背徳の一夜
「あんっ…あんっ…」
可愛らしい声が響く寝室。
寝転がる蔵夫の上で、白い小柄な身体が跳ねる。
「んっ、んっ…あぁっ、イ、イクっ…んんっ…!」
と、終始、声を抑えながら果てるその女、芽実。
久々に二人で一夜をともにする時間が出来たので、約三週間ぶりのデート、そしてセックス。
今日の芽実はやけに積極的で、蔵夫の上でヒクヒクと身体を震わせた後も、
「…ねぇ、もう一回…♪」
と、可愛くおねだりをして、再び腰を揺すり始める。
それを受け止め、下からも突き上げてやる蔵夫。
「あぁっ、す、すごっ…!ね、ねぇ!は、激しいよぉっ…!あんっ…♪」
「芽実っ…芽実ぃっ…!」
「んあぁっ!ダ、ダメぇっ、またイクぅっ…!」
こうして、じっくりと愛を確かめ合う二人。
だが…。
行為を終え、一枚の布団にくるまる二人。
月の光がわずかに差す部屋で、芽実が、
「ねぇ…」
「…なに?」
「今日さ…」
芽実は少し言い辛そうにしながら、
「もしかして、今日、あまりそういう気分じゃなかった…?」
「…え?な、何が?」
ギクッとしながら、とぼける蔵夫。
芽実は、続けて、
「何か…心ここにあらず、って感じに見えたけど…」
「い、いや、そんなことはないけど…」
「もしかして、私のこと、嫌いになった…?」
と、切なそうに聞く芽実に、
「そ、そんなワケないだろ!大好きだよ…」
「ホント…?その言葉、信じていいの?」
「あぁ…ホントだよ…」
と返すが、よほど歯切れが悪かったようで、
「ねぇ。もしかして…」
「な、何だよ…」
「もしかして、私の他に、気になる女の子でも…?」
芽実の不安に、かァッと顔が赤くなる蔵夫。
「バ、バカなこと言うな…!つまんないことばっか言ってるなら先に寝るぞっ…!」
と、背中を向け、
「お、俺はお前のことが一番好きだよ…本当だ。だ、だから…よ、余計な心配はするな…分かったな…?」
と押しきる蔵夫。
「うん…わかった…ありがとう…」
と言って背中に抱きついてくる芽実。
やがて、5分もすれば、芽実はすやすやと寝息を立て始めたが、蔵夫はまだ眠れない。
もちろん芽実のことが好きだ。
さっきの言葉も本心に違いはない。
だが、そんな頭の片隅に、もう一人、あの“幼馴染”がいつまでも居座っている。
(ダ、ダメだ…あの娘のことが忘れられない…!)
そして翌日。
二人で昼前まで寝て、起き抜けに近所のレストランにランチを食べに行き、その足で芽実を駅まで送った蔵夫。
「じゃあ、またね」
「あぁ。帰ったらまたラインしてくれよな」
「うん。分かった」
と、改札越しに手を振って階段を下りていく芽実を見送った後、すぐには帰らず、コンコースで少し時間を潰す。
電光掲示板を凝視し、芽実が乗ったであろう電車の表示が消えたのを確認して、蔵夫も改札を抜けた。
そして、芽実が下りた階段と反対方向の階段へ。
ホームに下りるやいなや、まず、線路を挟んだ向かいのホームを注意深く見渡す。
(…よし)
見覚えのあるコート、背丈の女性…芽実はいない。
どうやら、さっきの電車に乗って帰ったようだ。
そして蔵夫は、ちょうどこちらのホームに入ってきた反対行きの電車に早足で乗り込み、目的地を目指す。
目的地…それはもちろん、あの幼馴染、“きょんこ姉ちゃん”のところだ。
(つづく)