していたヒラガーナの連中。
 そして運悪く、けやき星が次なる侵攻の標的とされ、それまでの平和が脅かされ始めたのを機に、このままでは為す術なく連中の侵略を許してしまうという危機感、そんな悪の一味の魔の手から自分が生まれ育った星を守りたいという正義感に目覚めた久美。
 その想いを原動力に、科学の最先端を行くけやき星で培った技術と頭脳で作り上げた変身ブレスレット。
 それを、親友の加藤史帆をはじめ、同じ志を持つために集めた8人の仲間たちと共有した。…が、その中に芽実はいなかった。
 もっと言えば、あえて誘わなかった。
 理由は一つ…。

(芽実を…この娘を危険な目に晒したくない…)

 戦場に立つ以上、危険は必至、死と隣り合わせ…そこに、妹という目で見ていた芽実を巻き込むことに気が引けてしまったのだ。
 それに、芽実の性格上、話せば自分もそこに加わると言うに決まっている…だから伝えすらしなかった。
 ただ一言、メールで、

<ちょっと事情が出来て、今までみたいに会えなくなる。時間が取れそうな時にまた連絡する>

 と送っただけ…。

 ……

 そこまで話したところで、一旦、話を止めた久美。
 話しているうちに自然と頭によぎる当時の記憶、あの頃の芽実の残像を打ち消しながらでは、思った以上に話し疲れをしてしまうらしい。
 それに気付き、気を利かせた菜緒が内線電話を手に取り、
「…あ、希来里?会議ルームに、コーヒー、もう一杯もらっていい?」
 と追加注文とともに小休止。
 すると、頼んだコーヒーの到着にしては妙に早く、

 コン、コン…

 とドアがノックされ、開くとそこにいたのは竹内ではなく、このヒナタベースで通信係を務める高橋未来虹で、
「お取り込み中、すいません。至急、何名か出動できますか…?」
 それはつまり、街で新たに事件が起きたということ。
 それを察し、とっさに立ち上がろうとする菜緒に、
「いいよ、菜緒。そのまま聞いときなよ」
「ここは私らに任しとき」
 と制して立ち上がったのは金村美玖と松田好花。
 もちろん出動要請は大事だが、今後のことで考えると久美の話を聞いておくことも大事。
 続きは後で伝え聞くとして、邪魔にならないよう、そそくさと会議ルームを途中退室した美玖と好花。
 廊下で改めて未来虹から、
「東街区の三丁目付近なんですが、刀を持った男が歩いているという報告が入ってます」
「刀…?」
 揃って眉をひそめる好花と美玖に対し、未来虹は頷いて、
「玩具の刀なら問題ないんですが、万が一、それが本物の刀だとしたら…」
「確かに。一大事だね」
「了解。見てくるわ」
 そう言って、おかわりのコーヒーを運んできた竹内とすれ違ったりもしつつ、早足で地下のピットルームへ足を進めた二人。
 それぞれモチーフカラーに倣って、美玖は黄色のヘルメットにイエローカウルのバイク、好花は緑色のヘルメットにグリーンカウルのバイクにそれぞれ跨がり、飛び出し口から発進。
 同時に、上の会議ルームでは、コーヒーも届き、久美の話が再開していた。

 ……

 そういう経緯をありつつ、先代レンジャー結成。
 最初のうちは、どうしても芽実のことが気になり、会えなくなると自分から言っておきながら、夜な夜な、電話をかけたりもしていた久美だが、次第に戦いが激化していくにつれ、長電話をする時間もなくなっていった。
 そして、久美が戦士となっておよそ三ヶ月が経った頃、一本の知らせを受ける。

<ヒラガーナの人間狩りが発生!場所はサースタウン、Eエリア!>

 その知らせに、思わず背筋が凍った久美。…というのも、指定されたそのエリアは芽実が住んでいる区域だったからだ。
 それもあって慌てて現場に急行した久美。
 その時、一緒に向かったのは、確か、潮紗理菜と高本彩花だった記憶。
 到着とともに三人でその場で起こっていた人間狩りを叩き潰し、駆り出されていたガーナ兵たちを殲滅。
 連れ去られそうになっていた住人たちも軽傷者数名を出しただけで無事に救出できたが、一方で、安否確認のためにケータイで電話をかけても何故か芽実とは繋がらなかった。
 不審に思い、潮と高本に、
「ちょっと寄りたいところがあるから先に帰ってて」
 と告げ、閑静な住宅街の中にある芽実の家を訪ねた久美。
 何度かお泊まりをさせてもらったこともあるその家も、なんだかんだ久々。
 懐かしさを感じつつ、インターホンを押した久美だが、応答はなかった。
 二、三回、押しても結果は同じ。
(…いない…!)
 と妙な胸騒ぎを覚えながら、ふと道路に目を向けた久美だが、そこで、

「…め、芽実…!」

 ちょうど夕暮れ時、夕陽を背に受け、とぼとぼと道路の向こうから歩いてくる見覚えのある人影…相変わらず外に出る時はワンピースという着こなしの芽実の姿が目に飛び込み、自然と安堵した久美。
 すかさず駆け寄り、
「芽実!無事だったのね!こんな時にどこ行ってたの?連絡つかないから心配したじゃん!」
 と、すっかり姉の気分で叱ったまではよかったが、そこで、ふと、首を傾げた久美。
 久々の再会にもかかわらず、なぜか無反応の芽実…いや、よく見ると、どことなく目も虚ろだ。
 それに気付き、
「め、芽実…?どうしたの…?」
 と不審に思い始めた久美。
 すると、次の瞬間、虚ろだった芽実の瞳がキラリと光ったように見えたと同時に、

 ブワッ…!

「んぐッ!?」
 突然、懐めがけて押し寄せた強烈な突風にホディブローを喰らう形で、その長身を数メートル飛ばされた久美。
 電柱に背中を打ちつけ、思わず顔をしかめながら再び目を向けると、いつの間にか芽実が着ていた純白のワンピースが、黒を基調としたゴスロリ系の衣装へと変わっていた。
(…え?ど、どういうこと…?) 
 と目を疑った瞬間、今度は見間違いではなく、明らかに芽実の瞳がキラリと光り、再び、

 ブワッ…!

「くっ…!」
 慌てて電柱の後ろに回り、電柱を盾に凌いだ二発目の突風。
 そして風が止むと同時に飛び出し、離された距離を詰めるように駆け出すも、そんな久美めがけて放たれた芽実のウインク。
 その瞬間、

 ドゴォォン…!

「きゃっ…!」
 駆けていた足元で起きた小爆発。
 そのまま爆炎に包まれると、その煙の中に、

「フフフ…どう?佐々木久美。驚いた?」

(…!)
 どこからともなく聞こえてきた少し舌っ足らずな女の声に対し、記憶力の良い久美は、瞬時に、

「そ、その声は…ネルネルっ…!」

 と声の主を断定。
 そして答え合わせのように煙が晴れていくと、やはり思った通り、宇宙海賊団ヒラガーナの船長、久美にとって因縁の相手でもあるネルネルが、いつの間にか芽実の隣にその姿を現していた。
 すかさず、
「め、芽実ッ!その女から離れてッ!」
 と声を上げる久美だが、なぜか微動だにしない芽実。
 それを見て、何かを察したようにキッとした目になって、
「ネルネル…!芽実に何をしたの…!」
「さぁ…?何かしたかなぁ…?」
 とネルネルはとぼけ、その背後で再び芽実がウインク。

 ドゴォォン、ドゴォォン…!

「くっ…!」
 ウインクに気付いた瞬間、後ろに跳んで正解。
 それまで立っていたところで爆発が起き、再び爆炎が上がる。
 再び煙に巻かれる久美に、

「まぁ、しいて言うなら、アンタに構ってもらえんくなって寂しがっとったけん、その心の隙間を私が代わりに埋めてあげたってところかなぁ…♪可愛い洋服と超能力を与えてね…♪」

(…な、何ですって…!)
 煙の中で聞いたネルネルの声に、ぎょっとする久美。
 そして再び煙が晴れ、対峙…。
 半信半疑の目で見据えながら、ネルネル越しの芽実に、
「芽実ッ…私のことが分からないの…!私よ!久美よ!」
「━━━」
「芽実ッ!思いだして!私は、あなたのお姉ちゃ…」
「無駄なことはよしんしゃいッ!」
 と言い終わる前に久美の訴えを遮ったネルネル。
 クスッと笑って、
「私の洗脳術は、そんな声を張り上げただけで解けるほどヤワやなかばい…♪」
「くっ…!」
 洗脳術…今、ネルネルが発した言葉から察するに、どうやら芽実は洗脳状態にあるらしい。
 これまで数々の惑星を侵攻してきたことで軍事力も膨れ上がっているヒラガーナ。
 おそらく情報収集力もかなり強化されており、それで久美と芽実の関係を調べ上げたのだろう。
 なおも芽実が繰り出す突風と爆破のコンビネーション。
 防戦一方の中で、

「フフフ…どう?妹のように可愛がってた娘から受ける攻撃の味は?」
「アンタが急に冷たくして構ってあげなくなったのが悪いんよ?」
「夜な夜な、泣いてたみたいだし…相当、寂しかったんじゃないかしら?」

 などと次々に浴びせられるネルネルの皮肉に対し、
「そ、そんな…冷たくしたワケじゃないッ…!私は、ただ…芽実をこの戦いに巻き込みたくなくて…!」
 と釈明するように叫ぶ久美だが、それも爆音にかき消されて届かない。
 やがて攻撃が止み、再び煙が晴れていくと、ネルネルと芽実は、いつの間にか並んで宙に浮いていた。
 見上げる久美を無表情で見下ろす芽実。
 そしてネルネルは言う。

「今日からこの娘も、我々、ヒラガーナの一員。他の星に回す人員が不足していたからちょうどいいわ。柿崎芽実という名前だから…メミーとでも呼ぼうかしら。お前がこれからもこの戦いの中で生きていられれば、もしかしたら、またどこかで再会できるかもねぇ…♪」

 その笑みとともに、さらに高く浮き上がっていくネルネルと芽実に、
「ま、待て!ネルネルっ!」
 と叫んだ久美だが、二人の浮上は止まらず、やがて夕空が透き通ったように消えていった。

 それ以来、久美は夢中で戦った。
 仲間の誰にも…サブリーダー格だった史帆にすら、自身の妹的存在がヒラガーナの一味にされたことなど言えないまま、ひたすら戦い続けた。
 星を守る使命はもちろん、洗脳された芽実を取り戻すために…必ず再会するために…。
 だが、当時、結果的にそれは達成できなかった。
 けやき谷の合戦での敗走…そして、今、何とか逃げ延び、こうして後進の戦士たちに使命を託している。
 今でも、時折、ふいに思い出すことがあった芽実の存在。
 それが、今回、ああいった形で久々に再会できたワケだが、それが果たして、幸運なのか、それとも悲運なのかは、まだ分からない…。

 ……

 その頃。
 出動した美玖と好花は当該地区である東街区の三丁目付近をパトロールしていた。
 並んでバイクで走りながら、
「見当たらないね」
「本当にそんな人おるんかなぁ?」
 などと言いつつも、念には念を入れて、くまなく見て回る。
 そして、しばらく走っていると、不意に好花が、
「…美玖ッ!ストップっ!」
 その声を聞き、慌ててブレーキを踏む美玖。
 好花が一旦、バイクのエンジンを止めているのを見て、自分も同じようにエンジンを止めると、走行音が消えた空気中から、かすかに悲鳴のようなものが確かに聞こえた。
 すかさず顔を見合わせ、
「あっちだ!」
 と声のした方を指差し、再びエンジンを噴かして発進。
 たちまち、走行音がしていても悲鳴がハッキリと聞こえるようになり、そして数人、逃げ惑うように駆けてくる人たちとすれ違ったところで、
(…!)
 二人の目が捉えたのは、まさに未来虹が言っていた通り、刀を持って歩いている袴姿の男。
 そのサマになっている立ち振る舞いと着こなし…おそらく剣道家だろう。
 現代的な町並みに不釣り合いな出で立ち…まるで幕末時代からタイムスリップしてきたかのよう。
 太陽の光を浴びてキラキラと光る刀身も、パッと見では真剣にしか見えない。
 そして、その行く先を通せんぼするようにバイクを停め、降り立った美玖と好花。
 なおも一歩ずつ近づいてくる男を見据えながら、
「…どうする?」
「どうするもこうするも…とりあえず取り押さえるしかなくない?」
 と困惑しながら言葉を交わしていた二人だが、いざ、10メートルほどまで近づいてきて目が合った瞬間、いきなり、
「…んがぁぁぁッ…!」
「なっ!?」
「ウ、ウソでしょ!」
 手にしていた刀を振り上げて駆け出し、どちらともなく切りかかってきた男。
 その一太刀をかわすとともに左右に散った美玖と好花。
 そして男は散らばった二人を見比べ、まず美玖をロックオンすると、刀を構え、追撃を繰り出す。
「ちょ、ちょっと…!」
 ヒュンっ…と空気を切り裂いた音がした薙ぎ払いを紙一重でかわす美玖。
 そして街路樹を背にし、なおも切りかかってきたのをかわした瞬間、

 スパンっ…!

 鮮やかに叩き斬られた枝を見た瞬間、
「ほ、本物だ…!」
 と確信した二人。
 なおも美玖を見据えるその目を見て、
(目がイッてる…!正気じゃない…!)
 そして、それまで美玖に向いていた視線がギロッと好花に向き、次は好花に向けて刀を振り下ろす男。
 それを、
「くっ…!」

 パシっ!

 瞬時に高めた集中力で、失敗したら大惨事の真剣白刃止めを見事に成功させた好花。
 そして、その隙に美玖が背後を取り、頚椎にチョップを浴びせると、
「ぐっ…!」
 呻き声を上げ、ヘナヘナと膝から崩れ落ちていく男。
 それと同時に、握力の抜けた両拳から刀を取り上げた好花だが、その瞬間、
(…!)
 突っ伏した男の背中から何やらモヤのようなものが出始めたのを見て、咄嗟にはたらく戦士の勘。
「美玖!下がって!」
 と声を上げ、自分も同様にサッと距離を取る好花。
 すると、その立ち込めたモヤが、やがて人型になり、そして、
「フォフォフォ…」
 という怪しげな鳴き声とともに、白装束を纏い、杖を持った不気味なバケモノが姿を現した。



 それを見た瞬間、
「ヒ、ヒラガーナ…!」
 と口にした美玖に目をやったそのバケモノは、
「ほぅ…ワシの姿の見て臆する様子もなく、ましてやヒラガーナのことを知っているとなると…うぬらが例のヒナタレンジャーか…?」
「その通り!」
「ヒラガーナっ!懲りもせずにまた何か企んでるわね!」
 身構える美玖と好花に対し、
「フォフォフォ…我が名はゴースト。お前たちごときがワシを倒せるとでも思っているのか?」
 と、やけに自慢満々な新手のモンスター、ゴーストの挑発にカチンと来た好花。
「やったるわ。これで一発で仕留めたるッ…!」
 と取り上げた刀を白装束めがけて振り下ろすのに対し、
「フン…」
 と鼻で笑うだけで動かないゴースト。
 クリティカルヒットを確信した好花だが、

 スカッ…

(…!?)
 振り下ろした刀は何にも触れることなく、ゴーストの白装束を空過。
 さらに続いてチョップを繰り出した美玖も同様に、

 スカッ…

「くっ…な、何で…」
「フォフォフォ…今、何かしたか?小娘ども」
 実体がなく、一切の攻撃を受け付けないゴースト。
 ユラユラと浮遊するような動きで右へ左へ漂い、そして、
「次はこちらの番だ!くらえッ!」
 と手にした杖をかざすと、

 ボォォォ…!

「わッ…!」
「きゃっ…!」
 杖の先から放たれた火炎放射に慌てて散らばる二人。
 さらに、額のドクロから放たれた破壊光線がまず美玖を、続いて好花を襲う。
「危ないッ…!」
 と、間一髪、伏せて回避した好花だが、外れた破壊光線は背後の街路樹に直撃して爆発し、メキメキと折れてしまった。
 周囲に飛散する枝や葉っぱ…それぐらいの威力を誇るということだ。
 そして再び、杖の先からの火炎放射。
 それを避けながら、目配せで合図をし合った二人は、
「とぉッ!」
 勢いよく宙へと飛び上がった二人が着地したのは民家の屋根。
 そこで、ポーズを揃えて、

「ハッピー…オーラっ!」

 腕のクロスとともにヒナタブレスが発光し、美玖はヒナタイエローに、好花にヒナタグリーンに変身。
 それと同時に、宙返り跳びで再び地上へと降り立ち、まずはイエローが、
「イエローフリスビー!」
 と専用武器である刃のついた円盤をゴーストめがけて飛ばす。…が、これもさっきと同様、ゴーストにはノーダメージで、無情にも胴体をすり抜け、手応えなく手元に戻ってきてしまう。
 続いてグリーンも、
「グリーンウィップ!」
 と、同じく専用武器の鞭をしならせ、巧みな手捌きでゴーストめがけて打ちつけるも、これもゴーストの身体に当てられず。
「くっ…こ、攻撃が…!」
「当たらない…!」
 困惑する二人に、
「フォフォフォ…無駄だ、無駄だ…肉体を持たぬワシに攻撃は不可能…つまり、一生かかっても貴様らにワシを倒すことは出来んのだ…」
 そして、ゆっくりと浮き上がり、
「無力なお前たちに付き合っているほどヒマではない…生かして帰してやるだけでもありがたく思うんだな…」
 そう言って静かに消え去ったゴースト。
 新たに現れたヒラガーナのモンスター…ヤツには、こちらの攻撃が当たらない…!

 ……

 その夜。 
 昏倒した男をヒナタベースに連れ帰り、目を覚ますのを待って事情聴取が行われたが、結果は芳しくなかった。
 メインルームに戻ってきた好花に、
「どうだった?何か分かった?」
 と聞く富田鈴花に対し、
「全然アカン。何も覚えてないって」
「何もって…自分が本物の刀を持って暴れたことも?」
「うん。全く身に覚えがないんやって」
 お手上げと言いたげに肩をすくめる好花。
 実際、手にした刀で斬りかかられた側としても、そう言われてしまったらどうしようもない。
 鈴花の横で美玖も同じように肩をすくめたが、すぐに上げた顔は真剣な表情で、
「となると、やっぱり帰り道に言ってた通り、あのゴーストとかいうモンスターが…?」
「うん。取り憑いて意のままに操っていたに違いない」
 その推測には自信がある二人。
 なぜなら、ゴーストが男の身体から出てくる瞬間を見たからだ。
 
 ……

 さらに翌朝。
 再び未来虹がヒナタベースの館内放送で出動要請を発した。
 内容は昨夕と全く同じで、次は北街区に刀を持って歩いている男が出たという。
 出動したのは小坂菜緒、金村美玖、丹生明里の三人。
 マシンを駆って飛び出し、当該区域に入ってすぐ、問題の男を発見したので、その進路に立ちはだかる。
 据わりきったその目…昨日の袴姿の男と完全に酷似。
 そして横並びの中、一歩、前に出た美玖が、
「ゴーストっ!その彼に取り憑いているのは分かっているのよ!姿を見せなさい!」
 と怒鳴るように声をかけると、男はニヤリと笑って、
「フォフォフォ…昨日の小娘か。性懲りもなくまた現れるとは、何も学んでないと見える…」
 声色こそ違うものの、聞き覚えのある特徴的な笑い方とともに、手にした刀を構え、足を速めて迫ってくる男に対し、

「ハッピー…オーラっ!」

 横並びで息の合った腕のクロスによって、菜緒はヒナタレッドに、丹生はヒナタオレンジに、そして美玖はヒナタイエローに変身。
 そして、どんどん距離を詰めてくる男を見据えながら、
「ゴーストを引っ張り出すには、まず彼を気絶させなければならない。私に任せて!」
「大丈夫なの?美玖」
「一般の人なんだから、ちゃんと手加減してよ?」
「大丈夫だって!まぁ、見てて!」
 と大見得を切り、左右に散ったレッドとオレンジには続かず、男の接近を待ち受けるように微動だにしないイエロー。
(太刀筋を見極め、かわすと同時に間合いに入ってカウンターでみぞおちに一発…)
 と考えていたが、いざ、眼前から刀が振り下ろされると、
「…くっ…!」

 シュパっ…!

 すんでのところで見極めるのを急遽断念し、慌てて身体を翻したイエロー。
 さらに続いて繰り出された薙ぎ払いも何とか回避すると、急にへっぴり腰になり、なおも続く怒涛の斬撃に、たまらず、
「…とぉッ!」
 避難するように飛び上がり、一旦、距離を取ったイエロー。
 着地と同時に再びレッドとオレンジが駆け寄り、
「美玖!何やってんの!」
「何であんな悠長に突っ立ってたの!」
 と叱るように声をかける二人に対し、
「ち、違うんだって…!昨日と太刀捌きが全然違うのッ…!」
 と、大見得を切った手前、言い訳するように言い返すイエロー。
 それに見かねて、
「もぉ…私がやるよ」
 と前に出たオレンジ。 
「オレンジソード!」
 と叫んで手にした専用武器の剣を手に、さすがは剣道有段者らしくサマになった構え。
 イエローと違い、再び迫りくる男に臆する様子もなく、

 キィィン…!

 振り下ろされた刀をオレンジソードで真っ向から受け止め、さらに、乱れ切りのような矢継ぎ早な斬撃も全て捌いて膠着状態へ持ち込むと、
「菜緒!美玖!」
「OKっ!」
 素早く距離を詰め、背後から頚椎チョップ。
「んぐっ…!」
 という呻き声とともに刀を手放し、崩れ落ちる男。
 そして、その這いつくばった背中からモヤが立ち込め、
「チッ…剣の使い手がいたとは…」
 舌打ちをしながら、憑依状態から分離して実体化したゴースト。
 そこに、すかさず、
「ヒナシューターっ!」 
 と、腰のホルスターから光線銃を抜いたレッドとイエローが二人同時に引き金を引けば、赤色と黄色の二色光線がゴーストの白装束を射抜く。…が、
「フォフォフォ…バカめ。まだ分からんのか。お前たちの攻撃など、ワシからすれば痛くも痒くもないのだ」
「くっ…!」
「ヒ、ヒナシューターも効かない…!?」
 これまで対峙してきた数々のモンスターに対し、とどめをさしたこともある強力レーザー光線の直撃をものともしないゴースト。
 そして、
「これでもくらえッ!」
 と額のドクロから破壊光線を発射。

 ドゴォォン!ドゴォォン!

「きゃっ…!」
 散らばるように地面を転がり、何とか回避したレッドとイエロー。
 そしてオレンジに対しては、その手に持つ杖を棍棒のようにして振り下ろすゴースト。
 それを、

 キィィン…!

「くっ…!」
 さっきの刀と同様、オレンジソードで受け止めたオレンジ。…だが、その杖の先から、

 ボォォォ…!

「わぁッ…!」
 目くらまし代わりの火炎放射で仰け反らせ、その杖で土手っ腹を、

 ドゴォッ!

「んぐッ…!」
 一見、枯れ木に見えるその杖は鉄のように固くて重く、オレンジに確かなダメージを与えるとともに、そのまま宙に向かって放り投げた。
「きゃぁぁッ…!」
「に、丹生ちゃんッ!」
 宙を舞って落ちてきたオレンジの身体を下で受け止めたレッドとイエロー。
 そして、
「フォフォフォ…これで二回、警告をした。もしも、次、また懲りずに邪魔をしに現れた時は、今度こそ生かしてはおかん…そのことを、よーく肝に銘じておけ…」
 と、釘を差すような言葉を残して静かに消滅したゴースト。
 そして、その消え去る瞬間を睨みつけるように見ていた三人。
 一切の攻撃が無効化される強敵…昨日に続き、まだ攻略法が見当たらない…。

 ……

 その後の流れは、昨日とほぼ同じだった。
 気絶させた男をひとまずヒナタベースへと連れ帰り、目覚めるのを待ってゴーストに憑依された経緯などを事情聴取するも、当の本人は記憶にないの一点張り。
 結果、それ以上、何を聞いても出てこないと判断し、事情聴取はそこで打ち切り、手当てをして帰したものの、その一方で、事情聴取に同席した影山優佳が、昨日、今日とゴーストに憑依された二人の男の共通点を指摘した。
「ズバリ、剣道だね」
「剣道…?」
「昨日の男は東街区のはずれにある道場の門下生で、さっきの彼も学生時代に大会で準優勝を経験している段持ちの剣道家。刀を振り回すのにもってこいのターゲットだったんじゃないかな」
「腕はどちらが上ですか?」
「そりゃ、今日の彼の方が上だと思うよ。段持ちの剣道家なんて、素人では歯が立たないと思うよ」
「なるほど。どうりで」
 と、影山の報告に最も納得したのは美玖。
 明らかに太刀捌きが違って、よもやの苦戦を強いられた今日の男が段持ちの剣道家だったとすれば辻褄が合う。
 そして、それを受け、
「つまり、そのゴーストってヤツは、憑依した人間が持つ身体能力や技術を自由自在に使えるってことね」
 と結論づけた久美。
 そうなると、当然、ゴーストが次に狙うターゲットは誰かという話になってくる。
 各々、頭を巡らせながら、
(そもそも、何で剣道繋がりなんだろう…?)
 という疑問にぶち当たる。…が、その答えはほどなくして、一般隊員、平尾帆夏があっさりと解いてみせた。



「これを見てください!」
 と勢い込んで出してきたのは一枚のチラシ。
 それを受け取り、回し見する一同。
「ひなた剣道大会…?」
「はい。約五十年の歴史を誇る由緒ある大会で、この星の腕に自信アリという剣道家が一挙に集まります。これが明後日、ひなたアリーナで開かれます」
 と熱弁する平尾。
 さらに、
「そうなんだ。剣大、明日なんだ」
 有識者らしく、剣道大会を「剣大」と略して呟いた丹生が、
「剣道をやったことある人なら知らない人はいない大会です。私も、昔、学生の部で何度か出たことあります」
「なるほど…」
「剣道大会…」
 揃って、考え込む表情になる久美と影山。
「もしかすると…ゴーストは、剣道家に憑依して、その大会に潜り込もうとしていたんじゃないの?」
「確かに、大会に潜り込むことが出来れば、さらに強い剣道家がたくさんいる…」
 さしずめ、そこで目をつけた腕利きの剣道家を拉致し、洗脳して、悪の剣客として自分たちの手駒にするといったところか。
 ヒラガーナが連中がいかにも考えそうなことだ。
 そして、そうと分かれば、早速、調査を開始した一同。
 まず、大会の主催者にアポを取り、明後日の大会の出場予定者名簿と、それの全員ぶんの履歴書を入手する。
 各校の剣道部や剣道教室が師範も含めて道場単位でエントリーしており、総勢は百名以上。
 その中から、ゴーストが狙いそうな剣豪をピックアップする作業に取りかる菜緒たち。
「かつて学生の部での優勝者…これもあるね」
「剣道三段だって。この人も」
 などと言ってテキパキと抜粋し、絞っていく菜緒と好花。
 そして、かたや、
「…ねぇ。見てよ、美玖。この人、カッコよくない?」
「どれどれ…え!めっちゃイケメンっ♪何歳?何歳?」
 と盛り上がっては、
「コラ!そこ二人!お見合い相手を選んでるワケじゃないの!マジメにやりなさいっ!」
 と久美に怒られる鈴花と美玖。
 こうして絞りに絞ってピックアップされたのは四名。
 ホワイトボードに貼られた履歴書によると、

・斎藤一成(現・警察官。剣道三段)
・土方敏郎(北街区の剣道道場の師範。2年連続ベスト4)
・近藤勇太(かつて学生の部で優勝経験あり)
・沖田総助(別の剣道大会で現在3連覇中)

「ゴーストが狙うとしたら、おそらく、この四人の中の誰かだと思います」
「なるほど。確かに四人とも、剣の腕はなかなかのようね」
 と頷く久美。
 四人とも、ヒラガーナにとって願ってもない人材だろうし、万が一、ゴーストに憑依を許すと、その剣の腕前が敵となって厄介この上ないことも確か。
「問題は、この中の誰が本命として狙われるか、だけど…」
 仮に自分たちがヒラガーナの立場だとしたら、誰を狙うか…これが意外に意見が割れた。
 菜緒と鈴花は斎藤を挙げ、好花と影山は土方を挙げた。
 久美と美玖は近藤を挙げている。
 そして菜緒が、
「丹生ちゃんはどう?剣道経験者から見て、誰が狙われそうだと思う?」
「…え?わ、私…?ん、んー…そうだなぁ…」
 釘付けになるようにホワイトボードを見ていた丹生は、何故か少し顔を赤くして、 
「よ、四枚目の…沖田…さん…?この人かな…」
「へぇ…何で?」
「んー…まだ若いし、別の大会とはいえ、3連覇ってのはかなりの腕前なんじゃないかな、って…」
 少し恐縮するように言う丹生だが、確かにそれも一理あるし、剣道経験者がそれを言うと妙に説得力もある。
 結局、どれも捨てがたく、議論だけが白熱。
 それもあって、
「全員、一度、会ってみる必要がありそうね。幸い、大会は明後日。まだ明日、一日ある。もちろん狙われる可能性のことは言えないけど、実際に見て気付くことがあるかもしれない」
 と、ひとまずこの場での結論をまとめた久美。
 もちろん、護衛という意味も含めてだ。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2025/03/18(火) 05:28 )