プロローグ -結-
ビーっ!ビーっ!
「出動命令!出動命令!西地区、憩いの広場にてヒラガーナの一味が人間狩りを展開中!メンバーはただちに出動してくださいっ!繰り返します!西地区、憩いの広場にてヒラガーナの一味が…」
けたたましいブザー音とともにヒナタベース内に響く通信係、橋未来虹の声。
その放送を聞いて、ベース内に散り散りになっていたメンバーがバタバタとガレージルームに集まってくる。
ズラリと並ぶオートバイ、ジープ…整備工の森本茉莉と山口陽世が毎日欠かさずメンテナンスをしてくれているおかげで、すぐに出動できる。
「ほいじゃ、お先っ!」
愛車のオートバイに颯爽と跨がり、ふかしたアクセル音とともに、いの一番に飛び出す富田鈴花。
それに遅れを取るまいと他のメンバーも、バイク、ジープに分乗し、次々に飛び出していく。
「みんなっ!油断だけはしちゃダメよっ!」
と声をかけて送り出す久美も、そのすっかり逞しくなった戦士たちの背中には目を見張る。
「大丈夫だよね、きっと…」
「大丈夫だよ。あの9人が集まれば、何にだって負けないよ」
と言い合う茉莉と陽世に久美も同調し、あとは彼女たちの無事の帰還と良い報告をベース内でじっと待つ。
……
「アハハ♪さぁ、お前たちっ!どんどん捕まえなさぁい♪」
と引率の教師さながら、引き連れてきたガーナ兵に発破をかけるイグチ魔女。
その少し妖艶な声に促され、手にしたロープを振り回しながら獲物を追いかけて散らばるガーナ兵たち。
「た、助けてくれぇっ!」
「く、来るなぁッ…!」
いたるところから聞こえる民の悲鳴が大好物のイグチ魔女…心地よさそうだ。が、そこにまたもや間を割るように乱入してくるオートバイ。
「チッ…!来たわね、ヒナタレンジャー!」
笑みが消え、舌打ちをするイグチ魔女。
前回同様、先制攻撃で一味の中を駆け回る鈴花。
女性でありながらモータースポーツが大好きの彼女はバイクの腕も一流。
巧みなドリフト捌きでガーナ兵たちを戸惑わせているうちに、他のメンバーたちも次々に到着し、所々で交戦開始だ。
「やぁッ!」
「とぉっ!」
キレのいいチョップ、華麗なキックでガーナ兵たちをのしていく美玖、好花。
軽やかな側転で攻撃をかわし、着地と同時に長身を活かしたハイキックを見舞ってカウンターKOを決めるひより。
相手の突進してくる力を利用し、華麗に転倒させる合気道家の愛萌。
美穂にいたっては二人まとめて投げ飛ばすなど、戦いっぷりも豪快だ。
「くっ…だらしないヤツらめ!」
圧倒されて劣勢のガーナ兵たちが気に食わないイグチ魔女。
そんな彼女を指揮官と見た菜緒と明里、そして陽菜が、ガーナ兵の始末は他のメンバーに任せ、ササッと駆け寄り、取り囲む。
「あなたがリーダーね!すぐに人間狩りをやめさせなさいっ!」
と見据えて凄む菜緒に対し、
「リーダー…?そんな安っぽい肩書きにしないでちょうだいっ!私はイグチ魔女!ヒラガーナ海賊団の幹部よ!」
と声を張り上げ、
「貴様らこそ、私の楽しみである人間狩りに横槍を入れたことを後悔するがよいっ!」
「なに?」
ふいに妖しげな手の動き…召喚の舞を踊りながら、
「いでよ、コングっ!」
とイグチ魔女が叫ぶと、突然、地面に魔法陣のような模様が浮かび上がり、そこから大木が生えるようにゴリラのモンスターが現れた。
「ンガァァっ!」
雄叫びを上げるモンスター、コング。
その巨体の全身が浮き上がってきたところで魔法陣はスッと消え、スタッと地面に降り立つコングに相対し、身構える丹生明里と河田陽菜。
そして、その怪物を見た菜緒は、
(コイツがコング…!久美さんが言ってたヤツだ…!)
と察する。
かつて先代の戦士たちを圧倒し、久美の左腕を折って敗走に追い込んだ怪力自慢のモンスター。
だが、不思議と恐怖はない。
それよりも、
(久美さんの無念、私たちが代わりに晴らしてやる!)
という気が湧く菜緒は、丹生と陽菜にアイコンタクトを送り、
「みんな、変身よっ!」
「オッケー!」
拳を握って応じる二人。
そして三人は、イグチ魔女とコングを取り囲み、
「ハッピー…オーラっ!」
と、掛け声とともにブレスレットをクロスさせる。
途端に放たれる眩しい光。
「くっ…!」
と、イグチ魔女が目眩ましに、一瞬、顔を背け、視線を戻した時には三人の姿は私服から強化スーツへと変わっていた。
「ヒナタレッド!」
「ヒナタオレンジ!」
「ヒナタホワイト!」
と順に名乗り、決めポーズをとる三人。
そして、
「こざかしいっ!コング!やっておしまいっ!」
けしかけるイグチ魔女の声で開戦。
「とぉっ!」
「やぁっ!」
両サイドから飛びかかり、先制のチョップを浴びせるオレンジ(丹生)とホワイト(陽菜)だが、毛むくじゃらの野太い腕に軽くあしらわれる。
ならばと正面切って、キックを見舞うレッド(菜緒)も、分厚い鋼鉄のような胸板で跳ね返されてノーダメージ。
「くっ…!」
蹴り上げた脚を軽々と押し返され、マスクの中で唇を噛むレッドに対し、コングは、
「ウホッ!ウホっ!」
と胸を叩いて威嚇し、
「バカめ。貴様らのヤワなチョップやキックなど痛くも痒くもないわい!」
と笑みを浮かべて豪語。
「これでもくらえっ!」
と、次はコングがその鉄球のような拳でドカドカと地面を叩くと、それに合わせてグラグラと揺れが発生し、
「きゃっ…!」
「わぁっ…!」
と、つい足を取られて転倒するホワイトとオレンジ。
レッドも転倒とまではいかずとも片膝をつき、
(くっ…す、すごい怪力…地面を叩いて地震を起こすなんて…)
と敵ながら驚きを隠せない。
なおも地面をドカドカと叩き、
「ガハハ!どうだ!このまま立ち上がれなくしてやるぞぉッ!」
と局地的大地震を起こすコング。
「くっ…」
ゴロゴロと地面を転がり、防戦一方の三人。…だが、こういった強力なモンスターとの対峙を前提に鍛えられてきた戦士たちは、この程度で参るほどヤワではない。
執拗な揺れの中でもどうにか身体を起こすと、
「よーし…!」
「それなら…!」
息ピッタリで腰元に携帯するレーザー銃『ヒナシューター』を抜き、三人同時に発砲時の決まりの掛け声、
「シューターっ!」
と叫んで3方向から一斉に引き金を引く三人。
銃口から発射されたそれぞれのイメージカラーに由来する赤、橙、白の3色のレーザー光線はコングの身体に当たると、そこで小爆発を起こし、意気揚々と地面を叩いていたコングが一変、
「ぐわぁぁっ!」
と声を上げるとともに爆風で宙に浮いた。
どうやらヒナシューターのレーザー光線は効果抜群の様子。
「ぐおぉっ…!」
そのまま、ドスンっ…!と地面に叩きつけられ、
「お、おのれぇ…」
と、よろよろ起き上がるコングの前には、いつの間にか、どこからともなく取り出した橙色に輝く剣を持ったヒナタオレンジ(丹生)。
「オレンジソード!」
と見栄を切り、握り締めたその剣で、
「めぇぇぇんッ!」
と額めがけ目にも止まらぬ一刀を放つオレンジ。
バシィィッ!
「ぐわぁっ!」
さすが剣道有段者。
完全な一本だが、さらに続けて、
「どぉぉぉッ!こてぇぇッ!」
と電光石火の太刀さばきで追撃し、ダメージを与える。
その反撃ムードに、さっきまでの余裕もすっかり消え、
「コ、コングっ!何をしているっ!さっさと倒せっ!」
と徐々に焦りを見せる傍らのイグチ魔女だが、そんな彼女の叱咤を嘲笑うように、次は、真っ白な弓矢を構えたヒナタホワイト(陽菜)。
「ホワイトアロー!」
と、同様に見栄を切り、弭(はず)がしなるまで弦(つる)を引いて狙いすまし、いざショット!
弓道で培った技術で狙いは百発百中。
音速で放たれた矢がコングの眉間に見事に命中し、
「んごぉぉッ!」
と手を当てて思わず天を仰ぐほどコングのダメージは大きい。
そして、とどめはレッド。
「レッドスピアっ!」
と真紅の槍を構え、身体の前でクルクルと華麗に回して勢いをつけているうちに鋭く尖った先端にボワッと火がついた!
その炎が宿った刃先を突きつけ、
「やぁぁッ!」
と気合の掛け声とともにガラ空きになった胸板めがけてひと突き。
「ぎゃあぁッ!」
鋼鉄のように分厚い胸板もなんのその、コングの身体を見事に貫いた切っ先。
レッドの必殺技『フレイムスラスト(=炎の一突き)』が見事に決まった瞬間だ。
たちまちコングの身体を包んで燃え盛る炎。
貫いた槍を勢いよく抜き取り、二、三歩、後ろに下がると、全身が発火したコングは風穴を空けられた胸部を押さえ、
「お、おのれぇ…ぐふっ…」
と断末魔の声を上げて前のめりに倒れ、それと同時に
ドゴォォォン…!
と爆発を起こして絶命した。
その爆風に煽られながら、
「くっ…バ、バカな…!こ、こんな小娘どもにコングがやられるなんて…」
と、自慢のモンスターが倒されたことに驚愕するイグチ魔女。
やがて爆風が止むと、そこにコングの姿は跡形もなく、代わりにそれぞれの専用武器を構えた赤、橙、白の三人の戦士が立っていた。
そして、イグチ魔女を見据え、真紅の槍を構えるレッドは、
「イグチ魔女!お前も今この場で退治してやる!」
とコングを葬った自慢の槍を回しながら駆け出す。
再び先端に灯る怒りの炎。
そのまま、
「やぁぁッ!」
と勢いよく突いたレッドだが、さすが、幹部を名乗るだけのことあるイグチ魔女。
ガシッ…!
「なっ…!」
コングの巨体をも貫いた会心の突きを、難なく素手で掴み取られ、驚くレッドに、
「くっ…ちょ、調子に乗るんじゃないよっ!小娘ぇぇッ!」
とヒスリックに絶叫したイグチ魔女は、掴んだ槍を振り払うと、手にしたステッキをよろけたレッドに向け、
「ファァァっ!」
と、思わず足がすくむような奇声とともに反撃の特大高熱火球を放つ。
(し、しまった…!)
体勢が悪く、かわせないレッド。…と、その時!
「シューターっ!」
発砲の掛け声とともに、その火球を射抜く6色の光線。
四方八方から射抜かれた火球はレッドの元へ届く前に破裂し、爆発!
光線の飛んできた方に目をやると、ガーナ兵を片付けた残りの仲間たちも強化スーツに装いを変え、ヒナシューターを手にして立っていた。
そして、
「菜緒っ!大丈夫!?」
と声を上げるブルー(美穂)に、
「な、なんとか…」
と命拾いを伝えるレッド。
「ぐっ…お、おのれ…次から次に出てきおって…!」
と仕留め損なって悔しそうなイグチ魔女だが、なおもイエロー(美玖)、グリーン(好花)、ピンク(愛萌)の銃口は自分に向けられたまま。
そして、その三人が、
「シューターっ!」
と放った緑、黄、ピンクの3色レーザーが直撃するよりわずかに早く、テレポートで消えたイグチ魔女。
外れたレーザー光線による小爆発。
その爆炎が晴れても、イグチ魔女の姿はなく、かわりに辺りに響く声で、
「おのれ、ヒナタレンジャー…!この借りはいつか必ず返してくれよう…!我らヒラガーナ海賊団に楯突いたこと…後悔しても、もう遅い…!」
と言い残し、その後は声すらもしなくなった。
「くっ…逃がしたか」
と悔しそうなブルーを、
「まぁまぁ…」
とたしなめ、
「ひとまず今日のところは私たちの勝利じゃない?」
と口にするグリーン。
「幸先いいじゃん。この調子、この調子♪」
とイエローもマスクの下で笑みを浮かべ、ようやく戦いの緊張から解放される戦士たち。
とはいえ、鍛えてきた自慢の槍さばきがイグチ魔女に通用しなかったレッド。
安堵の傍ら、
(こんなんじゃまだまだ…まだまだ私たちも力が足りない…)
と今後に向けての課題、さらなるレベルアップを胸に誓った…。
(おわり)