前編
それはとある日の朝の出来事。
ゴミ収集業者に勤める青年・鈴木は、この日も、いつものようにゴミ収集車を駆って担当のコースを回っていた。
俗にいう“3K”…「きつい」「汚い」「危険」と揶揄される職種で、実際、確かに最初の頃はそれが苦になった時期もあったが、辞めるタイミングを逃し続けているうちに、やがてその感覚も薄れてきた。
日々、同じことの繰り返し…それを虚しく感じてしまう人もいれば、逆に、かえってそれを気楽と感じる人もいるだろう。
マイペースな性格の彼は完全に後者で、それが、のらりくらりと今日(こんにち)まで続いてきた一番の要因だと思っている。
昨日と同じ時間に出勤し、昨日と同じように車に乗り込んで出発。
昨日と同じコースを走り、昨日と同じところで車を停めては、昨日と同じようにそこに出されているゴミを荷台に放り込み、そしてまた昨日と同じコースで焼却場へ運ぶ。
日によって、多少、ゴミの量は変動するものの、基本はそれの繰り返しだし、今となってはその一連の行動がルーティン化しているような感覚。
そういう意味では、
(やっぱり仕事って“慣れ”だよな)
と心から思う。
現に、当初はサイドを擦らないか毎日ヒヤヒヤして徐行していた細道も、今では鼻歌まじりのハンドルさばきで軽々と抜けることが出来る。
そして今日も、いくつかあるポイントを順に経由し、まもなく最後のポイント。
そこに出されているゴミを荷台に放り込み、焼却場に運んだら今日の業務は終了となるワケだが、前方左に見えてきた最後のゴミ集積ポイントをチラッと見て、
「チッ…またかよ…」
車を停め、運転席から降り立った鈴木の顔は今日も不機嫌…。
ここでは、普段、だいたいポリ袋7つか8つが相場なのだが、一昨日ぐらいから、それプラス、奇妙なマネキンが数体、遺棄するように捨てられているのが続いている。
昨日は二体で、今日は三体。
「ったく…こんなのは処理場まで直接、自分で運べっつーんだよ…」
と文句を言いながら、いつも通り、まずはポリ袋を次々に荷台に投げ込み、そしてマネキンにも手を伸ばす。
「チッ…相変わらず重てぇなぁ…くそっ…」
担いでみたら、意外と重いマネキン…それこそ生身の人間と同じぐらいあることを、ここ数日で知った。
そして、ぶつぶつ文句を言いつつ、どうにか捨てられていたマネキン三体も荷台に積み込んだ鈴木。
再び車に乗り込み、いつものコースに従って焼却場へ向かい、荷台をカラにして事務所へ帰還。
車のキーを返し、タイムカードを押し、
「お疲れ様でしたー」
と帰路についたこの時点では、昨日と何ら変わりのない勤務だった。
……
そして翌朝。
いつも通り、就業15分前に出勤し、
「おはようございまーす」
と事務所に顔を出したその瞬間、
「鈴木くん。ちょっと…」
と上司に声をかけられ、手招きで事務所の奥へ誘われた。
普段あまりないことで、瞬時に
(何だ…?何かミスしたっけ…?)
と考えながらついていくと、そこには見知らぬ男が二人いた。
その二人に向かって、
「彼が、昨日、西街区の収集を担当した鈴木くんです」
と上司が説明すると、その二人は胸ポケットから手帳のようなものを取り出し、見せてきた。
それに対し、目をぱちくりさせて、
「警察…の方ですか…?」
「ええ。あなたに少し聞きたいことがありまして」
「昨日、西街区のゴミ収集を担当したということは間違いないですね?」
「はい…しましたけど…」
悪いことをした覚えなど何もないが、それでも目の前に刑事が二人並んで立っているとさすがに少し緊張する。
そして刑事が、
「ここ数日、ひなた焼却場の焼却炉の燃えがらの中から人骨が発見されるという怪事件が起きてることはご存知ですよね?」
当たり前のように切り出されたが、当の鈴木は、
「人骨…ですか?」
キョトンとした顔をすると、刑事は苦笑して、
「センセーショナルな事件ということで、連日、テレビや新聞で報道されてますがね」
「いや…すいません。テレビも新聞も見ないもので」
「……」
肩をすくめつつ、まぁいいやという感じで話を進め、
「実は、昨日もまた、それがありましてね。そして我々が調べたところ、発見された人骨は、どうも、あなたが担当していた収集車から運び込まれたゴミの中にあったのではないかという疑惑が浮上しましてね」
「心当たりはありませんか?」
「な、ないですよ…!あるワケないじゃないッスか…!」
と慌てて言い返す鈴木に、
「いや、失礼。別に、あなたに死体遺棄の容疑がかかっているとか、そういうワケではなくてですね」
「何か、昨日の業務の中で…いや、もっと言えば、ここ数日の業務の中で、不審な点とかなかったですか?」
「不審な点…ですか…」
と宙を仰いだ鈴木。
回想を促すように、
「たとえば、何か、妙なものを回収したとか…」
「やたら重いゴミ袋があったとか…」
と例を出されたところで、鈴木はハッとした顔になって、
「そういえば…マネキンを何体か回収しましたよ。ここ二、三日、連続で」
「マネキン…?」
「はい。やけに重いマネキンで、いつも車に積み込むのに苦労するんです。多分、捨ててるのは同じ人か、もしくはどこかの業者さんだと思うんですけど」
と語った鈴木だが、刑事たちの方はキョトンとして、
「しかし、マネキンなんでしょう…?」
「マネキンを焼いても人骨は出てきませんからねぇ…」
と、あまり食いついてくれず。
確かに的外れといえば的外れ…触った感触も硬かったし、マネキンだったことは間違いない。
ただ、ここ数日の業務で不審な点があったかといわれると、それぐらいしか思い当たらない。
結局、それ以上のことは何も言えなかった鈴木。
刑事たちも諦めて、
「…分かりました。また何か思い出したら、ひなた中央署までご連絡ください。私は伊達、そしてこちらが富澤です。どちらでも結構です」
ともに肩幅の広い大柄なコンビだったが、帰っていく二人の後ろ姿は、しょんぼりと肩を落として小さく見えた。
(そんなガッカリされても、それしか思い当たらないんだよなぁ…)
たいした収穫にならなかったことは申し訳ないが、ひとまず自分に妙な疑いがかけられていないだけマシだと思うしかない。
……
そして、その日の夕方。
鈴木の話したことが、回り回って夕刊の隅に載った。…といっても、真剣に取り合うような論調ではなく、
<連日、ひなた焼却場で発見されている人骨の主は、まさかのマネキンだった…!?>
と、SFか、もしくは怪談話のような扱い方で、購読者のほとんどは苦笑する程度の記事。
ただ、中には目を光らせて食いつく者もいる。
たとえば、ヒナタレンジャーの生みの親である佐々木久美。
拠点となるヒナタベース内にて、
「…菜緒。ちょっと、これ読んでみて」
と、近くにいた小坂菜緒を呼び、その夕刊を手渡した。
言われるがまま、それを受け取ってそれを速読する菜緒。
読み終えて一言、
「妙な話ですね…」
「でしょ?きなくさい感じしない?」
「確かに…人骨とマネキン…」
「普通のマネキンなら中に骨なんかあるワケない。燃やしたら跡形もなく煤(すす)になる筈…ただ、もしそれが仮に“マネキンに見せかけられた人間”だった場合…」
人間なのだから、当然、焼却すれば骨が燃え残る。
問題は、運んだ収集業者の男が間違いなくマネキンだったと証言していることだが、それについては上手く説明できなくとも理由付けは可能。
(人間をマネキンに変える…ヒラガーナの連中なら決して出来なくもないこと…)
現時点ではまだ、何を企んでのことかは、皆目、見当もつかない。
ただ、先代の久美、そして、二代目の菜緒の、実際に連中と相対してきたことで身につけた特殊な嗅覚は、確実に新たな事件のニオイを嗅ぎつけていた。
……
翌日。
菜緒に加え、宮田愛萌、河田陽菜、濱岸ひよりの四人でチームが組まれ、明け方のまだ空が暗いうちから出動した。
向かった先は、鈴木という収集業者が、連日、捨てられているマネキンを回収したという西街区のポイント。
昨夕、久美の指示で、高本彩花と東村芽依の先輩二人、仲間内での通称「あゃめぃちゃん」コンビがこのあたりに出向いて二時間ほど聞き込みをしたところ、近くに住む男性からある情報を得た。
「一昨日、まだ暗いうちから釣りに出かけてたんだけど、その時、そこの交差点のところで妙な連中を見たよ。男三人ぐらいだったかな?隊列を組むように並んで歩いてるんだけど、全員、マネキンを背負ってんの。おかしなヤツらだなぁと思いつつ、こっちは信号が青になったからそのまま行っちゃったんだけどね」
その男性にしてみれば鼻で笑う程度の話でも、こちらにとっては耳寄りな話。
それを受け、その男性の証言に合わせるように、まだ空が暗いうちからそのポイントの監視を始めた菜緒たち。
こちらの物陰、そして道路を挟んだ向こうの物陰で二手に分かれる作戦。
日に日に夜が明ける時間も遅くなってきたし、先週あたりから一気に冬の風も吹き始めた。
それもあって、
「うぅ…寒い…風邪ひきそう…」
「もう一枚、着てくればよかったぁ…」
と震える陽菜、ひよりペアと、かたや、寒さなど気にもせず、暗視カメラを手に構え、気合充分の菜緒、愛萌ペア。
まだ周囲は薄暗く、朝のゴミ出しにしても早い時間帯なので、誰も現れず、静か。
車もたまに通る程度で、逆に言えば、人目につきにくい時間帯ともいえる。
そして、張り込み開始から10分。
「…来たッ!」
小さく声を上げた菜緒。
深く被った帽子にマスク…防寒というより、明らかに顔を隠すのが目的という出で立ちの男が、今日は二人で、それぞれ一体ずつマネキンを背負って現れた。
早速、暗視カメラで気付かれないように撮影開始。
男たちは集積ポイントの前まで来て立ち止まると、キョロキョロと辺りを見渡し、人の目がないことを確認した上で、背負っていたマネキンを放り捨て、そして足早に去っていった。
その背中が見えるか見えなくなるかのところまで我慢してから、
「…じゃあ、愛萌!あと、よろしく!」
「オッケー♪」
駆け出す菜緒に続いて、反対側の暗がりから陽菜とひよりも飛び出し、三人で尾行開始。
残った愛萌は手首に巻いたヒナタブレスを口元に持ってきて、
「こちら宮田。たった今、マネキン二体が遺棄されました」
「了解」
ヒナタレンジャーへの変身機能だけでなく、無線機能も搭載しているヒナタブレス。
そして数分後、ジープタイプの出動車に乗って渡邉美穂と丹生明里が到着した。
三人で協力し、棄てられたマネキンを荷台に積み込んで回収。
これを今から、とある研究所に持ち込んで分析してもらう算段。
しばらく走り、信号待ちになったところで、チラッと荷台が見える覗き窓に目をやる美穂。
並んで横たわり、当然、物言わぬ状態でいる二体のマネキン。…だが、久美の予想が正しければ、これらはヒラガーナの手によって姿に変えられた人間…。
同じように丹生も窓を覗いて、
「久美さんの話、ホントかなぁ…美穂は、どう思う?」
それに対し、
「正直、分かんないよ。だって、ほら…これまでも人間を毛虫に変えたり、蛇に変えたりしてきた連中じゃん。なくはないな、って感じ…」
「そっか…確かに…」
それを言われると一気に説得力も増し、それと同時に、
(ヒラガーナ…次は、いったい何を企んでるの…?)
そこがまだ読めない。…が、何にせよ、良からぬ企みは全力を上げて阻止する。
それが昨日、今日、明日と、いつになっても変わることのない自分たちの使命だ。
……
だんだん東の空が明るくなってきた頃。
マネキンを捨てに来た男たちを尾行した菜緒たちは、やがて、とある建物へと辿り着いていた。
依然、前を行く男たちと適度に距離を取りつつ、
「ここって、確か…」
「旧・ひなた病院…?」
陽菜とひよりの小声の会話に菜緒も同感。
ひなた病院。
現在は別の場所へ移転した大病院で、それが以前まではこの地にあった。
以前から建物の老朽化が問題視されていたこともあり、病院機能の移転自体はスムーズに事が進み、それを機に設備も遥かに拡充されたので住民からの評判も良い。…が、その一方で、残されたこちらの建物は解体業者となかなか折り合いがつかず、在りし日の外観を残したまま、手つけずの状態となって日に日に朽ちていた。

今では駐車場も雑草がボーボー…そんな完全に廃墟と化した建物の敷地内に当然のように入っていく男たち。
でっかく「立入禁止」と書かれた看板を見もしなかったところを見ると、おそらく日常的に出入りしているのだろう。
それを感じて、当然、菜緒たちも疑惑がさらに濃くなる。
やがて、男たちはそのまま建物の中に消えた。
それを外壁の陰から確認してから、
「…さて。どうする?」
「そうだねぇ…」
「とりあえず、引き返すっていう選択肢はないよね」
と意気込む三人。
手首のヒナタブレスを口元に持っていき、
「こちら菜緒。マネキンを遺棄した怪しい男たちは、現在、廃墟となっている旧・ひなた病院に潜伏している模様。これより私、陽菜、ひよたんの三人で忍び込んで中の様子を調べます」
「はい、こちら久美。潜入、了解。気をつけて」
と久美からの返事を聞いて、いざ行動開始だ。
……
西街区から南街区へと住所が変わってすぐのところにある某科学研究所。
そこにジープを乗りつけた美穂たちを迎えたのは、久美と親しい間柄といわれている小籔所長。
あらかじめ久美から連絡を入れてあったので、表で待っていてくれて、到着早々、
「どれどれ。見してみ」
と、まだ荷台に寝かせたままのマネキンに手を伸ばし、感触を確かめて、
「うーん…触った感触ではただのマネキンやけどなぁ…」
「同感です」
「で、これが実は人間の変わり果てた姿やっちゅーワケやな?」
「はい。SFのような話で申し訳ないんですが…」
「よっしゃ。ほな、とりあえず調べてみよ。中に運んでくれるか」
と小藪所長に言われ、一体ずつ、せっせと研究所内に運び込む三人。
それだけでも、なかなかの力仕事。
そして、中の研究室に運んだマネキンを台の上に並べ、まずは赤色の光線を照射する小藪所長。
一見、仏頂面にも見える真剣な眼差しで傍らのモニターを注視し、
「…とりあえず生命反応は無いわ。よって、仮に人間やったとしても、もう既に死んどるっちゅーこっちゃ」
「そうですか…」
いたたまれない気持ちになる美穂だが、一方で、この状態で生命反応が出ても、それはそれで困る。
続いて、今度は青色の光線を照射する小藪所長。
こちらも最初は仏頂面…失礼、真剣な表情だったが、傍らのモニターを見て、「おや?」という顔になって、
「どうやら中に水分を含んどるみたいやな。このマネキン」
「水分…ですか?」
「そうや。見てみ、これ」
と美穂にもモニターを見せ、
「これは透過光線いうて、密閉されてるものの中に詰まってる物質を分析できる光線や。ほら、ここの数値が上がっとるやろ。つまり、このマネキンは中にいくらか水分を含んでるっていうこっちゃ」
と優しく解説。
続いて、もう一体のマネキンにも光線を当てると、こちらも中に水分を含むという結果が出た。
その結果に、神妙な顔つきになる美穂。
俗によく言うのは、人間の身体の半分以上は水分で形成されているという話。
(となると、やっぱり、中身は人間…?)
一見、マネキンだが、実はそれっぽいコーティングが施されているだけで、中身は人間の遺体だと仮定。
そう考えれば、マネキンを焼却後、燃え跡から人骨が発見されたことも説明がつく。
その想像を小藪所長に話すと、
「気色悪いこと言うなぁ、自分」
と肩をすくめられたものの、
「でも、まぁ、中に水分が含まれてる説明にはなるわな。普通のマネキンでは水分反応なんか出やんワケやから」
そして美穂は、少し考えて、
「割って中を調べることは出来ませんか?」
「中?このマネキンの中をかぇ?」
嫌そうな顔をされるのも無理はない。
もし美穂の想像が正しければ、中から人間の遺体が出てくる…それを実際に確認してくれと言っているのだから。
それでも、
「お願いします。確証が欲しいんです」
と頼み込み、
「しゃーなしやで?帰ったら久美にお礼の菓子折り寄越せってちゃんと言うといてや?」
とブツブツ言いながら、まずは工具箱から木槌を取り出した小藪所長。
それでコンコンとマネキンの表面を叩くも、表面のコーティングにはヒビすら入らない。
それで充分だと思っていた小藪所長も、次第に、
「硬いなぁ、これ…全然アカンわ」
と木槌を諦め、次に取り出したのはノコギリ。
マネキンの脚の部分にノコギリをあてがい、
「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
と言いながら切断を試みるも、こちらも、うっすら一本筋をつけるのがやっとで、ノコギリの刃の方が先に欠けてしまう始末。
たまらず、
「ホンマにマネキンか?これ。どえらい硬いぞ」
と舌打ちをし、埒が明かないと次に用意したのは鉄素材も裁断できるチェーンソー。
「これやったらいけるやろ」
と先ほどノコギリでつけた一本筋の上にあてがい、いざ、
ギュィィィィン…!
高速回転するチェーンによって、ようやく、マネキンの右脚部分が切断できた。
そして、
(見たくないな…)
と思いながら、薄目を開けてチラッと切り口を確認した美穂だが、次の瞬間、その表情が険しいものに変わった。
マネキンの中から出てきたもの…それは、美穂が想像していたグロテスクなものではなく、泥が混じった土砂だったのだ。
それには小藪所長も、
「何や、これ。泥やないか」
と肩透かしを食らったような顔。
泥だから、水分反応が出たことは納得。…と、そんなことを言ってる場合ではなく、
(ま、まさか…!)
何かを察したように研究室を飛び出す美穂。
「お、おいッ!置いていくな、こらッ…!」
と背後の小藪所長の声を聞かず、廊下で待っていた丹生と愛萌に、
「大変!至急、久美さんに連絡ッ!菜緒たちが危ないッ!」
まんまと一杯食わされた。
連日の怪事件…そのうち、ヒナタレンジャーの面々が関心を抱き、調べだすことは猿でも分かる。
そこに、これ以上ない手がかりとして登場したマネキン。…だが、実際はその中身は人間の遺体ではなく泥人形。
獲物をおびき寄せるために撒かれたエサとしては、充分、役割を果たした。
そして、まさに今、それを手がかりだと思い込んで深追いしている菜緒たち。
中身が泥人形だったという結果を知らないうちは、自分たちが罠に嵌まっているなんて気付くこともないだろう…。
……
ちょうどその頃。
旧・ひなた病院に忍び込んだ菜緒たちは、一階から二階へ上がる階段、および踊り場で、潜んでいたガーナ兵の奇襲に遭い、交戦していた。
「えいッ!やぁッ!」
飛びかかってきたガーナ兵の攻撃を華麗な身のこなしでかわして、カウンターのパンチで倒していく菜緒。
その数段下のところでは陽菜がチョップを主体で、かたや数段上のところではひよりがその長い脚でキックを見舞って次々に蹴散らしていく。
「イーっ…」
続々と階段を転げ落ちていくガーナ兵。
そして階段を駆け上がってきた陽菜は、続いて菜緒と取っ組み合っているガーナ兵をコンビプレイで蹴散らし、
「コイツらがいたってことは…!」
「思った通り、ここを根城にして、またヒラガーナが何かを企んでるってことね…!」
そして、さらに階段を駆け上がると、既にひよりは三体のガーナ兵を楽勝で倒し、二人を待ち受ける形で、
「どうする?手分けして歩き回る?」
「いや…まだ全貌が見えない。単独行動は危険じゃないかな」
「そうだよ。三人で行こう」
そして、次は二階を捜索する三人。
朽ち果てて電気も消えている長い廊下。
明かりは窓から差し込む朝日しかないが、それでも何とか視界は確保できる。
かつての手術室にレントゲン室と、とにかく手当たり次第にドアを開けていく。
何もない部屋もあれば、ガーナ兵が待ち構えている部屋もあり、そのたびに三人で蹴散らしていく。
二階は特に何もなく、続いて三階。
ここから上は入院患者を収容していた病室がメインだ。
まず最初に覗いた、かつてのナースステーションでも、案の定、ガーナ兵が待ち受けていた。…が、多勢に無勢ならまだしも、三人いれば敵ではない。
ここも難なく片付け、そして、最後の一匹を三人で包囲し、カウンターに組み伏せるように押さえつけて、
「ヒラガーナっ!こんなところでコソコソと、次は何を企んでるのッ!」
と問いただす菜緒。
「イ、イーっ…い、言ってたまるか…」
「くっ…コイツ…!」
強情なガーナ兵に舌打ちし、さらに締め上げて、
「言えよ、ほら!言えっつーのッ!」
と詰問するひより。
そして、そんな中、陽菜は、ふと、天井からひよりの背中に何かが落ちてきたのを見た。
(…?)
薄暗くて何かは分からなかったし、大きさも小指程度のものに見えた。
締め上げるのに夢中のひより本人は背中に何かがついたことから気付いていない。
そして、口を割らないガーナ兵よりもそっちが気になり、ひょいと首を伸ばした陽菜は、確認した瞬間、その表情が強張った。
(ナ、ナメクジっ…!)
虫や爬虫類が少し苦手な陽菜。
一瞬、絶句してしまったが、すぐに、
「ひ、ひよたん…!背中…!」
「…え?なに?背中…?」
気付いていないので、キョトンとした顔になるひより。
すると、陽菜が教えてやるよりわずかに早く、ひよりに背中にくっついたナメクジがみるみる巨大化し、
ガシっ…!
「んぐッ…!」
押さえつけていたガーナ兵から引き剥がすように、突然、ひよりの首を締め上げた白い腕。
「なっ…!」
すぐ横にいた菜緒も驚いて顔を上げると、いつの間にか、ひよりの背後から不気味なモンスターが組みついているではないか。
慌てて押さえつけていたガーナ兵から離れ、次はそのモンスターに対して身構える菜緒と陽菜。
そのモンスターは、ひよりの細長い首を締め上げ、そのまま、遠心力をつけて、ひよりをナースステーションのカウンターの向こうへ放り投げた。
「きゃッ…!」
カウンターを飛び越え、廊下に打ち付けられるひより。
幸い、戦士の瞬発力で、咄嗟に受け身をとったことで頭をぶつけるようなことはなかったが、
「いてて…な、なに…!?」
と顔をしかめて立ち上がるひよりの元に、次は陽菜が、そして菜緒も、同じように放り投げられて廊下に転がってきた。
その二人も、ひよりと同じように受け身をとってすぐに立ち上がり、
「くっ…!」
三人がキッとした視線を向けたナースステーションから這い出てきたモンスター。

睨みを利かせる三人に対し、数体のガーナ兵を従え、
「グフフ…♪待っていたぞ、ヒナタレンジャー!」
「何ですって?」
「待っていた…?」
と戸惑う両サイドの二人をよそに、中央の菜緒はキッと強い眼差しで見据え、
「ヒラガーナの新手のモンスター…やけに手荒いお出迎えね!」
「そうとも!ナメクジの遺伝子から生み出されたスラッグ様だ!ここをお前たち三人の墓場にしてやるぞ!」
と凄むスラッグに対し、負けじと、
「その言葉、そっくりそのまま返すわ!ヒラガーナの手先となれば遠慮は無用!」
と言い返す菜緒。
そして、
「行くぞッ!」
と身構える三人へ向かって突進してくるスラッグ&ガーナ兵と交戦開始。
スッと散らばり、まずスラッグに立ち向かうのは菜緒。
叩きつけるように振り下ろしてきた右腕を護身術の心得でスッと受け止め、挨拶がてらに膝蹴りを一発!…のつもりが、
ぶよんっ…♪
(…!?)
入れた瞬間、クリーンヒットだと思った菜緒の膝は、あっけなく不気味な弾力に阻まれ、逆にカウンターを貰ってしまう。
「きゃっ…!」
弾き飛ばされ、ナースステーションの壁に激突する菜緒。
そして、起き上がりに群がるガーナ兵たち。
「くっ…!」
伸びてきた腕を掴み返し、足を払って転ばせる。
続いて陽菜が、そしてひよりも、ガーナ兵を蹴散らした後、スラッグと相対し、攻撃を見舞うも、その弾力を含む身体には有効打にならない。
そして、スラッグが、
「グフフ…♪口ほどにもない!生身の女など相手にならんわッ!」
その発言に、ついカチンとくる三人。
挑発に乗る格好で、
「言ってくれるじゃない…だったら、私たちの本当の力を見せてあげるわッ!陽菜!ひよたん!変身よッ!」
「よしッ!」
「オッケー!」
立ち上がり、横並びで腕を広げ、
「ハッピー…オー…!」
最後の「ラ」とともに、腕をクロスすることでヒナタレンジャーの姿に変身完了。…なのだが、それを言い切るよりわずかに早く、
「グフフ…♪パカめ!まんまとかかったな!喰らえッ!スラッグジェル!」
スラッグが三人に向けて突きつけた右腕。
その先から、ピンポン玉サイズの塊が3つ、三人に向かってそれぞれ射ち出された。
「わッ…!」
「きゃッ…!」
変身ポーズで腕をクロスしようとしていた手前、そのクロスしかけた腕でその弾を防いだ三人。
当たった瞬間、水風船のように弾けて水がかかった。…が、手首のあたりが少し濡れただけで特に何もなく、
(な、なに?今の…)
仮に硫酸のような液体なら大惨事だが、そんな様子もない。
しいていえば少し生ぬるい水だったぐらいで、自分だけでなく、陽菜もひよりも、特に何事もなさそう…。
被弾しても何ら身体的なダメージがない以上、猫騙しもいいところだが、今ので変身が中断されたのも事実。
「くっ…この卑怯者ッ!」
ヒラガーナのモンスターの片隅にも置けないヤツ…変身を邪魔するという、あまりの姑息さに苛立つひよりに対し、
「グフフ…♪そんなに変身したいか?では、待ってやろう。さぁ、変身してみろ!小娘ども!」」
と、なぜか態度一変のスラッグ。
それはそれでイラッとくるものがあるが、とにかく、戦うには変身しないと分が悪い。
気を取り直して、再び、
「ハッピー…オーラっ!」
今度は妨害はなく、最後まで言い切って腕をクロスした三人。…だが、
(…え?)
何も起きない。
いつもならクロスと同時に腕に巻いたヒナタブレスがそれぞれのモチーフカラーの光を発し、そこからコンマ何秒のうちに強化スーツを身を纏うのだが、あいにく、三人とも、まだ人間体のまま。
「グフフ…♪どうした?変身するんじゃなかったのか?」
「くっ…!」
いちいち癇に障るモンスター…もう一度、気を取り直し、
「ハッピー…オーラっ!」
…まただ。
何も起きないし、もっと言えば、ヒナタブレスがいつものように発光しない。
(な、何で…?何で変身できないの…!)
とヒナタブレスに目をやった菜緒の表情が、ここで途端に険しくなった。
いつの間にか、ヒナタブレスが石膏のようなものに覆われていたからだ。
そこでハッとする菜緒。
(さ、さっきのアレだ…!あの手首にかかった液体がヒナタブレスを封じているッ!)
両隣を見ると、思った通り、陽菜とひよりもそれぞれヒナタブレスの上に液体を浴びており、自分と同様、石膏で固められたようになっていた。
さっきの水風船のような弾…決して猫騙しではなく、ハナからこのヒナタブレスを狙っていたのだ。
それに気付いた三人の表情を見て、
「グフフ…♪どうだ!これでもうお前たちは変身できまいッ!」
「ウ、ウソ…!」
「そんなことが…?」
動揺を隠しきれない陽菜とひより。
まだ信じられないとばかりに、今度は一人で、
「ハッピー…オーラっ!」
と腕をクロスする陽菜だが、依然、変身はおろか、ヒナタブレスから光すら出ず。
その様子に、
「グフフ…♪往生際の悪いヤツめ!俺様の『スラッグジェル』は浴びせて2秒で固形化する!固まったら最後、並大抵のことでは剥がせんのだ!」
「そ、そんな…!」
試しに爪を立てて剥がそうと試みるひよりだが、確かにスラッグの言う通り、ヒナタブレスを覆って既に固形化したジェルはびくともしない。
「ダ、ダメだ…!取れないよ、これッ!」
と隣の菜緒に言うひより。
同じく菜緒も睨み合う視線の下で剥がそうと試みるも、全く歯が立たず。
力ずくで剥がそうものなら、逆に爪が剥がれ、指先の皮膚がズタズタに破れてしまうだろう。
そして、
「グフフ…♪さぁ、続きだ。変身を封じられたお前たちなど、ただの女!俺様の敵ではない!一人ずつ血祭りに上げてやるぞ!」
そう言って、再び三人めがけて突進してくるスラッグ。
動揺がフットワークを鈍らせたせいで避けきれず、
ドカァァッ…!
「きゃッ…!」
「わぁッ…!」
「くっ…!」
人間体のまま衝突し、三方向に弾き飛ばされた三人。
そして、
「くらえッ!」
三人の中から菜緒を標的に突きつけた右手のその先から、今度は弾ではなく、白濁の液体が勢いよく吐き出された。
先ほどのこともあり、
(浴びるとまずいッ…!)
と察し、懸命に避けた菜緒。
すると、菜緒が回避したことでその後ろにいたガーナ兵に見事に誤爆。
顔から全身までその白い液体をたっぷりと浴びたガーナ兵が、
「イーッ…!」
と断末魔の悲鳴を上げて倒れるや、みるみる液体が凝固し始め、全身が白一色に。
たちまち、今朝、ゴミ捨て場に運ばれてきたようなマネキンが出来上がったのを見て、ぎょっとする三人に、
「グフフ…♪お前らも同じ運命だ!」
と、再び右手を突きつけるスラッグ。
そして、
ブシャァァァ…!
「きゃッ…!」
ホースで水を撒くように発射される白濁液に、慌てて逃げ惑う菜緒。
菜緒が避けたことで、今度はその後ろにあった待合の長椅子が液体を浴び、真っ白になったと同時に化石のように固まっていく。
その後も、菜緒だけでなく、陽菜、ひよりに向けても凝固液を狙い撃ちをするスラッグ。
その猛攻に対し、変身を封じられた菜緒たちの為す術は…ハッキリ言って無い…。
……
一方、その頃。
美穂、丹生、愛萌の三人は、ジープを駆って疾走していた。
その車中、
「こちら丹生ッ…!菜緒…!菜緒ッ!陽菜ッ!ひよたんッ!誰でもいいから応答して!」
研究所を飛び出してから、絶えず手首に巻いたヒナタブレスの無線機能で何度も呼びかけているのだが、うんともすんとも言わない菜緒たち。
「ダメだ…繋がらない…!」
となると、やはり罠だったのだ。
なおも懸命に呼びかけを続ける丹生。
一方、愛萌は、車に搭載されたヒナタベースとの直通無線で久美とやりとり。
そこで、
「菜緒たちが向かったのは、旧・ひなた病院。今から30分ほど前に潜入すると連絡があったわ」
「旧・ひなた病院ですね。了解しました。我々も急行します!」
と返す愛萌。
そして数分、
「あれだッ!」
旧・ひなた病院に到着。
「二人とも、しっかり掴まってて!」
とハンドルを握る美穂からの指示。
事態が事態だけに「立入禁止」と書かれた看板を減速せずに撥ね飛ばし、敷地内に突入。
そのまま、かつての正面玄関に乗りつけ、急停止とともに次々にジープから飛び降りる三人。…だが、そこに、
「イーッ!」
柱の陰から一斉に現れたガーナ兵。
まるでフリーキックの際のゴールポスト前みたく、ズラリと並んで通せんぼ。
そんなこざかしい足止めに対し、
「行くよ!丹生ちゃんッ!愛萌ッ!」
「オッケー!」
美穂が飛ばした檄に呼応し、乱戦開始。
「おらおらッ!こっちは急いでんだよ!どいたどいたぁッ!」
と持ち前のボクサーパンチで、あっという間に5人抜きの美穂。
バスケで磨いた俊敏なフットワークも相まって、手も足も出ないガーナ兵。
さらに、
「てやぁッ!とぉッ!」
同じく、襲い来る複数のガーナ兵の間をすり抜けるように動いて翻弄する丹生。
剣道有段者らしく、竹刀に見立てた手刀で小手、面、胴を次々に決めていく。
そして、
「えいッ♪やぁッ♪」
と、合気道の心得を用いて次々にガーナ兵を投げ飛ばす愛萌。
その際の気合の声も可愛らしい。
こうしてガーナ兵たちのお出迎えもあっさりと一掃し、そのまま正面玄関に駆け込んだ三人。…だが、次の瞬間、
ブワッ…!
「わぁッ…!」
「きゃッ…!」
突然、突風のような衝撃波を喰らい、押し返されたように、一斉にジープの前まで吹っ飛ばされた三人。
受け身をとってアスファルトに転がり、キッと見据えた三人の前に、正面玄関からひょこひょこと現れたのは見たことのない謎の女…。

「フフッ…♪ここから先は通さないわよ、あなたたち…♪」
と口にするも、その好戦的なセリフとは不釣り合いなロリ風ファッションの出で立ちと幼い顔立ち。
「な、何者…?」
と困惑しながら問う美穂に対し、その女はクスッと笑って、
「私の名はメミー。これから会う機会が増えるかもしれないから、よーく覚えておいてね♪」
「メ、メミー…?」
教えられた名前も初耳…だが、今、そんなことはどうでもいい。
菜緒たちの救援に向かうことが先決ということで、
「マミーだかメミーだか何だか知らないけど、今、あなたに構ってる時間なんて無いわ!とぉッ!」
と、地を蹴り、メミーを飛び越えて中に入ろうとする美穂。…だが、
「聞き分けの悪い娘ね…それッ♪」
シュルシュルシュル…♪
「なッ…!」
天に掲げたメミーの指先からピンク色の妖糸が発射され、それが宙を舞う美穂の身体に巻きつき、そしてメミーの手が下ろされたのに合わせて、再び、ジープの前まで放り返される。
「くっ…!」
「み、美穂ッ…!」
「大丈夫!?」
転がって戻ってきた美穂の身体を受け止める丹生と愛萌。
そして、
「ここは通さないって言ったでしょ?ヒナタレンジャーさん…♪」
「わ、私たちのことを知ってる…!」
驚く愛萌。
それはつまり、この女もヒラガーナの一味で、しかも妖力を自在に扱えるレベルとなれば、少なくとも幹部級であることを察する丹生と美穂。
「ど、どういうこと…?」
「ヒラガーナの幹部って、イグチ魔女だけじゃないの…?」
すると、それを口にした途端、それまでニコニコしていたメミーの顔が一気に不機嫌になり、
「イグチ魔女…?あんな役立たずと一緒にしないでくれるッ!?実力、美貌、そして作戦の遂行力…全てにおいて私の方が上で、ネルネル様からの評価も天と地ほどの差があるんだからッ!」
その怒声と剣幕で、どうやらイグチ魔女とは犬猿の仲らしいということは伝わった。…が、だとしても、悠長に相手をしているヒマがないのは事実。
「くっ…仕方ない!こうなったら…!」
「変身して一気にカタをつける…!」
「行くよッ!」
一斉に立ち上がり、三人、声を揃えて、
「ハッピー…オーラっ!」
ブルー、オレンジ、ピンクの光が次々に煌めき、それぞれヒナタレンジャーに変身。
そのまま三人、横並びで一斉に突進するも、
「フッ…♪」
変身後の姿を見ても余裕綽々、鼻で笑ったメミーの瞳がキラリと光ると、再び、
ブワッ…!
「きゃっ…!」
さっき同様、突風のような衝撃波によって、せっかく詰めた間合いをいとも簡単に押し返される。
「くっ…負けるかぁッ!」
と、今度は単身、猛牛のような勢いで駆け込んだブルーだが、それでも敵わず、
ブワッ…!
「わぁぁッ!」
まるでハリケーンのような瞬間的な突風によって、今度はジープのさらに向こうまで吹っ飛ばされるブルー。
「み、美穂ッ!」
とブルーの身を案じて振り返るピンクの横で、
「よーし。それなら…!」
と腰元のホルスターからヒナシューターを取り出したオレンジ。
銃口をメミーに向け、いざ、
「シューターっ!」
引き金とともに銃口からオレンジ色のレーザー光線を発射。…するも、
バリバリバリっ…!
「なッ!?」
捉えたと思ったレーザー光線が、直撃の一歩手前のところで見えない壁に阻まれ、そして相殺されたようにかき消された。
その光景に、
「バ、バリア…?」
もちろんメミーは無傷で、クスッと笑って、
「ねぇ。なに?今の…今、何かしたぁ?」
「くっ…!」
煽られて悔しそうなオレンジに代わり、今度はピンクが、
「ピンクハートボムっ!」
と専用武器である小銭サイズのハート型爆弾をメミーの周囲に散らばるように投げつけ、そして、マスクの中であざといウインクとともに一斉起爆。
ドゴォォン…!
と爆炎に包まれたメミーだが、少しして煙が晴れると、今度は先ほどのバリアがメミーを中心にしてピラミッド状に形成され、またもノーダメージ…。
それどころか、
「お返しよ…♪ほらっ♪」
とメミーがウインクをすると、その瞬間、
ドゴォォン…!
「きゃっ…!」
ピンクと違い、わざわざ爆弾を撒かなくとも超念力を用いてウインクと同時にピンクとオレンジの足元に爆発を起こすメミー。
その爆炎によって、二人も宙を舞い、ブルーと同じところまで飛んでいく。
そして、ヨタヨタしながら、どうにか立ち上がる三人に、
「さぁ、次はどんな攻撃をしてくるのかなぁ?スラッグが中の三人を始末し終えるまで、ここで私がアンタたちの遊び相手してあげるから、さっさとかかってらっしゃい♪」
と勝ち誇るメミー。
足止めに現れた難敵…少女のような見た目ながら圧倒的な戦闘力に手も足も出ないことが悔しい三人。
そして、そんな状況でも、頭には常に、
(こ、こんなところで時間を食ってる場合じゃない…!)
(早く行かないと菜緒たちが…!)
(菜緒たちが危ない…!)
マスクの中で徐々に焦りが浮かぶ三人だが、焦ってどうにかなる相手ではない。
そしてこの後も、致命傷を与えない程度に加減しつつ、赤子の手をひねるようにして、メミーの足止めが延々と続いた…!
(つづく)