太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―













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episode-10 『絶対絶命!ヒナタレンジャー変身不可能!』
後編
 旧・ひなた病院、正面玄関前。
 罠に嵌められて孤立した菜緒たちを救出するため、中に突入せんとするブルー、オレンジ、ピンクに対し、その三人を足止めするべく参上し、足止めを続ける大幹部、小悪魔メミー。
 その力の差は歴然で、彼女がその気になれば、三人を片付けることなどハッキリ言って朝飯前。
 しかし、あえてそれはせず、まるで子供相手に遊び相手を買って出たように、メミー自身もこの状況を楽しんでいる。
 その証拠に、
「ねぇ、もう終わり?もっと楽しませてよ、私を」
 と、手応えを求めて注文をつける始末。
「く、くっそぉ…!」
 と舌打ちをするブルーだが、正直いって八方塞がり…。
 距離を詰めれば衝撃波で押し返され、飛び道具であるヒナシューターはバリアで無効化、ジャンプして飛び越えようとすれば妖糸で絡め取られ、かといって攻撃の手を止めると超念力による爆発で急かされる。
 そして、
「ほらほら…休んでるヒマあるの?こうしてる間にも、スラッグがアンタたちの仲間を、一人ずつ、あの世に送っちゃってるかもよ?手遅れになっても知らないよ?」
「くっ…!」
 ニヤリと笑って挑発するメミーに対し、再び苦戦を承知で立ち向かう三人だが、依然、状況は変わらず…。
 そして、そんな苦闘の光景を、少し離れた道路上から遠巻きに眺めている一台のワゴン車…。
 その運転席にいるのは佐々木久美。
 劣勢のブルーたちをフロントガラス越しに苦々しい顔で眺めつつ、車内に向かって、
「準備はいい?いけるわね?」
「はいッ…!」
「行けますッ…!」
 久美の問いに対し、大いに緊張を含みつつ、前向きな返事をしたのは、普段、ヒナタベースに従事する一般隊員の正源司陽子と藤嶌果歩。



 さらに、清水理央、石塚瑶季、宮地すみれ、渡辺莉奈の四人の返事も続く。



 ヒナタベースの資材倉庫から持ち出した簡易光線銃や警棒を護身用に携帯し、着込んだ迷彩服の中には防弾ベスト、他にもいろいろとアイテムを詰め込んだリュックを背負う者もいたりと、まさに急造レンジャー部隊。
 先刻、回収したマネキンの中身が泥人形だったと美穂から報告を受けた久美。
 大至急、菜緒たちの援護に向かうことを指示したのと同時に、

(もし、この一連がヒラガーナによる罠だったとすると、当然、こちらサイドがそれに気付いた時の対策もあらかじめ練られている筈…!)

 というのが頭に浮かんだ。
 事実、駆けつけた美穂たちがまんまと足止めを喰らい、結果として予想通り。
 それを見越して、急遽、ヒナタベースに詰めていた一般隊員たちを招集し、こうして別動隊として現場に連れてきた久美。
 陽子をはじめ、全員、ド緊張の面持ちなのは無理もない。
 いわば、まだ新入りという立場だし、菜緒たちのような変身能力もないので不安が多いことは確かだが、一方で、美穂たちが“足止めを足止め”している間に隠密的に行動できるのは、現状、彼女たちしかいない。
 なおもフロントガラス越しに、メミーに翻弄される三人をじっと見据える久美。
 おそらく美穂たちは、まだ、自分たちが対峙しているその女が何者か知らないだろう。…だが、久美は知っている。
 そのチラチラと見える横顔を凝視しながら、

(芽実…まだ今もネルネルの手先として働かされてるのね…)

 そんな、何やら意味深な面持ちでメミーを見つめる久美。…だが、そんなことは今は後回し。
 陽子たちを車から降ろし、なおもブルーたちの戦況をじっと見つめていたが、メミーの超念力による爆発で爆炎が上がった瞬間、
「…今よッ!」
「はいッ!」
 久美の声を合図に駆け出し、煙に隠された形で、すたこらさっさと建物の陰に駆け込んだ陽子たち。
 最後尾の莉奈がチラッと後方を確認し、
「…オッケー!バレてないっ!」
「よし、行くよッ!」
 そそくさと忍者走りで行動を開始した一行。
 その中で、果歩が手にしているのは、久美が持たせてくれた旧・ひなた病院の見取り図。
 それを見ながら、
「この奥に、かつての従業員用の通用口がある。そこから入ろう」
 と提案。
 依然、背後から絶えず爆発音や悲鳴が聞こえて肝を冷やすも、尊敬する先輩たちがそう簡単にやられる筈はないと信じる。
 そして、しばらく進むと、先頭の陽子が振り返り、口に指を当てて、
「…しッ!見張りがいる!」
 目的とする通用口の前に、門番のように立つガーナ兵。
 サッと分かれてそれぞれ植樹の陰に身を隠し、
(さて、どうする…?)
 とアイコンタクト。
 そこで、
(私に任せて!)
 と目で合図したのは瑶季。
 そして、植樹の陰から、

「にゃん…にゃん…♪」

 と得意の猫の声マネ。
 すると、それが耳に入り、不審がってこちらへ向かってくるガーナ兵。
 首を傾げながら植樹の陰を覗き込んできたその瞬間、別の植樹の陰から警棒を手に飛び出したすみれと莉奈がそれぞれ一撃を見舞い、極めつけは理央の華麗な背負い投げ。
 まだまだ先輩たちには及ばずとも、一般隊員である以上、ある程度の体術は基礎訓練で習得済みの一同。
 それによってアスファルトにモロに背中を打ちつけ、気絶したガーナ兵をよそに、いよいよ建物の中に侵入した陽子たち。
 電気も止まってて薄暗いし、廃墟となっているだけあって少しホコリっぽい…。
 そして、ここからは常にエンカウントがあると想定し、半分が警棒、半分が光線銃を握りしめ、構えながら前進。
 少し進めば案の定、
「イーッ!」
 と今度は見回りのガーナ兵が二体と鉢合わせするも、すかさず陽子、と果歩がカウガールのごとく光線銃を速射。
 ヘナヘナと膝をついて崩れ落ちるガーナ兵を確認し、
「ふぅ…」
 と溜め息をついた後、
「…ねぇ、果歩。当たってなかったよ?今の」
「う、うるさいのッ…今のはたまたまッ!次は大丈夫だから…」
 と、こんな時でも頬を膨らませるいつもの仕草が出る果歩のおかげで、少し緊張も和らぐ。
 そして、どうにか階段まで辿り着き、おそるおそる二階へ。
 ここでも上から降りてきた見回りガーナ兵と鉢合わせし、交戦。
 さらに、そのタイミングで下から上がってきた別のガーナ兵も加勢に現れたことで挟み撃ちに遭う格好になってしまうも、日頃の厳しい訓練の成果を発揮し、どうにか自分たちの力で切り抜けた一行。
 捜索を再開する傍ら、今の交戦中、ガーナ兵に警棒を掴まれて一瞬ピンチに陥っていた莉奈が助けてくれたすみれに礼を言うと、
「全然、大丈夫だよぉ♪」
 と、いつものすみれ節。
 そして二階も見終え、さらにしばらく進むと、今度は理央が、
「しッ…上の階から声が聞こえる…!」
 それを言われて全員で耳を澄ますと、

「グフフ…♪どうだ、思い知ったか。変身が出来なくなったお前たちでは、いくらあがこうが俺様の足元にすら及ばんということだ!」
「くっ…」
「さーて、そろそろとどめをさすとするか。まずはどいつから身体を固めてやろうか…♪」

 それを聞いて、
(変身が出来なくなった…?)
(そろそろとどめ…?)
(身体を固める…?)
 階段の上から聞こえてきた不穏なワードに再び高まる一行の緊張感。
 そして、ここで陽子が、背負っていたリュックを降ろし、ガサガサと中を漁る。
 何やらケースを取り出し、その中から摘まみ上げたのは、かなり精巧に造られた実物大のトンボのフィギュア。
 一見オモチャのようだが、驚くなかれ、これは久美が開発したもので、実はラジコンとなっており、さらに目の部分に小型カメラを内蔵してある。
 それのコントローラーを手に、トンボを偵察に出す陽子。
 羽音が一切しない設計で怪しまれず、万が一、見つかっても、パッと見では紛れ込んできた野生のトンボにしか見えないところが強み。
 そして、そのトンボの内蔵カメラで捉えた映像を、同じく取り出したタブレットで果歩たちが確認。
「もう少し上…!上だよ…!」
「右、右…!」
「危ないよ、陽子。ぶつかるって…!」
 と、ひそめた声で指示を受け、真剣な顔つきでコントローラーを操作する陽子。
 その甲斐あって、どうにか目の前の階段経由で一つ上の階に辿り着いたトンボ。
 そこで内蔵カメラが捉えたのは、在りし日は機能していたであろう寂れたナースステーション。
 そして、その前に並んで立たされた菜緒、陽菜、ひよりの三人…!
 ぐったりしているところを見ると、どうやら、相当、痛めつけられたらしい。
 さらに、不気味なナメクジのバケモノと菜緒たちを取り囲むガーナ兵たちの姿も映り、もっとよくタブレットに目を凝らせば、先輩たちは三人とも、両手首に結束する石膏の塊ようなものがついていて、それのせいで、実質、両手を封じられて無力化されている状態だ。
 そして、なおも音声は肉声で、上の階からかすかに聞こえてくる。

「グフフ…♪では、まず小坂菜緒。お前から始末してやろう。いくら貴様でも、酸素を奪われた状態では生きられまい。俺様のスラッグジェルに顔を覆われ、やがて中で窒息死してオダブツだ。亡骸は、明日の朝、ゴミとして出しておいてやる。火葬は焼却場がしてくれるぞ」
「くっ…くっ…」

 両手首についた石膏が剥がれず、万事休すという様子の菜緒。
 それを見て、
「ま、まずい…!」
「急がなきゃ…!」
 再びアイコンタクトを交わし、同期入隊ならではの阿吽の呼吸で素早く班を分けるメンバー。
 そして、まず初手、莉奈が、心の中で、
(…せーのっ!)
 握りしめた警棒をフルスイングし、廊下の窓ガラスを一枚、豪快に叩き割った。

 ガシャァァン…!

 と砕け散る音が廊下に響き渡ると、思った通り、上の階から、

「むッ…?何事だ?おい、お前たち!何があったか見てこいッ!」

 と指示する声がして、駆り出されたガーナ兵が数体、バタバタと階段を降りてきた。
 キョロキョロと廊下を見回し、なおも次々にガラスを叩き割る莉奈と目が合い、
「あッ!侵入者だ!」
「捕まえろ!」
 と追い始める。
 それに気付いて逃げだす莉奈。
 そして、その様子を死角のトイレの陰から見ていた残りのメンバー。
 ひとまずこれで目障りなガーナ兵は遠ざけた。
 あと上の階に残るは、あのナメクジのバケモノのみ。
「莉奈のことは私に任せて♪」
 と意気込み、莉奈を追うガーナ兵を追いかけていったすみれ。
 そして、いよいよ覚悟を決めて階段を上っていく陽子、果歩、理央、瑶季の四人。
 聞き耳を立てて聞いていた声がどんどん近くなり、
「チッ…せっかく今から良いところだというのに、水を差したのはどこのどいつだ…」
 と苛立つスラッグに見切れるギリギリのところで足を止め、みたび四人でアイコンタクト。
 そこで重大な役目を担うことになった理央が、深呼吸の後、バッと陰から飛び出し、

「やい、バケモノっ!菜緒さんたちを離しなさいッ!」

「むっ…何だ、貴様は!」
 と振り返るスラッグとともに菜緒たちも、
「り、理央ッ!?」
「何でここに…!?」
 全く予期せぬ後輩の登場に目が点…。
 そして、
「チッ…コイツらを助けに来たクチだな?生身の女に何が出来る!返り討ちにしてくれるわッ!」
 と仁王立ちの理央に向かって突進するスラッグ。
 それをギリギリまで引きつけ、

(…今だッ!)

 と思ったところで左右の手の中に隠し持っていた煙幕玉を地面に叩きつける理央。
 すると、次の瞬間、

 もくもくもくもく…!

「ぐっ…!な、何だ?これは…!」」
 煙幕玉が破裂した瞬間、もわっと立ち込めた白煙に、たちまち包まれていったスラッグ。
 そして、いち早く、その白煙の中から飛び出した理央と、同じく陰から飛び出した瑶季の二人で光線銃をその煙幕の中めがけて、ひとすら乱射。
 正直、当たっているかは分からない。…が、中から、
「ぐっ…!こ、小癪なマネを…!」
 という声がしたので、全てとは言わずとも数発はヒットしている模様。
 そして、その隙に、今度は陽子と果歩が飛び出し、菜緒たち三人の元へ一直線。
「菜緒さん!無事ですか!」
「陽菜さん!ひよりさんも!」
 と駆け寄る後輩たちに、
「よ、陽子…!果歩…!」
「どうしてここに…?」
「話は後ですッ!」
「とにかく今は、これを外すことが先決ッ…!」
 と、あらかじめリュックから取り出し、握りしめていたハンマーで、菜緒の、そして陽菜の手首についた石膏を、

 ガキィィン…!ガキィィン…!

 とにかく必死に叩く二人。…だが、いくら全力を込めて叩いても、びくともしない石膏。
 ひよりのも同様だ。
「くっ…は、外れない…!」
 ここまでの立ち回りは想定通りで完璧だった。…が、肝心のここの作業で難航するのはハッキリ言って計算外。
 そのうち、背後で、
「きゃっ…!」
 と悲鳴が聞こえ、チラッと振り返ると頼みの煙幕が晴れてしまい、理央と瑶季がスラッグと対峙していた。
「ぐぬぬ…小娘ども、よくもやってくれたな!」
「くっ…!」
 煙幕がなくなっても、引き続き、光線銃を乱射しまくる瑶季だが、先ほどのような不意打ちならまだしも、相対した状態ではガードされてしまってたいして効果がない。
 じりじりと詰め寄りながら、
「つまらん小細工をしおって…目障りなお前たちから先に始末してやる!覚悟しろ!」
 いくら二対一でも、さすがに一般隊員とモンスターでは勝敗は火を見るより明らか。
「よ、陽子っ…!果歩ぉ…!」
「ヤバいって…は、早くしてよぉ…!」
 と光線銃から警棒に装備を持ち替えはしたものの、迫るスラッグに対して、後ずさりするしかない理央と瑶季。
 もちろん陽子と果歩も、その間ずっと、刀を打つ鍛冶職人のごとく、ひとすら石膏を叩いているのだが、いくらやってもヒビすら入らない。
 そして、
「くらえっ!」
 と、突きつけた右手の先から、先刻、菜緒たちに向かって撃ち出したピンポン玉サイズの弾を発射するスラッグ。
 この弾の中に詰まっている凝固液を浴びせられてヒナタブレスを、さらに、その後、両手首まで封じられてしまった菜緒たち。
「あ、危ないッ!」
「きゃッ…!」
 ギリギリの身のこなしで間一髪かわした理央だが、代わりに被弾した背後の壁がみるみる固まっていく。
 続いて、
「そら、貴様もだ!」
 と、次に瑶季に向けて発射。
「ひぃぃッ…!」
 うずくまるようにしてしゃがんで、これもまた間一髪の神回避。…だが、続けて放たれた次の弾が、不覚にも瑶季の右足にヒット。
 破裂後、すぐに固まり、
「きゃっ…!」
 と、その場に転倒。
 そして、それを見て、
「た、瑶季ッ…!」
 と駆け寄ろうとした理央にも、待ってましたとばかりに次の弾が放たれ、こちらは左足に被弾して同じように転倒。
「くっ…あ、足が…!」
「動かない…!」
 まるで骨折患者が足にギプスをつけているように状態にされ、その場にへたりこむ理央と瑶季。
 そして、そんな二人に歩み寄り、
「ぐふふ…♪大立ち回りもそこまでだ。さぁ、次は顔に当てて固めてやる。おもいっきり息を吸った状態でも、もって1分程度といったところか。どっちが先に窒息死するかな…♪」
 右手を突きつけながら迫るスラッグに、理央と瑶季も万事休す…!
 その光景に、
「り、理央ッ…!瑶季ッ…!」
 同期の絶体絶命の危機に表情が強張る陽子。
 そして、ひよりが、

「くっ…あ、あの巨大ナメクジっ…!変身さえできれば、あんなヤツ、一瞬で…!」

 口悪く吐き捨てた瞬間、それを聞いた果歩が突然ハッとして、
「も、もしかして…!」
 何を思ったか、それまで一心不乱に打ち込んでいたハンマーを放り捨て、着ている迷彩服の尻ポケットをゴソゴソと漁りだした果歩。
「か、果歩!何を…!」
 と困惑する陽子を無視して取り出したのは、お守り…。
 先日、先輩の東村芽依とお出かけした際、参拝した神社で買ってもらったものだ。
 ひょんなことから親しくなり、駆け出しの頃からずっと可愛がってくれている大好きな東村から貰った大切なお守りだったが、それをおもむろに開封し、中に包まれていた“持ち塩”の塩をひとつまみ、菜緒の手首についた石膏に振りかける果歩。
 この状況において、少々の罰当たりは仕方ないと判断。
 さらに、そのまぶした塩を擦り込むようにさすってみると、たちまち固まっていた石膏がドロドロと溶け出し、菜緒の手首…そして、封じられていたヒナタブレスも見えてきた。
 その光景に、
「な、なるほど…!」
「ナメクジに塩だ…!」
 と打開策に気付いた一同。
 さらに果歩が、
「陽子!これッ!」
「うんッ!」
 塩を分け与えられ、同じく陽菜の手首の石膏へ擦り込む陽子。
 横で果歩も、ひよりの石膏を急いで溶かす。
 そして、
「…よしッ!」
「取れたッ…!」
「これで変身できるッ…!」
 果歩の機転により、両手の自由およびヒナタブレスの機能をようやく取り戻した菜緒たち。
 逆襲の兆しに痛めつけられたダメージも吹き飛び、スッと立ち上がるや、三人揃って、

「ハッピー…オーラっ!」

 腕のクロスとともに、赤、白、黒の三色の光とともに晴れて変身完了。
 すかさず、理央と瑶季に迫るスラッグに飛びかかり、遠ざけるように放り投げるホワイトとブラック。
「ぐっ…お、おのれ…貴様ら、いつの間に…!」
 と、それまでの居丈高な態度から一変、変身を許して焦りが見え始めたスラッグ。
 そんなスラッグを取り囲み、
「よくも私たちを好き放題いたぶってくれたわね!」
「たっぷりとお返しをさせてもらうわ!
「覚悟しろよ、この巨大ナメクジっ!」
 と引導を突きつけるレッド、ホワイト、ブラック。
 そして、その隙に、理央と瑶季、それぞれの固められた足も、塩を使って元に戻してやった陽子と果歩。
 そんな後輩たちに、
「ありがとう、みんな!助かった!」
「お礼は帰ってから改めてするから!」
「外で待ってて!」
「はいッ!」
 お役御免とばかりにゾロゾロと階段を下りていく後輩たち。
 その姿を尻目に、
「レッドスピア!」
 と専用武器である真紅の槍を手にするレッド。
 それを華麗な手捌きで身体の前で高速回転させると、やがて切っ先にボワッと炎が灯り、その状態で「大」の字を書くように薙ぎ払い三連発。
「ぐわぁっ…!」
 パンチや蹴りのダメージを軽減できる弾力のある身体も炎の前ではタジタジ。
 続いて、
「ホワイトアロー!」
 と、同じく専用武器である真っ白な弓矢を構えるホワイト。
 標的を定め、しなるまで弦を引いた状態から、
「…ホワイトショットっ!」
 放たれた長い矢は凄まじい速さをもってスラッグの右の目玉に直撃!
「ぐわッ…!お、おのれ…!」
 あっけなく右目の視力を失ったスラッグ。
 さらに、
「ブラックフルーレ!」
 と、同じく専用武器であるフルーレを構えるブラック。
 アイドリングがてら、華麗な舞を見せた後、腰を低く構え、いざ、スラッグめがけて突進。
「牙突(アサルトファング)!」
 と叫んだその技で、今度はスラッグの左目をフルーレが貫通。
「ぐぉぉおッ…!」
 ホワイトとブラックによる連撃によって、あれよあれよと両目を潰され、視界が失ったスラッグ。
「お、おのれ…こうなったらやぶれかぶれだッ!固めてやるッ!くらえっ!」
 と突きつけた右手の先から必殺のスラッグジェルを見境なく発射するも、何も見えていないため、三人に難なくかわされ、あさっての方向を撃つばかり。
 無駄撃ちを続けた結果、とうとう、そのスラッグジェルも空砲が目立ち始め、
「くっ…ジェ、ジェルが切れた…くそぉ…!」
 と悔しそうに右手を下ろしたところがとどめの合図。
 それぞれの専用武器をヒナシューターに持ち替え、三人一斉に、

「これで終わりよ!」
「くらえッ!」
「レインボー…ショットぉっ!」

 一斉に放たれた赤、白、黒の三色混合光線が土手っ腹に命中し、
「ぎ、ぎゃぁぁッ…!」
 断末魔とともに爆発したスラッグ。
 そして…。
 
 ……

 ブワッ…!

「きゃぁぁッ…!」
 依然、メミーの身体に触れることも出来ず、衝撃波によって吹っ飛ばされるブルー、オレンジ、ピンク。
「く、くそ…!」
 何とか膝立ちまで身体を起こすと、
「フフッ…まだやるつもり?いくらやっても同じ。アンタたちの今の実力では私の身体に触れることすら…」
 触れることすらできないと言いかけたメミーだが、その喋っている途中で、

 ドゴォォン…!

 突如、建物の中から爆発音が響き、砕け散った三階のガラス窓。
 さらに空気の震えも遅れて伝わってきた。
 それに対し、思わず、
「な、何事…!?」
 と背後の建物を振り返ったメミーの元へ、

「とぉッ!」

 ちょうど爆発のあった三階部分から飛び出してきた3つの人影。
 華麗な宙返りを経て、ブルーたちの傍に着地したのはレッド、ホワイト、ブラックの三人。
「な、菜緒ッ!」
「陽菜ッ!ひよたんッ!」
「無事だったのね!」
 ブルーはレッドに、オレンジはホワイトに、そしてピンクはブラックにそれぞれ手を貸してもらって立ち上がると同時に、それまでの防戦一方の苦境を忘れて安堵する三人。
 一方、
「バ、バカな…!なぜお前たちがここに…スラッグは…スラッグは何をしているのッ!」
 それまで一貫して余裕ぶっていた態度が初めて少し変化したメミーに対し、
「あの巨大ナメクジなら、私たちが瞬殺してやったよッ!」
 と言ってやるブラック。
 それを聞いて、
「くっ…!あ、あのバカ…さっさと始末しないから…!」
 と唇を噛むメミー。
 これで、一見、形勢逆転の様相だが、あとから参上したレッドたち三人は、まだ、彼女の素性を知らない。
(な、何者…?)
 と窺うように目を向けているレッドに、隣のブルーが、
「あの女…名前はメミーっていうらしい…ヒラガーナの幹部よ」
「幹部…?イグチ魔女以外にも幹部が?」
 とレッドが口にした途端、メミーのキッとした目がレッドに向き、
「どいつもこいつも…お前も私をイグチ魔女と同等に扱うつもり…?だとしたら、少し痛い目に遭わせてやらないといけないようねッ!」
「…!」
 身構えるレッド。…と、そこに、

「菜緒!待ちなさい!」

 と声が飛ぶ。
 すかさず六人が一斉に声のした方を見ると、駆け寄ってきたのは、なんと久美。
「た、隊長…!」
「なぜここに…?」
 と不思議がる愛弟子たちだが、一方、同じく久美に目を向けたメミーは、
(…?)
 一瞬、キョトンとした目をしたが、その直後、

 ズキッ…!

「うッ…!」
 突然、頭痛がしたように顔をしかめ、額を押さえてふらつくメミー…。
 それまで強化スーツを纏ったブルーたち相手に圧倒的な力の差を見せていた彼女が、なぜか生身の久美を前にして少しひるむ。
 その一瞬を見逃さず、
(チャンスっ!)
 と攻撃に移ろうとしたブルーだが、それも、

「美穂ッ!」

 と久美に一喝されて思いとどまる。
 そして、痛みだした頭を押さえながら、
「お、お前は…く、久美…?久美なの…?」
 曖昧な記憶を辿るように口にするメミーに対し、
「そうよ。その通り。久美よ」
 と認めて歩みを進める久美に、
「た、隊長ッ!」
「危険ですッ!」
 と慌てて駆け寄ろうとするオレンジとピンクだが、久美は手で制し、
「大丈夫…きっと大丈夫な筈…」
 と返し、さらに一歩、メミーに近づく。
「くっ…」
 なおも頭を押さえてふらつきだすメミーに、
「芽実…久しぶりね…私のことが分からない…?」
 と問いかける久美。
 何やら只事ではないような雰囲気…。
 それを見つめるレッドも、
(く、久美さん…知り合い…?)
 と戸惑いの色を隠せず…。と、そこで突然、それまで明るかった空がみるみる暗くなり、そして上空から、一言、

「メミー。すぐに戻ってらっしゃい」

 と女の声がした。 
 以前にも一度、同じように空から聞こえてきた声と同じ声色…。
 そして、それを覚えていたレッドは、キッと空に目をやり、

(ネルネル…!)

 …そう。
 間違いなく今のはヒラガーナの親玉であるネルネルの声だ。
 そして、その言葉を受け、
「そ、そういうことだから…今日のところは失礼するわ…」
 と顔をしかめながら口にするメミー。
 それに対し、
「待て!逃すかッ!」
「み、美穂ッ!」
 と久美の制止を忘れて駆け出したブルー。
 助走をつけてジャンプし、前回り一回転からキックを放つも、クリーンヒットまであと1メートルというところでテレポートによって消え去ったメミー。
 それによって、
「わぁッ…!」
 当たると思ったキックを空振りし、そのまま地面に落下したブルー。
「み、美穂…!」
「大丈夫っ!?」
「いてて…」
 オレンジとピンクが駆け寄ってブルーを抱き起こす頃には、暗くなっていた空が何事もなかったかのように再び晴れだした。
 そして、ちょうどそこに、誘いだしたガーナ兵たちを片付け終えたすみれと莉奈、さらに陽子たちもぞろぞろと建物の中から出てきた。
 一時は絶体絶命のピンチだったが、後輩たちに助けられて、どうにかモンスターも撃破。
 本来なら一件落着となるところだが、少し空気は重め…。
 そして、その妙な気まずさに耐えかねたように、代表してレッドが、一歩、前に出て、

「隊長…あのメミーという女は何者ですか…?」

 レッド以外の戦士たちも同じ疑問を抱いている筈。
 それを受けて、久美は、
「……」
 一瞬、口を開きかけたが、それを飲み込んで溜め息をつき、

「ここで話しても長くなる…ヒナタベースに戻ってから…」

 それだけ言って、スタスタと車に戻りだす久美
 そして、その後ろ姿を見つめながら、変身を解いて人間体に戻った菜緒たち。
 遠ざかっていくその背中は、まだまだ菜緒たちの知らない複雑な過去を持っていそうだ…。


(つづく)


〜次回予告(※当該メンバーの声で脳内再生推奨)〜

加藤史帆でぇす。
ヒラガーナの幹部・メミーと久美の因縁は、実は私も知らないものだった。
そして、その驚きも冷めぬうちに、またしても良からぬ悪巧みをしているヒラガーナ。
次にヤツらが狙ったのは、現在、三年連続で剣道の大会に優勝している凄腕の剣士。
その彼を誘拐し、洗脳して人斬りの暗殺者に仕立てようとしているみたい。
そして、そうはさせるかと、その彼を警護する菜緒たちなんだけど、どうも丹生ちゃんだけ、やけにソワソワして様子が変…。
…えッ?ウソっ!?その彼…丹生ちゃんの初恋の人っ!?
次回、『恋せよ乙女!明里とヒラガーナで三角関係!?』…お楽しみに!



■筆者メッセージ
※今話以降における追加の補足設定

・久美とメミーの因縁については、こーゆー展開にしてはみたものの作者的にまだ完璧には構築できてないので、次回までに仕上げて、次回の序盤にササッと入れる予定です。

・ヒナタブラックの個人必殺技「牙突」を英訳「アサルトファング」と呼称します(ふりがな的な感じ。やってること自体は牙突のイメージですが、専用武器が日本刀ではなくフルーレなのでカタカナの技名の方が雰囲気に合ってる気がしたので)
鰹のたたき(塩) ( 2024/12/19(木) 00:04 )