2人目・平岡海月
また、ある日のこと。
この日もヒラガーナに目立った動きはなく、おかげでメカニックルームの仕事もスムーズに進み、そして終わった。
「…さぁ、ゴハン食べてこよっと。じゃ、お先っ!」
と、スタスタと部屋を出ていく森本茉莉を見送り、部屋に残った山口陽世が手を伸ばすのはいつもの内線電話。
「…あ、もしもし。はるはる?今、終わったからさぁ。もし手が空いてたら、またこっち来て一緒にゴハン食べない?」
と、もはやお決まりの誘い文句で、開口一番、連れ込み隊の本領を発揮する陽世。…だが、この日は珍しく、電話口の山下葉留花が申し訳なさそうに、
「すいません、陽世さん…今日は、この後、ミーティングがあって、私も出なくちゃいけないんです…」
「えー、マジぃ…そっかぁ…」
相手が気を許す山下だけに、内線電話をプライベート電話のように使ってしまう悪い癖。
(何だよぉ…)
と口を尖らせる陽世だが、スネても無理なものは無理…
「…分かった。じゃあ、今日は一人で食べる…」
「すいません。また呼んでくださいね」
「…あ、ちなみにさ。そのミーティングって他に誰が出んの?一般隊員、全員?」
「いや、二班に分かれてやるミーティングで、私は今からやる方の班なんです」
それを聞いた陽世は、すかさず、
「みっちゃんは?みっちゃんもはるはると同じ班?」
みっちゃん…平岡海月という一般隊員のあだ名で、山下を介して、彼女とも、最近、仲良く話せる間柄になった。
「いや、平岡は別の班です。ちょうど今、ミーティング終わって帰ってきました」
「じゃあ、みっちゃんでいいや。みっちゃんに代わってよ」
と、意外とそこは節操がないタイプの陽世。
そして、電話口の声が山下の高い声から、少し低めの声に代わって、
「もしもーし。平岡です」
「みっちゃん、ミーティングおつかれ。この後、何か用事ある?」
「いや、特に何も…どうかしました?」
「いや、何もないんだったらさ。こっち来てゴハン一緒にどうかなって」
「えー!行っていいんですかぁ?じゃあ、行きます♪」
とノリノリの平岡。
それに陽世も気を良くして、
「じゃあ、待ってるねっ♪」
と可愛く締めくくった内線電話。
そして10分後。
「お待たせしましたぁ♪出前ハウスでーす♪」
と、おどけてデリバリーを装った平岡が登場。
それを受けて陽世も負けじと、
「いや、頼んでないでーす」
と、とりあえず一回、追い返すノリを挟んでみる。
ここに来るまでの数分間で思いついたであろうその登場だけで分かる、少しタイプ違いではあるが山下同様、一緒にいて楽しいタイプ。
そして、その平岡がワゴンに乗せて持ってきた夕食を二人で仲良く食べる。
山下を連れ込む時と同じで、ただベラベラと他愛もないことを喋って一緒に食事を摂る、それだけの時間。
そして陽世は、この機会に一つ、前々から言おうと思っていたことがあった。
それを胸にチラチラとタイミングを窺い、平岡が、今夜の夕食のドリアの最後の一口を口に入れたところで、
「…ねぇ、みっちゃん」
「はい。何ですか?陽世さん」
と唇についたクリームソースをササッと拭き取って目を向ける平岡に、
「あのさぁ…山下もだけど、私とみっちゃんって、もうけっこう仲良いじゃん…?現に、こうやってゴハンも一緒に食べたりできる仲だし」
「まぁ、はい」
「でしょ?だからさぁ…いいかげん、その『陽世さん』って呼ぶのやめない?何か堅苦しくて、私は仲良しのつもりだけど少し距離を感じちゃうんだよね…」
そんな何とも可愛らしい訴え…しかし、平岡は平岡で、
「いやぁ…でも、先輩は先輩じゃないですかぁ。やっぱり上下関係ってあると思うんでぇ…」
と生真面目。
もちろん、それが世間一般的な意見だろう。
「ふーん…あ、そう…」
とスネる陽世だが、平岡が、
「ちなみに『陽世さん』以外に、何て呼べばいいんですか?」
と聞くと、待ってましたとばかりにニヤリと笑って、
「私ね、『陽世ちゃん』って呼ばれたい…♪」
本人は満面の笑みだが、対する平岡は苦笑いで、
「いやいや、それはさすがに無理ですよ…先輩に『ちゃん』つけて呼ぶのは…」
「何でよー。いいじゃん。私がいいって言ってるんだから」
と駄々っ子のように口を膨らませて、
「ほら。一回、試しに読んでみて?」
「いや、呼びませんよ」
「呼んでよッ!」
「ヤです」
「呼んでッ!」
「無理ですって」
と、とにかく生真面目で頑なな平岡。
話題を変えるように、
「ほら、食べ終わったお茶碗とか先に片付けましょ?私も、もう食べ終わりましたから」
と、まるでお母さんのように立ち上がり、せっせと食器をまとめだすが、陽世は一向に席を立たず、
「陽世ちゃんって呼んでくれないと動かないっ…!」
と駄々っ子を継続。
それにはさすがの平岡も、
「ちょっとぉ…何ですか、それぇ…ワガママが過ぎますよぉ…」
と苦笑いだが、なおもテーブルを拳でドンドン叩いて催促する陽世。
結局、折れる形で、
「…は、陽世ちゃん…?」
と平岡が口にすると、それはそれで、
「…でへへへ…♪」
と照れてニヤニヤするだけの陽世。
それにはさすがに平岡も、
「もぉ…」
と呆れるしかないが、これぐらい、いまや陽世は心を開いているということだ。
その証拠に、食器を重ねてワゴンに戻した後も、
「え、もう帰っちゃうの?もうちょっといなよ」
と引き留め、お喋り継続。
そして陽世は、ふと思い出して、
「あ。そういえば、山下から聞いたんだけどさぁ…みっちゃんってSなの?」
「ぶッ…!」
唐突すぎて、思わず飲んでいたお茶を吹き出し、
「な、何ですか?え…え…?」
「いや、山下が言ってたんだよね。『一般隊員の同期の中だと平岡が一番Sキャラ』って」
「…チッ!何やねん、アイツ…余計なことを…」
舌打ちの後、ボソッとここにいない山下に文句を言ってから、
「べ、別に普通ですよ…どっちでもない、しいていえばニュートラルの『N』です」
と、さりげなく上手いことを言って弁明する平岡だが、山下の言ってたことを完全に鵜呑みにしている陽世は、ニヤリとして、
「ねぇ…試しに何かSっぽいこと言ってみてよ。私、どっちかというとMだから、私がドキドキしそうなこと…♪」
「いやいや、無理ですって!それはさすがにッ!ムチャブリすぎますって。無理ですよ、そんなん」
と全力否定の平岡だが、陽世は、
「上下関係、守るんでしょ?私、一応、先輩だけど?先輩の言うこと出来ないの?」
と、こんな時だけ先輩であることを利用。
巷ではこういうのをパワハラと呼ぶ時代だが、ここも平岡が、
「もぉ…」
と、うなだれながらも陽世のワガママに折れる形で、
「んー…何やろ?Sっぽいこと…え、待って。お題ムズっ…!」
「男目線でのセリフでもいいよ。みっちゃん、声低いから男役の方がサマになりそう」
「いや…褒めてます?それ。…まぁ、確かに声は低いですけど…」
と苦笑いの後、一休さんのように、立てた人差し指をこめかみに当てて考える平岡。
そして、考えた末、
「…行きます」
と、まるで一発ギャグを披露するような前置きの後、おもむろに陽世の頭を抱き寄せ、耳元で、
「今夜は俺がたっぷり可愛がってやるぜ。仔猫ちゃん…」
と、その低い声を活かし、本気半分、ウケ狙い半分の絶妙なところを突いて、どうにかおスベリだけは逃れた平岡。…だが、今の一言を境に、ムチャブリした側の陽世に何やら異変…。
抱き寄せる平岡の腕の中で、みるみる顔を真っ赤に染め、急にモジモジしだしては、もたれかかるように身を預ける。
とろんとした目で上目遣い、
(ヤバっ…何か、キュンとしちゃった。今の…)
なんと、まさかの…冗談のつもりが、まさかの陽世のM心にクリティカルヒット…!
まだそれに気付かず、
「…いや、何かリアクションしてくださいよ!やり損じゃないですか!」
とツッコんでいる平岡だが、そんな彼女の手を握り返し、
「ねぇ。今の、もう一回…♪」
「え…?も、もう一回…?」
「うん…♪もう一回、言って…?今の…♪」
と、完全にオンナの顔で、おねだり顔。
そこでようやく平岡も異変に気付き、
「いや…何か変なスイッチ入ってません?私、男じゃないですよ。平岡なんですけど」
と説明するも、もはや今の陽世には届かず、
「もう一回、今の言われたい…♪」
と言って聞かない。
仕方なく、もう一度…しかも次は陽世の耳元に口を寄せて、
「おとなしくしろよ。可愛がってやっから」
「きゃぁッ…♪」
再びクリティカルヒット…M心に刺さるとともに、それに触発されて、日頃、山下としている秘め事が無性に恋しくなってきてしまった陽世。
いつものメカニックルームで、いつもと同じ二人きりの空間…。
唯一、違うのは、今、陽世が腕を持って密着している相手が山下ではなく平岡なこと。
しかし、相手こそ違えど、その密着する距離感はいつもの山下とほぼ同じ。
それによって陽世の頭の中は錯綜…普段、山下を相手に求めていることを今も求め、ゆっくり身体を起こすと、
「ねぇ、みっちゃん…キスして…?」
「え…?キ、キス…?はい…?」
突然の思いもよらぬリクエストに目が点になって困惑する平岡だが、陽世は構わず、せがむように唇を突き出し、そのまま、
「ちょ、ちょっと…!陽世さんッ…!んんッ…!」
つい欲が勝り、強引に奪ってしまう平岡の唇。
山下ならここで応じるように唇を開いて口内へ招き入れてくれるが、さすがに平岡にはまだそれはなく、逃げるように顔を左右に振り、慌てて離れると、
「は、陽世さん…どうしたんですか?急に…もしかして酔っ払ってます…?」
引いたり、嫌悪感を抱くよりも先に、心配が勝った模様。
なおも陽世は、
「ねぇ…キス…!キスして…?」
と、うっとりした顔でおねだりし、再び口を近づける。
ここでもし、平岡が全力で抵抗し、助けを求めるような悲鳴を上げていれば、また違った展開になっていただろう…だが、平岡は、何をためらったか、迫りくる陽世の唇を甘んじて受け、
「んッ…んッ…」
と、陽世の自由にさせてキスを再開。
嫌がっても無駄と悟ったのか、それとも、こんな時でも先輩を立てる後輩の鑑だったのか…この時、平岡がほとんど無抵抗だった理由は、後になってもまだ不明…。
さては、最初に唇が触れた時点で、平岡自身にも気持ちの変化が…?
それも今となっては闇の中で、とにかく室内ではキスが続いた。
しかも、さっきは閉じされていた平岡の唇が少し緩んでいる。
それに気付くやいなや、こじ開けるように飛び込む陽世の舌。
たまらず、
「んんッ…♪んっ、んっ…♪」
舌を絡め取ってねぶられ、小さく声を上げる平岡。
そして、息継ぎで口を離す時には平岡の顔もほんのり赤くなっていて、一言、
「お、女同士のキスなんて初めてしたんですけど…私…」
まっすぐな感想…そして、この状況でまっすぐな感想を口にするということは、すなわち、それを受け入れたということ。
少なくとも陽世はそう理解し、スッと懐に潜り込むと、次は平岡の手を取り、それを自身の胸の膨らみへと引っ張っていく。
その行き先に気付くや、
「は、陽世さん…!それはさすがに…」
と口にするも、すかさず、
「陽世さんじゃなくて陽世ちゃん…でしょ?」
「…は、陽世ちゃん…あッ…!」
言ってる間に手の平に飛び込んできたハリのある肉の膨らみ。
いつの間にか腰まで下ろされていたツナギの作業着…Tシャツ越しに触らされたその感触で、瞬時にそのシャツの下がノーブラだと気付くのは自分も女性だから。
そして、上に重なる陽世の手で、二、三回、レクチャーするようにシャツの上から揉まされ、その後は、
「じゃあ…ここからはみっちゃんの手でして…?」
「…こ、こうですか…?」
今、教わった通りに力を込める五指。
布一枚を挟んで陽世の隠れ豊乳の弾力を知ると同時に、
「んッ、んんッ…♪」
可愛い声が出始める陽世。
さらに、
「ねぇ。こっちも一緒に…」
と、平岡のもう一方の手も、空いている反対側の膨らみに誘導し、左右同時に揉ませる。
「い、痛くないですか…?」
と心配する平岡をよそに、
「あっ、あぁっ…♪痛くない…♪気持ちいい…んんッ…♪」
そして、みたび唇を突き出してキスをせがむと、三回目はとうとう平岡の方から、
チュッ…♪チュッ…♪
「んんッ…♪み、みっちゃん…♪あぁッ…♪」
いよいよ振り切れたのか、自らキスを仕掛け、みるみる大胆になっていく手つき。
そして、とうとう陽世からの次の指南を待たずに、うすうす主張を始めていた乳首と思わしき突起をシャツの上から人差し指でカリカリ…。
「はうぅッ…♪」
思わず仰け反る陽世に、
「おぉ…!めっちゃ敏感…♪」
ボソッと口にしたその独り言は、声の低さも相まって、まるで男に言われたような気分…。
そして、長い髪を掻き分け、耳元にスッと寄ってきた唇から一言、
「陽世ちゃん、自分のお手手は何もしてないけど…それでいいの…?」
「んんッ…♪」
とうとう出たナチュラル陽世ちゃん呼び&山下のタレコミ通りのSっ気の発揮…今の囁きだけでゾクゾク、ドギドキして声を漏らしてしまう陽世。
そして、さっきとは逆で、そのだらんとしている手を掴み取られ、
「たとえば、ここを自分で触ってみるとか…♪」
と、無防備に開いた脚の間に放されるや、言われるがまま、ツナギの生地の上から引っ掻くようにして自ら摩擦。
「んんッ、んんッ…♪」
放り出した脚をクネクネ揺すり、背後から乳揉みアシストを受けながら衣服越しにマンズリ…。
そこに、
「あれぇ?キスはもういいんですかぁ…?」
と囁かれて、
「や、やだッ…!キスももっとしたいッ…!」
「じゃあ、こっち向いてくださいよ…♪」
と言われて斜め後ろ上に顔を向けると、そこから被さってくる平岡の唇。
ズッ、チュッ…♪ズッ、チュッ…♪
絡めた舌を吸う音が響き、そして息継ぎの合間に、絶えず、
「陽世ちゃん…アソコめっちゃ擦るやん…♪」
「乳首すごいですよぉ…ほら。シャツの上からでも、くっきり…♪」
「そんな声出して…もし今、茉莉さんが戻ってきたりしたらどうするつもりですかぁ?」
そんな囁きの連続に、たちまち、
「あっ、あっ…♪ヤ、ヤバいぃッ…♪みっちゃん…!私、もうヤバいよぉ…!」
「ヤバい…?それって、もしかして…イクってことですか…?後輩の前で…?」
クスクスと笑いながらの白々しい低音囁きに対し、うんうんと頷き、
「あぁッ♪ダメっ…!イ、イキそうッ…あぁッ、イクっ!イクっ…!んんッ…!」
声を上ずらせ、二回、ビクンビクンと跳ねた後、小刻みな痙攣とともに背後の平岡にもたれかかって脱力した陽世。
決定打は股を擦っていた自身の手に違いないが、背後からの乳弄りをはじめ、平岡のアシストが機能したのは明白。
そして、
「はぁ…はぁ…」
と乱れた呼気で、恍惚の表情を浮かべる先輩に、
「すごいですねぇ…めっちゃビクビクしてましたよ?イッた瞬間…♪すごく可愛かった、陽世ちゃん…♪」
どんどん馴染んでいく平岡の「陽世ちゃん」呼び。
噂通りのS性も垣間見え、山下とはまた違う満足度があった平岡との秘め事。
そして、この日を機に、より一層、仲が深まった二人。
今では、
「うふふ…♪みっちゃん…♪」
「なーに?陽世ちゃん…♪」
いつもの手口で連れ込んだ平岡をじりじりと部屋の隅に追い込みながら密着し、互いの名前を延々と呼び合うのがお決まりの光景。
そのデレデレ具合…山下の膝枕でうたた寝してしまうのといい勝負ではないだろうか。
(おわり)