欅共和国の罠 ― 捕らわれた男たちの記録 ―

















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序章編 小池美波と齋藤冬優花に捕まった男
1.狩られた狩人
 彼の名は五郎。
 密猟ハンターとして名を馳せている。
 今回、彼が狙うのは『欅共和国』にのみ生息する新種のペンギン『ケヤキペンギン』。
 生け捕りにしてコレクターに売りつければ大金が手に入ること間違いなし。
 密猟のスリルを味わう上に見返りは破格と、こんな夢のような商売は他には無いだろう。
 まんまと密入国に成功するなど、最初は難なく事が進んでいた。
 雲行きが怪しくなったのは、ペンギンの保護区域を目指すにあたり、必ず抜けなければならない熱帯林に入ってからだ。
 この国では、密猟対策として、ケヤキペンギンの保護区域の周囲を人工熱帯林でドーナツ状に囲んであった。
(まったく、手が焼かせやがる…!) 
 と理不尽な怒りを噛み締める五郎。
 足場のぬかるんだジャングルを進むうち、目の前に見たことのない花が咲いているのが見えた。
 拡声器のような形をした大きな花を開かせる謎の植物。
(何だ、これは…?)
 ケヤキペンギン同様、この国特有の新種の植物かもしれない。
(これはこれで珍しいが、生け花は趣味じゃない)
 と無視して下を通りすぎようとした時、ふいに目まいがして、身体が重くなった。
(……?)
 視界がぐらぐらと揺れ、足がおぼつかなくて前のめりになる。
 慌てて膝に手をつこうとしたが、目まいのせいで目測を誤り、差し出した手で空気を掴むと同時に、そのまま俯せに転倒した。
(な、なぜ…だ…?)
 まぶたが思い。
 ワケも分からぬまま、五郎は、ぬかるむ木の葉の上で静かに眠りについた。


「うぅ…」
 五郎は目を覚ました。…が、動けない。
 視界に映ったのは見覚えのない部屋。
 ほどなくして、自分が今、その部屋の真ん中で
、直立不動の状態で全身を布テープでぐるぐる巻きにされていることに気がついた。
 そして、その布テープの下が、なぜか素っ裸のことも…。
「くっ…な、何だ、これは?」
 これじゃ、まるでミイラだ。
「…気がついた?」
 ふいに声をかけられ、ハッとしてそちらに目をやると、女が二人、立っていた。
「だ、誰だ…?」
 知らない女だった。
 その片割れ、小池美波がクスクスと笑って、
「それはこっちのセリフやから。アンタこそ誰なん?」
「くっ…」
「パスポートも持たず、銃と鳥カゴだけ持って、許可も取らずに保護区域に近づいて…どういうつもり?」
 と、もう一人、齋藤冬優花が苦笑しながら、小さな花びらを持つ手をちらつかせる。
(そ、その花は…!)
 サイズは違うが、あの熱帯林に自生していた花だ。
「これ、見覚えあるでしょ?」
 齋藤も、同じくクスクスと笑って、
「この花は私たちが品種改良を重ねて生み出した新種の植物。この花びらから香る匂いは睡眠を強く促す、いわば侵入者対策に特化した花よ。そして、知らない者は何の気なしに横を通ろうとして、そのまま眠ってしまう」
「━━━」
「調べが足りなかったわね。密猟ハンターさん」
「ケヤキペンギンの密猟はこの国では人殺し以上の重罪やねんで?どうなるか分かってんの?」
 小池はニヤニヤしながら五郎の顎のラインを撫で、
「国家警察に引き渡せば、市中引き回しの末、中央広場のギロチン台で斬首の公開処刑。首なしの胴体は荒野に晒してハゲタカの餌にして、落とした首は斬奸状を添えて家族に送りつけて見せしめ…やったっけ。確か」
「━━━」
 聞くだけでもとんでもない仕打ちに五郎の顔が蒼ざめる。
「どうする、みぃちゃん。警察に来てもらう?」
 齋藤が、携帯電話をちらつかせる。
「どうしようかなぁ…?」
「た、頼む…助けてくれ…!」
「ん〜…でもなぁ、みぃの大好きなペンギンを狙ってきた極悪ハンターやからなぁ…」
「ちょっと魔が差しただけなんだ!二度としない!改心する!神に誓うよ…!」
 おべんちゃらを並べて懇願する五郎。
「え〜、絶対ウソだよ!」
 と見透かして苦笑する齋藤。
「ウソじゃない!頼む…!」
「ん〜…でも、やっぱりウチら保護職員として見過ごすワケにはいかんしぃ〜…」
「そこを何とか…!」
「ん〜…。じゃあ…!」
 小池は、急にニッと笑って、
「警察には黙っといてあげるかわりに、今夜一晩、ウチらのオモチャになってもらおっかなぁ…?」
「オ、オモチャ…?」
「そう、オモチャ」
 意地悪な笑顔を見せる小池。
「今、確か、2勝2敗でイーブンだったよね?」
 と急に齋藤がワケの分からないことを言い出すと、それに小池も応じて、
「今日こそは負けへんで!関西人の方が上ってこと教えたる!」
「はぁ?関東人の方が絶対に上だから!」
「いやいや、それはないわ」
「何でよ!前回、私、勝ったじゃん!」
 と齋藤が得意げに言うと、小池は強がるように、
「あ、あれは、あの男が早漏やっただけ…!もっとしっかりした男やったら、絶対みぃのターンで射精してたもんっ!」
「いやいや、あれは私のテクニックだから。みぃちゃんが下手なだけだよ」
「はぁ!?絶対ふーちゃんよりみぃの方が上手やし!」
 と、よく分からない話で急に張り合い始めた二人。
(早漏…?射精…?テクニック…?)
 気になるワードが何個かあったものの、依然、状況が分からない。
「と、とにかくっ…!」
 小池は、少しムキになった感じで、
「今、2対2。次でハッキリするから!絶対に負けへん!」
「私も負けないよ!」
 火花を散らす二人。
 いったい何が行われるのか…?


 ケヤキペンギン保護区域。
 ここを管轄とする職員の主な仕事は、給餌、個体数の計測、怪我をした個体の保護、観察、外敵の監視など多岐に渡る。
 そして、そこで主任を務めるのが小池美波と齋藤冬優花の二人。
 現在、職員は全て女性。
 過去には男性職員も数人いたのだが、今は、全員、離職している。
 そんな男性職員の離職には、実はある背景がある。
 主任の小池と齋藤が目をつけ、欲求不満解消に無理やり肉体関係を迫ったり、憂さ晴らしとして性奴隷のように扱うため、みんな、それに辟易として逃げ出してしまうのだ。
 とうとう先月、最後の一人にも姿をくらまされ、性の捌け口を失って困った二人。
 そこで白羽の矢が立ったのが密猟ハンターの連中だ。
 ケヤキペンギンを目当てに、今でも月に二、三人の密猟者が保護区域にやってくる。
 そのハンターを逆に狩り、いいように弄ぶのだ。
 自分自身が密猟者という手前、彼らは捕らわれても誰にも助けを求めることも出来ない。
 それをいいことに、先日も、侵入したハンターを捕らえ、好き勝手にいたぶって楽しんだ二人。
 特に最近は、関西出身の小池と関東出身の齋藤、西と東で、どっちがテクニックがあるかという話で火花を散らしており、先攻と後攻を決め、どちらが男をイカせるか、自身のテクニックを試す勝負をしている。
 これまで四人の密猟者を相手に、お互い2勝2敗のイーブン。
 ともにリードが欲しい二人は、五人目となる今宵の獲物に、並々ならぬ意欲を見せているようだ…。

■筆者メッセージ
あの〜、最初に補足しておきますけど、今回はあくまでも“メインは小池美波、引き立て役として齋藤さんを使っただけ”ですからね。

これは先に言うとかんと、なんか「齋藤いらん!」「なんで齋藤?」みたいな評価で溢れる未来予想図が見えたんで…(←笑)
鰹のたたき(塩) ( 2020/05/20(水) 16:37 )